表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

396/640

29 * 無事に終わればそれで良し

こちら文字数多めとなっております。

「うふ、仲良し……」

 ルリアナ様がちょっとだけ面白がってるような含みある笑顔を浮かべて呟いた。私は顔を両手で覆った。

 責任感じる。物凄く、責任を、感じております。

 二人は今沢山の人達からお祝いの言葉を掛けられている。それはそれは幸せそうに受け答えしていて、誰が相手でも物怖じせず堂々と振る舞うその姿は大変立派。

 なんだけど。

『恋人繋ぎ』はやめてほしい……。


 私とグレイのせいなんです! はい! 私達普段ああやって手を繋ぐんです!!

 地球では (世界共通か分からないけど)恋人繋ぎと呼ぶと教えたら、あの二人もするようになった。

 あの、婚約式……。貴族、腕を組むところ……。

 これ後で私とグレイ怒られる?! ヤバくない?! 侯爵様とシルフィ様が微妙な顔してる、エイジェリン様が苦笑してる。

「胃が痛い……」

「ジュリ」

「なに」

「大丈夫だ、いざとなれば転移で逃亡出来る」

「ああ、うん、よろしく」


 二人でそんな会話がなされたことなど周囲に気づかれることもなく、婚約式はトラブルもなく進む。婚約式は結婚式よりも小規模で時間も短めということが多いらしいけれど、公爵家と侯爵家の婚約ともなればその『小規模』自体が他とはズレがある。

 普通に結婚式レベルの招待客なんですけど? これで小規模?

「婚約式で招待客が百五十人って、凄いよね?」

「結婚式なら三百超えるだろうな」

「これを個人宅で出来ちゃうって、凄すぎてピンと来ない」

「はははっそうだな、侯爵家ですら二百が限界だ。それを遥かに超える人数を招待出来るんだから、流石としか言いようがないな」


 婚約式なので晩餐会のような座ってフルコースを、という堅苦しいものにはなっていない。お上品な立食パーティー、一言で言うとそんな感じ。

 壁側に軽食が用意され、飲み物は執事さんたちが会場を周りながら提供してくれる。途中ダンスタイムが何度かあり、そのダンスや立ち話、そしてドレスで疲れた人達が気軽に座れる椅子やカウチが壁沿い至る所に置かれている。大きな窓の向こうにあるテラスもテーブルと椅子が設けられ、そこでも一休み出来、本格的に休憩したければそのためのサロンが何室も用意されている。

 そんな招待客が出入りする全ての場所に飾られているのがオレンジ色の花を基調としたフラワーアレンジメント。シイちゃんの髪色をイメージしたものになっている。

 今回、このフラワーアレンジメントの一部に使用されたのはまだ試作段階のガラス製フラワーポット。

 雫型の中央にポッカリと穴がありそこに花を活けて金属の支柱に吊すもので、これは最近ガーデニングのハンギングにハマっているおばちゃん達から小さくて場所を取らない吊す花瓶は作れないのかと言われてガラス工房にお願いして作ってもらった試作品。全体のバランスや支柱の安定性や強度など、改善の余地ありのガラス製品なんだけど、爽やかな風が心地よい今の季節に合うだろうと思い切って使った。

 こういったシンプルなフラワーポット自体貴族にしてみると珍しく、興味深げに顔を近づけて見ている人もチラホラ。こういう反応はいつ見ても嬉しいし楽しいね。

「耐熱ガラスのティーセットには負けるがな」

「あれは仕方ないわよ。今のところ大規模なお茶会で全てのテーブルに耐熱ガラスセットを用意出来るのは、うちと侯爵家とこのアストハルア公爵家だけだからね」


 ククマットとトミレア地区、そして周辺のガラス工房のみんなには本当に頑張って貰った。

 職人のプライドをかけて絶対に妥協せずこの婚約式に間に合わせると職人さんたちが協力しあってくれて、そのお陰で誤差の殆どない統一された形と重さのティーセットが並ぶテーブルには貴婦人たちだけでなく紳士達も集まっている。

