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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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31 * この際だから全部ぶち撒ける

結局まだ荒ぶってるジュリ……。

 




 バニティケースから派生した化粧ポーチ。

 生産体制は整いつつある。止めていたのは候爵様に見てもらって十分商品として売り出せるものになっているかどうかを確認してもらい、まず手始めにシルフィ様へのプレゼントを作ってからにすると決めていたから。

 そして私は助言をしただけで、殆んど関与していないしこれからも関与することはないと思う。だって、それでもきっとオリビアさんを中心にして候爵様やシルフィ様がバニティケースと共に化粧ポーチも沢山の人に手にとってもらえるように世に送り出してくれるはずだから。

「私、オリビアさんに何かアイデアを出して下さいとか作ってみてなんて言ってないんですよ。だって忙しい人だから。それでも、こうやって私の作ったものからヒントを得て作り出してます。面白いですよね」

 誰かを特定せずただ皆に聞こえるように呟いた。

 それに答えたのはアベルさんだった。

「それは、彼女が女性で……女性が使いやすいと思うものを思い付きやすく……」

「んー、その理屈だと、私がグレイの為とか世の男性のために偶に作ってる男性用小物って、今の半分も出回ってない気がする、だって私は女だしね。男性が使いやすいものって、正直私の感覚では分からないから」

「あ……」

 失言をしてしまった、と取れる顔をしたアベルさん。

「作る度、グレイが使って喜んでくれるからまた作りたいって思う、それの繰り返し。そこに性別は関係ないじゃない。結局、都合のいい解釈、言い訳をして、楽な方に進んでるのよ、皆で。私は私のやることで幸せだと感じてくれるのは嬉しいけど、誰かの金儲けのためにやってるわけじゃないからその解釈や言い訳は迷惑でしかない」


 シーンと静まりかえる。

 うん、ここにいる人たちに喧嘩を吹っ掛けた自覚はある。


「ただ、普段の言動からずっと勘違いさせてきただろうし、今までそんな事を考えてたのに黙ってた私にも責任はあると思ってます。なので、この場を借りてぶち撒けて、そして提案したつもりです」

 今一度、私はかき集めた資料を手で叩く。

「これからも私から色々貰うつもりなら、私が求める望む形で誠意を見せてもらいます。それが出来るなら、協賛金制度についていくらでも説明するし、相談にも乗りますし、良き関係を維持していく努力も惜しみません。でも出来ないなら、情報も技術も開示・提供されないと思ってください。今回限りではなく、今後はそういう対応をしていくものだと、ご理解下さい」













 物が散乱しガラス窓が吹き飛んだ部屋の中、グレイとローツさん、そしてセティアさん、リンファとセイレックさんだけになった途端私は椅子の上でデロデロに溶けるように脱力してしまう。

「大丈夫か?」

「ううーん……ぶっ倒れそう」

 喋る気力もちょっとなくて、一応笑ってみたけどその顔がどんな顔をしてたのか、私の顔を覗き込んだグレイが顔を顰めて直ぐに私を抱き上げて部屋の隅で辛うじて破損を免れたソファまで運ぶと、先に腰掛けた自分の膝の上に私を乗せた。

