26 * 気になる物を競り落としたら
大変申し訳ございません。
本日は予約投稿のミスで2話更新されていることに今気づきました。こちらはその2話目となり、前のお話が本来更新されるお話ですので読み飛ばしされた方、本当に申し訳ありません!
24日に更新されるものでしたので、手直しなどしないままの投稿です。後日内容に多少変化あるかもしれませんので、その点ご了承下さい。
フェ……何とかで作ったつまみ細工の髪飾り。
「今度我が家主催のオークションがあるが何か出品してみないか?」
「あ、じゃあこれどうですか?」
ツィーダム侯爵様が訪ねてきてそんなことを笑顔で気軽な様子で言ってきたので、こっちも気軽な気持ちで出したら固まった。
「……何だこれは」
顔怖い。
で、フェ……なんとかで作った、新しく特別販売占有権に登録したつまみ細工という作り方で作ったお花の髪飾りですよ、これは大きさの違う花が五つも使われててしかも金細工の飾りも使ってるので豪華で私用に作ったんですけど布はまだまだあるので良かったらこれどうぞー、と説明ついでに渡そうとしたら。
「どういうことだ」
「……申し訳ありません」
何故かグレイが怒られた。
「簡単に出品しようとするな」
「えー」
「この布と新しい技術への評価が低すぎる」
「えー」
「……私の話を聞いているのか?」
「きいてますよー。でも侯爵様」
「なんだ」
「布、いっぱいあるんですよ」
「そんな馬鹿な話があるか」
「いやホントに。三反あるんです、一色は私のドレスに仕立てますが」
「……」
「ということでどうぞ」
無理矢理渡したよ。
ヤケクソ? ハハっと笑ってから受け取ってくれた侯爵様の話では今回ツィーダム侯爵家が主催のオークションは主に珍品を扱うらしい。ツィーダム領は複数の輝石の採掘量が国内でも有数で、昔からその輝石のオークションが定期的に開催されてきたオークション開催地として有名らしい。そんな侯爵家が不定期で開催しているのが珍品オークション。
「あ、じゃあちょうどいいじゃないですか。珍品ですよそれ」
「法王陛下の御下賜品を、珍品扱いするのは君だけだぞジュリ」
「反物は下賜品ですけど、それ加工してますからね」
「そういうのを屁理屈というのだ」
あはははっ! 笑ったら睨まれちゃった、お口にチャック。
「それにしても、布がこのように立体になるのは面白いな」
せっかくなので出来上がったつまみ細工をずらりと並べて見せる。光沢と不可思議な七色の波紋を放つフェ……なんとかで作られたものはもちろん、様々な色のつまみ細工がテーブル一杯に並ぶと壮観よね。
「今ツィーダム侯爵家用にもフェ……何とかで作ってますのでそれはでき次第お届けしますね。今回主だった知り合いには加工してプレゼントする許可をバミスに貰っているので安心して下さい」
「そうだったのか、では遠慮なく貰おう」
「はい。他にもここにあるもので良ければいくつかお持ちになっても構いませんよ。いつもお世話になってますし」
「ほう、いいのか?」
「奥様にどうですか?」
「エリスか? あれはこういう華やかなものは身に着けん」
「あー、そうでした」
あの奥様ね。うん、お花の髪飾りとか、着けてるの想像出来ません、ごめんなさい。
ツィーダム家のオークション、気になるなぁ、と思ってたら招待状貰っちゃったのでグレイと二人でこっそりやってきましたツィーダム侯爵家迎賓館!!
