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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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28 * リメイクというよりリボーンかも?

 



 白に金と紫の刺繍が綺羅びやかに施された今日のためだけに特別に誂えられた服を着ているウェルガルト君のなんとかわいいことか!

「ぬふふふっ、かわいい〜、食べた~い」

 と、笑いながら言ったらグレイとローツさんに引き離された。冗談だってば。


 本来なら私達は家族としてホスト側になるけれどプロデュースをお願いされたので商長と副商長として参加、《ハンドメイド・ジュリ》のこういうときのための正装をしている。

 一方でローツさんとセティアさんは招待客として席に着くので別行動となっている。

「出される物への感想や反応について情報収集してきます」

 ドレスアップしているのに筆と手帳と紙の束を抱え意気揚々とそんなことを言ったセティアさんの手から、流石にそれは駄目だろうと裏方でお手伝いに来ていたおばちゃんトリオが珍しく諭しながら取り上げていたのはウケた。セティアさんの若干お仕事熱高めな部分を制御しているのが実はおばちゃんトリオ。ローツさんだと甘いので役に立たないと説教されてたりもする。

 ちなみに、ライアス、フィン、そしてキリアにも 《ハンドメイド・ジュリ》の正装をしてもらい、会場で直接私達の補佐をお願いしてある。というか、三人とお話ししたい、という声が結構あると侯爵家から相談されていたので三人にもこういう場に慣れてもらうために参加はいい経験になるだろうと思ってね。まあ、既に高貴な人たちと仲良くなってるので緊張しなくなってるというのも参加をお願いできた背景となっている。


『花』がテーマのお茶会。

 ウェルガルト君の紫と金が侯爵家の皆さんの今回のカラーだ。侯爵様とエイジェリン様は紫と金の糸でさり気なく細やかな花の刺繍が施された上着、ブローチやカフスも花をモチーフにしたものでそこに紫色の輝石や魔石が贅沢に使われた宝飾品でコーディネートされている。

 シルフィ様は紫の生地に白と金の糸で花の刺繍が豪華に刺された艶やかなドレス。それに合わせた金の宝飾品の他に紫の花とラメが美しいネイルアートがまさに大人の女性って感じで良き。

 ルリアナ様は、白から薄紫に変化するグラデーションが美しいドレスで、金の糸でのみ刺繍が施され、清楚で気品漂う雰囲気。ウェルガルト君と一番過ごす事から爪を伸ばせず爪染めを塗るだけになってるのでそれが悔しいと笑っていたけれど、ネイリスト育成に燃える先生二人がせめて指先は誰よりも美しく!! と一か月前から通い詰めてルリアナ様の手をマッサージしまくった結果、赤ちゃん顔負けの艶々滑らかな手になり、エイジェリン様が日々撫で回している、という微妙な話を聞かされた……。アクセサリーは真珠と金をふんだんに使いながらも上品なもので、色素薄めの金髪のルリアナ様の雰囲気に実にマッチしている、良き良き。

 ちなみに私達とフィンたちも侯爵家から是非と言われたので、親密さを表す意味も含めて胸元に紫の花で纏めたブートニアで統一している。

 そんな侯爵家に応えるように華やかな装いの紳士淑女が春の宴に相応しい雰囲気に一役買っている。ざっくりとお花をテーマにしたことで皆さん好き好きにお花を取り入れていて、実に色彩豊かで雅な雰囲気は、ちょっとした感動が込み上げたほど。


 暫くして、ウェルガルト君の紹介や祝い品への御礼、ルリアナ様の社交界への復帰について主要な人たちへ挨拶を済ませて自由な歓談が始まるとついにティータイムに入る。

 華やかさに賑やかさ、そしてどよめきが交じるのは、運ばれてきた食器がガラスだから。

「えっ熱いお湯を……」

「まあ、なんてこと」

 先にテーブルに並んでいた柄の透明なスライム様カトラリーセットだけでも掴みは上々だったのに、そこにガラスのティーセットがくればなおいい反応を貰える事は想定済み。

 そして、執事さんや侍女さんたちがティーポットの中の発色のよい、芳醇な香りの紅茶を透明なティーカップに注ぐとそれが熱い湯気だと確認できて再び驚く。

「これはガラスか」

「ええガラスです」

「鑑定してもいいのか?」

「勿論どうぞ」

 たまらずアストハルア公爵様が挨拶で通り掛かったグレイをとっ捕まえてそんなことを言っていた。

 公爵家からは公爵様と夫人、そしてロディム、妹のセレーナ嬢が出席しているんだけど、四人身を寄せ合って耐熱ガラスのカップをマジマジ観察すると、鑑定が出来る公爵様の言葉待ちをして三人がじっと黙っているのが、うん、ゴメン、なんか笑える。

