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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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30* キリアが得意のゴリ押し始めた

 




 ジュリの考えていることはいちいち難しい、とキリアに真顔で言われたけども。

「そんなこと、考えてたんだ?」

「キリア、勘違いしないでね?」

「何を」

「欲求を満たすための手段なわけよ私の場合。開発もそれありきで進めてるだけ。【ものつくりの祭典】を目指してるのも人が集まる分だけ技術も物も集まるでしょ、こっちから出向く必要ないでしょ、ククマットに集約させるためならなんでもやるっていう狡さがわりと含まれてるから」

「……強欲」

「そう! 私は強欲!!」

「胸張って言うことじゃないと思う。ほら、セティアさんも引いてる……」

 引かないで、セティアさん。


 まあ、半分冗談半分本気で言ってる事で、それくらいしないと可愛いものを気軽に手軽に楽しめる環境がなかなか整わない。私はしつこいくらいにこのことはグレイはもちろん自分の周囲に言い続けるつもりよ。

「だいたい、このテグスだってこの四巻しかないし、伸びるテグスなんてこれ一巻きしかないんだから無駄には出来ない」

「「え」」

「え?」

「これしかないんですか?!」

 セティアさんが珍しく大きな声で慌てて、キリアは頭を抱える。

「そんな、そんな貴重な物を今使ってしまったんですか?!」

 使わないと完成品見せられないしと返せば二人は無言。遠い目。何故。

「これくらいは平気平気」

 と、言っておく。

「でもこんなに簡単に作れるなら、欲しいと思わない?」

「思う」

 キリア即答。

「だからこそ、クラーケンの甲の繊維よ。あれが伸びるテグスの代用品になるなら家庭用クラフト用品として売り出すことが出来るからね、テグス開発までの繋ぎとして十分使えるものだと嬉しいわけよ」

「ならば!!」

 キリアどうしたのガッツポーズして。

「フォンロントリオには頑張ってもらおうじゃないの!!」

 あ、嫌な予感しかしない。

 セティアさんも察して顔がスンとしちゃったよ。












 はい、がんばれー。

 他人事としてそうエールを送った。

「ジュリさんの声が平坦すぎる!!」

 逃げ出して来たマノアさんが泣きそうな声で訴えて来たけれど、彼の肩を鷲づかみにしたキリアがそんな力はどこから湧いてくるのか成人男性一人をそのまま引き摺って行った。

「あぁぁぁぁっーーー!! 誰かぁ! 助けてぇぇぇ!!」

 誰も助けない (笑)。

「平和だな」

 グレイは感想がちょっとズレてるけれどまあいいよ。

「アレでキリアはフォンロンギルドから『ゴリ押しのキリア』と恐れられてる事を本人は自覚してるのか?」

 ローツさんが苦笑しながらも手を振ってマノアさんを見送りそんな疑問をぶつけてきた。

「自覚してるというより、知ってるし。ゴリ押し上等と思ってるし」

「一応、相手はあの巨大組織のギルドなんだが」

「うーん、ハルトとマイケルが『やれやれ〜もっとやれ!』って煽ってるからねぇ」

「たちの悪い奴二人が後ろにいたらギルドも文句は言えないか」

「言えないね、こっちもギルドにはだいぶ恩を売ってるつもり。大体そのキリアのゴリ押しがあって白土の額縁から神様キーホルダーに繋がって、笑い飾りの案だって提供して。最近では神様ブレスレットの生産も一部フォンロンギルドに任せてるでしょ。あの収益が少なからずフォンロン復興に役立ってるんだから。ローツさんだって白土を少し安くフォンロンに輸出するようフォルテ家に掛け合ってくれて、技術だって私の後ろ盾の侯爵家公認で堂々と得てるんだから、キリア一人が多少無茶言ったってこっちとしては文句言われる筋合いはないと割と本気で思ってる」

「確かにな」


 朝からキリアに捕まったフォンロントリオ。三人並んで耐久性テストをさせられている。今やっても仕方ないんじゃ? という訳にはいかなかった。ロディムが己の実家であるアストハルア家からなんとクラーケンの甲を取り寄せてしまったの。

 なんでも倉庫の奥に捨て忘れて放置されていたのがあったとか。ロディムが念の為に公爵様に魔導通信具でもしあれば下さいと手紙を送ったらしい。それで公爵様が部下に確認させたら本当に出てきたと。

「ちゃんと日付が入ってるあたりが凄いよね」

「届くものには全て産地と日付を入れるんですよ、魔法付与関係の研究は父の趣味でもあるので時々使い物にならないものでも組み合わせ次第で付与が出来るようになることも稀にあるため取り寄せしたり討伐依頼を出したりしています」