「飲み物貰って来ます!!」

 セティアさんが慌てて部屋を出るため小走りで扉に向かう。

 彼女がドアノブに手をかけた途端、ドシャン! と扉が外れて倒れた。びっくりして飛び跳ねそうになったわ。

「……みんな出ていった後で良かったな」

 ローツさんが顔を引きつらせた。ホントにね、きっと誰かしら扉に押しつぶされて無様な格好になってた可能性があるよね。

「別に一人くらい潰れても世の中回るから大丈夫」

 リンファが怖いこと言った……。


「グレイセル様は、こうなることを予測してましたか? いや……計画したんですか?」

 ローツさんは気力のない私に代わりグレイに質問する。

「そうだな、ジュリと計画したことだ。因みに詳しくは説明していなかったが父とツィーダム侯爵にも仄めかしてはいた」

 飄々とした声。

「なぜ、わざわざ……敵に回すようなことを? 場合によっては、最悪この場で断絶も有り得ましたよ」

「それはない」

 ローツさんの懸念をグレイは何の躊躇いも見せずに一蹴した。

「ここまでジュリに依存していて今更あの人たちが本気で敵対もしくは断絶など出来ない」

「……穏便に話し合うことも出来たはずです」

「悪いことをしてしまった」

 グレイはあえてローツさんの言葉に返すのではなく先に伝えたいことを伝えるために脈絡なく話をする。

「え?」

「フォルテ家にも嫌な思いをさせてしまった。……しかし、お前の実家をこの話し合いに参加させない訳にはいかなかったんだ。 《ハンドメイド・ジュリ》の恩恵を享受する家や組織の中でも、フォルテ家は特殊だ。……既に白土の取り扱いで独自の販路獲得に成功し生産もジュリの簡単なアドバイスだけで稼働可能な所まで進んだ。殆んど我々の手を離れて利益を上げ、体制を確立させている。だが、周囲からみれば……未だジュリの恩恵を強く濃く受け、楽をしているように見えているはずだ。それを払拭するためにも同席してもらうしかなくてな……後で謝罪に行くと子爵に伝えてくれるか?」

「いえ、そういうことでしたら俺から兄に伝えておきます」

 グレイは『すまないな』と申し訳なさそうな顔をしながらつぶやいて、スリスリと私の頬を指で優しく撫でる。

「しかし、ロケットペンダントのあの交渉のあとでこれですか。……さぞアストハルア公爵もロディムも今混乱しているでしょうね」

 ローツさんもお疲れ気味な声。

「いやぁ、私もこんなはずじゃなかったんだけどねぇ」

「そうなのか?」


 可能なら私だって穏便に済ませるつもりだった。


「強権派の一家が、穏健派に鞍替えするって話が入ってね」

「ワインとちょうど焼き上がった特大シーフードドリア貰ってきました!」

 戻って来たセティアさんと私の言葉が重なった。

 あぁぁぁっ、いい匂いだぁぁぁぁっ!

 私専用のグラタン皿、というか複数人用のその皿から立ち上る湯気、最高。

「ちょっと、待て、今何て言った?」

 ローツさんが眉毛をギュッと寄せて。

「強権派の有力家が鞍替えするって」

「ジュリさん専用のシーフードドリアです」

 グレイとリンファがこの一連のやり取りを見てプッと吹き出して笑った。


 ハフハフしながらドリアを頬張りワインで流し込む。

 疲れた体に染みるぅ。

「その情報はどこから?」

「マイケルからだ」

「……真偽のほどは?」

「今確認中だ、だがほぼ確定で間違いないと。アストハルア家に出入りが確認されている」

「どこですか?」

「カーシック家」

「……」

「意外だろ?」

「何故ですか? あの家はベリアス家と血縁関係もある根っからの強権派ですよ」

「そう、まさにそれだ。今更あの家がベリアスを裏切るわけがない、いや、裏切ることが不可能だ。悪事も含めて全部、カーシックは関わっている。だから穏健派に鞍替えするなど時代が変わるほど先の未来でもない限りあり得ないことだった。……にも関わらず。そして、それを何故アストハルアもするのか理解できん」

「互いに何らかの思惑があり、なにか得るものがあるからでしょうが……それにしても、今ですか?」

「詳細は調べて見ないことにはなんともな。問題は……今まで強権派の情報提供してきた公爵がその事を一切伝えて来なかった、ということだ」

「そう、ですね……」

 二人の会話に私達はただ黙って耳を傾ける。


「いつもなら会う約束をするとその前か後に話があると必ず別に時間を取るように言ってくれたんだが……少しこちらも油断があったな」

「今回は、全くその手の話がなかったんですね?」

「なかった。今日まで待った。……家の事情だと言われればそれまでだが、アストハルア家はその一言で済ませてはならない、危険すぎる。ジュリが懐に飛び込ませていたのも穏健派筆頭家として完璧な防波堤となってくれていたからだ。だが、そこに強権派の古くしかも筆頭家に極めて近い家が入ってくるというなら話は別、どんな形でジュリに、我々に影響を及ぼすか未知数だ。話をしてくれると……本当に今日、全員が席に付くまで、待ったんだが」

