◇夏休みスペシャル◇ 夏の夜のちょっと怖い話。 グレイセル、崩れる
夏休みスペシャル最終日。
こちらはですね、「ジュリさん。それはあまりにも……」という声が上がりそうなネタです。
作者も書いておきながら、「ジュリ、マジか」と思いボツにしようかと悩んだ程です。
ゆる~いです、そして今までで一番短いです。
ジュリは元々凡人には理解できない発想力があるのだろう。
ある意味それが【彼方からの使い】らしいともいえるのかもしれない。
才能であり天性の素質として素晴らしいものであることは間違いない。
しかし。
時としてそれは。
この私ですら理解出来なさすぎて困惑する事態を引き起こす。
アレを初めて見たとき、今までの人生で最も心臓に負担が掛かったという自信がある。
「グレイ、面白いもの見せてあげよっか」
「面白いもの?」
「最近気付いたの、凄いの」
「なんだ?」
「ふふふふふっ……くへへっ」
ジュリは奇妙な笑い声を上げた。
嫌な予感しかしない。
「闇夜ぉ。出てきてー」
ん?
ジュリの呼びかけにスウ、と音もなく私の影から姿を現した魔物のブラックワームの闇夜。
「アレ、やって見せようよ」
『やるの? いいのか?』
「グレイに見てもらってなんぼでしょぉ」
『分かった、やる』
「は?」
一体、私は何を見せられているのだろう。
グニャリと真っ黒なその身体を捩らせた闇夜は何でも飲み込んでしまいそうな大きな口を開くと、開いたまま身体を曲げてジュリの前に近づけた。
そして。その開いた口にジュリが手を掛ける。闇夜の口端にある長い両方の触覚が蠢き、ジュリの身体に巻き付き器用に持ち上げて……。
ジュリが闇夜の口の中に入った。
入って、闇夜が口を閉じた。
「?!?!」
混乱した私が慌てて闇夜の口を開こうとしたとき。
スポン! と閉じた闇夜の口からジュリの頭が飛び出した。
「ひんやりしててめっちゃ気持ちいいの」
……。
………。
「……………ジュリ」
「なに?」
「色々、そう、色々と言いたいことはあるが。……闇夜の生態を忘れていないか?」
「ん? 何が?」
「死体を好んで食すんだが……」
「知ってる」
「そこに、人間も含まれるが」
「……」
ハッとした顔をして悩んだ末に。
ジュリは結局出てこなかった。
「それよりね」
「なんだ」
「流石は魔物だよね、口の中と言っても唾液で濡れてるとかないし、何より牙がない。闇夜に聞いたら普段はこうして牙を仕舞ってるんだって。しかも生臭いとかもないの、不思議。慣れって怖いね? 死体食べてるって知ってても入れちゃうから」
闇夜の口を手でポンポン叩きながら、非常に感心した顔をしているのだが。
真っ黒な魔物の口の中で呑気に肘を付き顎を支える妻。
私は、本当に一体何を見せられているのか。
とりあえず絶対に人前でしないこと、言わないことを約束させた。
というか、もう止めるようにジュリと闇夜どちらも説教した。
そして翌日。
真っ黒な絨毯にクルクルと巻かれたような状態になってケラケラと笑っているジュリと闇夜がいた。
「口に入るなって言うから」
『これを、妥協案と言うと、習った』
「ジュリ、そういうのを屁理屈というんだぞ。そして闇夜は変なことを覚えなくていい」
説教したらジュリが不服そうに口をあからさまに曲げた。表情などない筈の闇夜からも不満が感じられたのは気のせいだと思いたい。
「ジュリさん」
「ん、なに?」
「ホントにひんやりして気持ちよかったです!」
「でしょ?! 新月は特殊個体で小さなままだから枕に最高でしょ!」
「ええ! 主人なんて手を入れてその上に顔を乗せて余程気持ちよかったのかすぐに寝ちゃいました」
「ジュリ、セティア」
小声でコソコソ話す二人の後ろに立って名前を呼び
無言でそれ以上話さないよう圧力をかけた。
そしてローツも呼び出し、説教した。
「闇夜、グレイに怒られない方法を考えよ」
『分かった、考える』
何故そうなる……。
『主どうした?!』
「え、なになに! グレイどうしたの!?」
私は人生で初めて、妻の突飛な行動によって膝から崩れるという貴重な経験をすることになった。
困りましたね、ジュリのこの感覚。
死体を好んで食う魔物の口に入って涼を得る。
理解できません。
でも、ジュリならしそう……と頭を過ったから生まれたお話なんですよねぇ、困ったことに。
それだけ闇夜のことをかわいがってる、という結論で強引に納得して頂けるとありがたいです。
ジュリが頭のおかしな人に思われると困るので、こういう話はなるべく思いつかないようにしたいものです。
◆お知らせ◆
この後作者都合になりますがちょっと長めの夏休みを頂きます。書き溜めておきたい話や調べたいことがあるのと、プライベートがちょっとばかしバタバタする予定のためです。
再開は9月中旬(12日以降)を予定しています。
更新時間は通常の午前10時に戻ります。
よろしくお願い致します。再開まで暫くお待ち下さい。




