26 * テルムス公国もちょっと面倒
読者様提案作品でありコラボとなりましたつまみ細工。
登場までホントに時間がかかりました、企画した本人がビックリです。
改めて黒にゃんこ様、ご提案ありがとうございました。
フェ……何とかを使って物を作るのは一度中断し、現在は勢いで立ち上げたつまみ細工部門のメンバーにアレンジの仕方や布の選び方などを指導中。
布選びはフィンとパッチワーク部門のメイナおばあにも参加してもらい、大量に集められたサンプル品に囲まれ研修棟は今大騒ぎ。
特にローツさんがテンション高い。
何故かつまみ細工で恩恵を授かり、麻痺がある左手が動いているから。
「統括長、仕事して。グレイ、連行よろしく」
「わかった」
「え、ちょっ、グレイセル様! もう少しで完成するところなんです!」
「来い」
「うおっ!!」
グレイにドナドナ……されるローツさんの顔が悲しそうだけど無視する。
「……申し訳ありません」
セティアさんが非常に恥ずかしそうに謝罪してきた。
「あの、いつもあんな感じなんでしょうか?」
「ローツさん? うん、白土捏ねてるときはあんな感じで制御が難しい。グレイじゃないとどうにもならなくて」
「……重ねて、申し訳ありません」
ちょっとその気持ち、分かるわ (笑)。
恩恵の影響なのかうちのものつくりをする人たちはどうにもこうにも作り出すと手が止まらないだけでなくテンションも皆例外なく上がるんだよね。まあ、その最たる例はキリアなんだけど……。
「ちっちゃいつまみ細工の花を並べたバレッタとか可愛いよね」
ローツさんがグレイに強制連行されたことなどなかったかのように完成したサンプルを並べたりして楽しそうにしている。
「……キリア」
「今日のノルマは終わったからね!」
「ああ、そうですか……」
そんなに睨まないでよ、誰も止めろと言ってるわけじゃないし。
わちゃわちゃする中、セティアさんとこの新しい商品であるつまみ細工のコサージュや髪飾りの完成品を誰にプレゼントするかを相談する。
フェ……何とかを使ったつまみ細工は私以外の人に作って貰っていたので先日のエルフのフリュークスさんの言っていた【技術と知識】の影響で人間の気配が消えているだかなんだか、知られたらちょっと面倒な事が起こるんじゃないの? というものにはなっていないから出来上がったものから順次バミス法国や主だった人たちにプレゼントしてしまうことにした。
「それにしても、本当に綺麗ですね」
「セティアさんもフェ……何とかのやつ持って行ってね」
「えっ、そんな! 貴重な布です、私が頂く訳にはいきません!!」
「大丈夫、キリアやおばちゃんトリオなんて既に持ってるから」
「そ、そうなんですか?」
「遠慮せずどうぞ。それにセティアさんは貴族との付き合いのことで私のサポートしてもらってるし、こういうの持ってれば使う機会もあるでしょ」
「……ありがとうございます」
「ん、どういたしまして」
ホワホワした嬉しそうな笑顔になったセティアさんはフェ……何とかの他に、キリアからこれなんてどう? と進められ頬をほんのり赤らめて一緒に吟味し始める。そこにフィンやメイナおばあも参戦し、誰が一番セティアさんに似合うのを選べるか、という謎の選手権が始まったのでもうこれは止めようがないな、と諦め私はその場をキリアに任せて研修棟を出る。
店側の通りには行かずに裏の工房側から戻り二階に上がるとグレイとローツさんがロディムに会計業務について指導しつつ事務処理をしていた。
「あれ、ロディムもうそこまで進んだんだ」
彼が見ていた会計関連の教本のページは既に後半。しかもこの教本は基礎をしっかり理解していないと書類制作が難しい決算書や株主制度などについて書かれているもので、つまりここまで進んだということは振替伝票の仕組みや給金計算、棚卸などをほぼ理解しそして扱えるということ。
「覚えが早くて助かるよ」
ローツさんが軽い口調でそういえば、ロディムは苦笑し肩を竦める。
「必死ですよ、アストハルア家から連れてきた管財人同様いずれ戻ったら自分で理解し使いこなさなくてはならないですから。それに父も随時こちらから送る資料で学んでいるようで、もし質問されて答えられないなんてことになれば大変です」
「どう大変なのよ」
「火魔法で火炙りにされます。容赦ないので時々命の危険を感じますよ」
