26 * 情報過多!!
サブタイトル通り情報過多なので文字数多めです。
※前回、予約投稿ミスで2話更新しております。
しかも2話目は手直しなどせず更新になってしまったため、誤字脱字が多かったかと思われます。気づいてすぐ分かる範囲で直しましたが、読み飛ばしや読みにくさを感じた読者様もいらっしゃるかもしれません。ご迷惑をおかけしました!!
チラ、と確認したグレイの顔は、無。
うん、人に何考えてるか分からないようにするときの顔してる。
一方、エルフはというと笑顔。
「忠告とは?」
「ふふ、そう感情をむき出しにされますと流石にショックですね。貴方の敵になることはありません。ジュリさんの大切な人である限り、決して我々は貴方と敵対することはありませんよ。ですからその敵意と僅かな殺意はどうか収めて下さい」
恐いな、この人。
グレイの感情を、読み取っている。
簡単に、なんの苦もなくグレイの感情を。
「それに、戦闘能力に関しては貴方は私を上回ります。そんな人に敵意を向けるなどありえません、信じてもらえませんか。その上で私の忠告を聞いて頂けませんか」
「……聞こう」
フー、とグレイが浅くけれどはっきりと息を吐き出したのが聞こえた。
「貴方がジュリさんの作ったものかどうかを見定めるとき、もしくは探すとき、『神力』を使っていますよ」
……神力。
読んで字の如し、神様の力。
え。
グレイって神力あるの?
「ちょっと、初耳なんだけど」
「奇遇だな、私もだ」
うわ、グレイの顔が。超レアだ、眉間にシワを寄せただけでなく、明らかに困惑して強張ってる。
「それはそうでしょう、無意識に使っていますから」
……。
告げられた内容が余りにも突拍子もないせいか、理解が追いつかない。
「少しお待ち下さいね、髪飾りを受け取ってきます。その後に話しましょう」
近所のお遣いにでもいく雰囲気でエルフだという見た目は普通の人間のその人が私達の前から去ってしまって、二人で立ち尽くしちゃった。
「グレイのあれが関係してるのかな」
「【神器】と人間の中間、か?」
「そう、それ。しかもバミスに行った時に【大変革】でレベルアップしてるし」
「しかし……ジュリの物を見つけ出す、探す時だろう? それはそれよりもずっと前、ジュリと出会ってから間もなくの頃には何となく出来ていたぞ」
「あ、そっか……いやそれも何なの? って話ではあるんだけど、どう考えても『神力』って聞くと中間になったときだと思うけど」
「その時に得た力ということか?」
私達がコソコソとそんな会話をバックヤードでしていたら、競り落としたランタンをなんとツィーダム侯爵様が直々に持ってきた。何故なら、さっき私達に話しかけていた人物は初めてオークションに参加した人で、私達が知り合いならば紹介してもらおうと思ったらしい。
「初対面です」
正直に告げたら怪訝そうな顔された!!
「少し自分の立場を鑑みて人と接するべきではないか」
説教された!!