「クラーケンの甲が捨て忘れられてるってよっぽど広い倉庫だよね?」

「そうですね、七棟あります」

「素材だけのために?」

「はい」

 公爵家ともなると規模がデカすぎる。

「今回のは一年物と二ヶ月物ですね」

「年代物のワインみたいな言い方」


 ちなみにロディムはビヨーンビヨーンしていない。キリアには素材提供のお礼代わりにと耐久性テストを免除されたのだとか。公爵家令息がすることでもないので免除というのもおかしな話ではあるけれど。

 そして、ティアズさんが『あ』と声をあげた。

「またボロボロになった……」

 やっぱりね、という結果になったのは討伐後一年経過したクラーケンの甲。これで五回目、全て百回程度の引き伸ばしで切れてボロボロになっていた。

 しかも、討伐してからまだ数日の物に比べて伸縮性もなく、黄色く変色している。

「二ヶ月物は?」

「うーん、こちらは千回程度耐えますが、伸縮性は落ちているのでそれをどう捉えるかになるかと」

 ふむ、なるほど。クラーケンの甲の繊維が廃棄されてきた理由がはっきりした。

 これは劣化が早い部類に入る。一年でここまで変質変色する素材は今のところ私の扱っているものでも該当するものはない。二ヶ月物も討伐数日に比べれば伸縮性だけでなく耐久性も半分以下。これでは確かに日用品にも転用は難しい。

「……この時点でそれなりの値段のパーツを使ったアクセサリーには使えない事が判明したわね」

「何故ですか?」

「一年で劣化がかなり進むということは、激しい運動をしない日常生活でもかなり早い段階で簡単に切れてしまう恐れがあるでしょ、引っ張る力には数千回耐えたけど日常生活は摩擦のほうが圧倒的に多いのよ。ハサミで切断出来ることを考えると、摩擦にも弱いんじゃないかな? そうなると、いつ切れてもおかしくないから高い天然石やパーツ、留め具を使うと切れたときに無くすリスクが高いよね。切れるというよりボロボロに千切れるなら尚更」

「ああ、なるほどそうですね」

 マノアさんがとても納得した様子で頷いた瞬間。

「ジュリと喋ってるのを理由にそのまま耐久性テストから逃げようとしてるでしょ、そうはいかない……」

「ヒッ!!」

 キリアがいつもより低い声でマノアさんの後ろで囁いた。

「さあ、もう一回」

「はい……」

 キリア、怖い。














「今のところ伸びるテグスの代用品としても難しそうだよねぇぇぇ」

 キリアは切ない目をしてクラーケンの甲の繊維を見つめ、作業台にだらしなく腕を伸ばしその上に頭を乗せている。

「勿体ないですね、簡単にブレスレット等が作れるようになるかと思ったんですけど」

 セティアさんも残念そうに苦笑した。

「レフォアさんたちの研究結果待たず使うつもりだけど?」

 そう言ったらキリアが勢いよく顔を上げた。

「領民講座でウッドビーズや訳あり格安パーツを使った簡単ブレスレット作り講座やろうかと思って」


 なにも必ず丈夫で長持ちするものにしなきゃって気負う必要はないよね。

「針も使わないし、通して結ぶだけ、伸縮性を活かしてそのまま腕に簡単に通せるブレスレット。親子で楽しむ領民講座なんてどうかな、と」

 親子でものつくりを楽しんで欲しいよね。どんな色にするか、組み合わせにするか、話し合って悩んで一緒に仕上げる。

 大市などで偶に親子参加のことをすると概ね好評。良い例が毎年恒例になりそうな端午の節句のころに行う鯉のぼり作り体験と、エド薬店とくじ引きコラボのお薬上手に飲めるかな?体験。世界が変わっても遊びとは別に子供に色々な体験をさせたいと思う親は多いらしい。

「講座じゃなくても大市でのものつくり体験やそれこそ『ものつくり選手権』での体験イベントでクラーケンの繊維を使って簡単にブレスレットを作るの楽しそうよ。シードビーズかそれに近いビーズが開発されたら指輪作りもいいと思うし……って、二人共私の話し聞いてる?」

 キリアとセティアさんがなんだか顔を突き合わせて予定がどうのこうのと話してる。

「後で時間と空き教室の調整が付かないか主人に確認してみます。それとルリアナ様にも相談してみましょう、専門学校側には予備の机や椅子が沢山あるので借りられるはずですし」

「じゃああたしはクラーケンの繊維を解すのと、均一にカットしてくれる知り合い当たってみる。シーラとスレインにお願いしようかな、新しいことやりたがるし、試しのことだからまだ内職に頼めないしね」

 ……。

 ……あの。

 もしもし?

 商長いますけど。

 その話に私必要はありませんか?


