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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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◇バレンタインスペシャル◇ 十人十色な伝え方

本日バレンタインデーです。

本編はお休みとし、スペシャルとしてこちらはお読みいただければ幸いです。

 


 恒例となりつつあるバレンタイン。


「ジュリ、結婚してくれてありがとう、いつも一緒にいてくれてありがとう、ジュリが作るもの、考えること、全てが私の生きる糧になっている、ジュリがいなければ私の人生はこれ程輝いたりはしなかった。愛してるよ、ジュリ」

 最近中央市場でレイス君のラッピングフィルムを使った花束が人気になりつつあるんだけど、そのラッピングフィルムとリボンを使った凄い豪華な花束を持ってグレイが私の前で膝を床に付け、真っ直ぐ私を見上げてそれはそれは素敵な笑顔で微塵の照れもなくそのセリフを言いました。

「あ、うん、ありがとう私も愛してるわよぉ」

 この人こういう人って理解してるし私も何だかんだと慣れてきているので笑顔で花束を受け取りました。


 で。

 これとほぼ同じことができる人が二人いる。

 マイケルとセイレックさんね。マイケルは最早それが普通のこと、ケイティも当然のことと思っている。セイレックさんは真面目な所があるのでマイケルやグレイを真似て誠心誠意って感じでリンファが照れつつも喜んで受け入れてたね。というか何故うちの店でそれをやるんだと思ったらその流れでお買い物してそれもプレゼントするからだった。この二組は買い物終わったらすぐ帰ったのは、デートだそうで仲良しで良いことです。

 そんな愛情表現がフルオープンな三人を見たせいで困った人、焦った人、パニックになった人がいる。

 まず、困った人はローツさん。

 いやぁ、そもそもバレンタインがこの世界になかったんだからそんなに気にしなくていいよ、って言ったんだけどこの人は長い間離れ離れになっていたセティアさんとようやく一緒にいられるようになったことで、幸せいっぱいなんだけどどうしたら上手くその事が伝わるんだろうと日々悩んでいるらしい。あんたら他所からみたらお砂糖をぶち撒けてさらに人の口に無理矢理突っ込んでるカップルだぞ、と声を大にして言いたい。

 焦った人はロディム。

 うん、バレンタイン知らないしね、初めて見るしね、その初めて見たのがグレイのこのフルオープンな愛情表現だからね。なんかごめんね、という居た堪れない感じになったんだけど、それよりシャーメインことシイちゃんがバレンタインを知っていたのに自分が知らなかった事がショックだったらしい。それでどういうものなのか知らなきゃまずいと焦ったみたい。

 そして問題はパニックになったハルト。

「俺無理!」

 グレイのを見て半泣きで打ちひしがれてね。

「同じことしろなんて誰も言わないって」

「でも、でも絶対この話、どっかからルフィナに伝わるっ」

「あー、それは仕方ないでしょう」

「嫌だ、俺だけしないとか最低じゃん!」

「別にグレイとかマイケルみたいなのを皆がする必要はない。てか、できる人が少ないんだからあんたはあんたらしく日々の感謝と共に愛も伝わる事をしてあげれば………」

 そこまで言って思い出した。

 この男は、サプライズに向いていない。そういうことをしようとすると何故か普段のチート能力が全く役に立たず、空回りする。

「ジュリ様ぁ……」

 泣きついてきた!!

「え、なによ」

「コーディネート、お願いしゃーす!!」

「当日言うんじゃねぇわ!!」












 何故か、ハルトの両隣にローツさんとロディムがいる。真面目な顔して背筋を伸ばして座ってる。

「何故」

「ハルトがコーディネートしてもらうっていうから一緒にと思って」

「勉強させてください、そしてあわよくばコーディネートお願いします」

 バレンタインのコーディネートって一体何? と自分に問いかけつつしかも三人分当日やれって何の罰ゲーム?


「まずローツさん」

「おう」

「流石だよね、グレイを見て直ぐに用意したんだ?」

「一応な。それと去年ジュリが菓子を一緒に食べた話を覚えていたし」

 ローツさんは即座に動いていた。花屋で大げさにならないよう小さめの可愛い花で花束を作って貰い、セティアさんが最近お気に入りだという人気のお菓子屋さんのチーズケーキを購入して、私にアドバイスを貰いに来るという用意周到さ。

「そのままでいいと思うよ。それ持って帰ってバレンタインがどういうものか説明して、ゆっくりティータイムなんてどう? その時に愛を囁くのが照れくさいなら結婚してくれてありがとうとか、普段の感謝を伝えるだけでもいいよ」

「なる程」

「バレンタインって必要以上にお金をかける意味はないと個人的には思ってるのよ、普段は言えない事を愛情込めて伝えられたらそれでいいんじゃない? 結婚記念日や誕生日にお金かければいいんだから」