そもそも説明難しいじゃない、だってエルフなんだもん。人間に滅多な事じゃ接触しないし、しかも認識阻害の魔法かそれとも直に人間に化けてるのか分からないけど素性を隠してるから私達からは話せない。そのあたりを濁し、あからさまにこれ以上詮索しないでほしいと素直に言えばため息をついて侯爵様が了承してくれたことは感謝。
「後で話せる範囲で話してもらおう」
って捨て台詞頂きましたけども……。
そしてその後。
「で、ここどこ?!」
「……」
「グレイなに一人で達観しちゃってるのよ! ずるいよそういうの! 一緒にパニックに陥ってよ旦那だろうが!!」
「旦那かどうかは無関係だろう。……それよりな、私はここに似た場所を知っている」
「マジで?!」
「……【強制調停】を発動したとき、セラスーン様に呼ばれ精神のみ入れる場所、あそこに酷似している」
「……どこよ、そこ。どこにあるのよ」
「私が知りたいよ」
「おや、【強制調停】で狭間に呼ばれるんですね」
さっきまでとは明らかに違う雰囲気で、その人が表情豊かに笑った。
そして、みるみるうちにその容姿が変化する。
透明感のある肌、整った顔、そして艷やかな銀色の髪と尖った耳。
正しくそこにエルフがいた。
「その節は父がお世話になりました」
「「父?」」
グレイと見事に被った私。その人はやっぱり表情豊かに、それはそれは蠱惑的な極上の美しい笑みを浮かべて面白そうに笑った。
「エルフの長の息子、フリュークスと申します。そしてエルフを代表しまして、先の色紙の制作とご提供心から感謝申し上げます」
一言物申す。
エルフ、やっぱりちゃんと自己紹介してもらわないと性別も年齢もわからない!! しかもアズさんの息子だった、そして年齢も聞いてみた、五百歳越えてた……。私よりも若く見えるってどういうことだ。
「神が作り出す地上と神界の狭間と違い、ここはゆっくりとはいえ時間は経過してしまいますし、長時間維持することは不可能なので手短に」
今言ったことだけでもいくつか質問したいのに、そこはスルーするらしい。
「そのうちお話しする機会があるでしょうからその時にゆっくりと語り合いましょう」
フリュークスさんはそこまでは笑顔だった。でも次にグレイに視線を向けると困ったような表情を浮かべる。
「困りますねぇ、その力」
「あ、そう!! それです、『神力』でしたっけ? グレイは全く知らなかったっていうんですよ」
「はい、伯爵ご自身は無自覚ですね、完全に」
サラッと言うけども。
フリュークスさんが説明してくれた。
元々グレイは極めて優れた感覚で私が作った物とそれ以外の人が作った物を見分けていたらしい。しかし、それが二度の段階を踏んで『神力』でもって判別するようになってしまった。
一度目はずっと使われることなく行き場のなかった私の【核】がグレイに適合するようになって【スキル】【称号】を得た時。その時、それだけなら問題なかった。
「しかし、伯爵……【全の神】から直接【スキル】を与えられていますね? あの時にまず『神力』を一緒に貰ってしまっているんですよ。【全の神】は本来人間に干渉しません、後にも先にもハルトさんだけなんですよ良くも悪くも気に入られ干渉されたのは。ですが、何の気まぐれか貴方も干渉されてしまった。あの神の干渉は私達エルフすら防ぐことも遮ることも出来ません、それくらい強烈な神力です。そんな神に干渉されれば嫌でも『神力』を得てしまう」
しかし、その時点では『得ただけ』で使えなかったという。それはグレイの体と心が『神力』を使えるほど強くはなかったから。けれど、グレイはその後に再び神様から本来はあり得ない干渉をされている。
「『覇王』討伐の際、肉体の限界を超えて力を解放しています。あの時、貴方は『神器』になりかけました。なりかけて、直後力を使い切り無防備になった状態でまともに『覇王』の穢れを受けて肉体どころか魂まで損傷しています。その再生を貴方を守護する神がしましたね? そもそもの話、回復魔法やポーションは魂の損傷までは治せませんから守護する神に貴方の再生が委ねられたことは正解でした。しかし、その干渉で『得ただけ』の力が貴方と『混ざり合う』とこになってしまったんです。守護する神の力が流し込まれるその際に、『神力』も一緒に魂に流れ込んでしまったが為完全に定着してしまったんですよ」
「私の旦那が人間じゃなくなってる!!」
そう叫んだ私、悪くないよね?!