何故こっそりかというと、ちゃんとしたオークションなので正装必須なんですよ、お仕事じゃないので 《ハンドメイド・ジュリ》の正装は堅苦しくなるんですよ。となると、着るのはドレスになっちゃうんですよ。緩いのしか着たくない。
なのでお忍びで裏からこっそり覗くことになりました。
「欲しい物があれば言ってくれ、参加するから」
「あ、ホント? じゃあ出品一覧見てもいい?」
出品される品が並ぶバックヤード的な場所の隅っこに用意されたカウチに並んで座る私達。渡されたオークション品の一覧を上から順に目を通す。ちなみにフェ……なんとかのつまみ細工髪飾りは後半の目玉の一つになってた。
「しかし、この商品名と説明文見ただけでも珍品ってわかるのばっかりって凄いわね、欲しいかどうかは別として見たい気持ちになっちゃう」
「この珍品オークションは不定期だからなおのこと、ジュリと同じ気持ちの者は多いだろうな。この珍品には曰く付きも含まれる、その手の物を集めるコレクターも少なくないからこのツィーダム家のオークションはいつも大盛況だ」
「あー、呪われた指輪とか?」
「そうだな、好き好んでなぜそんなものを欲しがるのか私には理解できないが」
「大丈夫、私も理解できない」
そんな話で二人で盛り上がっているうちにオークションが始まった。
しかしこの珍品オークション、さすが異世界といえばいいのかな。
「……あれがドラゴンの涙? ガラス玉にしかみえないんだけど。それよりも何で涙がアレになるのよ」
「ガラス玉……そんなことを言うのはジュリだけだ」
「ねえ何で固まるの、凝固剤でも入ってる?」
「そっちか……」
「『イゼッタ・カーンの髪の毛』って誰が欲しがるのよ、その前にイゼッタ・カーンって誰」
「五百年前に実在したバールスレイド皇国の英雄だ。魔物の大氾濫を制圧した立役者で冒険者には彼の伝記を読んで憧れてなる者もいるくらい未だ人気がある」
「髪の毛なんて買ってどうするの」
「さあ……」
「あの量じゃカツラの前髪にもならないじゃない」
「間違ってもカツラにするためには買わないだろ」
「あれ本当にきのこなの? すっごい綺麗!」
「宝石きのこは魔性植物だ、実際に近くにある鉱石を栄養にして育つから一つとして同じものがないのが特徴だ」
「じゃあ、名称にトパーズって入ってるからあれはトパーズを取り込んだってことね」
「そうなるな、欲しいか?」
「いらない、きのこの形の宝石ってダサ……うん、好みじゃないかな」
「ダサいと言いかけたな」
珍品過ぎで欲しい物がない (笑)。
出るわ出るわ、謎過ぎるお品物。説明文で理解していたつもりが現物見ると驚きが増すってなんなのよ。
でもね、そんな中にも一つくらいは興味深いものがあるわけで、とあるものに目が留まる。
「どうした?」
「あれ、欲しいかも」
「……あれ、か?」
グレイが意外そうに出品待ちの品を眺める。
それはね。
エルフの里のランタン
という名称で出品されたもの。
形はありきたりのとてもシンプルなもの。でも光を通す側面、四面がすりガラスとなっている。そのすりガラスは僅かに赤みを帯びていて色を入れたのか、それともエルフによる何らかの不可思議な力が込められているのかは不明。
「詳しい説明がないが、欲しいのか?」
「あ、だめ?」
「いや、ジュリにしては珍しいなと思ったんだ」
グレイから見ると私は無駄遣いを一切しない女に見えるらしい。普段この男が湯水の如くお金を使うのと比べられても困るんだけどね。
「まあ、何の変哲もないランタンだからね。ここで買う必要はないかもしれないけど、何となく気になるから」
エルフと聞くと、色紙を作るきっかけとなった相談を持ちかけてきたアズヴィラートさんことアズさんを思い出す。
あれきり、彼とは顔を合わせることもなく、時折風の便りのように屋敷の門に一輪の花を挿してククマットに来たことを知らせてくれるだけ。
もっと親密になりたいとかお友達として頻繁に会いたいとか、そういうことではない。
ただ、何となくエルフの私達との間にある距離感が好きだな、と不意に思い出すことがあるのよ。
言葉を交わすこともなく、顔を合わせることもなく、手紙のやり取りすらない。
でも『お元気ですか? こちらは元気です』の代わりに一輪の花を時々気の向いた時にくれる。
最近、色んなことで頭を使ったり緊張したり悩んだり。
社員旅行で心を癒やしたはずなのに、毎日忙しさに交じる漠然とした心の負荷になる感情に、『疲れたな』と、思うことがある。
そんな時特に思い出すアズさん。
アズさん、というよりエルフのこと。
隔絶した自分たちの世界を持って、人間とは限りなく接しない。独自の文化と進化で穏やかに生きる人たち。
そんな彼らに縁のあるものが、何となく、本当に何となく気になって、欲しいと思ったの。
これもめぐり合わせとか、縁とかいう物なのかな。
「いいよ、競り落とそう」
「いいの?」
「ああ」
「ありがと」
特に理由を聞かずともグレイが笑ってくれた。こういう時のグレイには本当に感謝しかない。
ふおぉぉぉっ。
うちの旦那様、カッコいいです。
何がカッコいいかって?
競りに参加する旨を侯爵家に伝えてもらってすぐ、グレイは競売場の一番後ろの席に案内された。私は行っても分からないし目立つの嫌なのでこっそりそれをバックヤードから覗いているんだけどね。
ランタンの競売が始まってすぐは微動だにせずただ黙って見てるだけ。いや、お前参加しろよ!! とヤキモキしてたらね、金額が上がって行くのに合わせて買い手が減っていくわけよ。どんどん減って、残り三人、というところで、グレイがすっと手を上げて指で数字を示した。
金額を細かく刻んで競る場合は声に出すらしい。一方、グレイがやっているのは、細かな金額を無視して競る方法で、聞いている限りだと指一本で千リクルらしい。
グレイが一気に金額を跳ね上げていくのでどよめきが起こる。そして他のライバルが振り向いたけれどそれには反応せず前を向いたまま。
そしてライバルが次々脱落、あっという間にグレイが競り落とした。
わあっ! っと歓声が上がるほど盛り上がってちょっとびっくりよ。しかもグレイはそんなことも気にした様子はなくて颯爽と前に行くと競り落とした証明となる魔法紙にサインをして、バイヤーと握手を交わし、主催のツィーダム侯爵様のいる席に向かうと二言三言言葉を交わしただけですぐに戻ってきた。
なんとスマートな!!