 自分に合ったバレンタインと納得したローツさんは顔が晴れやか。セティアさんの性格を考えると派手なことをされるよりは二人でゆっくり語り合ったりするのを喜ぶ気もするしね。バレンタインが何なのかわからないセティアさんの負担にならないこともポイントよ。

「ロディムは、そうだなぁ……」

「私はどうしたら?」

「うーん、一応遠距離恋愛だからねぇ……」

 シイちゃんがたまに走ったり転移で帰って来ることはカウントしない。

「あ、そうだ、 《レースのフィン》に行って手袋とかストールとか、シイちゃんのために一つか二つ選んでおいで。春物出てるからこれから使えるものをね。シイちゃんの卒業までなかなか会えないでしょ、自分の選んだ物を身に着けてもらって、自分の事をいつでも思い出して欲しいって伝えられる男、いいと思うんだよねぇ」

「!! すみません、出かけて来ますっ」

「いってらぁ~。おばちゃんトリオがシイちゃんの好み把握してるから迷ったら聞くんだよぉ」

「はい、ありがとうございます!」

 若い、うん、若いって素晴らしい!! 添える手紙も新作のレターセットあるからそれ使いな!!

 シイちゃんも用意してること、私は知っている。私達の屋敷に魔導転送具で送るから渡してくれないかと頼まれてるのさ、ふふふっ、二人でお互いにビックリすればいいのよ、そしてホワイトデーにまたお返ししあってキャッキャすればいいのよ、若いんだから!!


 そして問題はハルトだ。

「あんたは何もしなくてよろしい」

「え、なんで?!」

「ルフィナが用意してくれてるでしょ。だからホワイトデーにお返しをすればいい話」

「……あ、そうかも」

 そうだよ。

「でもさ、皆今日やってるじゃん」

「今日やってる人たちはそういうことがスムーズに恙無くできる人」

「俺だけ出来ないってか?!」

「……」

「……」

「じゃあなぜ私の前に今座ってるの」

「すみません」

 目を細め睨んだ私の前で縮こまるハルトにたまたま居合わせたライアスが憐れみの目を向けてるよ。

「グレイセル様の十分の一でも備わってたらよかったのにな」

 私もそう思うよ。













 さて、男たちの対応が終わった所でもう一つ。

 これは私とキリアとフィンの三人で用意した。

 所謂『友チョコ』。

 普段皆に頑張って貰ってるのでそれに対する感謝を込めてチョコレートや焼き菓子を大量に用意した。私がお菓子作りはしない人なので全部買いました (笑)。

 お菓子は買うものです。

 皆が出入りする場所にある棚に日頃の感謝をこめたメッセージを張り出してご自由にお持ちくださいシステムで積み上げたお菓子。そこに外出し何処かに行っていたグレイが戻ってきたら、更に直ぐ側の棚を片付けその上にもお菓子を積み上げた。

「感謝を伝えるなら私もしないとな」

「……それはいい心がけなんだけど、量多い」

「今日出勤していない者たちにも渡るように日持ちするものだから大丈夫だ」

「いや、そっちじゃなくてね。場所取り過ぎ」


 山積みのお菓子を帰り際に崩さぬように神経尖らせて慎重に手に取る従業員を見送ってしばらくして、ローツさんとセティアさんがやってきた。

「私達からも普段の感謝を込めまして贈りたいと思いました」

 バレンタイン初体験のセティアさんが居ても立っても居られずローツさんを誘って買い物に出掛けたそうで、その手には紅茶の茶葉が入る缶が三つ並ぶバスケットがあり、それをどうぞと差し出された。

「お菓子に紅茶! 最高の組み合わせだね、ありがとうー!!」

「気負わなくて良いって言ったんだけどな」

 あ、これローツさんはお家で二人で楽しみたかった感じだな。でもセティアさんに押し切られたんだね、ローツさんセティアさんには甘い、というか弱い。そんなちょっとアンバランスでも仲良しな二人に癒やされながら、四人で立ち話に花を咲かせていたらロディムが戻ってきた。


「どうしても、どうしてもっ、絞り切れませんでした……」

「ああ、うん、いいんじゃない?」

 必死なロディムについ笑ってしまう。

 なめらかで艷やかな薄黄色の手袋は手首のあたりにレースリボンが縫い付けられているシンプルなデザインだ。それと同じレースが施されたクラッチバッグは淡い菫色でどちらも春物の新作。二つ共に上質な布と編みの難易度の高いレース使用なので 《レースのフィン》の小物の中ではお値段お高め商品。こんなの気軽に買えるのは流石公爵令息ってところだわ。