 本当はツィーダム侯爵家からもなるべく急ぎでと相談を受けていたんだけど、耐熱ガラスを安定して生産できる工房が三箇所、他も追随しようと努力をしてはいるけれど如何せんガラス工房は全体的に好景気、手が回らないというのが現状で頼みの三箇所だって他のガラス製品の生産を落とす訳には行かない位には品薄や予約待ちが断続的に起こっている。今回はシイちゃんの為にとツィーダム侯爵家が引いてくれたお陰で希望数をアストハルア家に納品できた。


 そして、シイちゃんがすごく楽しみにしててくれた、嫁入り道具の一つでもある彼女のために作られたアフタヌーンスタンド。

 婚約式のお祝いとしてクノーマス伯爵家からプレゼント。


「派手だな」

「……言われるがまま作ったんですけどね」

「これがテーブルの上で主役になってしまわないか?」

「なりそうですね……どうしましょうか」

 グレイと制作に携わった職人さんのちょっと微妙な空気が流れる会話を吹っ飛ばすように突っ込んでいった人がいる。

 金細工職人のヤゼルさん。

「おう、いいじゃねぇか!! シャーメイン様のめでたい席で使われるんならこれくらい豪華でいいんですよグレイセル様! 俺としちゃあもっと盛ってもいいくらいだと思うんですがね!!」

 トップのハンドルに思いっきりクノーマス侯爵家の略式紋章が入ったスタンド。アストハルア家でこれが出される度に、主張激しいスタンドが主役になってしまう恐れがあると発覚。いや、その前に、一応格下なのでクノーマス家の紋章入りが主役になるのはマズいらしい。

「そういうの先に教えてよ!!」

 私が叫んだとき既に時遅し。

 これはもうクノーマス家で使うしかない、婚約式には間に合わないから結婚式までに用意しようと話が纏まりかけたところへ公爵夫人の鶴の一声。

「その程度のことで目くじらを立てたりしませんわ」

 という、ありがたーいお言葉により無事本日お披露目となった。

 シイちゃんのアフタヌーンスタンドは、三段のうち上、中段がサイドに動くスライド式。

 このスライド式にシイちゃんご希望を取り入れて完成した。

「支柱にこれでもかと装飾したら、扱いにくさが出ちゃったなぁ……」

「ハンドル以外で手で押さえられる場所が脚だけにもなったな」


 リメイクにより劇的に変化したかつての侯爵家のアフタヌーンスタンドのピンクゴールドカラーがお気に召したシイちゃんなので、色に関してはそれ一択だった。

 そして装飾なんだけど、作り手が調子にノッた。

 まずクノーマス侯爵家の娘に相応しいものといえば、やっぱり侯爵家オリジナルの薔薇。

『侯爵家の額縁』を作った経験を活かせるということもあり金細工職人のヤゼルさんやライアスたちが『やろうぜ!』という妙なテンションでスタンド支柱に飾れる小さな薔薇を大量生産した。大量生産したので、使い放題盛り放題、その時点でゴージャスになるのは決定していたところに、ペアリングをデザインしたときカガミドリという鳥をモチーフにして以降、ロディムの中でカガミドリへの印象が良くなった事に目を付けられ、それも盛りに一役買った。

 しかもそのカガミドリ。遊び心が含まれ型が複数存在する。薔薇も蕾や開きかけもあるし、なにより相当楽しんで作ったな、と見ただけでわかるくらいに、一台一台表情の違うスタンドになっていた……。こういうのって、揃っててナンボでは? と私は心配したんだけど、これほどゴージャスな物なら寧ろ職人の遊び心が見られるものこそ価値があるそうで。

 支柱に散りばめられた薔薇に、一羽のカガミドリ。

 派手だよ、うん。


 そして二人の指にはちょっと不思議なデザインの指輪。ペアリング。

 二つ並べれば真ん中にハートが出来て両サイドに広げた翼が来るようになっているそれはやはりデザインが独特なので気になる人も多いらしい。特に同年代の出席者は気安い仲の人もいるようで積極的に質問をして話が盛り上がっている。

 ちなみに対となるシイちゃんの髪飾りとロディムのブローチはヤゼルさんとそのお弟子さんでかなり細部まで拘って作ってもらっている最中。これのお披露目は結婚後にしようかなんて話もあるのでのんびり作って下さいとお願いしている。