 グレイは額に手をあてがって僅かに眉間にシワを刻み俯いた。

「事後報告され、はいそうですかと、笑って受け流せることではない。せめて仄めかす程度でも良かったのにそれすらなく……腹を割って話せる相手ではないが、最近の言動でもっとこちら寄りと思っていた。奢りがあったな、反省しているよ」

 こうして話を聞き、グレイとローツさんの顔を見ると改めてアストハルア家の強大さに気付かされる。

 どんな理由で強権派の有力家を受け入れるのか分からないけれど、完璧に制御してくれるならいい。

 でも。

 完璧になんて、きっと不可能だ。

 人を一単位まで、末端まで全員を抑え込めるなんて出来るはずがない。

 そんな中で蔓延るだろう思惑。


 必ず、その思惑には私が、グレイが、ククマットが、そしてクノーマスが含まれてくる。掠りもしないなんてあり得ない。


 先日宣言された『牽制』。

 思惑ありきの牽制。

 分かっている、そんなの当たり前、私だって手段を選ばず牽制するもの。

 でもそこに、なるべく関わりたくない強権派が絡んで来るなら話は別。


 牽制どころかとことん回避して些細なことでも触れずにいたい。

 下手に関わって変な情が湧いてしまって、いざという時敵対し断絶し、心にシコリを残すような結果を迎えたくないから。

 だから今日騒いだ。生意気だと無礼だと世の中舐めてると言われようと構わない、それでもやらなきゃならなかった。

 そしてそれを、主要な関係者に見せる必要があった。


 私が時として『理想のジュリ』からかけ離れたことをすることもある、と。グレイやハルト達を利用してでも優位に立つため手段を選ばない覚悟があると。


「でもちょうど良いタイミングだったよね」

 一気にシーフードドリアを半分平らげ一休み。スプーンを置いて、天井を見上げる。あ、シャンデリアが粉々になってる、悲惨な姿になってる。

「ものつくりに真剣に取り組んでほしいことをそろそろ本気で言うべきかな、と思ってたから。まとめて全部ぶち撒けて聞いてもらえたから結果オーライってことにしておく」

 このシャンデリア、アンデルさんのガラス工房の最新のものなのに。取り付けてからまだ半月なのに。

「牽制、牽制……最近はホント、多いよね。 《ハンドメイド・ジュリ》の規模が大きくなるに合わせて覚悟もしていったつもりなんだけど、いい気分では、ないかな」

 あー、キリアに怒られる。窓辺に置いてた彼女渾身のランプシェードが見当たらない。どこ行った?

「オリビアさんの化粧ポーチを今日出したのも、ものつくりをさせるために発破をかけるつもり、それだけのはずだった。でも、殊の外牽制色は強まって伝わってるはず。見た? 帰る時のアベルさんの物言いたげな、あの顔。後日今日のことで内密に話があるとか言ってくるよあの人の事だから。で、結局それだって本気かどうかも分からない建前並べて謝るとか和解するためとかそんな理由で来るんだよね、そんなことのために時間をとらせておいて、それでまたタイミング見て『何作るんですか』『今度はなにするんですか』って平気な顔して言い出す、それをなんとも思わないんだよ、あの人たち。……だからやるしかないって、思うようになった。もう好きとか嫌いとか、つき合いがあるから仲良くしてるから、それだけじゃ手に負えないところまで来ていて、取捨選択も止むを得ず、信頼が損なわれても守りたいものを守るために、戦って抗うしかない」












「私に万が一のことがあれば、ローツお前に任せるというのは、それは今後もかわらない、ただその時、お前の手に負えないと少しでも感じた瞬間があれば、迷わずリンファを頼れ」

