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1 * こういうところが異世界だね

 


 いろいろあった異世界転移。ん? 召喚でもいいの? あ、どっちでもいいや。


 けっこうなんとかなるもので、半年いれば大半のことには慣れ親しめた。ビバ適応力。


 異世界すごいよね。

 電気ないの。でも家電っぽいのは至るところにある。

 魔物なら必ず持っている生命維持に必要な魔素と呼ばれる、気のようなものかな? それの塊である魔石っていうものがあるんだけどね。これが凄いの。

 この魔石からでる魔素を利用してこの世界はいろんなものを動かしてるんだよね。

 町の街灯、家のランプ、台所の石窯や竈、暖炉にお風呂の湯沸し、油や薪に魔石を媒体にして火をつけられるし、魔石そのものが発熱するものも当たり前に世の中で使われてる。

 そうそう、属性なんてのもあるから、風属性の魔石なら筒から風を出して髪を乾かせる送風管(ドライヤーの代わり)なんてのがあるし、水属性ならたらいのなかで流れを起こしてあげれば洗濯機には劣るけど洗濯も出来ちゃう。

 そんなだから凄く面白い世界なのよ。

 発展してるようでしてない、なんともちぐはぐな感じ。


 乗り物は馬車とか飛行船とか、私の知る電気が使えて当たり前の時代より相当前に遡るようなものが当たり前に使われてるのに、それらに魔石を使ってるから速い速い。馬、疲れないのか?! って突っ込み入れたくなるレベルに長距離走りつづけるのよ。

 竈と石窯もしかり。魔石の位置とか、大きさ変えることで火力調整できるし。オーブンレンジとかガスコンロに劣らない調整機能だと思う。


 ほんとに、異世界だなあっていつも感心してしまうわけですよ。


 あとは。

 ベタですが冒険者とかギルドとか、ダンジョンとかもありました (笑)!!

 ランクアップ制度あり、素材買い取りあり、パーティーあり、初めのころは衝撃だし新鮮だし、そして興味深々でフィンとライアスに質問したり見学にもいったり。

 あ、ダンジョンは想像とは違ったけど。

 宝箱、隠し部屋、最奥のラスボス、ありませんでした!!

 この世界のダンジョンは、魔物が生まれる場所でありダンジョンに魔物を無尽蔵に生み出す巨大な魔素の塊の上に存在する空間っていう認識らしい。

 魔物が生まれる場所だからそこから魔物が出てきちゃうし、それが大陸中に蔓延る魔物たちになるわけで、それを主に駆逐するのが冒険者というわけ。

 ダンジョンの中に長い時間いる魔物は魔素を溜め込んで強くなるしあらゆる耐性も高まる。なので下に行けば行くほど、奥に行けば行くほど魔素はそこに留まっている率は高まるから進む分だけ魔物が強くなるっていうのは私の知ってる知識とそうかわらなかったけど。

 魔素を溜め込んで強い魔物は、当然持っている魔石の質はいい。

 冒険者の役割は、地上にいる魔物を討伐すること、強い魔物が地上に出てくる前に討伐すること、その討伐で上質、大きい魔石を入手する二つが主なことなんだって。魔物から素材採取もするよ、物によっては高額で取引されるって。

 そして。へぇー、そうなんだ!! ってちょっと感動したのは、冒険者のほとんどがその仕事を誇りに思って命をかけてやっているって知ったから。

 魔物に怯えずに暮らせる環境のために、手に入れる魔石で人々が豊かになれるように。

 そういう志でなる人が多いって。

 この世界の冒険者、えらい。


 そういった定番の異世界ネタとは別に、やっぱり異世界だなぁと思わされることはまだある。

 この世界、異世界人が結構いるらしい。

「たまに立ち寄るよ 【英雄剣士】。面白い子でさ、この侯爵領にあるダンジョンの魔物ブラックホーンブルの肉が『わぎゅう』って肉にそっくりだってその肉のためにわざわざくるんだから」

 ……そいつ、日本人だよね。

『和牛』ですって。

 聞きました? 存在しない言葉だから自動翻訳なりませんよ、だから教えてくれたおばさんのイントネーションがおかしい。

 ってことがあったり。

「これも随分昔だが【彼方からの使い】が広めた物だって言われてるよ」

 そう言って露店のおじさんがくれた試食が『チュロス』。

「チェレッス、どうだい? 旨いだろ?」

 あれ、『チュロス』ってどこの国のものだっけ? そしてこっちの世界で呼び名は変化して定着したんだね。


 そこかしこにあるんですよ、【彼方からの使い】が広めたものが。

 物を掴む『トング』に『菜箸』、食べ物だと『パスタ』と『スフレ』、『醤油』によく似た調味料を普通に出された時は本当に驚いたから。他にもそれぞれ微妙に名称が変わってたり形とか違うけど、間違いなく【彼方からの使い】が広めたものって人々の間で認識されてて根付いてるものがホントに多いから、かなりの異世界人がここに来ていたんだと実感する。

 国単位、大陸全土で考えたら、実は途方もない数の異世界の物が定着してそう。


 ただ、こうしてみると私が関わることってほとんどないんですけど?

