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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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399/638

29 * 北からの手紙

※2025/03/04時点のお知らせを掲載致します。


◇600万PVありがとうございます!!◇


ここまで読んで頂きましてありがとうございます。


興味のあるジャンルだな、好みだなと思って頂いてイイねや感想、評価がまだの方は是非お待ちしております。

そしていつものように誤字報告ありがとうございます、助かっております、作者性格的に雑な所があるので心から感謝ですw


先日の更新後、今までにない評価とブクマを頂きました。ありがとう御座います。


ただ、ただ!! 突然で作者ビビっております。


あらすじにも記載しておりますが、魔物はじめ廃棄素材も登場人物も世界情勢も行き当たりばったりで緩めで、ついでにご都合主義で設定し執筆しております。


これは無理な設定じゃないか、矛盾してる、同じ事前にも読んだ、と読者様がご指摘したい点は多々あると思いますがそこは本当に緩く暢気に構えて読んで頂くしかありませんので、これからも寛大な心でお付き合い下さい。


※この件につきましては活動報告に最新の詳細を載せましたので併せてお読みくださると幸いです。


※100話ごとにこちらのお知らせを前書きに記載しますので、重複読みにご注意ください。

 



 グレイが騎士団に入団、そして騎士団長になったときにそれぞれもらった勲章。

 それを見ながらククマット栄誉賞の褒賞の一つに勲章も追加されることになってそのデザインのアイデアに繋がればと二つの勲章を眺める。

 グレイのは国からのものなので、特に団長の勲章は高価な金属と宝石が使われてるのでこれを真似ることは今後継続していくことを考えると税収を無視できないので予算的に難しい。

 一部をグレイの私財から出すにしても、あまり仰々しいものは私も避けたいところ。

「あれ使えるかも」

「なんですか?」

 予定調整をしてくれているセティアさんが私が大きな声を出したのでちょっと驚きながらも首を傾げて、隣で押し花をふんだんに使った擬似レジンのコースターの試作をしていたキリアは手を止める。

「仰々しい勲章が嫌だなぁと思っててね。胸元にさり気なく、でも華やかに着けられるものにできないかと考えて……つまみ細工がいいかな、と」

 すると無言でキリアは素早く移動、見本や試作品が入っている棚から物凄い速さでつまみ細工をいくつか持ってきてテーブルに並べる。

「キリア、試作」

「後で」

 スライム様固まっちゃうよ、とボヤくとガラス製の大きなバッドにザバー! と流し込んだ。

「後でカットしてパーツにするから」

「豪快……」

「で?」

 聞いてない (笑)。


 大きさの違うつまみ細工の中から私は直径八センチ程の物を手に取る。グレイの勲章もちょうどそれくらいの大きさで恐らくはベイフェルア国の勲章はこれくらいが平均なのかもしれないのでそれに合わせてみた。

「このつまみ細工の中央に……魔石や宝石、金属を嵌め込むだけでも見栄えがするでしょ?」

「あ、シャーメイン様の婚約式でのドレスのつまみ細工がそうでしたね。あれは大きなダリアの中央にダイヤモンドでしたが……小振りなこのつまみ細工なら胸元を飾るにもいいですし、中央に宝石などがあれば豪華になりますね」