「グレイセル様……」

「リンファが直ぐ様ヒタンリ国に繋いでくれる。その上でジュリとククマット全体の保護を求めろ、クノーマス侯爵家のことは心配するな、いざという時にククマットは切り離すように話はついているから」

「グレイセル様!!」

「アストハルアだけじゃない、バミス法国もフォンロン国も裏ではヒタンリ国の後ろ盾を良く思っていない。だが相手は国、そしてその後ろにリンファが、バールスレイドがいる。そして何れ、堂々とそこにネルビアが名を連ねる。そこに喰い込んで来れ無い者たちが動くなら今だ、今しかない。それが目に見えてのことなのか、我々の見えない所でのことなのかは分からないが……どちらにせよ、それらが迫って来たら私が出る。後ろを、ジュリを頼む」

「だからといって何もあなたが()()を処理する必要はありません!! ジュリが、ジュリが本気であなたの行いを全て認めてると思っていますか? ……違うでしょ、絶対に違うでしょう、あなたの行いは時としてジュリに深い傷を残します、消えない罪悪感や後悔を根深く植え付けます、それを、あなたは黙って見ているつもりですか、そんなこと出来るんですか」

「……わからない、な。その時になってみないと。ただ、何となく、漠然とだが、ジュリはそれでも毅然と前を向いて己の道を進んでくれると思う。私を恨み、憎み、それでも、きっと立っている、そう確信がある」

「っ!! ……このまま行ったら、共倒れしますよっ、グレイセル様もジュリも、こんなやり方、必ず! ……もっと、自分を大事にしてください、他の方法を模索して下さい、俺も考えますから、一緒に考えますから、頼むから、何でもあなた一人で決めて背負うなんてことは、やめて下さい」

「……気苦労をかけるな。そして、ありがとう」


 迎賓館の私室に移動後、ソファに脱力するに任せてだらしない体勢で横になる私の耳に入る扉の向こうの二人のやりとり。

 分かってるよローツさん、私達のやり方は褒められるようなやり方ではないことを。


 でも仕方ない。


 これが私達だから。


「気にすることないわ」

 リンファがなんてこと無い顔して。

「潰されたらそれで終わり。だから潰される前に対抗手段を考える、そんなの当たり前のことだもの。【彼方からの使い】なんて大層な呼び名を付けられてるけど、所詮わたし達は搾取される側なのよ、そういう目で見る奴らが圧倒的に多い世界なのよ、だから私はあなたとの出会いをきっかけに覚悟を決めたし迷いを吹っ切ったの、そして今の私がいる。ジュリだってそうしていい、そうする権利はある。だって……あなたはいつどんな時でも、与える側にいるから。周りの奴らがその与える側の立ち位置に縛りつけてくるから。少しくらい、意地悪したっていいのよ。ローツの心配は尤もだけど、大丈夫よ。万が一のときは私があなたのことを支えるから、あなた達を共倒れなんかにさせないから」





最後はまさかのリンファの言葉で締め括り。


次は、次こそはワチャワチャ楽しい話に!!


疲れました……。ジュリじゃないけど、疲れましたので、次章は明るく行こうと思います。……明るく行けるかな、不安です。

楽しい話だけで進めることもある程度は可能なんですけどね、でもそれをやっちゃうとストーリー進行に必要なごちゃごちゃが一気に押し寄せそれだけを書き続けることに。

それだと、作者の心が折れる……荒むのですwww

程よく、混ぜていきます。



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― 新着の感想 ―
 少なくともフォンロンはやるしかないように思うな。『覇王』騒ぎの際の前王の振る舞いやハルトへの対応で、ジュリたち【彼方からの使い】やグレイセルに失望されまくってるんだし。
[一言] >>それだと、作者の心が折れる……荒むのですwww 作家さんにしか言えない台詞だなぁ。 読む方はお気楽に読んでてホントスミマセン。 でも楽しみにしてますんでw
[一言] おい旦那、部屋の外で言い合ってる間にリンファに良いところを持って行かれたぞ( ˘ω˘ )
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