 だって魔力ないし、【スキル】ないし、【称号】すらない。冒険者にもなれない。いや、なりたくないか。それにしたって、何もないのに異世界から飛ばされるものか?

 と、疑問が生まれてそして思い出すのは


【知識と技術】


 私が持ってる物ってなんでしょう。わからないんですけど。

 中学も高校も学校の成績は悪くなかったし、大学も楽しく充実した内容でちゃんと勉強してきた。でも、だからといってそこからこの世界に必要とされる知識を人に教えて広めるほど出来た人間じゃない。

 そう考えると学校で習うようなものじゃないってことか、というところまでは分かったような分からないような。


 あと、()()()()も気になる。

 これについては誰にも言ってない。言うと過剰な期待と周囲の態度が変わりそうな気がするしね。


「あの世界に【変革】を起こしてくださいね、それがあなたの使命です」


 ポイントは【変革】が私の使命ってこと。

 あと、記憶が正しれば『人を幸福にする』そんな変革って言ってた。

 だから魔王と戦って平和をもたらすもの (魔王いませんけど)とか、奇跡の蘇生術とか浄化とかが出来る力で人の命を救うとか、つまり大陸全土に轟くような強烈な力ではない。

 考えるのは、日本で平凡で平均的な学力とか知識の私でも出来る範囲のことで、そしてこの世界には浸透していないか、存在しないもの。


 ないと思う。


 魔法と魔石、独自の文化や文明でこの世界は回ってますよ!! ちゃんと機能してますよ!! 足りないものって別に今のところないんですよ!!


 なんだよー、ホントになんなのー【変革】ってさあ!!





 そんなこんなで、私がここに来て半年、特に何も起こらない。至って平凡な日常。

「世話になってるだけっていうのもそろそろ限界だわ」

 生活の保証はされてるの。

 侯爵様が色々便宜を図ってくれてて。

 でも最近、それが心苦しい。


 だって、他の異世界人は皆活躍してる話を聞いてるから。

 私のことは一部伏せられてる。

 実は黒髪や黒い瞳は珍しくないし、公爵が私を侯爵様に興味を失って丸投げしたから私の話は全く広まらなかった。私がいるこの地区ではそれなりに話題にはなったみたいだけど、別に目立ったことが起きてないから半年もすれば『そんな人もいたねぇ』くらいに薄れてしまってる。

 だから私は、平和なのです。

 無職でも食いっぱぐれることないのです。


 人としてだめだ、これ。








「どしたの?」

 のんびりスローライフのいつもの日常。

 夕飯くらいは私も作るれるからと、世話になっているお礼も兼ねてご飯を作っていたとき。

 後ろでフィンのため息が聞こえた。気になったから煮込み料理を便利な竈に任せフィンのいるダイニングのテーブルに向かうと、ちょっと悲しそうにテーブルに置いた帽子を見つめている。

「うん? 大したことじゃないんだけどね。気に入ってたから……」

「あー、どうしちゃったの、これ」

 苦笑するフィンの視線を追うと、帽子のとある部分が目についた。

「森に入って今が旬のベリーを採ってたんだけどね。そのとき木に引っかけちゃって」


 フィンが外に出るときいつも被っている帽子。

 数年前家を出て独立した息子さんが久しぶりに帰って来たときに住んでる他領で見つけたからとお土産にフィンにプレゼントしたものだと聞いている。

 紺色の、デニム素材に似てるかな。それよりはもっと硬い感じで、外の作業にも向いてるツバも幅広い物だ。でも確かに数年前のものをずっと使い続けてたから、色褪せや擦れて生地が薄くなってる部分もある。

 不幸にもその薄くなってる所に枝が引っ掛かってしまったらしい。小さいけど穴が空いてた。

「生地が厚いし、色もはげてるから直すのは難しいよ」

 確かに。

 これを直すのはちょっと難しそうだ。


(あ、レース編みしようかな)

 小さな花の形を連ねたもので一周覆ってしまえばいいんじゃない?

 生地が厚くて硬いけど、レースを同色の糸で所々縫い付けるだけなら楽だし。

 もしくはレースを別のリボンに縫い付けてから、それを張り付けてもいい。幸い布にも使えるボンドは私が転移したときに一緒にこっちに来ている。


 そう、あの日。

 テーブルからこぼれ落ちんばかりのハンドメイドに使うパーツや買い換えた道具も一緒に転移してた。

 ずっとしまったままだったな。


 私は、自分の部屋としてすっかり愛着が沸いてきた二階の部屋にかけこんだ。

(たしか、レース用の糸も少し買ってたはず)

 ベッドの下に入る箱二つ。そんなに高さはないけど

「大事なものだろう、いつか気が向いたらやればいい」

 そういってライアスがわざわざ蓋つきで作ってくれた大きめのそれ。

 勢いよく引き出した。

 そしてあける。


 うん。

 ある!!






 まさか、これが 《始まり》になるとは思いませんでした。



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