 セティアさんに頷いて見せて、私は手近にあったボタンを適当に取りそれをつまみ細工の中央に押し付ける。

「これより一回り小さい物をはめ込んで、栄誉賞の勲章として試作して見よっか」

「はい! 商長! やらせてください!!」

 手を挙げて元気良く宣言するキリアをセティアさんと笑う。


 三人で目の前の仕事から度々脱線しつつ楽しく会話をしていたら、ローツさんが外出先から戻ってきた。けれどその様子がいつもと違い私たちは互いに目配せしあう。

「ジュリ」

 珍しく息が荒い彼は急いで来たらしい。そして手に一通の手紙らしきものを持っている。

「どうしたの?」

「出先から戻るついでに屋敷に一旦戻ったんだが……おそらく、このあと侯爵家からも直ぐに使いが来るはずだ」

「え、なに?」

「俺宛に、マーベイン辺境伯爵家から手紙だ。グレイセル様宛てにも届いているはずだが、グレイセル様は今日は」

「マイケルに頼まれてテルムス公国のダンジョンに入ってるよ、戻るの明日になる」

「そうだよな……」

 なにをそんなに慌てているんだろ? その疑問を解消するために口を開いた瞬間。


「ネルビア首長国がマーベイン辺境伯爵領国境線の停戦協議の席に着く、と。その際、ジュリにもその席に同席してほしい、そう書かれている」


 爆弾投下され、言葉を発しないまま、私の口は開けっ放しになった。

 勲章の話は一旦置いておく……。














 ローツさんに届いた手紙を読んで間もなく、侯爵家からはエイジェリン様が手紙を持ち訪ねてきた。その顔は険しい。決して、停戦協議の席が設けられることに対して喜んでいる顔ではなかった。

 二人の手紙はほぼ同じ内容。

 あくまでマーベイン領と接するネルビア側の首長区の首長による停戦協議に限定されること、決して国家間の停戦協議ではないことが強調された内容だった。

 そしてそこには。

「その際、ネルビアの穀潰し様の製品化について相談したいから……私も招待したい、とネルビアが言っている……」

 ネルビア側の希望、とのこと。あくまで希望であり要求ではないので強制力や圧力は全く心配ないと書かれている。つまり、断っても問題はない、と。

 ただ、マーベイン辺境伯爵様は共にネルビアに行って欲しいので私に話を通して欲しい、と明確に書き込んできた。


「……これ、キリアやフィンじゃ駄目ってことですよね? 文面から『私を招く』ことにネルビアは意味がある、と読める気がするんですが」

 その問にエイジェリン様は険しい顔のまま、浅く頷く。

「穀潰しの製品化のための相談……それならジュリどころかキリア、フィンでもなくデリアたちで事足りる。しかし辺境伯からの手紙は明らかにジュリを指名しネルビアがそれを望んでいる、と明記してきた。……私としては、ネルビア側の真意が見えない限りはジュリをネルビアに関わらせる気はない。それはグレイセルも同じだろう。そこでだ、ジュリ。直ぐに断りの手紙を書いてくれるか?」

「……あの、少しお時間頂けますか?」

「えっ?」

 声が少し甲高くなったエイジェリン様だけでなく、ローツさんたちも明らかに驚いたのが伝わってきた。

「グレイと……リンファにちょっと相談させてください」

「ジュリ」

 制するようなエイジェリン様の声に私は首を振る。

「言いたいことはわかります。私の今の立場は危うい、それは十分理解しています。この国では私は【彼方からの使い】ではなく、クノーマス伯爵夫人でしかありません。そんな私がネルビアとマーベイン家の協議にたとえ掠る程度としても関わることは、色々と……問題になる可能性がありますから」

「そうだ、だから今の段階ではまだ早すぎる、ネルビアにジュリが非公式でも訪問することはリスクが高すぎる」

「だからこそ相談させてください、グレイとリンファに」














「最終的な判断はあなたがすることではあるけれど……現段階ではどうかしらね? 非公式とはいえネルビアとの停戦協議なんて歴史的なことよ、それに関わりたい貴族を飛び越えてジュリが食い込むのは危険よね。【彼方からの使い】として認められていないでしょ、それなのに協議に関わるとなれば政治的な立場を盾に自分のほうが適任だとマーベイン家に人が押し寄せるわ」

「そう……今まで停戦協議自体が行われてこなかったのに、既に水面下で文官レベルで交流が始まってる。関わりたい人は山のようにいるよね。……グレイとしてはどう?」

 翌日、グレイが帰ってきたタイミングで事前に連絡をしていたリンファが礼皇としての公服を纏ったまま来ていた事にグレイは何かあったのだと直ぐに察して少し顔が強張っていたけれど、聞かされた内容に強張りは消えた反面困惑が浮かんでいた。