「自分で選んだの?」

「は、はい」

「喜ぶよ、絶対に。自分で選んだ事を手紙に書いてあげたらなおさらね」

「二階、借りていいですか?!」

「いいよ、レターセットあるから自由に選んで使って。場所はわかるよね? 新作もあるから使っていいよ」

「はい、ありがとうございます! お言葉に甘えます」

 素直。いい子だぁ。

「あの勢いは若さか?」

「それもあるけどわりと愛情表現オープンな性格だからこういう時モジモジするタイプじゃないよ」

 グレイが物珍しい物を見たようなちょっと驚いた目をして二階に駆け上がるロディムを見送る。

「もちろん年相応に照れたり焦ったりもするけどね。あんなふうに駆け上がるなんて普段はしないから勢いがついちゃってるのは否めない」

「後で反省しそうだな、『みっともない姿を見せました』って」

 ローツさんはそう言って笑って、セティアさんもそれを想像したのかフフッと小さく笑った。

「若いんだからいくらでも反省すればいいのよ、何ごとも経験ってね」

 私が締め括る雰囲気で言ったその時。


「……皆、楽しそうだな」


 隅っこで陰鬱な雰囲気をまとい膝を抱えて座るハルトがこっちを見てた。


 怖いよ。













「あんたのそういうとこ嫌いだわぁ、いつまでうだうだしてんのよ」

「だって、なんで、俺だけ……」

「ホワイトデーのお返しの相談乗ってあげるから今回は諦めな」

「俺だって、ルフィナに良いところを、見せたいのに」

「なら、いちいち照れるな。そしてサプライズしようとするな」

「うっ」

「考えすぎるとどんどんおかしな方向に行くんだよ、そういう時は。あんたの場合恥ずかしくて勇気のいることを無理にしようとしたりするからカラ回りするってこともそろそろ学習しろ、そういうAIを自分に搭載しろ、ニートチートめ」

「ううっ」

「そして何より私は言いたい」

 そう、気になってることがある。それを言う。

「あんたさ、朝からずっとここにいるけど……ルフィナがバレンタインの贈物を用意してあんたに渡そうと帰りを待ってるとは思わないの?」


 一瞬ハルトがキョトンとした。

 そして。

 サーッと血の気が引いた。


 シュン、と消えたので転移で帰ったっぽい。


「……また何処かに挟まったりしなければいいが」

 グレイが心配そうに呟いた。

「挟まる、ってなんですか?」

 セティアさんが首を傾げた。

「ルフィナにプロポーズするときに緊張しすぎて座標狂って人ん家の壁と壁の間にギュッと挟まった経験があるのよ」

 事実を告げればセティアさんが顔を引きつらせた。

「今日も挟まるんだろうな……」

 ローツさんが黄昏た顔して呟いた。


 結果として挟まってはなかった。

 でも、庭の大木に逆さに引っ掛かって、庭の手入れをしていた庭師さんを絶叫させ、ルフィナにガッツリ説教された話が翌日ケイティから齎された。

「マイケルとね、ロビエラムにいる友達に会いに行ったついでにルフィナの所に寄ったのよ、そしたらバキバキッって音と人の悲鳴が聞こえるじゃない。ハルトの気配だって直ぐに分かったから慌てて外に出たら逆さで木に引っ掛かって呆然とするハルトとその近くで気絶してる庭師がいる光景、あれは衝撃的だったわ」


 共にその話を聞いていたロディム。

 グレイにぽんと肩を叩かれた。

「こういうことがあるから転移はどんなときでも焦らず慎重にな」

「肝に銘じておきます」

 こんなことで肝に銘じてほしくない、と思ったのは私だけ?


 なにはともあれ、ハルトを除いて私の周囲は普段の感謝を伝える手段として今後は上手く活用してくれそうだなと期待が持てたバレンタイン。




実は『友チョコ』こそ注意が必要な場合がある、というのをネットで見た記憶があります。どのブランドか値段はどれくらいか質や量など色々とあまり格差が出ないように気を遣ったり、逆にそれらをフルに活用してマウントを取る手段として『友チョコ』を配る人もいるんだとか。それ、『友チョコ』なんですかね? もう普段の頑張りとして自分へのご褒美チョコだけでいいじゃないか!! と思う今日このごろ。ちなみに作者はご褒美チョコを毎年買ってます。


では次回本編に戻りますので引き続きお楽しみ下さいませ。


ここまで読んで頂きありがとうございます。

そしていつも感想、評価、誤字報告などなどありがとうございます。

好みのジャンルだな、続きが気になる! と思いましたら是非イイネや☆をポチッとして下さると嬉しいです!!

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― 新着の感想 ―
 『自分がウマいと感じた中で一番高いチョコ(或いは焼菓子)』が一番かと。
[良い点] 毎度思いますが「食事系」がこちらとそちらで大差ないのは良いなぁ。 無いのは何だろ?ラーメン位?? [一言] 昨日、職場の最寄り駅で降りるとき、地元のJK達がお菓子が入った紙袋を下げててほ…
[一言] ハルト君は結局プレゼントを貰ったのか( ˘ω˘ )? そう言えばハルト君今何歳なんだ?
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