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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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27* 嗜み品店の開店!

ハンドメイドで作った小さなものも、こうすると大きなものに変身しますというお話です。

 



 侯爵家による嗜み品専門店 《タファン》が開店となった。

 今日はグレイ、ローツさん、セティアさんとそしてフィンとライアスと共におめかししてトミレア地区に来ている。

 トミレア地区でも一等地に構えたその店は、レンガ造りに最新の透明で均一なガラスがはめ込まれた大きなショーウインドウが目を引く。

「おおっ、バニティケースをメインにしたお揃いの小物とステッキがメインのお揃い小物だ。淑女向け、紳士向けとショーウインドウ分けてあるんだね」

 大きなショーウインドウは重厚な黒とガラスの扉を挟んで二つ。どんなものが売っているのか、おすすめかが一目で分かるディスプレイになってる。バニティケースが螺鈿もどき細工なのでそれと同じアメニティグッズの他同系色の手袋や日傘が飾られている。ステッキは贅沢に使用された高価な金属のハンドルの物に合うように、金属パーツがアクセントになっているハットやブローチ、そしてやはり同系色の手袋、ベルトといった小物が。

「いいねいいね、こういうの見ちゃうとワクワクして買いたくなるよね! 金持ちならフラッと入っちゃうよね! ふへへへへへへへっ儲かるんじゃない?!」

「ジュリ」

 ん? 何かあった? とグレイを見上げれば。

「腕組みして仁王立ちして、儲かるとか言わないように。皆がドン引きしている」

 振り向くとローツさんたち、フィンたちは勿論、開店を待つさらに後ろに並んで待つ人たちやその整理を担当するトミレア地区の自警団の若者達まで引いてる……。

『失礼しましたぁ』と陽気に謝罪しグレイにグイグイ押されながら私達は裏路地に入り、店の裏口まで行き警備を担当している自警団員に扉を開けてもらい中に入った。

「開店おめでとうございます!」

 本日は乳母さんとお留守番のウェルガルト君を除いた侯爵家の皆様勢ぞろい。前侯爵夫妻と侯爵様の弟とその娘さんもいるし、シイちゃんは間もなく卒業ということもあって学園生活を優先することになり不参加だけど。

「叔父上がいるとは」

「失礼な」

「《ゆりかご》の時にはいませんでしたよね?」

「前回帰ってこなかったからお祖父様から『帰って来なければシバく』と脅迫の手紙を貰ったんですよ」

「そんなことだろうと思いました」

「ち・が・う・ぞ!」

「違わないでしょ、お祖父様の顔見て『半殺しは遠慮します!』って叫んだじゃない、お父様」

 物騒な会話になりつつある父娘とグレイはそのままに、私達はお祝いの大きな花束をローツさんに代表してもらい侯爵様に渡す。

「ああ、ありがとう」

 にこやかに受け取ってくれた侯爵様と皆さん。いやあ、いい笑顔で素敵です。


「商品が並ぶと圧巻ですね」

「そうでしょうそうでしょう!」

 私の何気ない一言に食い付き寄ってきたのはこの店の店長、シルフィ様のお友達でもあるオリヴィアさん。

「ジュリさん提案の《嗜み品専門店》という言葉を大事にしましたの。高級品ではなく、嗜み品、そこが大事ですわ」

「ですよね、そのコンセプトがスゴく伝わります、とても良いと思いますよ」

「うふふふっ、ジュリさんに、褒められたわぁ」

 そうここは高級品を扱うのではなく嗜み品を扱う店。

 勿論、嗜み品って概ね高価なものが多い。でも値段に拘らず良いものは良いと積極的に各地から集められた素材を使って作られたものや既製品が並ぶ。

 なので手袋は 《レースのフィン》でも人気の二十リクル前後のものが多く取り揃えられていることから分かるように、富裕層からしたらかなり安価に思える物も普通にある。

 一方で宝飾品はブローチくらいしか扱っていない。ブローチはスカーフやストールの留め具としての役割を果たすこともあるので置こうと決まった経緯があるだけ。ここは宝飾品店ではない、高級品のみを扱う店でない、という明確な意志がお客さんに伝わりやすいよう宝飾品は置かないというのは本格的にお店の準備が始まった頃には決まっていた。どうしてもその話題性から周辺の宝飾品店から客を奪いかねないという懸念を持っていた侯爵様の気持ちも汲まれたみたい。トミレアは大きな地区なのでそれ相応に宝飾品を扱う商家があるのでそちらに気を配ったのかもしれない。


「……?」

 談笑していたらシルフィ様が外を気にしだした。

「な、なにかしら」

「なんだ?!」

 さらにルリアナ様とエイジェリン様が何やら外で複数人が何かをガタガタしているのに気づき。

「「「「……」」」」

 ローツさん、セティアさん、そしてフィン、ライアスは無言で侯爵家の人たちから目を逸らす。

「ああ、お祝いの品ですお気になさらず」

 グレイと私はにっこり。私のお祝い品という言葉にイマイチピンと来ない顔をされた。外にお祝い品って置くものなの? という顔。

 今回、とあるものを用意した。

 ふふふ。

 やってみたかったのさ、どうしても。


「花輪用意してみました」


 そう、花輪。

 花環ともいう。

 あるじゃん?

