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4 * 再開!! でも。

四章突入です。


いきなりの展開があります。モタモタする二人ではないので勢いでしょうね。



 異例の開店翌日に長期休業をした私の店、《ハンドメイド・ジュリ》は一ヶ月の商品増産体制で再開にこぎ付けだ。


 はずなんだけど。


「えぇー……」

 そう、声が出た。

 既視感。

 店の前に再び行列が出来てたからねぇ。しかも人数明らかに増えてる。増えてるっていうか、倍以上いる、確実に。

 嬉しいけどさぁ、嫌な予感が……。

 そして店の前で警備してくれる自警団の若者二人が持ってるものは

『一人、商品の大きさに関わらず五点まで。それ以上ほしい場合は再来店しろ』

 と、前回に引き続きライアスが書きなぐった威圧的な看板と

『店内狭いため荷物は最小限で入れ。約束守らず商品の破損をした場合弁償と出禁。異論は認めない』

 と、明らかに商人を脅す看板。相変わらず文字は(いか)つい。

 もうちょっと穏便な言い回し、と思ったけどこれが普通だとか。日本じゃちょっとあり得ないよね。

 こんな看板出てても並ぶのか、と感心と感謝をしつつ、裏口から店の建物の工房へ。


 すでに準備のためフィンやおばちゃんたちが工房で品薄になるだろう商品をすぐに出せるよう確認したりしてくれている。見慣れた光景になったわね。そしてしばらくは近隣のおばちゃんはもちろん若い奥様やお年頃の女性たちも手伝ってくれることになった。日払いで一律三十リクル出すって言ったらおっちゃんたちまで食いついてきたからね。

 数時間働いて三十リクルは高いんだって。

 特に冬は仕事が少ないから、ありがたいって喜ばれました。

 人員確保のために、お給料はこれを最低基準に昇給できるようこっちもがんばらないと。


 店開いてなかったのにお金は? って? 当然借金です、シルフィ侯爵夫人から。

 いやぁ、借金が膨らむ膨らむ (笑)。

 気合い入れて売るしかないね!!


 と、本当に気合い入れたけど。









 無事開店。再開に喜ぶお客さんの笑顔に元気を貰ったけど。


 何にもできない。


 店に立つと何にも出来ないのよ。

 今どれくらい売れてるかとか、どの年代に何が人気か、とか、一時間単位の売上げはどれくらいかとか、確認や調査したいことがあるのに何にも出来ない、出来ない!!

 人員増やしたけど、今さらだけど、そこまで頭が回らなかった。

 螺鈿もどきに夢中で自爆。


 この休業期間に、かぎ針でのレース作りの人員として二人が新たに昇格? して、押し花の内職さんも一人増えて、近隣のおばちゃんたちや奥様たちにもお会計の仕方教えたりラッピング教えたり、レース編みは得意じゃないけど、擬似レジンの格安パーツならカットしたり削ったり出来るっておばちゃんも二人ほど確保してこれから働いてくれることになって。

 結構いいんじゃない? って思ってたのに再開初日につまずく。

 不覚。

 反省。

 私は経営者向いていない。


「そう言うのは無理だわ!!」

 って、おばちゃんたちに一蹴されたのは売上の確認とか帳簿付け。

 店内の年代や性別での商品の売れ筋の調査は会計場所に一人ラッピング担当と会計補助をつけて、その人がメモを取ることになったけど、どうにもこうにも経営に直結するお金のことになると責任が出るからと皆絶対手を上げてくれなかった。

 お店は冬ということもあって、送り迎えの馬車があるけどそれでも暗くなる前に確実に皆に家に帰って貰いたいから3時には閉店。早く閉まるけど、私には仕事がある。

 コースター、アクセサリー、ハーバリウム。既存の商品だけでもこれを一人で作らなくてはならない。高めの金額設定の商品なので数個作ればいいと軽く考えてたけど、休業期間に噂になってたのか、それとも前回諦めたからなのか、それぞれ十個近く売れたことを考えれば少なくとも数日、長く見積もれば数ヶ月、それくらい売れるかもしれない。

 しかも、格安の擬似レジンのパーツは出来る限り大量に作らなくてはならないと気づいた時には私は忙しさにへとへとだし、この後に売上の確認含む経理関係の仕事が待っていることへの前倒しの疲労感で何も手に付かないくらい脱力していた。

 もうだめだ、立て直しにまた休業? ちょっとそれは無責任? でもこういうのは早目にしないと後で大変に。頭がグルグル、色んなこと考えてもすぐに別のことが不安で切り替わってしまって、まともに一つのことを考えられない状態に。


「売上はこれで全部か?」

「え?」

「ジュリは少し休んでから商品を作ってくれ」

「え? あの、グレイセル様?」

「帰りは私が送る、馬車ではなく馬に直接乗って貰うから少し寒いが我慢してくれ」

「え、え?」

「帳簿なら、ジュリが独自に持ち込んだ方式で間違いないか? ジュリの側で見ていたから多分基本的なことは書き込めると思う。後で確認してくれ。ああ、そうだ。外に食べに行く時間はないだろうと思ってうちの使用人に夕食を持ってきて貰うことにしておいた、ここでお湯くらいなら沸かせる竈があるからと言ってあるから暖ためて食べられるものを持ってきてくれると思う、それを食べよう」


 なんでこんな時に。


 泣きそうになった。


 涙が込み上げた。


 どれくらいぶりだろう、こんな感覚。

 元いた世界で付き合ってた元カレも優しかった。

 ハンドメイドで作品作りに夢中になってごはんを食べ損ねた休日の夕方に、見計らったようにコンビニ弁当を買ってきてくれて。

 急にそれを思い出した。

 些細な喧嘩を拗らせてそのまま別れて、以降会っていない元カレを思い出した。

 不思議だね、なんだろう、この感じ。

 元カレが恋しい訳でもなく、未練があるわけでもなく、涙が出そうになるのは、何でだろう。


 甘えたかったのかな?