「失礼な! 人間だろうが! どうみても私は人間だ!!」
「ちょっと、もー! ハルトのことどうこう言えないじゃん!!」
「あれと一緒にするな! ショックだぞ流石に!」
「仲良しですね」
喧嘩になりかけた私達にフリュークスさんからホワァ……とした笑顔でそんなこと言われて流石に恥ずかしくて二人で黙った。
「とにかく、『神力』は完全に馴染んでしまっています。問題はその『神力』が【核】の影響を受けていることです。元はジュリさんのもの、そして【技術と知識】もジュリさんのもの、伯爵がジュリさんの作った【技術と知識】が込められた物を探すとき、【核】が反応するんです。これはもう【核】のもつ本質と言っても過言ではない。互いに強く呼応する、引き寄せようとするその反応に『神力』までも引き摺られ、本能と能力よりも優位に作用するようになってしまっています」
どう反応していいのか分からず固まっている私達を見つめ、一拍置いてまたフリュークスさんが続ける。
『神力』を使っていることを見れる、感じられる人間は極めて少ないため、普通に生活をしていればまず人間に『神力』を持っていることがバレることはない。でもグレイは私が最初から最後まで一人で作った物を見つけ出そう、探そうと意識するとその瞬間に『神力』を使ってしまう。そして『神力』は魔力や気とは別物、極めて少ないとは言え見れる人、感じ取れる人にはそれが明らかに異質な物だとわかってしまう。そしてその正体不明の異質な力をもつ者がもう一人、ハルト。
「ハルトさんがその異質な力を与えられていることは、ごく一部の人間が知っています。……それと同じ力を、貴方は後天的に得てしまったんです。しかも日常生活で無意識に何度も何度も使っている。ごく一部の人間が貴方にもそれがあると知ったら? なぜ、後天的に得られたのかと疑問を持ったら? 間違いなく、辿り着きますよ、ジュリさんに。それがどんな事態を引き起こすのか想像出来ますか? ……争いが起きますよ、ジュリさんを巡り、貴方の力を巡り、国と国の、最悪は大陸中を巻き込んだ争いが起きます。どんなに貴方とジュリさんが不可抗力だったと訴えようと、ジュリさんが意図して貴方に力を授けた訳では無いと説明しても、人間とは己の都合の良いように物事を解釈する、強欲であればあるほど、真実などどうでもよくなる。そして私の忠告に戻ります」
一息ついたフリュークスさん。
「伯爵、貴方は決してジュリさんの作るものに執着してはなりません。ジュリさんに執着するのは結構、それがジュリさんを安寧に導く大切な要因でもありますから。しかし、『ジュリさんの作るもの』は駄目です」
グレイが微動だにしない。
再び無の状態になっちゃった。
「こちらもそうですよ」
フリュークスさんは、さっき競り落としたつまみ細工の髪飾りを何処からだしたの?! とツッコミ入れたくなる、何もない空間から突然それを取り出してみせた。
「これが完成したとき、見せられた貴方は『神力』でこれを見ていました。その時に私がククマットにいましてね、驚きましたよ。……貴方は無自覚、いや、感じ取ることが出来ないためそれを垂れ流しにしています、ハルトさんと同じように」
そして髪飾りを見つめながら、フリュークスさんは更に続ける。
「もうすでに貴方に馴染んでしまった力なのでどうすることも出来ません。救いはジュリさんの作った物を探すときのみ、垂れ流しになるので対策のしようはありますね」
「それが、ジュリの作るものに執着するな、ということか」
「ええ」
はっきりと頷かれ、グレイはグッと息を詰まらせた。
「難しいでしょう、伯爵にとっては。けれど、貴方は神ではありません、人間です。神のように何でも思い通りにすることは不可能です。まして『神力』に気付かず無意識に使い垂れ流している時点で貴方の手に負えないことは事実です。……今以上に、貴方とジュリさんを取り巻く環境に政治的な面倒が無遠慮に不躾に入ってこないようにするためにも、その執着は手放して下さい。お二人をエルフは見守ります、時には手を差し伸べもします。しかし人間界の国や政治が絡むとなれば、我々は関与しません。人間のする争いに関与することはもうない、するとしたら、その時は……人間は種の存続すら危ぶまれる危機を迎えることになりますから。だからどうか、今の安寧を維持していくためにも」
スッ、と手を向けてグレイは制した。フリュークスさんがそれに驚いて言葉が途切れるとグレイは息を吸い込んだ。
「ご忠告、痛み入る。自分のことをまた一つ理解出来たことに感謝もする。しかし、無理だ」
無理。
何が?
