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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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30 * 色々と気にしなーい。

 



 一夜明けて。

「か、観光だァァァァ! やっほぉぉい!!」

 両手を突き上げ歓喜する私をヒタンリ国の人たちが目をパチパチさせて見てくるけど、気にしなーい。

「視察だろ?」

「お前は黙ってろ」

 ハルトの冷静なツッコミに、底冷えする声で返したグレイ。

 リンファのいるバールスレイドはタイミング悪くて吹雪で外に出れないか、結婚式のプロデュースで観光する暇なくて未だ外を出歩いたことがない。ハルトの所属国のロビエラムも世界最弱の私の身の安全が最優先されるのでハルトの屋敷の周辺をちょっと散歩したことしかない。ケイティとマイケルの所属国であるテルムス公国は 《ギルド・タワー》に行ったきり特に用もないし私もそんなに暇じゃないしケイティ達がそもそもククマットで主に活動してるから案内されるタイミングがない。バミス法国なんてせっかく宿泊までしたのに移動販売馬車の展示即売会という重大なイベントを成功させるために滞在中はずっとバタバタしていたので観光なんて言ってられなかったからそのまま帰って来て勿論何も見てない。

 この世界に来て観光とは縁がない女になった私。そもそもスライム様しか倒せない最弱なので出歩くだけで危険なんですよ。


「お、おぉぉぉぉ……私観光っぽいことしてる」

 天気がいいのでせっかくだからと天井のない馬車に揺られる私が王宮を出てからずっとグレイに服の襟を掴まれているのは身を乗り出しているから。

 防犯上私が真ん中に座るべき所をグレイに我が儘言って端にしてもらい、右に私、グレイが真ん中、そして左にハルトになってしまった。でも、気にしなーい。

「ジュリ様は観光などはなされないのですか?」

 本日案内をしてくださる同乗者の第二王子妃ヨニス様は私の反応に驚きながらそんな質問をしてきた。

「したいんですが、タイミングが合わないか忙しすぎて出来ないんです……最弱ですし」

 自分で言ってちょっと切なくなった。

 するとヨニス様がとろけるような優しい笑みを浮かべた。

「では私、ジュリ様の観光にお付き合いする初めての王族ですわね?」

「あっホントですね?! そして初めて王族と観光してますよ私!!」

 二人でキャッキャしたらハルトが。

「視察だろ」

 そういう冷静なツッコミ今はいらないからね。


 私の待遇は所謂国賓というものらしく、グレイとハルトがいるのに周りには昨日同様騎馬隊が囲むように護衛として配置され等間隔で同じスピードで進んでいる。第二王子が王都の防衛を担う立場で今日の護衛はその王子直属の護衛部隊なんだとか。

 はっきりいう。

 これ、パレードじゃん?

 という。

 でも、気にしなーい。


 ヒタンリ国首都は王宮を中心に東西南北にそれぞれ真っすぐ伸びる大道四本に沿うよう碁盤の目状に道や建物が整備されている。

「これだけ平坦で広大な土地の開発をした先人の方々は凄いですね」

「ああ、この地が平坦なのはドラゴンのせいなのですよ」

「え?」

「北にあるトゥガム自治区という少数民族がいくつか集まる地域があるのですが、そことこの国の境界線にまたがるようにあるダンジョンではドラゴンが発生しますの。そこで縄張り争いに負けたドラゴンが時々南下するのですが、かつてはここにもダンジョンがありましてここで発生するドラゴンと度々衝突する時代があったそうです。ドラゴン同士の争いともなると山は吹き飛ぶ事も珍しくありませんからね」

「えー、と? つまりこのあたりはドラゴンの喧嘩で山が削られて出来た土地、と」

「はい。先人はドラゴンの縄張り争いが始まると土地整備が始まるぞ、と言う地域もあったようですわ」

 この世界のドラゴンは土地整備が得意……。私は嬉しくない。

「あのぉ、因みにドラゴンって今でも……」

「飛来しますよ? 極稀ですが。ただ、こちらから刺激しない限り人間を襲うことはほぼないのでご安心ください。それに【称号:ドラゴン殺し】が生まれやすいんですこの国は。現に私の夫である殿下も【称号】持ちですし人々も慣れておりますの」

「そうそう、しかも今は俺とグレイもいるから心配ないって。それよりヒタンリ国固有種のウィンドドラゴンの変異種の肉、美味いんだぞ? 寧ろ飛んでこいって感じ」

 何! それは聞き捨てならないわね?!

