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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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4 * 話し合いの結果

一話更新です。

 


 グレイセル様から色々説明されたわよ。

【彼方からの使い】がとても優遇されやすい立場なのは知ってたけど、なにせ最初に私は公爵に役立たずのレッテルを貼られてるでしょ、【スキル】【称号】しかも魔力もなし、なんにも持ってない私はそういうのは無関係だと思ってた。

 あ、でもだからこそ公爵は侯爵家に私を丸投げしたのか。何の役にも立たない私でも保護はしなきゃならないから。国の方針に逆らう訳にはいかないから、やりたくないことを体よく押し付けられる相手がいただけか。

 でもねぇ、その後国だって放置してたし、お店の開店初日には城からの使いに『不敬罪』がどうのこうのと言われて。


「勉強する気にはなれなかったですね。わりと雑な扱いを上から受けてたので」

「そうだろうな」

 そういうことを勉強できる本は知っていたの。でも読まなかった、侯爵家は例外として貴族社会に興味なかったし、王家にも興味なかったし、関わるつもりなんてなかったから、全く読む気にもならなかったのよ。

 少しは勉強すべきか? とも思う時期はこれでもあったわよ、でも、いつもね、頭の片隅にこびりついて離れない不満があって。


 異世界に来ることで生きていられることには感謝してるけど、だからといって、自分を何もかもこの世界の常識に嵌めなきゃいけない理由にはしたくない。


 って、ずっとね。

 勝手な思いなんだけどね。

 ワガママ、身勝手と言われても仕方ない。だって嫌なものは嫌。私が育った環境はこの世界の貴族社会からかけ離れた別世界。それを今いる環境なんだから、の一言で押し付けられても迷惑だし、そう簡単に馴染めるはずがない。

 だから勉強してこなかったし、これからもそこに重きをおくことはない。

 それにあの【隠密】レイビスに言ったことも本心。


 やれるものならやってみろ、元々死んでいた筈の人間よって。


 権力で私を殺すならすればいい、この異世界に喚ばれたことを恨んで死んでいくだけだからっていう覚悟というか足掻きというか。

 そんな思いがね、どうしても、今でも消せない。


「それでも、私は」

「ごめんなさい、今の私はグレイセル様の気持ちに答えられません」

「ジュリ」

「正直に言えば、あなたに甘えられる環境はとても心地よくて、多分私にはなくてはならないものになる。異性として、側にいたり、触れあったり、そういうこともグレイセル様と出来たらきっと幸せだろうなぁって思います。でも私、今必死なんですよ、自分はこれからどうしたいのか、どうやってここで生きていきたいのか探すのに」

「……すでに、答えは出ていると思っていた」


 少し驚いた顔をしたグレイセル様。私は苦笑してしまった。

「そんなことないですよ、必死です。ハンドメイドをこの世界に持ち込んで、そして徐々に浸透していていくのを見れて、自分はラッキーだなって思います。好きなことして生活を支えるお金が手に入って。でも、それと同時に責任が生まれたのも事実です。地区のみんな、その近隣の人たち、この市場の職人さん……新しいものを持ち込んで、しまったんですよ。途中で投げ出せなくなったんですよ。半端なものは必ず廃れてしまう。廃れたら、また元に戻る。皆の少し豊かになった生活がまた戻ってしまうんですよ」

「それを背負うジュリを支えたい」

「グレイセル様。お互い背負うものがありますよ。あなたが私のものを背負ってくれても私はあなたが背負ってるものを同じように支えるなんて出来ません」

「私はそんなことを望まない」

「私がそれでは嫌なんです。納得できないんです、今の私では」


 こんな、平行線の話を一時間したかな。

 わかった、このとき。

 お互い物凄い頑固だ (笑)。

 なんだろうねぇ、似た者同士なんだろうねぇ。

 ちょっと笑えて泣けてきちゃったよ。似た者同士ってことが嬉しくて。この人と共通する部分があると分かって嬉しくて。


 ただ、一つはっきりしているとこはある。

「とにかく、ジュリは私のことが好きだろうか?」

「はい、好きです。冗談で言える相手ではないと分かっていて言っています、信じてください」

「ならば互いに譲歩できる部分があるか話し合いするしかない。私は、ジュリの隣に立つ男でありたい」

「そうですね、それがいいかもしれません。……私も、あなたに相応しい、隣に立てる女でいたいと思います」

 って、何故か淡々と。職場の業務連絡をしてる上司と部下みたいになってる。

 お互いもういい年だからね。私は二十六、グレイセル様なんて貴族の中では珍しい二十八歳で独身。落ち着いてるのよ、基本。ここで蝶や花が舞うような乙女な展開になるほど頭がふわふわする性格じゃないんだね、二人とも。

 そんな冷静な会話で相思相愛を確認するのもどうなんだ? と思ってしまうのも元いた世界の環境が育んだ弊害かと思います。

 照れくささとか、そういうのはありますよ? さすがにそれくらいは持ち合わせてます。


 ということで、話し合った結果。


 お付き合いすることになりました。

 えへ。なんだかんだ言いつつ、目の前の誘惑に負けた私。それに。

 微妙な距離感で周囲に気を使わせるのは忍びないでしょ。それだけは嫌だよね。


 それに一緒にいられるならいたいじゃない。甘えていいなら甘えたいわよ私だって。彼氏とラブラブな日々に飢えてたのよ!! 枯れかかってたのよ!! 甘えたい!!


