◇夏休みスペシャル◇ 夏の夜のくだらぬ話。ハルト、挫折する
本日より三日間連続更新の夏休みスペシャルです。
一日目、くだらない話。
書いて、これいる?と思って放置されていたものです。
毎度の如く、本編には影響しませんのでゆる~い気持ちでお読み下さい。
短いです。
【全の神】ライブライトのせいで予定外にこの世界最強になった俺としては、マイケルやグレイ、リンファのような本気で遊べる相手がいるということはかなり恵まれていることだと常々思う。
「嫌味だな」
「違うって」
青筋立てて眉間をぎゅうっと寄せたグレイ……めっちゃ怖い。殺気出すのやめてくれ。
「本気で言ってるんだよ、冗談で言えることじゃねぇってば」
「それなら私にまた両手両足ちぎられてみて? 新しいポーションの―――」
「ぜってえヤダ」
リンファは、うん、俺を実験台にしたいだけだからグレイよりも怖い。
そんな俺が、驚いた事がある。
「え?」
「なんだ」
「いや……えっ?」
「おい、取ろうとするな、触るな」
「ちょっ、グレイ、ちょっと待て、ん? もう一回」
「だから止めろ、これは私のだ」
……。
俺より、速く動いてる?
ジュリがデザインした最新の懐中時計。
文字盤が透明なスライムの疑似レジン、しかも青色で中の時計の仕組みと時を刻むその様が見えるようになったもの。
小さなパーツがいくつも組合わされ、それが連動し針を動かすのが見えるそれは地球で見たことがある高級ブランド時計を真似たとジュリが説明してくれた。
いいじゃん、これ!! と思ったら。
「第一号はグレイのオリジナルだから」
という。
つまり、これ一個しかない。
じっくり見たいと思って貸してと言ってみたが、グレイが全然かしてくれない、てかまともに見せてくれない、だったら隙きあらばちょっと……と手を伸ばしたら、サッと懐中時計をグレイがテーブルから取った。で、その手からちょっと強引に奪ってやろうと思ったら、それも躱され。
「あら? ……グレイセル、ハルトより速く動いているように見えるけど」
ケイティも気づいたらしい。
本人はというと。
「?」
首を傾げやがった。
なんか、腹立つ!!
と思って、もう一回。
「なんで俺より速く反応してるんだよ!!」
「いや、もう、私には全く見えない」
ジュリがスンとした顔で言う隣、冷静にケイティが説明する。
「グレイセルがハルトより速く動いてるわよ、本当にこれはビックリね」
「……全然分からない」
ついには眉間にシワを寄せて腕を組んで顔を突き出して来たジュリ。
その目の前で俺とグレイが何をやっているのかというと。
ジュリの作ったグレイオリジナルのカフスボタンの取り合い。
マイケルの合図で同時に手を出すんだけど。
何故。
俺、一回も勝てない。
「手抜きするな!」
グレイにマジギレされた!足蹴られた!!
「いってぇな!」
蹴り返した。
あれ?!
蹲って悶絶してるんだけど。
躱されると思ったのに、見事にヒットした。
なんでだよ?!
「分かったわ」
リンファがポン! と手を叩いた。
「グレイセルはジュリの物が関わると強くなるのよ」
「「「「は?」」」」
本人もキョトンだよ。
「だって、さっきからハルトが勝てないのはジュリがグレイセルの為に作った物を取ろうとしてる時だもの」
「マジか」
「マジね。これで試してみなさいよ」
コトリとテーブルに置かれたのはリンファのブレスレット。 《ハンドメイド・ジュリ》や関連する店のものではなく、リンファがバールスレイドで購入したもの。
「「「「「……」」」」」
「ね?」
にっこりと微笑みながらリンファはブレスレットを腕に戻した。十回やって、十回勝った俺。
「うわぁ、微妙」
本当に微妙な顔してジュリがつぶやき。
「なるほど」
妙に納得した顔をしてグレイは自分の手の平を見つめている。
「じゃあ結局はハルトが最強ってことじゃんね?」
不服そうにジュリは言ったけど……。
「それはどうかしら?」
ケイティが首を傾げる。
「例えばジュリが丹精込めて作ったものが盗まれるとするじゃない? その時にそれを取り返そうとした場合、ハルトよりグレイセルがそれを取り戻す確率が極めて高いって事になるわよ? しかもグレイセルって、神力があるじゃない、ジュリの物を見分けられるっていう世の中の役には立たないけどグレイセルにとっては重要? な妙な力が」
「そうだね」
呑気に笑ってマイケルがトントン、とテーブルを指で叩く。
「ジュリのことに関しては、ハルトは役に立たないって可能性が出てきたね? ああ、それだとちょっと言い方が悪いね、そうだなぁ……グレイセルがジュリのことに関しては潜在能力含めて存分に力を発揮できるって言い方が正しいかな?」
「まるで俺が能力を使いこなしてないみたいな?!」
「ハルトは元々使いこなしてないわよ。無駄なことばっかりしてるじゃない。制御もしないし、自由気ままに使うから偏りあるし」
「えっ」
「え、なによ? あなたまさか自分が完璧だと思ってたんじゃないでしょうね?」
「え?」
「言っておくけど、あなたはね、ホンットに自由気ままに好き勝手自分の力を改変したりして楽しんでるからそもそも制御に重点を置いてないの。そのせいでいつでも力は気分次第で乱高下、なまじ能力が高くていつでも人を圧倒してるから気づかないだけでね、あなたは意識して制御しないと日によってビックリするくらい差があるわよ?」
リンファに鼻で笑われた。
「……マジで」
「その点グレイセルの場合は常に意識して自分の力を制御しているからとても安定的。まあ、それに慣れ親しんでしまっていて瞬間的に力を爆発させるとそれを抑えられないってことはあるけれど、普段どちらが正しく力を使いこなしているのかっていう見方で比べるなら……グレイセルの方が上だからね?」
リンファの口から語られたことに、俺は開いた口が塞がらない。
「そういうの聞くと如何にもハルトって感じ」
ジュリがそりゃもう面白そうに笑った。
「最強で自由人だからねぇ。怖いもの無しだから案外抜けてる部分は多いのかもね」
マイケルも面白そうに笑った。
「やっぱりニートチート」
だひゃひゃひゃ! と、それはもう、馬鹿にした大笑いでいつものようにジュリにディスられた。
あの後、ジュリが作ったグレイのブレスレットをどっちが速く取れるかやってみた。
全敗した。
ちょっと。
凹んだ。
ハルトがただディスられるだけの話でした。
彼はチートなんですが、そういうネタのキャラとして使いやすいのでこんな話ばっかり浮かんでしまいます……ごめん、ハルト。
懐中時計は何れちゃんと焦点当てて出そうかな、と考えてます。
明日も夜の更新です。
因みに、『ちょっと分かる話』。誰が?とりあえず作者が。という……。