「ブルさんのサシの入った肉とは全く違ってさ、癖がなくて赤身の良い馬肉に近い」

「馬刺しでいける?!」

「生で食う気かよ」

「ドラゴン刺し、アリだと思う」

 ドラゴン怖いけど、美味しいなら気にしなーい。














 大道に沿って進む一行は私が見たいと事前に希望していた魔物素材の店や武具の工房、ヒタンリ国の民族衣装を縫うお針子さんの店などを巡る。

 それぞれ店主さんたちが出迎えてくれて、店内を見て回るだけでなく道具や珍しい素材の説明も丁寧にしてくれた。時折お茶と軽くつまめるお菓子を出してくれるお店もあり、それはヨニス様が事前にそう手配してくれていたことを知って感激よ。

 終始楽しい視察の中で、ヨニス様が気になることを教えてくれた。

「えっ、進んでないんですか?!」

「はい、困ったことに」

 それは、国王陛下が私に強い興味を抱くきっかけになり、そしてそこから計画を始めたこと。

『魔物素材大市』。

 国王陛下肝入の、ヒタンリ国ならではの魔物素材に特化した大市の計画が思うように進まない理由。

 王都は大きく分けて東西南北四つの区に分けられる。その各区が、その開催を巡り一番最初は自分たちの区でやってくれ、うちの区こそ開催に相応しいと区長たちがバチバチなんだって。

「それぞれに大きな広場がありますの。陛下が望んでおられる大規模な大市ですから……」

 困った顔をしつつもヨニス様は微笑んだ。

「陛下も区長へ配慮するよう配下に申し付けてはおりますが、一度そのようになってしまいますと、ね……」

「あー、引くに引けないってことも起きちゃいますよね」

「ええ、そうなんですの」

 素材大市はね、実はグレイが楽しみにしてたのよ。最近は要請がない限りダンジョンに入って魔物討伐する機会がめっきり減っちゃったから。グレイもヒタンリ国では討伐経験がないのでどんな魔物が発生するかは知識として知っていても、そこから取れる加工済み素材、しかも限られたものしか見たことがないらしく、開催されたら来たがってたのに。

 うーん、凄く残念。


 堅苦しいことは王宮だけにして、ヒタンリ国の家庭料理が食べれるという食堂を昼食の場に手配してくれていたのでそこでたらふくご馳走になり、再び馬車に乗り込んでゆっくりと王都の大道を進む私達。

 しかし、これほど広大な土地の真っ直ぐ伸びる大道とそれに交差する碁盤の目状の道というのは壮観よ。

「ククマットも土地開発が進む所は道路の幅や交差をかなり重点的に整備してるけど、こうはいかないわね」

「元々が土形に合った道や広場の開発で進めたからな」

 この王都の美しい景観について話に花が咲く中、グレイが一瞬黙り込んで、私達の会話から離脱した。そしてまだ続く道路の話に再び戻った彼は。

「これだけ幅があり活気ある道ならば、ここをホコ天にしたら良いような気もしますが……」

 何気なしにグレイはヨニス様にそう言葉を投げかけた。

「え、いま、なんと?」

 あ、そうか知らないか。

「ククマットではしていないんですが、クノーマス領の西端の大きな地区で最近取り入れたのが歩行者天国というものです」


 通称ホコ天。

 歩行者天国。


 素材大市の開催場所に王都の各区が自分たちの区で行って欲しい為に睨み合う状況だというなら。

 この王宮まで一直線に伸びる王都中央大道をホコ天にして開催したらいい、グレイはそう思ったに違いない。

「ヨニス様、昨日の私達を歓迎するパレードって混乱もなくかなり統制がとれていたと思うのですが、この大道を規制することがよくあるんじゃないですか?」

「え、ええ。諸外国の要人を御迎えする際はほぼこの道を通って頂きますから。それに年に一度建国祭では王宮から騎馬行列が関門まで練り歩きますの、そのため大道に面する商家も施設も規制時には開店時間や商品の搬入などの時間調整に協力してもらっていますし、都民もそういうものだと理解していますわ」

 やっぱり。

 なら、出来る。

「ヨニス様、どこかの区の広場や公園を使うより、この大道への馬車の乗り入れを禁止して一日数時間歩行者のために開放し素材大市を開催するのをおすすめします」


 ホコ天はクノーマス領では試験的に導入され、現在西端最大の地区で祭日や催事のある日の大通りへの馬車の乗り入れが完全規制され歩行者に開放されている。なぜクノーマス領で最も栄えるトミレア地区ではないのかというと、その地区には隣の領との境目にある関所がある関係で非常に広い道路があるのと、その道路に沿って様々な店が立ち並び一番賑わいがあるエリアのため、交通規制さえうまくいけば集客は容易という利点から選ばれた経緯がある。

 これは領土が狭く、土地開発に合わせて公園や様々な用途で利用できる広場が作れることと小回りが効き修正・調整がし易いククマットのようなイベント開催が容易な土地のようには出来ない所に適合するやり方がないかと常に頭を悩ませていた侯爵様に隨分前に提案していたことで、試験的にごく一部の道路規制から始め、ようやく最近今後の歩行者天国のモデルケースとなる規模まで拡大した所。

「ヨニス様、今度の視察の時は残念ながら西区のホコ天と被らないので数カ月後にはなりますけど……旦那様である第二王子殿下は王都警備の最高責任者でもあるんですよね? なら殿下に西区のホコ天を視察してもらうことをオススメします。各地区の調整が難しい反面、この大道利用なら王族の一声で如何様にも出来るなら、ここを有効活用すべきです。説得とか折り合いも大事ですが、折角魔物素材大市を計画しているのに開催が遅れる上に頓挫するなんて事態はあまりにも勿体ないです」