「……旦那様、どうですか?」

「ガラスで、間違いない」

「お湯を入れて割れないガラスなんて初めて見ますわ」

「ああ、どうやらなにか添加されているようだ」

「父上、それが何かわかりますか?」

「……集中できる場で鑑定出来ればもう少しわかるかもしれないがここでこれ以上はな。私の知らぬ素材が入っているとなれば尚困難だ……ロディム、お前は何も聞きていないのか?」

「はい、残念ながら。おそらく秘匿技術として扱うのではないでしょうか?」

「そうだろな」

「お父様、ガラスのティーセット、とても綺麗。私も欲しいですっ」

「分かった。……グレイセル」

「ご相談は明日以降に承ります。優先的に、という場合は別途費用がかかります旨ご了承頂くことにもなります」

「いいだろう。妻と娘にそれぞれ用意したい、勿論なるべく早くな。予定はそちらに合わせよう」

「かしこまりました」

「父上、私も欲しいです」

「お前は自分で買いなさい」

 グレイが笑顔だ、商談成立したっぽい。ロディムが何か不貞腐れた顔してるのはなんでだ?


 侯爵家の人たちは当然のことキリアやフィン、ライアスも耐熱ガラスについて聞かれている。三人ともいい笑顔だぁ!

 ……ふふふふ、ガラス職人の皆さん、儲け話がありますよ、怪しくない儲け話!!













 さて。サプライズ要素はまだある。

 これを出さなきゃ始まらない!!

 既にお菓子やお花で豪華に彩られたテーブルにある何もないスペース。

 ここには物を置かないのがマナー。後からおすすめや自慢の一品が置かれるから。


「あら?」

 目敏い人は運ばれて来るのを見てすぐに気づく。特にお洒落で名高い夫人やコレクターとして有名な紳士などは目が肥えているせいか『違い』に気づくようで、テーブルでの歓談からすっかり気が逸れて視線をそれに合わせ続ける。

「これは、アフタヌーンティースタンドよね? 何だか不思議な形だわ」

 とある夫人が置かれた瞬間直ぐ様給仕係の男性に声をかける。

 思わずニヤリとしてしまった。

「ジュリ、笑顔が貴婦人らしからぬものだよ」

 すみませんエイジェリン様。


「はい、こちらアフタヌーンティースタンドでございます」

「まあ!!」

 堪らず大きめの声で驚いた夫人と給仕さんに視線が集中した。

「下の段のケーキが背の高いものになっております。取り出す際に崩してしまうこともありますので、このように上をスライドして頂きますとスムーズに取り出すことが出来るようになっております」

 お給仕の男性の動作に夫人と同じテーブルにいる招待客が驚きそれぞれに楽しげな声を上げた。


 アフタヌーンティースタンドっていうのは、形が一つしかないというわけではない。

 二段の物もあるし、大きさも違う。そして今回私が持ち込んだタイプのものある。

 上段が左右に動く、スライド式スタンド。

 支柱は一本、その支柱に安定感抜群の下段皿が乗る六本脚付きリングがある。その上の、中段と上段がそれぞれ支柱を軸に動かせる作りになっているので左右どちらにもスライド出来る。そのため、本来なら上に皿がある時に取り出すために必要な、食べ物が上段に引っかからない、ぶつからないためのゆとりがほぼ必要なくなり、高さのあるものが乗せられるようにもなった。というか、スライドすることで空間にゆとりが出来るので取り出し自体が楽になるという利点がある。

 ただし、安定性の確保のため、上段中段下段の皿の大きさがそれぞれ小中大とサイズが異なる物を用意しなければならないこと、なにより従来のタイプのようなスマートな形の方がテーブルには置きやすく場所を取らない、というどっちが良いかは使う人の好みや用途によって分かれると思う。

 そのため、今回侯爵家にはどうするか、と確認したんだけど。

 まあ、新しいもの大好き、チャレンジャー精神旺盛な人達にはその確認は愚問だったようで見本を持って行ったその日にはシルフィ様とルリアナ様が何を乗せようかと料理長と打ち合わせを始めたので私とグレイは迷うことなく職人さんにスタンドを発注することになった。


 各テーブルごとに運ばれて来るスタンドが置かれるたびに賑やかになるのを眺め、再びニヤリ。

「ジュリ、それは笑顔か?」

 旦那よ、笑顔だよ。

「とか言いつつグレイも不敵な笑みを浮かべるのやめたら?」

「ははは」

 普通に笑って誤魔化したな。

 今回ですね、侯爵家が思い切った判断をしたんですよ。

「これをうちのスタンドにする。プレゼントとして有り難く貰おう」

 と侯爵様が言いまして、皆さんもそれに賛成しまして。じゃあ発注しておきますねーと私達も笑顔で対応したんだけど。

 あれ?

 今まで使ってたのどうするんですか?

 八十台欲しいっていうことは、元々それくらいスタンドありますよね?

 え、捨てる?