 企画として二人の中では決定事項になってしまったようなので、せっかくなので二人にそのまま企画を進めて貰うことにした。セティアさんにとってもいい経験になるしね。こういう企画を上手く進めてくれるおばちゃんトリオのメルサにも加わって貰い、『ものつくり選手権』でやるのを目指してもらう。ちなみに選手権の準備は全然進んでなーい。色々と忙しくてもう出来る時にやればいいや! と肩の力を抜いてます。

「そのくらいでいいんだよ、なんとかなる!!」

 メルサからなんとかなると言われたのでなんとかなるはず。


 お店の商品作りをしながらセティアさんに今後の予定について説明をしてもらう。

「あ、ジュリさん」

「ん、なーにー?」

「予定とは別件ですが、フォルテ家から今年はレインボーウッドの脱皮時期が早くてすでに回収済みと手紙にありました。もし場所の問題があるようでしたらフォルテ家で保管してくださるとありましたけど、どうしますか?」

「ウッドチップは殆どノーマ・シリーズで使ってて職人さんのところに回すから納品して貰って構わないよ。うちでは動く貯金箱にしか今のところ使わないけどあって困るものではないから」

「わかりました」

 セティアさんとそんな話をしていると、キリアが唸る。

「なによ?」

「あのウッドチップ、もっと活用法ありそうな気がするんだよねぇ……」


 レインボーウッドのチップとは、この世界特有の魔性植物の皮のことで、流石摩訶不思議ファンタジーな物で溢れる世界の木、って感じの特性がある。脱皮するのよ、木なのに。毎年夏と冬前に表面の硬い皮がポロポロと剥がれて新しいのになるのよ。意味わからん生態。

 で、その皮が茶色の薄い長方形の形をしていて、ノーマ・シリーズのハウスの外壁、暖炉などに貼り付けると煉瓦風になることから仕入れるようになったもの。

 ただ、その小ささと見た目故にそれ以外の活用法がない……というわけじゃない。

「あれ? 私キリアに『監修額縁』に使えるんじゃないかなって伝えてなかった?」

「え?」

「ほら、煉瓦風の壁に出来るなら額縁もそういうデザインにしても面白いって」

「……商長、聞いておりません」

 あ、目が怖い。

 伝え忘れてたみたい。

 まあいっか、忘れてたものは仕方ない。

「良くない良くない! あんたの時々物凄く適当になるところ本当に良くない!!」


 キリアがウッドチップを取ってくる、と店を飛び出してしまい私達はヤレヤレと肩を竦めながら苦笑していると入れ違いにフィンとおばちゃんトリオ、そしてウェラがやってきた。

 シフト変更がないかの確認ついでに五人は本日のお勤めが終わったからとお菓子の差し入れを持ってお茶しに来た。そして爆走するキリアとすれ違って、なんであんなに急いでいたのかと聞かれ素直に理由を告げた瞬間。

「なんだって?」

 あ、監修額縁の素材は白土メイン……。ウェラの目がキラーンと光った。嫌な予感がする。

 同じく嫌な予感がしたフィンとおばちゃんトリオ。

「ま、頑張りな」

「あんまり根を詰めるんじゃないよー」

「適当にやりなね」

 お茶しに来たって言ったくせにお菓子置いて出てった、帰った!!

「白土の塊は重いから嫌なんだよ、腰悪くするのは避けたいからあたしも帰るよ」

 フィンまで! しかもガチな理由告げて笑顔で帰った!!

 そして。

「……セティアさん?」

 何故かセティアさんの顔がスンとしてる。

「……この、状況……何故でしょう、主人が現れる気がしてなりません」

「あー……」

 フンスフンスとやる気が(みなぎ)る鼻息で勝手に作業台の上を綺麗に拭き始めるウェラを無言で私たちが見つめていたら。

「ローツ様もいたから連れてきた!!」

「来たぞ、新しい額縁を作るんだって?」

 キリアとローツさんが台車に乗せられるだけ白土とウッドチップの箱を乗せて押しながら、とんでもなくいい笑顔で現れたのを見て。

「セティアさん、今日うちくる? 夕飯食べて行きなよ」

「はい、お言葉に甘えます」

 暗くなってからグレイが『勝手な残業は認めん』と青筋立てながら目が笑ってない怖い笑顔で言うまで誰も三人を止められる気がしないので、ローツさんに作ろうと思っていた額縁のデザイン画を渡して戸締まりをお願いし、私はセティアさんを連れてさっさと帰ることにした。


「明日フォンロントリオにも作らせよう」


 店を出た瞬間、キリアの嬉々としたそんな言葉が聞こえた。

 ……がんばれー、フォンロントリオ (棒読み)。


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― 新着の感想 ―
[良い点]  そういえば写真は存在しないから、私たちが手頃に扱うフォトスタンドではなく、全て額縁って呼ばれているのかと思うと面白いです。写真が手頃な存在だから、こちらではあのサイズが入手し易く規格化し…
[一言] 大体物の劣化って酸素か紫外線のイメージが強い、倉庫に入ってたから紫外線は当たりにくそうだからあるとしたら劣化の原因は酸素かな? もしくはファンタジー特有な魔力関係。
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