 新規オープンの店前に、ドドーンと。

 企業とか個人の名前がデカデカと書かれた、あれ。

 色とりどりの大量の花で作られた、成人男性より明らかにデカいあの花輪。インパクトあるねー、お祝い感あるねー、のあれ。

 グレイがやっていいというので置いてみた。

 外がザワザワしてる (笑)!


 飛び出した侯爵家の皆様に驚く余裕もなくオープンを待つ人達は『なにこれ』とざわついてます。飛び出した侯爵家の皆様も唖然としてます。

 今日のためにこれを作ってくれたおばちゃんトリオや職人さんたちが何食わぬ顔して運んで設置しております。

「開店おめでとうございます!」

 って素敵な笑顔で口々にお祝い述べて帰っていく後ろ姿のなんと頼もしく勇ましいことか。こういうことを喜んでやってくれるから本当助かるわぁ。颯爽とやりきった感を醸し出しながら去るその姿、カッコいいぞ、皆。

 ちなみに、このために大きい文字を書く必要があるんだけど、こういうのって統一感がある方が素敵でしょ? なので駆け出し芸術家のユージン・ガリトアにレタリング技法を駆使してもらい、名前を書いてもらったのさ!!

「……こんなにデカいとは聞いてない」

 ローツさんがなんか言ってる、今更だわ。

『俺たちらしいお祝いが出来たらいい』なんて言ったあんたが悪いんだぞ、それで私が思いついちゃったんだから、文句は言わせないぞ。

「これは確かにお祝い感があるな、いいな」

 ……グレイってこういうことでは動じないよね、そういうとこ大好き。

 《タファン》様へと書かれている他に、夫婦の名前と『開店祝い』の文字が目立つ白無地に赤い縁取りがされたその布が風に揺られなびく。あ、名前見えなくなるのヤダからこれからはスタンドと一体型の板にしよう、そうしよう。

 しかし、違和感と圧がハンパない(笑)。

 因みに 《ハンドメイド・ジュリ》、《レースのフィン》、ハルトがオーナーの《本喫茶:暇潰し》そしてククマット職人一同もある。上手い具合に重ねてずらして壁に沿って並べてくれたのでショーウインドウを塞がず覗けるよ、皆その気遣いありがとう!!


 花輪に気持ちを持っていかれているうちに開店時間になってしまい、バタバタした感が否めない 《タファン》。それでも侯爵家肝いりのお店ということで店員さんもすぐに気持ちを切り替え皆の顔が引き締まる。そして店長オリヴィアさんは警備の人に扉を開けてもらい外へ。

「おまたせ致しました、ようこそ《タファン》へ!」


 いやぁ、なんて華やかな行列なの。

 並んでる人たちは軒並み富裕層。嗜み品を扱うということで自然と身だしなみに気を遣ったことが伺える人たちばかり。艶やかなドレスに帽子、女性陣はここぞとばかりに春らしい明るい色の物を纏っている。男性は殆どが暗い色合いだけど、それでもスカーフや中に着ているベストを派手にして明るさを取り入れた感がある人が多い。壮観、これはこれで悪くない眺め。

「あ……」

 セティアさんが小さく声を上げて、胸元で控えめに手を振る先にいるのは、ローツさんとセティアさんの結婚式にも来ていたセティアさんが実家から絶縁されてもお友達でいてくれたという御夫人二人。わざわざ来てくれたらしい、互いに嬉しそうに手を振り合ってニコニコしている。

 そんなほっこりしたやり取りの一方で。

 行列から抜け出て花輪を一心に見つめる二人の男性が。

「……グレイ」

「なんだ」

「見間違いじゃなければあれ、フリュークスさん」

「そうだな」

「そして、一緒にいるってことは仲間」

「だろうな」

 一見普通の人にしか見えない男性は、間違いなく以前ツィーダム侯爵家のオークションで出会ったエルフのフリュークスさん。そして、親しげな連れも人間の姿をしてるけど間違いなくエルフ。と思った瞬間、目があってニコッと微笑まれ、察した。

「アズさん……?」

「やっぱりそうか?」

「勘がそう言ってる」

「なるほど」

 エルフって幻の存在のはずだけどな……。人間に化けてはいるけど出没してるらしい気配をグレイはよく感じ取ってるみたいだし、見た目がエルフと分からなくても、こうも遭遇すると幻というのが疑わしくなってしまうんだけど。