 そうだ。

 私、誰かに甘えたかったんだ。


「ジュリ?」

「すみませんっ」

 涙が溢れていた。

「気が抜けて。ごめんなさい、大丈夫です」

 笑えてるかな、変な顔してないかな。


 多分、私は、何かを背負ってる。この侯爵領の今後を左右する何かを。それをいつもなんとなく、漠然と感じていて誰にも言わず気づかれないようにしてきた。シルフィ様に言われた時にそれをしっかり実感したから、ちゃんと自覚したのは最近だけど。

 でも、それはどういうものなのか聞かれても困る、形のはっきりしないものだから口に出してしまうのが怖かった。だって誰にも理解してもらえないし。


 必死なのよ、これでも。

 自分の力で生きていくために。

 わからない何かを不安だと口に出してしまったら、ここにいられなくなるような気がして。

 ハルトやマイケルもこんな気持ちになったのかな。


 誰か、わかって。

 必死なこと、わかって。


 って。

 でも口には出せない。だって異世界からきた人間だから。この世界の人に、この気持ちはきっとわからない。

 フィンとライアスはこの世界のお母さんとお父さんだと思ってる。でも、言えないのよ。

 辛い、怖いって言っても、きっと戸惑わせて不安にさせるだけ。だからいつも元気に笑って来た。

 大丈夫だよって。


 だって。

 甘えられる人がここにいないのよ。


「いっぱいいっぱいで、ごめんなさい、こんなことさせるつもりはなかったんです。でも助かります、お願いします」

「もっと甘えていいから」

「え?」

「他の者には無理でも、私には甘えてくれていい。ジュリに甘えられて困ることはないよ私は」


 そっか、そうなんだ?


 甘えてもいいんだ?


 そう思った瞬間、ストンと自分の中の何かつっかえていた重いものが落ちた気がした。

 私自身がこの人に甘えたいと思っていた。でも、この人は侯爵家の人間で身分が高い。爵位を継がないといっても貴族は貴族、平民とは立場が違う。異世界からの【彼方からの使い】が保護されて優遇される立場と言っても、身分らしい身分のない私は、この人の立場に線引きをして立ち入らないつもりだった。

 でも、その人は甘えていいと言ってくれる。


「……ありがとう、ございます」


 気づかず張詰めていた気持ちが緩んで、涙腺も緩んで。

 私、知らず知らず気を張ってたんだなぁ。

 涙が止まらないわ、どうするのこれ。どうやって止めるの。


 ん?


 今、何が起きた?


 あれ? いま、口に何か……。


 んん?


 ちょっと待って。


「え?」

「泣いて少しスッキリしたかな。それだけでも気分は変わるだろう」

「え? グレイセル様?」

 あれ? この人何て事ない顔してるけど。

「ほら、涙を拭いて」

 両手で頬を包まれて、そのまま親指で涙を拭われた。

 そして。


 ええっ?!


 ちょっと待て!!


 二回目!!


「ん?」


 ん? じゃないからね!!

 何で!


 何でよ!!


 何でキスしてくる!!











 話し合うことにした。

 ええ、しっかり話し合あうよ。

 三回目も流れるように来そうだったから顔面を鷲掴みにして阻止してやった。

 私も元の世界では元カレとすることしてたので、キスくらいで、お嫁にいけなーい!! って言いそうな貴族の令嬢みたいな取り乱し方はしませんせけども。それでも、一応この人貴族の一員なので、そういうことは軽々しくするものではありません、立場を考えなさいと説教。

 そしたらですね。

「軽々しくでなければしていいのか?」

 ですと。

「ジュリとそういうことをしても問題ない仲になれば、させてもらえるということか?」

 とおっしゃる。


 スン、と冷静になったわよ、ほんとに。あんたにときめいた瞬間返せ、バカヤロー。


 いや、まぁ、そうですけども、と。身分違うでしょ、あなた貴族でしょってことをまたも説教したら

「身分で言えば、ジュリは私より上だが」


 はい?

 今なんと?


「……その辺詳しく」

「だから、【彼方からの使い】は基本的にどの国でも爵位をもつ人間と同等の権利や立場を主張できる。法律で最低限の身元を保証する国まである。この国だと伯爵以上、ジュリが申請して許可を得れば領地も貰える位には立場は高いことになる。身分で【彼方からの使い】を良からぬ人間に利用されないために保護する目的もあるが、ほとんどは身分が妨げになって結婚が出来ないなどが理由で国外に出てしまうのを防ぐ目的もある。なのでジュリは身分とか立場を気にする必要はない。その気になればまだ幼い第一王子の婚約者に名乗り出ても文句は言われないな」

「えー、ええ……なにそれ」


 なによ、それ。










 そして、取り敢えず離れませんか?

 近いです。

 さりげなく腰とか抱かないで。

 話し合いますよ、ちょっと離れて。

 気分はちょっと浮かれそうだけど、それとこれとは別ですから。


最近風邪に悩まされてましたがようやく復活です。 しかし、鼻がなかなか抜けてくれず。これは歳のせいか。


ちなみにこの物語の世界にも風邪や病気は当然ありますが、魔法による治癒や、ポーションだけでなく薬草なども効果の高いものが多いようなので医学の分野も遅れていると思います。

個人的な意見ですが、やはり魔法が存在すると、その利便性が文明の発達を妨げる気がします。


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[良い点]  「ライアスが書きなぐった威圧的な看板」、いつの間にか無くなってしまいましたね。公共トイレにありがちな「ありがとうございます文」より好感度高めです。  私が初めて購入したハンドメイドレジ…
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