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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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3 * 前日の一コマ

 


 今日、《ハンドメイド・ジュリ》の再開を明日に控えているけれど出来上がったばかりの新作の感想を貰うのとそれを贈るために侯爵家を訪ねた。

 螺鈿(らでん)もどきを届けてくれたグレイセル様も実家である侯爵家に戻る予定だと聞いていたので、皆さんがそろっているならちょうどいいと思ってね。

 グレイセル様からシルフィ様に渡してもらったものとは別よ。あれは私の精神安定剤みたいなものだから。


 螺鈿もどきから作ったラメがとても綺麗な輝きを放つのでいてもたってもいられず作成したのよ。粉末にすると輝きの強いパールカラーになるし、粒が粗めだとオーロラカラーの、乳白色の輝くラメになる。

 それを茶漉しでグラデーションになるよう振りかけても、混ぜて固めてもスライム様の擬似レジンと相性抜群。

 ラメを混ぜると、マニキュアのオーロラカラーのラメ入りに似たキラキラと華やかな輝きのものになって、押し花やドライフラワーと一緒に擬似レジンに固めると今までのものとは全く違った雰囲気になって即商品化を決めた。

 無色透明の擬似レジンに粉末を混ぜると半透明パールカラー、真珠が半透明ならこんな感じ? という不思議な色合いに。ただ混ぜるときにムラが出ないようにしっかり混ぜる必要がある反面、混ぜすぎると気泡が入りやすくなるのでラメのものより神経を使う。けどこちらも粉末がそれなりに確保出来次第即商品化することに。


 それを報告しておこうと思ったのよ。なにせわざわざグレイセル様が見つけ出したかじり貝様の螺鈿もどき。事後報告よりは、お見せして、それを贈るのが義理というものよね、と。

 本物の天然石でも、輝石と呼ばれる宝石を身につける人たちに、以前は廃棄物だったものを贈るのはいつも心のどこかで躊躇いはあるけれど、それでも『新しいもの』『生み出したもの』は知ってもらいたい。この人たちの優しさあっての今の私、私のしていることを私からしっかりお見せして安心してもらうのが義務、一応私なりの誠意よ。


「昨日商品化を決めたばかりですし、もう少し量の調整はしないといけないと思います。でも試作を兼ねたにしてはとても良くできたので侯爵家には先にお届けしようと思いまして」

 今回あえて粉末にした螺鈿もどきを混ぜた擬似レジンを持ってきた。こっちの方が私的に予想以上にいい物になったから。その色合いを際立たせる為に、黒い布の上に並べていく。全部で十二個、硝子の型が丸と楕円形、雫型に予備があったのでそれぞれ四つずつ用意した。等間隔になるように並べる。

 そして、もう少し他にも。

「あとですね、昨日グリーンスライム様とブルースライム様が自警団さんから届いたんですよ、それで色つきスライム様はいつでも素材不足なので、螺鈿もどきラメもあることだしと思いきって色々作ったんです」

 エメラルドを少し濃くしたようなグリーンスライム様とサファイアを鮮やかにしたようなブルースライム様。

 これはあえて板状にしてからカットし、天然石のカットをお願いしている職人さんに表面だけ宝石のルースのようなカットを施してもらった。正方形と長方形のスクエアカットを大小様々に、全部で二十個。

 それの表面にほんの少しの擬似レジンを塗布してからラメの量に注意して茶漉しで振りかけてグラデーションをかけ、乾いたら再び擬似レジンを塗布して表面を整えて。この二色は、四角が似合う。グレイセル様に以前プレゼントしたブックバンドにもブルースライム様が使われているけど、やっぱり艶やかでとてもいい色、こうして黒い布に並べるとなおその良さが際立つ。

 うん、我ながら上出来。自己満足のレベルは高いわ。

 半透明パールカラーと、緑と青のパーツを全部並べて顔を上げて。

「台座に乗せようか考えたんですけど、侯爵家の皆さんは金や白金を使いますよね? 流石に予算オーバーなので全部パーツのみで勘弁してもら……ん?」


 あれ?

 どうした?

 皆、微動だにしないわ。

 瞬きはしてる。

 テーブルの上のパーツに視線が向いたまま。


「……あの?」

 首を傾げてつい、皆さんを見比べた。

 だって、これは。

 面白いわ。

 なんなの?

 ヤバい、笑いそう。

 なんで皆同じに固まった?!


「これ、が」

「はい?」

「スライムと、かじり貝?」

 エイジェリン様、どうしました? 声が震えてますけど?

「はい、スライム様とかじり貝様ですね」

「それだけ?」

「それだけです」


 ん?