実力行使だった……。クノーマス家に負けない武闘派かもしれない。
書類整理を手伝い、一区切りついたところでちょうどおやつの時間になり、タイミングよくセティアさんがこちらに戻ってきた。
大量のお菓子を消費しつつ、グレイと先日のことを話していたら、ローツさんセティアさん、そしてロディムが無言になっていたことに気づいた。
「どうした?」
「それ、俺達が聞いていい話ですか?」
恐る恐る、ローツさんがグレイに問いかけたけど、グレイと私は首を傾げる。
「今更じゃない? ローツさんが私達のことで知らないことってほとんどないし」
「そういう問題じゃ……『神力』なんて、どう考えても、秘匿するものだろ」
「秘匿もなにも、もう気づかれてる可能性があるのかなって思ってるよ、ダダ漏れするらしいから」
「え」
「エルフのフリュークスさん、その情報を持ってるからこそ忠告してきたのかも、ってちょっと思ってる」
そう。
あれから考えた。
グレイと二人、対策はもうグレイ次第だからどうにもならないねって話になり、その流れでフリュークスさんの忠告は既に知られているからこそなのではないか、という考えに行き着いた。
「その辺は聞きそびれたんだけど……エルフの今の長って、どうやらテルムス公国のテルム大公と知り合いみたいだから、そのテルム大公あたりが怪しいかな」
「エルフがまさかそのことを話したと?」
「ううん、その逆。繋がりがあればエルフが情報を得ることは容易いみたいだから何かそういう話を入手したのかな、って」
「テルムス、ですか……」
ポツリ、ロディムが呟いた。私達の視線が集中したことで身を固くする。
「あ、すみません」
「気になるなら話してみてくれ」
グレイに促され、一瞬たじろいたものの直ぐに姿勢を正して真っ直ぐグレイと向き合った。
「……もし仮に、テルム大公がそのことを把握されているとなれば、《ギルド・タワー》にもすでに話が伝わっていると見てもよろしいかと。テルム大公は人格者として知られている一方で、独立機関であるギルドの長、総帥との距離が近すぎると不平不満を持つものは少なくないとも言われていますから、伝わっていないかも、という楽観的な考えを持つよりは総帥は勿論のこと 《ギルド・タワー》の一部に既にその情報が共有されていると見るべきです」
「そうだな、正解だ」
グレイの相槌にロディムが肩の力を抜く。
「私とジュリもその考えで一致している。そしてもう一つ……気づいているんだろ?」
そう声をかけられてロディムがあからさまに『え、それ聞くの?』みたいな顔をする。それを見て、うっすら笑みを浮かべるグレイ、悪い顔してるよ。
「折角だから聞こうか」
ローツさんも気づいてるんだけど、わざとロディムをガン見してる。そしてセティアさんよ、『気になる……』っていうのがはっきりわかる期待のこもった目をしてる!!
流石のロディムもその目には抗えないらしい、うぅっ、と声が出そうな顔になっちゃった(笑)!
「さ、次期公爵の意見を聞こうじゃないか」
意地悪だな、グレイ。
「……マイケルさんと、ケイティさんが所属国であるテルムス公国にほとんど帰らなくなってしまったのも大公とギルド総帥の関係が影響しているのでは、と。おそらく……マイケルさんやケイティさんが秘密にしてほしい【スキル】などを、どちらかが自分たちの利権に利用できるのではと情報共有した可能性があります。さらに言えば、テルムスにいるのではないでしょうか、本来は人間が感じ取れない力を感じ取ることが出来る魔導師などが。そうなれば間違いなくテルムス公国とギルドはハルトさんの身辺調査は済ませているでしょう、更にマイケルさんやケイティさんも同じです。まず間違いなく調べられているはず。それを含めて色々な事情が重なり距離を取るようになったのではないかと。そのあたりは御本人に確認する必要がありますが、私としては……テルム大公とギルド総帥を警戒しても仕方のないことだろう、と」
まあ、そういうことなのよ。
たぶん既にテルムス公国と《ギルド・タワー》にはグレイが『神力』を持っていることが知られていて、今後その力がどういうものなかを探られる可能性があると踏んでいる。
でもね、そもそもグレイの『神力』。
私のものを探すとき。その時にしか出ない。
なんっっっって無意味で無駄な!