そんな質問はしない。
分かってる。
「私がジュリのことで見て見ぬふりをすることは不可能だ。これは【核】を得る前からのこと、既にもうどうこうできる状態ではない。確かに貴方から見れば私は『神力』を使っているのだろう、だが、それがどうしたとしか言えない。私はもう私自身が止められないし、その状態を私は楽しんでいる。……これからは慎重に行動しよう、それだけは約束出来る」
そう、私が言うのもなんだけど、今更グレイにそれは出来ない気がする。
それを聞いたフリュークスさんは苦笑というか諦めというか、なんとも言えない表情をした。
「そうですか。……何かそのことで困ることがあれば何時でもご相談下さい、助言くらいは出来るかもしれませんので」
「ありがとう」
互いに非常に複雑な表情をしていたのが印象的だった。
空間の維持がそろそろ限界ですね、と呟いたフリュークスさん。みるみるうちにその姿は出会ったときの人間の姿に変化する。何となくその場の空気もそれに合わせて変化したから、気持ちを切り替え私は私の疑問を直接ぶつけてみる。
「そういえば、どうして髪飾りを競り落としたんですか?」
「先程も申し上げましたよ、とてもいいものだ、と。人間には無理でしょうが、我々エルフは妖精の生み出す物に力を与えられるんです。こちらの世界で言う魔法付与のようなものですね」
「「え」」
「特にこれはジュリさんの【技術と知識】が影響して人間の気配がない。我々の力を込めるにとても適しています。私の末娘が今度結婚するんです、その時に身に着けてもらおうと思いまして。幸運を込めてあげようか、それとも夫婦円満につながる力を込めてあげようか迷っているんですよ、どっちがいいと思います?」
……そんな質問されても困る。
とりあえず、娘さんの結婚を祝う言葉だけは贈らせて貰った。
「へっ?」
そして私の我儘、気まぐれでグレイが競り落としてくれた『エルフの里のランタン』だけど。
「ただオイルを入れて点火してもその辺のランタンと何ら変わりませんがこうしてガラスを……―――」
フリュークスさんがランタンのガラスやパーツを動かして説明を始めて、いくつかの手順を踏んだその時。
「……ほら、綺麗でしょ?」
間抜けな声が出てしまうくらいには、とんでもない代物だった。
「い、いやいやいや! こんなものオークションに出しちゃ駄目!!」
「どうしてですか? この手順を正確に熟すことは極めて難しい、だから手順を知らなければ単なる古びたランタンのまま。それを人間が『エルフの里』と聞いただけで大枚叩いて買い、偽物だったと憤慨し倉庫や地下室に追いやるでしょう? エルフからしたらいたずらが成功したと笑えるネタとして十分価値はあります」
エルフ意外と心が黒い!!
そしてそれを競り落としてもらった私!!
「ジュリさんが競り落としたならば話は変わります。だからこうしてタネ明かしをさせていただきました」
私とフリュークスさんのやり取りなどどこ吹く風。グレイは黙ってそれを眺めている。
「これは、もしかして先代の長が関わっているか?」
「えっ?!」
「おや、よくお分かりに!! あの方こういう変なものを作るのがとても好きだったんです、ランタンならせめて周囲を照らす物にすればいいのにそれではつまらないと幻影だけが出る物にしてしまったんですよ、お陰で役に立たないと奥様にガラクタ部屋に押し込まれてしまっていた代物です」
いや、ちょっと待って。
「グレイ、何で?!」
「ほら……似てる。アズが届けてくれた先代長からの感謝の手紙もこういう風に蝶が飛び交った幻影が一瞬だが見れただろう」
「……あ」
確かに。
いやいや、違うそうじゃない。
ガラクタ部屋に押し込まれてたものを私、買ったんですか。
しかも、エルフの皆さんはこれを変なもの呼ばわりするんですか。
それを知らず買った人間、笑われる予定があったんですか。
複雑!!
私今複雑な気分!!
突然景色が変わり、私とグレイはツィーダム侯爵家迎賓館の裏にある庭園に佇んでいた。
私の手にはランタン。
いつの間にかガラスは通常の向きになっていて。そしてフリュークスさん、どこ行った? もしかして帰った?
「え、なに、何なの今日は。つまみ細工の髪飾りをオークションに出しに来ただけだよね?!」
自然と私は言葉を発していた。
「情報多すぎ!!」
隣でグレイが遠い目になっていた。
グレイセルはチート枠のはずなのに、ジュリがパートナー故かどうもズレているチートになっています。でもこれくらいでちょうどいいのかもしれません。