 色々と盛り込んだ婚約式。


 不意にシイちゃんと目があった。


 凄く幸せそうに、『ありがと』と口が動いたのはきっと気のせいじゃない。














 煩わしいことは大人たちに全て任せているので二人が幸せそうに沢山の人たちから祝福される一方で、微妙な空気が流れている場所もある。


 強権派ベリアス家当主と、その夫人。

 当主は久しぶりにみたし、夫人は初めて見る。

 公爵家嫡男の婚約式ともなればやはり派閥を超えて招待しなければならない人がいるし、呼ばれた側も出なければならない、というものらしい。他にも強権派からは侯爵家、伯爵家と複数が招待されている。面識のない人たちばかりが揃うその席の人たちをグレイが小さな声で家名と爵位を教えてくれる。

「……暗いよね?」

 一通り教えてもらって私の口から出た言葉がそれなので堪らずグレイが笑いを堪えた。

「開口一番の感想がそれか……」

「だって、あからさまにベリアス家に気を遣って会話もろくに出来ないでいるみたいだし。あのへんだけ葬式みたい」

「仕方ないさ、公爵夫人の機嫌が悪いしな」

「あ、そうなの?」

「シイとロディムのつまみ細工に使っているあのダイヤモンドだが……夫人も狙っていたらしい。オークションでは早々に諦めることになったそうだ」

「あれってオークションに出てたんだ?」

「二つともロビエラム国の最難関クラスのダンジョン産だそうだ。そのダンジョンは稀に高純度の輝石が生成されるんだが、今回のはその中でも数十年に一粒見つかるかどうかの大きさでもあったからな。ロビエラム王家はもちろん他の王家も参加した程、それだけでもいかに希少なものかよくわかる」

「あー、だとしたら物凄い跳ね上がったよね、金額が」

「だろうな」

 それで競り勝つアストハルア家、恐るべし。


 そりゃ、面白くないよなぁ。

 競り負けただけじゃないもん。着けているのはまだ爵位もない息子とその婚約者。しかもティアラやネックレスのメインストーンにされるようなダイヤモンドなのに、つまみ細工に使われてる……ドレスの一部、いや、添え物扱い。あ、機嫌が悪いの私のせいでもある?

 ジロジロ見るわけにはいかないけれど、強権派の人たちがいるテーブルを観察すると面白いことが分かる。

 テーブルの上の耐熱ガラスやアフタヌーンティースタンドのことを給仕係に質問したくてでもベリアス家やそれに近い家と思われる人に気を遣ってソワソワ落ち着かない人もいれば、暗い空気など我関せずで堂々と中立派、穏健派の人と談笑する人もいる。もっと凄いのはチャンスとばかりに娘を引き連れ各テーブルを巡り結婚相手を見つけてやろうと張り切る人もいる。

 要は一枚岩ではないんだな、ということ。

 それもまたベリアス公爵夫妻の機嫌を悪くさせる要因の気がする。


 私がそんな観察をしながら勉強になるなぁなんてことを考え始めた頃、婚約式の終わりの時間を迎えた。

 私達の結婚式のようにシイちゃんとロディムが招待客のお見送りのため会場出口に並んで一人一人に出席へのお礼を述べている。もちろん、派閥など関係なくちゃんとベリアス公爵夫妻にも。明らかに社交だけどね、互いに。


「やれやれ、ようやく一息つけるな」

「何事もなく無事に済んで良かったね」

 グレイと二人でアストハルア公爵家の屋敷内を並んで歩く。

 今日の準備に駆り出された従業員たちを回収して先に帰宅させるため、控室に待機しているキリアたちの所へ向かうと。

「「……」」

 全員、寝てた。

 ソファや椅子にもたれて、テーブルに突っ伏して。

 グレイと目があって、笑いがこみ上げる。

 最近の彼女たちはとにかく精力的で、『人間かな?』と本気で問いかけたくなるくらいには勢いで準備を進めてくれていた。

 ウエディングコーディネートという専門的な分野を確立するつもりはない。もっと幅広く、パーティーやお茶会、室内をコーディネートする部門としてやっていこうと計画しているけれど、やっぱりこういうお祝い事となると一層楽しく仕事が出来るようで特に今まで自分たちが領主として敬ってきたクノーマス侯爵家のシイちゃんの恋愛成就での婚約ということが、彼女たちのやる気に火をつけていた。

