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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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3 * その名は『かじり貝』

 


 大盛況、ちょっとハプニングありつつ、翌日には長期休業っていう訳のわからない初日を迎えて、そしてあと数日で 《ハンドメイド・ジュリ》を再開するという真冬のとある日。

 新素材の可能性を秘めたお方が目の前にいらっしゃる。

 螺鈿(らでん)

 知ってる人も多いはず。とてもきれいな光沢ある、角度によって七色に変化をみせる貝の内側、あれです。アワビの貝の内側といえば分かりやすいかな。簡単に言うとあれを貝殻から剥がして、色々なものに嵌め込んで磨き上げたものを螺鈿細工っていうはず。それに類似する物が今目の前にあるんですよ!!


 しかも、これ無料。

 廃棄物。

 なぜなら魔物だから!!

『かじり貝』っていう魔物で、大きさは今私の目の前にあるものが成体で結構な大きさがあるわよ。ケーキの丸型十八センチと同じ位はある。高さも高いところが十センチはゆうに越える大物。

 真上からみた形はホタテに見える。放射状に浅くて細い溝の線が入ってる。ただ、その形が奇妙。ホタテって、真横から見るとわりと薄い構造でしょ? これがね、ちがうの。

 開く口側が一番高さがある、っていう元の世界では見たことない形ね。片面の貝の口が直角に近いくらいの絶壁、もう一方はほとんど平面の皿のよう。これ、どっちが下で上かわからないけど、加工次第で蓋付の入れ物になるんじゃないか? っていう、そんな形してる。実に不思議な形。


 ちなみに、この名前はおそらく私の知識や元いた世界で親しまれていたゲームや物語に存在しないために自動翻訳機能がこちらの世界の言葉そのままに分かりやすく変換されているっぽい。

 今後も、独自に翻訳される名前の魔物はいっぱいいるかもね。


 そして、この魔物『かじり貝』。貝柱は食用で干したものが出回ってる。言われてみれば何回も食べてるわ、美味しいのよ、出汁をとっても美味。

 かじりって名前に付いてるだけあって、なんでもかじるみたい。しかもそれなりに泳ぎが得意だそうで、動いてる船なんかも敵と見なして噛みついて損傷させるから、厄介なやつとのこと。噛みつく以外の攻撃は出来ないからランクは低いけど厄介なところはスライム様に似てるわね。


 で。海水から出せば、一日で息絶える。海水ないと生きていけないから、勝手に口を開いて息絶えるそうで、加工は楽とのこと。息絶えると身と()が勝手にポロっと取れるそうな。


 ……歯だよ。


 貝に歯がある。

 魔物だから仕方ないと割り切ることに。

 見つけたら私はすぐ飛び付きそうだから、ってグレイセル様が現物を見ておきなさいって。流石です、私の奇行をよく理解しています。


 で、見ました。


 コワッ!!!


 あのね、想像以上に知ってるものにそっくりなの。

 人間の、見本に出来そうな綺麗な入れ歯。

 あのやけにピンクで発色いい歯茎に白い歯が特徴の入れ歯にそっくり。

 上か下かはわからないけど、平たい側の貝の内側には歯の形に近い白い突起が並んでるだけなのよ。ところがね。高さのある絶壁側の貝、その内側に入れ歯。貝がおっきいでしょ、それに合わせて入れ歯ならぬ貝歯というらしいそれがどどーんと内側に。


 その内側に貝の大きさに見合うだけの貝柱があった。

 これは知っておいてよかった。

 知らずに御存命のかじり貝に飛び付いてたら失神したかも。


 さて、気を取り直して。

 すでに身や歯を取り除いた殻だけになった物を、まずは破壊。

 生きているもの以外に大きくて内側が綺麗な貝を五枚用意してくれたのはグレイセル様らしい。私が色々試しやすいように配慮してくれている。

 この人の気遣いには頭が上がらない反面、ときめく。イケメンに優しくされると気分上がるわぁ。


 で。なぜ破壊なのか?

 わたしが素材として初期の段階で扱えないものは職人に加工を依頼することになる。例えば金属製の極小のパーツなどがそうで、こればかりはプロでなければ作れない。

 職人に依頼するということはお金がかかる。そして加工が難しい、破損しやすい、となるとなおさらコストがかかる。そうなれば素材としては高額になり一般には流通させられない。

 なのでまず、わたしでも扱えるかどうかが素材としての分岐だ。


「てぃ!!」

 遠慮も躊躇いもないハンマーを振り下ろす私をみてローツさんが引いてる。慣れてね。フィンやライアス、グレイセル様は動じないからね。

 三回、力任せに叩くと砕けるように叩きつけたところが割れる。

 よし、第一関門は突破。

 全体の部厚い外側の殻を割って、露になったのは外側の硬質なものとは違う厚みが二センチ程の貝の形を残した物体。

 それを今度は手で持って観察。

「ん?」

「どうした?」

 ライアスは新しい素材になりそうなこのかじり貝が気になるようで、さっきからジリジリ近づきてきている (笑)。

 気になるのはその感触。軽くてちょっと手に力を入れると歪む。もう少し力を入れるとピチッピチッっと弾けるような微かな音がする。そのまま続けると、なんと。

「おおっ!」

 つい声が出てしまった。

 反らせるように軽く力を入れ続けたらその物体がどんどん柔軟性を帯びていく。柔軟性というより、曲げることで隙間が生まれていく。隙間よ、しかも次々と。ライアスが気づいたみたい。目を凝らして更に顔を近づける。