 それについてはドンと来いっ!! って感じのグレイセル様に若干押し切られた感は否めないんだけど、結果オーライということで。

 その代わりに『結婚』は今の状況では絶対にしないと宣言させてもらった。なんかさりげなく結婚がって会話に出てきたからビックリよ。

 そもそも二十八で結婚していない優良物件がおかしい。侯爵家の次男で元は王家直属の騎士団にいた人が独身ってあり得ないらしいから。そんな人とお付き合い? 来週にはグレイセル様の勢いに流されて私がバージンロード歩いてる幻覚みえた。

 それは今の立ち上げたばかりの店の状況では絶対無理、無責任すぎる。それに否応なしに貴族の世界に足を突っ込むことになる。


 今の私には絶対受け入れられない。馴染める気もしない。それについてはグレイセル様をちょっと傷つけるかな? と不安になったけど、心の広い男。大丈夫だよって。うん、優しい、いい男だ!


 そして。

 問題は侯爵家。の一言に尽きるよの。

 そしたらね。

「問題ない、大丈夫」

 の一言。

 あれ? 何でそんなに自信があるの?

「我が家が無理に動けば【選択の自由】が発動するだろう。むしろ発動して父に制限がかかればいいと思う。あの人はジュリの役に立たないくせに間近でウロウロして邪魔をしているだけだろ」


 ……コワ。

 父親を神様の力で何とかしようと考えたこの人恐い。

 そういえば、そんなものありましたね。

 たしかに、そんなに気負わなくてもいいのか、グレイセル様とお付き合いしても【選択の自由】が万が一の保険ということに。この人が害になることはまずありえないけど、周囲で私の進みたい道を妨げる可能性があるものを事前に遠ざけてくれるなら非常にありがたい。

 いや、怖いわやっぱり。神様の力は。


「ふ、ふふふふふ」

「?」

「邪魔ではありませんよ、面白いって、おばちゃんたちも言ってますしね」

「邪魔だろう、あの人は」

「言えませんよ私の口から」

「ほら、だから神々のお力を借りるのがいい、ありがたくその力で制限をかけてくれてかまわない」

 色々考えて話して、こうなってみると笑いが込み上げるのは、私それなりに浮かれてるんですねぇ、今さらだけど、この世界で彼氏が出来て浮かれてます。

 作品作りもお店の経営もどうにかなる気がしてくるから不思議だわ。


「あははは! 侯爵家の方には効かなそうです」

「そうか?」

 私のあっけらかんとした、可愛いげのない笑い声を聞き、グレイセル様は目の前で、とても近くで面白そうに目を細めて笑みを溢す。

 この笑顔好きだなぁ。


 あ、手を握られた。

 久しぶりだわ、こういうの。

 肌が触れるのって気持ちいい。そして久しぶりの感覚。キュンキュンする!! 何これむず痒いわね (笑)。

「それに連れ戻してくれる優秀な人たちが侯爵家には多いので問題ないですよ、私も楽しんでます」

「そのせいで彼らの仕事が増えているんだがな。特別手当てを出してやらなきゃ割に合わないだろう」

「エイジェリン様にお願いしてみたらどうですか?」

「そうしようか」

 とても近い。肌が息づかいや会話に含まれる微細な空気の流れを感じとるくらいに近くて、くすぐったい。グレイセル様の視線が少し下がって、私の唇を見ていると気づいて。


 あ、唇が触れる。


「そうだ」

「?」

「名前を」

「名前?」

「グレイと。親しい者には、そう呼ばれている」

「そうですか、そうですね」


 唇が触れそうな距離での会話。

 さすがにこれは恥ずかしい。でも逃げない。


「グレイ」

「ジュリ」


 また、唇が触れる。


「ふっふふふふ」

「?」

「キス上手、あはは」

「そうか? ジュリ限定だよ」

「あははは! 女の扱いなれてる発言!!」

「そんなことはないと思うが」

「え、その顔で言います? ちゃんと鏡みてます? しかも無自覚タラシとかじゃないですよね? それ勘弁してくださいね、敵を薙ぎ倒す暇がないんですから私は」

「恋人として、それは褒め言葉ととるべきなのかイマイチわからないんだが」

「誉めてはないです。客観的に見て考察した結果です」

「……ジュリの仕事の妨げにならない努力をするよ、何を努力すればいいのかわからないが」

「ええ、是非とも頑張ってくださいね」











 この世界に来て一年と半年、二度目の冬。

 まさかのイケメン、しかもハイスペックな彼氏できました。

 そしてこの彼氏、肉食系だ、女の直感がそう言ってるぞ。

 いいわよ、ドンと来い。お互い大人だ、楽しもうじゃありませんか。


 ……すでに、この場で食われそうな勢いだけど止めるべきだろうか?

 うん、止めよう。ここはダメだ、いくらなんでも節度がなさすぎる。









「ジュリ」

「はい?」

「今晩はこのまま私の屋敷に来ないか?」

「やっぱり肉食!!」

「……その、『肉食』というやつだが。ハルトに以前『お前は見るからに肉食系』と言われたのと一緒の意味だろうか?」

「ああ、一緒ですね!!」

「……誉められてるのか?」

「どうでしょう、私はそれで構いませんけど」


 後で教えますよ、肉食系の意味。

 ゆっくりね。



ハイスペック、イケメン、彼女好きすぎる。

ご都合主義彼氏の誕生です。


執筆始めたとき、色々暗躍しつつきっちりと周囲を整えてくれる人が絶対必要な主人公だな?! と気づいて彼氏がいいだろうとすぐさま決まった経緯があります。

当初、グレイセルは侯爵家の跡継ぎ、つまり長男にするつもりでしたが、話が進むにつれて二人の関係がその事で振り回される場面が多く、避けられないだろうし、それが物語の進行の妨げになる、と思い変更しました。エイジェリンは初期設定で次男だったんです。

変更したおかげで、副産物としてルリアナが誕生しました。

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