 また無言。


「我々はこれほど身近にあった美しいものを見逃していたのだな」

 侯爵様が絞り出すように、何故か重苦しい空気を纏った。何故。

「そうですね!! でもこうして見出しましたからこれからは沢山の人にこの良さを知ってもらえたらいいですよね! 身近にあるもので喜んでくれる人が増えたら作り手冥利につきます。全ての人に喜ばれるものなんて作れませんけど、それでも【喜んでくれるものを作る】努力はこれからもしていくつもりです、これらがそれのきっかけになればと思います」

「そう、だな……本当に、君は」

「え?」

「【誰かのために】物を作る手をしているのだな。自分のためにではなく、他人の」

「そんなことないですよ。基本自分の為です。作りたい物を作って、それでお金を稼いで、同時に人に喜んで貰えたらうれしいじゃないですか? 【誰かのために】があるのは私がやりたくてやってることだからですよ、やりたくもないことで人を喜ばせる才能なんて私にはありません。私は欲望に忠実な人間なので、あくまでも自分が楽しくて幸せで満足いく日常を目指しています、そこに 《ハンドメイド》が含まれていて延長線上に、人に喜んでもらいたいという願望があるだけだと思いますよ」

 と言ってみた。素直に。

 私は欲望に忠実な人間なのよホントに。

 欲望に忠実だと楽しいよね!! 幸せ!!


 なので。

 感想聞かせて下さい。

 見た目とか色とか、希望があれば試したいんですよね。欲望に忠実に、そういうのを知りたいので。


 と、ついでに続けたらね。


「見事」

 は?

「実に、見事だ」

 なにが?

「ジュリは、思うまま、自由に生きてほしい」

 え? なんでそうなるの?

「そういう君だからこそ、驚きと感動を与えられるのだろう」

 いや、だから、感想をくださいよ。

「【喜んでくれるものを作る】か。独りよがりではなく、持つ者に寄り添うその精神が素晴らしい。だからこのように感動を与えてくれるのだな」

「だから感想をください!! 明日から再開なんですよ!! 金持ちの目から見ても売り物になるかどうか知りたいんですよ!!」

 あ、つい。

 ごめんなさい、我慢が足りない未熟者で。

 これは不敬罪になっても文句言いません。

 反省。











 軒並み、非常に高評価を貰えてウキウキで私が帰った後の侯爵家。後でグレイセル様から聞かされることに。


「ジュリは」

 シルフィ様。

「自分がとんでもないものを作り出している自覚は全くないのね」

 笑いながら、雫型の半透明パールカラーパーツを二つさりげなく手に取ったそう。

 そしてルリアナ様

「そこがジュリの凄いところなのですよ、お義母様。素晴らしい感性の持ち主であることも自覚はないでしょう」

 微笑んで、楕円形の半透明パールカラーと小さなスクエアカット型のラメのグラデーションがかかる青い小さなパーツを二つそっと引き寄せ握ったそう。

 そして。

「とりあえず、シルフィ、ルリアナ、今取ったものを出しなさい」

 侯爵様が苦笑したと。

「嫌」

「嫌です」

「これはこれからどのようにアクセサリーにするかちゃんと全員で」

「イヤリングにします。ダイヤモンドのアクセントを付けて、耳元で揺れるデザインが浮かびましたの」

「パールの三連ネックレスの中央のメインパーツとして素敵な台座に乗せます。そしてブルーのグラデーションが際立つシンプルなイヤリング作ります」

「あら、ルリアナのそのアイデア素敵!!」

「ありがとうございます、お義母様のイヤリングも聞いたとき『それもいいわ!』と思いましたわ」

「じゃあ台座違いなどにして」

「お揃いを作りましょう、お義母様!!」

「それは素敵!!」

 盛り上がって、手がつけられなくなりそうになった所で。


「すみません母上。一度すべて私に預けてくれませんか? ちょっと試したいことがありまして」

 と、口を挟んだのがグレイセル様。

「それが終わり次第、ルリアナの分も含めて渡しますので」

「あら、何か楽しいことを思い付いたの?」

「ええ、まぁ。そんなところです」

「ちょっと待て? グレイセル、母上もルリアナもまずは」

「兄上、引いた方が身のためだと思うけど?」

「ん?」


 グレイセル様が笑顔で兄エイジェリン様を諭した理由。


『お前に預けたら均等に分配するとか言って欲しいのを絶対くれない!』

『余計な口出ししないでください、あなたに任せたら欲しいものが届きません!!』


 と、凄まじい剣幕で睨む女性二人が。

 それによって、エイジェリン様は手を引っ込めたそう。


「おいおい、グレイセルまで勝手に話を進めるな、ジュリはこれを侯爵家にと」

「父上、空気を読みましょうか?」

「何がだ? とにかくシルフィもルリアナも一度返し……な、さ……い」


 最後の『い』は、ひどく弱々しかったと。

 凄まじい剣幕どころか、そこには邪神でも降臨したかのような禍々しい空気を纏った女性が無言で侯爵家の当主を睨む姿があったと、それはそれは人には見せられない光景だったと、私に笑って教えてくれたグレイセル様が結局全部預り、女性二人の機嫌をこれ以上損なうことがないよう配慮して分配したと教えてくれた。










「あのぉ」

「うん?」

「何故でしょう、侯爵様が非常に不憫でなりません。そしてエイジェリン様も」

「ああ、まぁ、うちはあれが常だから」

「……へぇ、あ、そう、ですか」


 後日、この、あんまり知りたくなかった話をされた私は不憫なお二人に何か素敵なものを差し上げようと心に決めることになった。






どこの世界でも、どの時代でも、女性の欲望の後ろにはちょっと怖いオーラが立ち上る、と作者は思ってます (笑)。そしてそれが世の中を動かす原動力にもなっている気がしています。女は強し。


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