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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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28 * ご立腹な人がやってきた

 侯爵家に滞在した方々の反応はホントにすぐに私達のところへ齎された。

「あ、予想通り。めっちゃウケるんだけど」

 つい笑ってしまった。

 夫人令嬢たちの反応が凄く良くて、特に今回滞在する人物たちの中で最も位の高いアストハルア公爵夫人と娘のセレーナ嬢は二人で一頻り感動し盛り上がった直後に公爵様におねだりしたそうで、部屋に案内されてから一時間後には侯爵様に面会を申し込んで来たそう。

 侯爵様が客室にあるものは私の提案で生まれ変わらせたもので決まった数しかないこと、余ったものは既に身内に渡してしまったからもう無いということを説明したけど……ま、大人しく素直に納得はしないよね (笑)!!

 そんな予測もしてたので事前に侯爵様には装飾が施されたスタンドのデザインを渡しておいた。今後ククマット領内ではスライド式アフタヌーンティースタンドの製造だけで手一杯になるはずなので、お茶会では場所を取ってちょっと使いにくさはあるけどまあ使えなくもない、おすすめは小物スタンドとして使って欲しいメルヘンチックなコッテコテ装飾スタンドは侯爵家で何とかして下さいと対応してもらうことにしてある。ようは丸投げ。ビバ、丸投げ!!


 そして翌日。

「ようこそ伯爵家へ」

 グレイが穏やかな雰囲気で出迎えたのはセレーナ・アストハルア。ロディムの妹であり私が公爵にコンタクトを取ると決めたきっかけにもなった品行方正極めて印象の良い可愛らしいご令嬢。

 兼ねてから私と親交を深めたいと望んでいた彼女だけど公爵夫妻とロディムから反対されていたらしい。 理由としてはこれ以上アストハルア公爵家の人間が近づくと私を囲い込むつもりだと周りが思い他も強引に動き出す懸念があったから。国内の派閥のバランスを崩しかねないという不安があったため慎重な対応が求められていた。私一人相手にそんなことになるものなの? と思わないでもない。だって未だ国には【彼方からの使い】と認められてないしとグレイに不満と疑問をぶつけてみれば、私の場合は新しいものを世に送り出すペースが早いこと、特別販売占有権による収入がすごいことになってること、なにより経営する関連事業が好調で周りに影響を与えすぎていることなど【彼方からの使い】の一言では済まされない状況になっている、と言われたのでなるほどと納得することにした。

 そんな中でロディムとシイちゃんの婚約が正式に発表され、日取りも決まってその婚約式の準備にグレイも協力し、アストハルア公爵家とクノーマス侯爵家は親族になり例に漏れず私もクノーマス伯爵夫人なので親交を深めても何ら問題がなくなったこと、なによりアストハルア公爵夫妻がようやくセレーナ嬢に許可を出したのでこの度正式に堂々と私達の屋敷を訪問することが叶った。


 付き添いとして一緒に訪れたロディム。

 ソワソワしてるなぁ、『粗相をするなよ』って目をして物凄くセレーナ嬢を見てる。

「ま、分からなくもない」

 ついそう小声で呟く。だってね、当たり障りのない挨拶を交わしてからグレイが先頭に立ち屋敷を案内しているんだけど、セレーナ嬢がいずれは淑女の鑑となる普段の雰囲気がまるで無くなって十四歳という幼さが残る好奇心が抑えられない目をキョロキョロさせながらグレイの説明に感情豊かに反応してるから。……子リスだ、かわいい子リスがいる。

 そんな子リスちゃんが『セレーナとお呼び下さい』と切に願って来たのでお言葉に甘えセレーナちゃん呼びすることになった。

 屋敷の至る所にある私の作品に感動したと饒舌に語るセレーナちゃんを嗜めるロディムを前に私とグレイはニコニコ。いやぁ、なんてほのぼのとした光景かしら。平和ぁ、なんて思ったその時。

「え?」

「あら?」

「……来たか」

 私以外が同じ方向に突然顔を向けてそれぞれに反応した。

「え、なに?」

「シイだ」

「へ?」

「来るとは思っていた」

「え、なんで?」

「最近不貞腐れているという話を母上から聞かされていたからな」

 どういうことよ?