「今ではない」

 きっぱりと言い切ったものの、その言葉に何か続く気がした。

「どうしたの? 言いたいことは言ってくれていいのに」

「今ではないことは、確かだ。ただ……」

「ただ、何?」

「チャンスではある」

 リンファがその一言に身を乗り出した。

「そこなのよ、チャンスなのよ」


 国内でのことは置いといて、ネルビアと私が接点を持ったと公にする利点は大きい。国として【彼方からの使い】として私を招くのだから、少なくともネルビアは私を大陸全土に向けて認めていることを示すことになる。

 バミス法国のように、商売ありきで私から望んで他国に赴くのとはわけが違うと常々グレイは言っていたし、私もそう思っている。


 国が私を招くのだ、【彼方からの使い】として、私を。


 国内の情勢を無視していい立場ではないことは十分理解している、けれど……。

「……ヒタンリ国の国王陛下に正式に後ろ盾の申し入れを受け入れると伝えたい。リンファ、仲介お願いしてもいい?」


 刹那、グレイが安堵のため息を漏らし、リンファの顔には笑みが浮かぶ。

 先にヒタンリ国の後ろ盾を得ておく。

 ヒタンリ国は、ベイフェルア国とは違いネルビア首長国と貿易含む多方面で国交がある。何よりヒタンリ国の同盟国にはリンファのいる北の大国バールスレイド皇国がいる。国を興すその時に尽力してくれた大国が。そして、その時少なからずの人道支援を行ってきたのがネルビア首長国。この三国は切っても切れない関係と言っていい。


「忙しくなるぞ」

 グレイが薄く笑った。

 私が国という後ろ盾を得るタイミングと覚悟を持つことをずっと待っていた男。

 今のままでは限度があると、大きな力のある後ろ盾を持つべきだと言ってくれていた。

「……ありがとう、ね」

「うん?」

「ずっと、私の覚悟が決まるのを待っててくれたよね?」

「そうだな、待っていた」

 グレイが手を伸ばしてきて、親指で私の目の下をそっと撫でる。

 時々こうして私の目の下をそっと撫でることがあるのは、この人の癖のようなもので、かつて泣いたとき、派手に泣いて喚き散らした時以降、ふとしたときにこうして触れてくる。どうしてするのかと聞いたことがあって。

「泣いたときにこうして涙を拭うだろう? 良いときも悪いときも人は泣くものだ……どんなときでも私がこうして拭えるように、何があっても私がいると知っていて欲しいのかもしれない」

 と。

 私の目の下を撫でる時。


 恐れず進め。


 グレイなりの励ましなのだと思えるようになっていた。


「ねえ」

 リンファ。

「イチャイチャするのは二人きりの時にしなさいよ」

「別にイチャイチャしてるわけじゃ―――」

「年中無休で旦那がぴったり引っ付いてるんだから普段は周囲に気を遣いなさい」

「そんなことないでしょ、昨日だっていなかっ―――」

「ジュリ、あなたの感覚と他の人の感覚は違うわよ」

「えー? グレイだって友達と会ったりしていない時結構あ―――」

「あなたの感覚は麻痺してるの」

 最後まで言わせてくれないリンファに、何故かこのあと私とグレイの感覚について人様とは違うのだと小一時間説明された。


「まあ、この話はまたそのうちにするけど」

「あ、まだするんだ……」

「今日のところはここまで。それよりも」

 リンファは姿勢を正して真っ直ぐ私を見つめる。

「いいのね? 今日戻り次第、私はヒタンリにあなたの現在の考えを話すわよ」

「うん、お願い」

「わかったわ、任せて。ネルビアとマーベイン辺境伯爵家の停戦協議の場に立ち会うこと、その前にヒタンリ国の正式な後ろ盾を得て、『国が認める【彼方からの使い】である』ことを全面に押し出してネルビアに行くこと、万が一、その件でネルビアとトラブルになるようであればヒタンリ国と私の介入を躊躇わないこと、それでいいわね?」