「こんなところで寝れないよ、と言っていたのは誰だったか」

 グレイが小声でわざとらしく呟く。

「あ、それキリアね」

「寝てるよな」

「寝てるね」

 グレイはそんな彼女たちを起こすこともなく、いきなり両手でキリアとフィンを担ぎ上げた。

「ふおっ?!」

「へぁっ?!」

 キリアはビクン! と体を反応させ、フィンは腰大丈夫か? と思うほど海老反りした。

「さあ先に送るぞ」

 この状況は一体何なんだという顔をしている二人を担いだままグレイが転移。奇妙な声を出した二人のせいで周りが目を覚ましてノロノロと身体を起こす。


「みんな、お疲れ様!! お陰様で無事に婚約式が終了しました!!」


 寝ぼけ眼の彼女たちは、そうか終わったのかと安堵を滲ませ気の抜けたゆる~い笑顔をたたえた。


 ちなみにグレイはこのあと転移を繰り返してみんなを送り届けたんだけど、最後の人を送り届けるとそこでキリアに捕まり、せめて起こしてからやってくださいと説教されたと報告してきた。















 後日譚。

「これ、婚約祝い」

「ええっ? もう必要ありませんよ!」

「まあまあ、こういうときはもらっておきなさい」

「……ありがとうございます」

 ロディムは私から手渡された箱を手にちょっと照れくさそうにした。

「……ん?」

 さっそく見ていいですか? というのでもちろんどうぞと答えると彼は笑顔で箱を開けたのに、数秒それを観察後、蓋を閉めた。

「ジュリさん」

「なに」

「これ、見覚えが……あるんですが?」

「そりゃ元はあんたの家にあったものだからね?」

 ぷるぷると震えるロディムが箱を私に突き出してきたけれど私はそれに絶対に手を出さない。

「も、もらえません……」

「あ、それ返却不可だから」

「そういうものではないですよね?!」

「どっちも魔力回復:大が付与されてるから。ほら、スライム様のグラデーションペンダントトップは()()()破損しちゃったでしょ? その代わりにシイちゃんとお揃いにしたらいいのよ」

「いらないですっ、こんなの貰ったら父から何を言われるかわかりません!」

「じゃあ黙っとけば?」

「そういう問題じゃないですよジュリさん! これの扱いが雑すぎます! もっと慎重にお願いします!!」

 マイケルにお願いして魔法付与してもらった『黄昏』。『黄昏』って人にプレゼントすると素直に喜んで貰えないのは何でなの?

 まだ結構余ってるんだけどな。

「こんな……王家でも持っていないような物を……」

「あー、ちょっとした嫌がらせも含んでるかな」

「えっ?」

「人前で『恋人繋ぎ』しないでくれる?! あれを教えたのが私とグレイだってバレて侯爵家からはもちろんあんたの両親からも『ああいうことはあまり教えないで欲しい』って怒られたんだから!!」

「ええっジュリさんたちだけの特権ではないですよね?!」

「私とグレイはいいの! 皆から頭のネジが外れた夫婦って思われてるから!」

「理不尽です! なら私とシイは権力で黙らせますからいいじゃないですか!」

「そういうことに権力使うんじゃねぇわ!」

 私とロディムのナンセンスな喧嘩は、誰も止めてくれず凡そ一時間続くことになる話はあまりにもくだらないので割愛。




無事若者二人の婚約成立。


最近ハンドメイドしてない! と思いつつもお話進める為にも色々出さなきゃならないネタがあったりします。物作り、素材を楽しみにして下さる読者様には申し訳ないと思いつつ、これからもお付き合いいただければ幸いです。

次回、物作りしますー。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 黄昏を押し付けられて黄昏る?
[良い点]  昔は自宅でお葬式をしていた関係で、来客用に沢山の食器類がありました。ウチはもう処分しましたが、招待客が数百にのぼるなら、だいぶ場所を取るでしょうね。日本の食器にありがちな起伏に富んだ形状…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