 この子は、侯爵令嬢なのよ。

 ほんっと美人で普段はセレーナちゃんも憧れる凛とした雰囲気の気品漂う令嬢なのよ。しかも学園で首席だよ、卒業式で卒業生答辞を生徒会長押し退けて読むことが決定した才女で品行方正なんだよ。

 でもなぁ。

 王都の学園の寮から転移で途中まで来て、魔力温存にもなるからとそこから常人には目で追うのも難しい全力疾走でクノーマス領を駆け抜けてたった一日で帰って来るのはやめてほしい……。

「そもそも火防の祭り、イースターにも参加出来なかったんですよ。今回だってまもなく卒業だから学園で有意義に過ごしなさいというお父様に従って大人しくしてました。これでも我慢してます、我慢してますグレイ兄様。問題を起こせば首席卒業が叶わなくなる可能性もあるので隠し通路を使って脱走して魔物討伐なんてことも最近は我慢しています。なのに酷い、皆ばかりズルいわ。私だって」

「分かった分かった、取り敢えず落ち着―――」

「落ち着いてます」

 お兄ちゃんの話をぶった斬った。

「十分落ち着いてます私は。兄様が婚約式のプロデュースしてくださるしジュリも色々準備してくれていることは知ってます、それは凄く嬉しいの、でもね、こうも除け者にされてると、私抜きで色んな物を皆が見てるのを黙って聞かされるだけというのは、正直言いますと腹が立ちます、ええ、それはもうムカムカするんです」

 あ、腹が立ちますって言っちゃった……。グレイがげんなりした顔してるぅ。セレーナちゃんが目を点にして固まってる。

 ロディムは……。

 なんだその顔。

「いいですか、そもそも私はどこでどうトラブルになるか分からないからと暫くジュリの新作や派生品をすぐに貰えずにいるんです」

 最近、あんまりかわいい物は作ってないなぁ、ごめんね。だって開店祝いの花輪とか石碑 (笑)。スライド式アフタヌーンティースタンドだってシンプルだし……グレイが何故か責められているので助け舟を出すつもりで笑ってそんなことを言ったら。

「ジュリ、そういうことではないわ。私だって、ウェルガルトやルリアナお義姉様のお祝いをしたいの。侯爵家の一人なのに、ここまで一日かからず帰って来れるのに、学園生活を楽しみなさいって理由を付けて帰って来るかどうかの確認すらしてくれないの! 最近本当に、全然してくれないのよ!」

「お、おお、なんかごめんね……」

 今日のシイちゃん圧がすげぇわ……。

「お前の言いたいことは分かっている、確かに私も呼ぶべきかと頭を過ぎった。だがな、根本的な問題があった」

 なんだろ?

「既に予定が埋まっている所に予定を更に入れるから、招待客はどうするのか、物が多ければ各工房との納期の確認や打ち合わせなど優先することが山程あるんだ。そうなるとどうしても身内のことは後回しになる、いや、後回しにしなくてはならない」


 ……。

 私のせいだな!!

 そして私の思いつきで言い出すやり出すことにグレイが寛大に寛容に対応してくれるせいだ!

 キリアがぎっしりの予定表を見なかったことにして一緒に盛り上がるせいだ!

 更に言えば私の秘書として働いてくれているセティアさんの予定調整がとても上手で隙間を綺麗に埋めてくれるから私がやりたい放題できるせいだ!


「な、なんか、ごめん……」

 取り敢えず、謝っておいた。


 シイちゃんも優先順位があること、招待客は誰にするか、誰がどこに滞在するのか、そういうことが貴族社会では非常に重要であり決して軽んじではならないことだと理解している。だからグレイの宥めるようなそんな事実を聞けばそれ以上は兄を責めても仕方ないと分かっているから『分かってます』と小さく、小さく呟くしかない。……てか、かわいいな、ちょっと不貞腐れて子供っぽさが出てるシイちゃんかわいっ!! いや、それどころじゃない。

 お兄ちゃんは眉を下げてちょっと申し訳なさそうな顔。セレーナちゃんは他所のお家の兄妹喧嘩じみたこのやり取りを初めて見るんだろうね、どうしていいのか分からず、でもそれを顔には出さないように静かにことの成行きを見守ってる感じ。

 そしてロディム、だからなんだ、その顔。

 ……お前、この状況でずっと『シイはどんなときでもかわいいな』って思ってるな?! 大物だな!!


 そして、シイちゃんが一番気にいらない、と感じていたのは生まれ変わったアフタヌーンティースタンドを貰えなかったこと。

「あれ? 予備も十分あるし、寮の部屋から出して使うものではないから転送具で送るって言ってなかったけ?」

「言ってたな、兄上が確かに言っていた」

 そう、エイジェリン様言ってたのよ。『ぜったいシイが喜ぶから一台送ろう!』って。

「……届いてませんけど?」

 あ、かわいいお顔に青筋……。


 エイジェリン様、後で存分に妹の愚痴と不満を聞いてあげてくださいね。私とグレイは助けません。













 せっかく帰って来たし、明日は学園が休みだと言うことでローツさんとセティアさんに事情を説明し今晩そちらにお世話になることになったシイちゃん。侯爵家は今回の招待客の人たちが滞在してるし、我が家にもその繋がりで夕方からお客様がくる。本来ならシイちゃんはここにはいないことになってるからとグレイが快諾してくれたローツさん宅に泊まるように促した感じ。ロディムもいるからその辺も気を遣ってあげたみたい。