 私はしっかり頷いてみせた。


「グレイとしては一番最初はネルビアを後ろ盾に望んでたよね?」

「そうだな。ただ、今回の件でそのままネルビアが後ろ盾になるのはリスクが高すぎると判断せざるを得なかった」

「それはなんで?」

「停戦協議……今後もし、マーベイン家以外の国境線に領地を持つ家がそれを望んだときジュリがそのたびに利用されることになるからだ。ジュリを一度でも『ネルビアを後ろ盾に持つ停戦協議の使者』として扱われてしまえばその立ち位置から動けなくなる。……一歩トラブルに見舞われればその時点で責任をジュリに押し付ける事をしてくるだろう。そうなれば、最悪戦犯扱いにされることも考えられる」

「だよね」

 私は項垂れつつため息をつく。


 自身が住む国が正式に【彼方からの使い】と認めない。


 これが、場合によっては国にとって都合がいいこともあると薄々感じ始めている。


 これも神様の思し召しなのかな。


 今がそのタイミングだ、と。


 今いる国が認めないなら他の国に認められる。


 そのタイミングだと。


 覚悟はあった。

 あったけれど何となく自分の中ではタイミングではないのかな、と思う事が多くてヒタンリ国とは付かず離れずの距離を取り、クノーマス家に任せっきりでいた。

 ヒタンリ国が私のそういう感情を汲み取ってくれていた事を私も理解していた。そしてそれを心地よい、とも思っていた。

 フォンロン国、バミス法国とは違う接し方と距離感が意外にも私に合っていたと実感している。

 この距離感が維持できるならば。


「ベイフェルアじゃないのが……複雑な心境ではあるけれど。ま、そのへんはもう諦めるわ」

 そう呟けばグレイは静かに笑った。

「それでも」

「うん?」

「ジュリが自らの意志で決めたことだ。……セラスーン様はお喜びになられるだろう。ジュリが自らの進む道を選ぶ、そのことを、セラスーン様はずっと望み願って下さっているからな。迷わず、進んでみるといい」

「うん、そうだね」


 ―――国が認める【彼方からの使い】になる―――


 この決意が私にとって吉兆になると信じて進んでみよう。












「ジュリーーーー!!!」

「ずるいじゃないかい!!」

「あたしらも混ぜな!!」

 翌日。

 おばちゃんトリオが怒鳴り込んで来た。文字通り、本気で怒鳴り込んできたのよ。

「な、なに?」

「勲章作りだよ!!」

「キリアだけなんて!」

「あたしらも作れるだろう!?」

 ……。

「ごめん、キリアにも作らせないと思う。キリアのはあくまで試作になるよ」

「は?」

 キリアが低い声を出した。

「つまみ細工の恩恵持ちが二人もいるし、というか作るのずっと先のことだから今その話しされてもねぇ」

「「「「は?」」」」

 え、めっちゃ怖い……。

「「「「なんで?」」」」

 今理由言ったよ。

「「「「恩恵あるけど?」」」」

 ……。

「グレイ、領主の強権発動してくれる?」

 にっこりほほえみ旦那が頷いた。

 グレイVS最強の布陣。

 結果、グレイが秒殺した。


「領地経営に関わることだから私が決める」


 その一言で。


 因みに、このあと数日グレイは四人に睨まれ続け。

「領主を睨む。そうそう出来ることではないな」

 と何故か面白く笑っていた。

 グレイも、キリアも、おばちゃんトリオもメンタル強すぎ。





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― 新着の感想 ―
[良い点] 何故か美人(ですよね?)で押しの強い婚約者の決まったバビオ君の再登場に期待w [気になる点] ハルトが暴走しないか心配w
[一言] おばちゃん達つよい
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