声を大にして教えてやろう、そんなの探るだけ無駄だよ、って。
でも、フリュークスさんも言っていたけど教えたところで納得なんてしない。絶対に都合のいい解釈をしてしまう。
一応ハルトにも事情を話し、見てもらったけどあのハルトにも『神力』は感じにくいようで神力を感知する特別な【スキル】を発動してようやくグレイに『神力』があると分かったそうで。
「……………神力だ、マジか」
と分かった感じ。それだけ人間が感じ取れないものなの。だから余計にそれを感じ取れてしまう人には異質な力、つまり『神様から与えられた特別な力』に見えてしまう。
「で、どうするんですか?」
ローツさんの問いにグレイの回答はあっさりしたもので。
「どうもしない」
「対策は?」
「対策のしようもないからな、相手を刺激しないよう今まで通り生活するだけさ」
「まあ、確かにそうですね」
「とりあえずは……そういう探りを入れてくる者は全員『闇夜』の餌にする。以上」
……皆、黙っちゃったじゃん、グレイ。
「その感じ取れる稀な人間って、大体が先祖にエルフがいるんだよね」
マイケルは干し肉をかじりながらテーブルに肘を付いてため息。
「先祖返りっていうのかな? 時々ぽっとエルフ特有の能力が極わずかだけど顕現しちゃうらしい。いるんだよね実際にテルムス公国の大公の側近に。本人はその力がエルフからの物だとは思ってなくて神から与えられた特別なギフトって勘違いしてるけどね。だから高慢だし、力を誇示して大公や総帥のお気に入りでいるために何でもかんでも気づいたことは直ぐに報告する。ハルトのことも気づいて調べさせてロビエラム国で機密扱いだった『神力』が一部の権力者に知られちゃったのもテルムス公国のせいだから。だからハルトはテルムスにあまり関わらないんだよね、」
ワインを飲み干して、不愉快そうにマイケルがふっと息を吐いた。
「大公のことは嫌いじゃないんだけど……僕らが話して欲しくない事でも総帥に伝える。総帥は総帥で部下に調べるように命ずる。どんなに秘密にしてくれって頼んでも結局さ、『ナイショだよ』『ここだけの話』って広げるんだよ。だから僕は縛りの極めて強い魔法紙を開発するに至ったんだけど」
その後、私達とお酒を飲んでいる間、終始マイケルの表情は穏やかだったけれど仄暗い何かが滲んでいるように見えた。
そして後日、マイケルとケイティは 《ハンドメイド・ジュリ》の新作としてつまみ細工をいくつか私に代わって持っていってくれた。
その時、二人とテルム大公、そしてギルド総帥の四人で話し合ったらしい。
何を話し合ったのか、それは教えて貰えなかったけれど二人からハッキリと告げられたことがあった。
「僕ら、テルムス公国所属じゃなくなると思うから。多分ロビエラムかもしくは無所属かな。まあ、すぐじゃないけどね、でもいずれはそうなる」
「すぐでもいいんだけどねぇ。でも泣きつかれちゃうと流石にね。まあ、猶予というかチャンスを与えた感じよ」
これ以上は話さないよ、という雰囲気でマイケルが話を逸らす。
ケイティも同じ。
二人の様子から二人とテルムス公国やギルドとの間に深刻な問題が起きたわけではなさそうだけど、それでも所属国を変えるとか、そんな話は【彼方からの使い】がいることで政治的なバランスに影響を与える場合もあるので疑問がないわけではない。
でも、二人にも元々思うところはあったことを知っているのでわたしも聞き出すのは止めておいた。
そしてそれから数日。
屋敷の門にまた一輪の花。
アズさんか、それとフリュークスさんか、それともほかのエルフか。
手紙も一緒に添えられていたのでグレイと二人で開いて覗き込む。
『髪飾り、娘が大変喜んでくれました。そして幸運と幸福を込められましたよ。やっぱり大変いいものでした。ありがとうございます。そしてランタン使ってますか?』
とだけ書かれていた。
「フリュークスさんだね」
「そうだな。そして幸運と幸福を込めるとは一体。魔法付与とはやはり違うんだろうな」
「違うんだろうねぇ、幸運は魔法付与でもあるから何となくわかるけど……幸福って、なんだろうね」
そしてグレイと二人、同時に部屋の隅にあるランタンに目を向ける。
「……使えるわけないじゃんね。蝶の幻影、部屋の外まで出ちゃうしね」
「そうだな……」
大枚叩いて競り落としたランタンは、普通に使うのも何だか怖くてそのまま飾られて只のオブジェと化していた。その隣には私が作っちゃったのでなんだか怖くて売るにもプレゼントにもできないだろうフェ……何とかのつまみ細工が並ぶ。
ちなみに私は今だフェ……何とかをちゃんと言えない。
「フェファクリュティクティラ、だ」
なんでそんなに流暢にいえるんだ、旦那よ。
神界にて。時はグレイセルがジュリにプロポーズをした時まで遡る。
「興味本位で【スキル】を与えたせいで……」
「ま、待てっ! サフォーニ!! 二度としないから!!」
「当たり前でしょう、グレイセルに二度と干渉しない、そんなことは当たり前、だ……」
「うん、うん、反省してるから!」
「反省? ほう、反省……。ならば徹底的に反省してもらいましょう」
「ひっ!!」
「消えろ、一瞬でいいから私の前から消えろ!!」
「ぎゃあぁぁぁ!」
「セラスーン、手伝ってください! この駄神を消す!!!」
「あら、楽しそう!私もいい加減どうにかしたいと本気で思っていたの!」
「俺は至高神だぞ!!」
「「だからなんだ」」
「ひっ!!」
ちょっと半端な感じにはなってしまいましたがつまみ細工は今後もちょくちょく出てきます。
そのうちまた読者様参加企画やりたいなぁ、なんて思っている今日このごろ。
まだまだ続きますので引き続きよろしくお願いいたします。