「あ、そうだ」

 アフタヌーンティースタンドことリボーン三段小物置きは明日以降グレイが責任を持ってシイちゃんの寮に送る約束をしたけれど、最近の不満を解消するにはそれだけではちょっと弱い、ご機嫌取りをしちゃいましょう。

「グレイから頼まれてて、急ぎじゃないからって言うのもあってデザイン画のままなんだけどロディムもいるし、セレーナちゃんからもこういうのどうかなって意見聞いてみたいから。……ちょっと待ってて」


『覇王』騒ぎが終息した後、グレイが『気が向いた時でいい』とお願いしてきたことがある。

 それはペアリング。

 シイちゃんがロディムとお揃いのペアリングが欲しいとお兄ちゃんに言ったそう。お金は自分で出すから、いつでもいいから、家の役に立つよう、領民のために頑張るからとそのご褒美的な感じで、私にお願いしてほしいと。

 いやもうシイちゃんのなんてなんぼでもデザインするよ!! とお兄ちゃんに言ったら。

「他の面倒事をぶん投げるなよ」

 と釘を刺されていたのでのんびり進めていたのよ。


 私の作業部屋から持ってきた数枚の紙。

 まずは『覇王』騒ぎでホントに頑張ったシイちゃんへのご褒美の意味もあるので彼女には最初に見る権利があるからロディムやセレーナちゃんから離れて私の隣に来て貰う。

「キリアに監修を任せている宝飾品店でシイちゃんが婚約する時の記念アクセサリーを出そうって話になっててね」

「……これ、は……」

「その話の基になったのが、一枚目の私がデザインしたペアリング。それをキリアがいくつかのシリーズモノにデザインしたのが二枚目と三枚目、その後は私も考えたやつ。私とグレイが着けてる結婚の記念に用意したペアの結婚指輪みたいにシンプルなものでもいいんだろうけど、それだとオリジナル感が薄れるし、頑張ったご褒美としてはちょっと弱いでしょ?」

 ウルッとシイちゃんの瞳が揺れて涙が滲む。

「素敵、かわい……」

 かわいいのはお前だよ!!


 ペアリングってさ、結婚指輪のように生活の邪魔にならないシンプルなものから、若気の至りでカップルが勢いで旅行先で買っちゃうようなめっちゃ可愛いものまで、多岐にわたると思うのよ。

 ククマット領で人気があるペアものは、日常生活で取り外しが便利で失くしにくいという理由からブレスレットが販売当初から根強くその地位に居座っている感じ。そこに最近はネックレスや指輪も徐々に売れ始めて首位を独走するブレスレットにじわじわと迫り始めたんだけど、それでも指輪はどうしてもその売上は緩やか。

 その理由としては、指輪はどうしてもオール金属製になってしまい、細かなデザインとなるとさらにその加工にかかる工賃で高くなる。一方ブレスレットとネックレスの場合、ククマット編みや革紐に天然石を合わせるだけで済む上に組み合わせ次第でかなり豊富なデザインが簡単に用意できてしまう。

 それはそれでいいと思うよ、ペアのネックレスとブレスレットがこちらの『ペア』文化として風習や環境に適したものとして根付くならそれは独自の文化といえるんだし。

 でもさぁ、年齢を重ねて傷だらけになっていくペアリングも、どうして買ってしまったんだとちょっと後悔混じりのいい思い出としてジュエリーケースにしまい込まれてしまうペアリングも欲しいじゃない。私の我儘だけども!!

 そんな思いでデザインしたペアリング、若気の至りバージョン。


「シイちゃんとロディムのオリジナルはちゃんと指に合わせて白金や良い金属で、天然石や魔石も上質なもので作るからね」

「……ジュリ大好き!!」

 はい、頂きました大好きと抱擁。グヘヘヘへ、美人からの抱擁は私の糧。

「私ジュリに何を返したらいいのかしら!」

「ご褒美だからね。お兄ちゃんもそんなつもりないよきっと」

「そんなわけにはいかないわ、魔物素材、魔石、何でも言って! 今ならドラゴンも狩れそうな気がするもの! いいえ、狩る!!」

 いや、いらん。魔素酔いして私大変なことになる……。

 その前に侯爵令嬢がドラゴン狩るとか言わないで。

「気持ちだけ貰うわ、うん」





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― 新着の感想 ―
[良い点]  シイちゃんが走ったら、土でも石畳でも跡が残りますね。警備兵とか猟師が「これは身長がこれくらい、体重が××の令嬢が駿馬より早く走った跡! そんなことが可能なのはクノーマスの血筋!」とか「触…
[一言] >今ならドラゴンも狩れそうな気がするもの! ロディム君は将来尻に敷かれるんだろうなぁ、リア充めw まぁ本人達が幸せそうで何より。
[一言] 鼻歌混じりにドラゴンを乱獲するシイちゃん
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