「層が出来てるな」


 硬い外側を砕いた中から出てきた物体は、最終的には数十枚の薄い膜のようなものに分けることができた。

 私たちがよく知る光沢と光の当たり具合で変化して見えるオーロラと呼ばれる七色の淡い色彩がまさに螺鈿に似ている。このかじり貝は透明感は希薄だけど、素地がほぼ白で地球のものより光沢が非常に際立つし綺麗だ。

 そして層の位置によってだいぶ違いがあった。

 貝の内側からだいたい五枚くらいまではオーロラの色彩が非常に強くて層そのものの厚みがあるし綺麗だ。それの上に層を形成していた厚み一センチ位を占めた数十枚の膜はオーロラが徐々に薄まり真珠のような見た目に近づいて、外側に行けば行くほど脆くパリパリとちょっとした刺激で割れてしまうし光沢は失われていく。そして残るその上の層は光沢すら失われ真っ白で非常に薄い層が重なっているだけ。刺激で割れるといるより脆く粉々になってしまう。


 でも。

 貝の大きさや厚み、状態にもよるけど。


 これは利用価値ありますね!!


「く、くくくっ! くへへへへっ!」

 あ、変な笑い声が出た。

 新素材に餓えてた私。

 これくらいの不気味な笑いは許して、ローツさん。

 ローツさんはいいや、放置。

 早速やってみますか。

 ライアスとフィンとグレイセル様の期待のこもった目があるわけですし。


 螺鈿といったらやっぱり黒地が映える。の前に。

 あいにく私は螺鈿を知ってはいますが扱う知識と技術は皆無なのです。なので思い付いたままに作成したいと思います。


 この世界にも天然石は豊富にあって、安価なものは手元に素材としてある。ブレスレットとかにして売ってるのよ。いずれは何かと組み合わせ出来ればと常に在庫は用意していたのでその中から二つ取り出す。

 まずはオニキス。自動翻訳でそうなっているので元いた世界のものと同じか酷似した成分の石。

 今回は少し大きめの球体を使う。ハサミで螺鈿もどきを切って乗せてみる。透明感はあまりないので白地のオーロラがよく映えるわね。

 ただ試しに切った螺鈿もどきを乗せても芸はないので、折角なので桜の花びらの形に切ったものを五枚乗せる。

「あら、そういう花柄にすると良いね。黒だから余計に際立つし」

 フィンの反応もよし。

 その花柄を接着剤で軽く張り、ライアスに小さいスライム様を擬似レジンにしてもらう。

 ちなみにこの工房には小さいスライム様が常時数匹おります。ようやくごく少量ならスライム様を飼育できる専用の箱を入手出来たのでよかった。そして逃げられない工夫もされてるのでご安心ください。

 さて。少量に、硬化材のルックの樹液を垂らしてかき混ぜて、花柄を貼ったオニキス全体に少し厚ぼったく擬似レジンを塗装。


 本来は漆を施した木材なんかをくりぬいた所に嵌め込んで磨いて表面を整えるのが螺鈿細工と呼ばれる、そんな記憶があるけど、これは螺鈿じゃないからね!! もどきですから!! そしてそもそもそんな技術もなければ時間もない!

 あくまでも試作です試作。


 でも出来上がった物を見た人たちの反応はいいなぁ。

 特にローツさん。

「廃棄物が」

 って呟いてた (笑)。

 私もこれは上々の出来だと思う。高度な技術は簡単に螺鈿の特徴や私の超基本でざっくりした作り方でもちゃんと説明すれば職人さんが独自に発展させてくれるかもしれないので、私は私の出来る範囲でやることにする。


 次に、一部をすり鉢に入れて、ごりごりごりごりごりごり。粉にしてみる。

 粉といっても完全な粉末じゃなくて、つぶが確認できる細かさのこと。それを半乾きのレジンを塗ったもうひとつ用意していたラピスラズリかと思われるセプナ石 (産地が名前の由来らしい)の上に茶漉しを通してふりかけてみると。

「ほぉ、おもしろい」

 グレイセル様が反応したのは、その粉が思う以上にキラキラしているからだろう。濃い青色を背景にしているから余計に際立つ。

 これもなかなかいい。グラデーションもつけられるからデザインの幅は広がる。


 これですよこれ!

 ラメ!!

 オーロラカラーのラメが出来たのよ!!

 茶漉しの目の荒さ次第で元いた世界のものにおよばずながらも間違いなく同等の用途に出来るじゃない!! 粉末でもキラキラしてるからこれは使えるわぁぁぁ!

「グレイセル様、ありがとうございます。もしかしてラメのこと覚えてましたか?」

「まあね、一応聞き逃さないようにしてるつもりだ」

「すごいですね、よくこれに気づきましたね? これは本当に用途が広いですよ」

「そうか。結果としては良かったか」

「ええ、最高の結果です」

「つまり、新素材?」


 ええ!!

 かじり貝様、あなたは素材です!!!

オリジナル魔物? の登場です。

今後も希に、オリジナル出てくる予定です。

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