「勿体ない!!」


 私は即座に行動した。

「お前がじゃなく俺がだろ」

 ライアス、それは聞こえなかったことにする。

「だからなぁ、思いつきで仕事をぶっ込んで来るなよ」

 報酬は言い値でオッケ~だよ、の一言に、うん、大量のスタンドを各工房の作業場に職人さんたちが捨てる予定だったスタンドをそそくさと運んでくれたのがスライド式スタンドの発注と同時期。


「リメイクよリメイク」

「最早別物だろう、ここまで変わると」

「んじゃリボーンよ」

「なるほど」

 何の変哲も無い三段のアフタヌーンティースタンド。

 銀色で、持ち運びに便利なハンドルも支柱も模様らしい模様のないその見た目を激変させてみた。

 まず色。素地が丈夫でしかも良い金属なので歪みも劣化もないのでわざわざ鋳潰す必要がないというライアスのお墨付きを貰ったので鍍金処理にて色を変えることにしたの。その色はピンクゴールド。この温かみのあるゴールド系になっただけなのに印象がガラリと変わるんだよね。

 で、色だけ変えるのはつまらない。でも形はそのままならば、後付で金属の装飾をしてしまえばいいわけよ。

 支柱にキツツキとリスの親子、蔦の葉に野いちごの装飾をし、そしてそのまままるごと鍍金処理。

 あら可愛い! コッテコテにメルヘンチックなスタンドに生まれ変わったじゃありませんか!!


「しかし、これほど装飾をすると見栄えはいいがテーブルの上では取り扱いが少々大変そうだな」

「新しいスタンドがあるのにわざわざこれをお茶会に出さなくてもいいじゃない」

「ならどうする?」

「ふひゃひゃひゃ、それはね」


 そして今に至る。


「侯爵家に滞在する招待客の反応が楽しみだね」

「そのあたりは侍女や執事に情報収集するように父上が既に命令していたから今日の夜にはまとめて聞けるんじゃないか?」

 おお、流石!

 実は、最早最初の姿が分からない程リメイク、いやリボーンしたアフタヌーンティースタンドは、客室に置かれている。

 化粧室、浴室、寝室の鏡の前やドレッサー、チェストの上に、アメニティグッズ置きとしてね。

 高級そうな箱やトレーに理路整然と並べられ置かれているアメニティグッズ。それをスタンドを利用して縦に見栄え良く並べたらかわいいじゃないか! という思いつきを伝えて早速やってもらった。

 実際に事前に見せてもらったけどね、可愛かったのよホントに。

 それ見て勢いに乗った私は真っ白な皿に 《レースのフィン》ご自慢のフィン編みレースかカットワーク刺繍の小さめドイリーを敷き、その上にクシや石鹸、ハンドタオルなど小物を置いて、そんなスタンドの周りにご自由にお使いくださいの香水やヘアオイルなどの入った、模様が綺麗なベネチアンガラスのようなガラス瓶を並べたのよ。

「こんなんどうでしょう!」

「「採用」」

 シルフィ様とルリアナ様の即決により侯爵家の客室には超メルヘンチックなエリアが出来上がった。

 ちなみに客室に置ききれなかった分と今回来ていないシイちゃんにプレゼントする分、そして予備を除くと二十程余るというので五台ずつ前侯爵夫妻様たち、私達が貰い、ローツさんたちにも五台プレゼント。

 そして余った五台。

「欲しい人はいる?」

 と、シルフィ様がお屋敷で働く人達に安易に聞いてしまった。

 そして何が起こったかというと。

「死人が出なくて良かったよ」

 グレイが冷ややかに呆れた様子でそう吐き捨てるような事態になったらしく、珍しく侯爵様にシルフィ様が説教されたという話まで届いた。侯爵家で働く人達って暗部を受け持つ人たちが殆どって話しだからなぁ……ホント、死人でなくて良かった。


「ジュリはお茶用に新しいアフタヌーンティースタンドはいらないのか?」

「いらない。だってそんなに食べ物乗せられないじゃん。あれ、皿も大きくないから山盛りに出来ないんだよ?」

「……」

 グレイ、私にとって大事なのは美味しいものをいかに沢山食べるか、だからね。


昨今のタフタヌーンティーセットは軽食部分に該当するスコーンやサンドイッチの所までデザートで埋め尽くした、しかもボリュームあるセットを提供しているお店もあるようです。お値段高めですがスタンドを実際に見る機会にもなりますのでご興味ある方はアフタヌーンティーセット、挑戦してみてください。

作者的には、甘いものばかりだと胃もたれするので定番・古典的なアフタヌーンティーセットが好ましく思います(笑)。かつてはケーキ食べ放題も平気で行っていたのに。加齢と共に胃が『無理すんなよ!』と言うようになりました。何だか切ないです……。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  ガラスのティーセット披露の場面、アストハルアさん宅の仲良し家族具合がとっても好きです(笑)  とーちゃんが妻と娘の分はは購入予約するけど、息子がお強請りしても塩対応なところも!
[一言] ティースタンドを巡り使用人達の肉体言語による話し合いが?
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