「カッコイイカッコイイ!!」
「ジュリの前だからな」
「おぉぉぉっ! 見直したぁ!!」
「見直すとはなんだ」
「え、普段は色々やらかしてるでしょ」
褒めたらその褒め方が気に入らないらしく突っかかって来たのでいつものように二人でゆるいケンカを始めたら。
突然グレイが勢いよく振り向いた。
「な、なに?」
「驚かせてしまいましたか?」
私を庇うように立ったグレイに見知らぬ人物が穏やかで優しい笑みを浮かべて声をかけて来た。
「大変優れた感覚をお持ちになっていますね。私の気配に気づく方に出会うのは久しぶりです。あのアズが気に入るわけです。警戒させてしまいましたね、申し訳ありません。しかし、ここで素性を晒すことは出来ませんのでこのままでご容赦願います」
「……アズ、の知人か、血族か分からないが……ランタンをオークションにかけたのはあなたか」
「はい。競り落とした方とお会いするつもりはなかったのですが、まさか、貴方が競り落とすとは思いもよらず」
「ジュリが珍しく気になると言ったので急遽参加となった」
「そうですか、ジュリさんが」
……ごめん、誰? 全然知りませんけど? という顔をしていたのかも。その人はグレイの後ろからおっかなびっくり顔だけを出している私と目が合うとにっこり微笑んで一礼してきた。
「名乗らぬ無礼はお許しください。この姿も偽りゆえ、名も偽りなのです」
『アズ』という名前と、偽りの名前と姿ということは、自ずと答えは出る。
エルフだ。
「ご縁がありますね」
「え?」
「私もジュリさんの出品される髪飾りを競り落とすので」
フェ……なんとかを使ったつまみ細工の髪飾り。
この姿を偽っているというエルフはあれを競り落としに来たらしい。
「あれ、急遽出すことになったものだから、人気も注目度も低いと思ってたけど……」
「あなたのことは、風の便りで届きますので」
「はあ……」
「では、行ってきます。その後静かなところでお話ししましょう」
こっちの戸惑いなんて我関せずな顔して行っちゃった、エルフの後ろ姿を二人でぽかんとして見送ることになった。
「奇妙な気配だった」
「奇妙な?」
「ああ、あれはワザとだろうな。感じたことのない気配で警戒心を煽ってきた」
「グレイを煽る? ……怖いもの知らずというか、何というか」
「何の意図があってランタンを競り落としたのか探るつもりだったのかもしれないな。それがまさかの私達だったからできる範囲で素性を晒してくれたのだろう」
「あ、なるほど。にしても、あの人が髪飾りの存在を知っててしかも競り落とすって、ちょっとビックリ」
「知ってるのは当然のことだ」
「え、なんで」
「いるぞ、ククマットに」
「何が」
「エルフが」
「……は?」
「時々だが旅人や冒険者を装って闊歩している」
「初耳だけど」
「こちらが気づくとすぐにククマットを去ってしまうんだよ、接触してくるつもりはないらしいから放っておいている。そして風の便りというのもあながち嘘ではないだろう、エルフの力は我々とは全く別物だから直接出向かずとも知る手段の一つや二つはあるはすだ」
衝撃の事実に驚いている間に、さっきの人が宣言通りに髪飾りを競り落としていた。しかも一気に金額を釣り上げて周りがあ然として動けなくなっちゃってそのままはい終了、的な。あっという間の出来事で二人でまた固まってしまったじゃないの。
「大変良いものですから」
戻ってきたその人にどうしてあんな競り落としの仕方をしたのかきいてみたらそう返ってきた。
「この花……全てジュリさんが手掛けましたね?」
「え、ああ、そう。よくわかりますね」
「分かりますよ、あなたの【技術と知識】はすぐにわかります」
その人は、私の目を見た後、今度はグレイに視線を向ける。
「貴方も、わかりますよね?」
「……なぜ、そのことを私に問う」
「強いて言えば感覚で、そうだろうなというものでしかありません。しかし、確かに貴方は判別できていますね? ジュリさんだけが手掛けたものと、それ以外、を。……その力の使い方についてご忠告よろしいですか?」
急にシリアス展開になった?!