「ジュリ様……!」

 ヨニス様が感極まった顔をするけれど、私は案外冷静にその顔を見つめられている。

「議会での承認や根回しに時間を取られると思いますが……私の思いつきや勢いですることを柔軟に受け止め取り入れて下さるヒタンリ国なら、出来る気がします。魔物素材を買ってくれた人が引けるおみくじとか、スタンプラリーで全てのスタンプを集めた子供はお菓子が貰えるとか、魔物素材の正しい保存や取り扱いについて相談出来るスペースとか、後ろ盾を得た私はこの国に来やすくなったので早く見たいっていう我が儘を言ってるだけだと思って下さって構いませんよ。ヨニス様から殿下にこんな我が儘言ってましたよと、笑い話にして話てくれたら嬉しいです」


 覚悟を持ってこの国に来た。

 後ろ盾になってくれるならこちらも相応の対価を支払いたいと。

 それがたとえ些細な私の我が儘や妄想から生まれた事でも、対価として見做されるなら喜んで差し出すつもりで。


 どうやらホコ天の提案はそれなりの対価になりそうで、私とグレイは言葉にせず目配せでそれを確認して互いに笑顔をこぼした。













 想定外の事が起きちゃった。

 でも、気にしなーい。そう、今日は細かいことはどうでもいいの。観光楽しかったから!!

「すごいな、いくら格安の魔石といえども箱一つくれるとは」

 ローツさんは今日の観光で立ち寄った先のいくつかの工房でこの国がお土産にとくれたものがずらりと並ぶのを見ながらちょっとだけ呆れたような声で呟く。

「こちらは……毛皮ですね、ヒタンリきつねと書いてあります。ベイフェルアでは殆ど取引されていないものですよ」

 セティアさんもビックリしながら、それぞれの箱に貼られている説明と物を確認している。魔石は今ヒタンリでも品質向上して販売が始まった擬似レジンを使用した品々を作るにあたって必ず出るスライム様の魔石。小さくて魔法付与がほぼ出来ないけれど見た目は透明な水晶に近いので私が捨てずにひたすら集め続けているもの。いずれこれを活用した何かを作りたいとネタ的な扱いで以前話していたことを陛下が覚えてくださったらしい。感謝。

 他にもキャメル色でつややかな革、糸はとある魔物素材で、これでポーション入れやシザーバッグ作ったらかっこいいのになりそうな予感のものとか、王都からずっと北にある荒野に発生するワーム種の内蔵、つまりサンドアート用のカラフルな砂も数種。こちらは私たちとロディムが集めるのに苦心しているものなので大変ありがたい。

 といったものが沢山、そのお土産に囲まれ私は。

「へ、えへへへへへ」

「色々と作れそうだな」

「くくくくっ」

「まあ、好きにつくるといい」

「ぐふふふ……」

「ちゃんとキリアとフィンに相談するんだぞ」

 不気味な笑いでグレイと会話。


「……あれ、会話なんですか?」

「会話だな」

 ローツさんとセティアさんのちょっと引いてる目は、気にしなーい。


 因みにこれが予想外のことではないわよ。


「所でさ」

 ハルトは私とグレイの不気味な会話など無視で椅子にダラけた態勢で座ったまま背伸びしてあくびをした。

「明日どうする? 明日も王都の視察だったろ」

「あー、せっかくなら私達だけで観光でもする?」

「おっいいな!」

 実は明日は今日回れなかった他の大道、北と西側の視察予定だった。

 所がホコ天の話をヨニス様が同行していた官吏に速やかに伝えていたらしく、そのことで明日王宮では急遽話し合いがなされるらしい。明後日にヒタンリ国のおもてなしに対して私がお礼を述べて持ってきたものを献上をする場が設けられる。その次の日には私達は帰国するので、明日の予定は視察だけだったのでその話し合いに参加しても構わないですよと申し出たら第二王子殿下とヨニス様から、では夕方以降に晩餐のときにでも!! と。私が観光に縁がないことをとても気にして下さっているらしく、急遽夜はその話をするために時間は取るものの日中は自由時間となった。


「よし、じゃあ観光で!!」


 元気よく両手を突き上げ私は宣言。


 こうして私は翌日ヒタンリ国観光に繰り出すことになった。

 そしてテンションの上がった私たちはそれに比例するように財布の紐が緩み買い込んで、献上品を積んできた馬車がギッチギチに。先に貰ったお土産を持って帰るために結局馬車が追加で二台必要になる事態を帰路で引き起こすことになってしまい、護衛として同行してくれた人たち皆に『最初から空の馬車手配しておいて下さいよ』と、他国では馬車の手配が大変なんだと愚痴を溢される事態になる。

 ごめんね。


 でも。


 気にしなーい!


「気にしてやれよ」


 ハルト、うるさいよ。




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― 新着の感想 ―
[一言] 単純に考えると軽トラ2台分くらいの量を追加で……
[良い点]  気にしなーい!コーラス(笑) >(ドラゴンの肉美味い情報に対し)何! それは聞き捨てならないわね?!  ジュリがぐりんと顔をハルトに向ける様子が目に見えました(笑)
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