「こんにちは。これ、面白いですね?」

 ススス……とよって来た二人。挨拶もなくさも初めて会った他人のようにアズさんが話しかけてきたよ。

「あなたの故郷ではお祝いはこのようなもので祝うのですか?」

「あー、全部というわけじゃないですよ? 主にお店の開店祝いなど不特定多数の人が目にする所でお祝いの手段のひとつとして選ばれているものでした。遠方なので直接のお祝いが出来ない人や、大勢で一同としてお祝いの気持ちを表したりするのに便利なものですね」


 簡単に慶弔どちらにも使えることを説明する。

 花の色を白黒と薄い紫などにしたものは弔事として出されていたし、近年では卓上サイズのミニ花輪なんてものも売り出されていたことなど。

 お二人は 《タファン》に入るための行列に並んでいたはずなのに、すっかり花輪に気持ちが移ってしまったらしい。何がそんなに気に入ったのか。

「素晴らしいですよ、とても」

「そうですか?」

「お祝いしたいというのがとても伝わってきます。雅に、華やかに、大変素晴らしく面白い。我々の故郷では好まれると思います」

「派手なの好きなんですか?」

「長生きが多いですからね、気持ちを伝える手段は多いに越したことはないんですよ」

 アズさん? は面白可笑しく笑った。

「ささやかな事でも大袈裟でも、気持ちを伝える手段は一つでも多い方がいい。気持ちのこもったものを贈る、贈られる楽しみは我々にとってとても大切なことですから」

「……要するに、長生きだから少ないと同じことをくり返すことになって飽きちゃうってこと?」

「はははっ! そうですね、そうかもしれません」


 花輪の花は 《レースのフィン》のメンバーが頑張ってくれた。頑張ったというよりは嬉々として作りまくったな、という印象だけど。

 色とりどりの花は先日からポツポツと出来上がった物から一点物扱いで店頭に並べるようになったつまみ細工の豪華な花輪もある。つまみ細工に興味がある、やりたいという従業員を集めて練習がてらひたすら作ってもらったそれは通常のカット布よりも一回り大きなサイズになっていて、自ずと花も大きくなり、身につけるものとは違いとにかく目立つ花輪にするには丁度いい大ぶりの花が出来上がったのでそれでまずは私達とフィンたちの花輪二台を作ってもらった。

 それとコサージュにも転用出来る薄い生地のリボンの片端に幅広の並縫いで糸を通し、その糸を引くと自然とできるプリーツリボンの形を整えたリボンタイプの花の花輪はローツさんたち、そして 《ハンドメイド・ジュリ》 《レースのフィン》からとして贈られている。まだまだ技術的な問題で薄くて均一なリボンの種類が少ないこの世界。こういう使い方をすれば、所謂B品と呼ばれるリボンでも活用出来ることを知って貰えると思う。

 つまみ細工もそう。部分的に解れやヨレ、染色のムラや汚れが出来た布は、細かくカットしてその不都合がある所だけ捨てればいい。そうすれば服は作れなくても飾りは作れる。目の前にあるものをどう活用するのか、それを考えるヒントになればいい。


「こちらはかなりユニークですね」

 アズさんの息子フリュークスさんが物凄く興味深い目をして見てる花輪。

「あー……」

 《本喫茶:暇潰し》と、職人一同の花輪の二台。

 花輪がどんなものかを教え、丈夫なスタンドを作って貰おうと依頼したとき、その場にいた職人さんたちからオリジナルの花輪が作ってみたいと声があがったので、それは面白いと私も安易にその場でオッケーして。そして、数日前、完成した物をグレイと共に見に行って、二人で目を疑った。

「……これは花輪か?」

「違うと思う」

 そんな会話をした私達。

 察して欲しい。

 そもそも花じゃ無いものが付いてたということを。





花輪ってすごいですよね。あの威圧感が(笑)。

昨今生花スタンドもしくは胡蝶蘭を贈る人や企業が増えているようですが、作者としましては花輪もミニサイズが出てきているのでその増えた選択肢と共に残って欲しい文化(贈り物)だと思ってます。


そしてここまで読んで下さいましてありがとうございます。感想・誤字報告もいつも感謝しております。レビューもお待ちしております。

そして好きなジャンルだな、続きが気になるという方はイイネや☆をポチッとして頂けますと幸いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 大体ラーメン屋かパチンコ屋で見るイメージがある
[良い点]  花輪を幾つも飾って、尚かつ衣装もかさばりそうな富裕層が並ぶなら、店の前に公園くらいのスペースが必要ですよね。田舎のお店みたいに車三台分のスペースじゃ足りませんよね。エルフのお祝いならどれ…
[一言] 家の地元では、一定時間たったら近所の人にお花を持ってもらう習慣があるのですが、これは候爵様のコレクション入りでしょうか? ハルトがどんな花輪にしたのか楽しみです。
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