◇アケオメ!スペシャル◇ 何事も程々にと感じた新年
明けましておめでとうございます。
今年もできる限り更新をしてまいりますのでジュリたちお騒がせメンバーを応援して頂ければ幸いです。
新年は駄目な大人たちのお話。昨日(大晦日)に引き続きゆる~いお話です。
初日の出を拝む。
ハルトとグレイと並んで、クノーマス侯爵領の海岸線の切り立った崖の上、良い一年でありますようにと祈る。
凍てつく寒さも雲ひとつない遮るもののない水平線から昇る太陽を見つめると不思議と心地よくさえ感じる。
互いに良い一年になるといいねと声をかけあった。
うん、いい一年の始まり。
の、はずだった。
どうしてこうなった。
この世界、テーブルゲームが充実している。チェスに似た物はもちろん、トランプもあるしそれに似たものも国の数だけある。双六もあるしボーリングを縮小したようなものも。それはおそらく未発達故の事だと思う。娯楽の少ないこの世界なのでテーブルの上で気軽に遊べるものが自然に発達したのかな、なんて思ったり。
なので無いと知ってちょっと驚いたものがある。
ジェ○ガ。
同じ形の細長く四角い棒状の物を積み重ねて、順番に一本ずつ抜いていくあれ。
単純だからありそうだなぁと召喚された頃に探したんだけどなかったの。ベイフェルア国がないのかな? とマイケルやリンファに聞けば、やっぱりないということが判明。その時は特にやりたいと思ってた訳でもなく単にあるかな? という疑問を持っただけだったので暫く存在を放置して、そして忘れたの。
そしてある日ふと思い出したわけ。
木材なら簡単に入手出来るのでライアスに作って貰ったらいいんじゃない? と。
完成したそれは、単純なルールなのでフィンとライアスにも好評でこの家に来ると時間つぶしの定番になりかける程。
グレイも、『奥が深い』とか言い出してライアスにもう一セット作って貰うとローツさんとお酒を飲みながらやるくらいには楽しんでるんだよね。
それでこれを商品化しようかなんて話になっていたんだけど、ね。
実はハルトには内緒にしていた。
理由はね。
面倒くさい。
ハルトはとにかく、こういう勝敗を決める事になると面倒臭い男になる。
くじ引き然り、ビンゴ然り。好きなのよ、こういうドキドキ要素のあるゲームが。その場を仕切って皆を巻き込むほどに好きなのよ。だから暫くは黙っていようと決めたの。
「「あ」」
ライアスとフィンがマズい、と言いたげなそんな声を出した。
初日の出を拝んで戻ったら、ルフィナは炬燵にすっぽりと埋もれるようにして爆睡していたので、そっとしておこうと私達はフィンとライアスがいる居間に向かった。朝ごはん一緒に食べようって声をかけるつもりでね。
そしたら二人がやってたんですよ。ちょうどライアスが一本抜いた所に行っちゃったんですよ。
そして起こったわけです。
面倒臭いことが。
「もう一回勝負だ!!」
「もう、止めないか」
「勝ち逃げ許さねぇ!!」
魔法含むチートな能力を一切使わずハルトとグレイがジェ○ガで勝負をしている。
かれこれ、五時間。
グレイがもうげんなりしてるのにハルトが全く引かない。
面倒くさいと思い始めた頃グレイが手抜きをして負けた。それがハルトのやる気に火を付ける羽目になった。それならば強引に逃げ出そうとしたグレイに対してハルトが言い放った。
「そこから立ち上がれない魔法かけるぞ」
こんな脅しをグレイに言えるのハルトだけだよなぁなんて感心をしたことは、グレイには言えません。
グレイから助けてくれという視線を向けられるけれど。
「男の勝負に口出すなよ」
とハルトが睨んでくる。
なので放置。
頑張れ、旦那。ハルトが飽きるまで面倒見てやって。
そして夕方。
「何があった……」
ついそんな声が漏れた。
グレイはテーブルに突っ伏して、ハルトは椅子で仰け反って、動かない。
一体なにがどうなって、ジェ○ガで疲労困憊になりピクリともしない事態に陥るのか。
「生きてる? 死んでる?」
「……生きている」
「どういう状況よ、これ」
「……真剣にやると、神経が擦り減るんだな。侮れん」
グレイが弱々しい声で呟いた。
「こんな状況になる人、未だかつて見たことないけどね」
新年の挨拶にとリンファとセイレックさんがお酒を持ってやってきた。
マイケル、ケイティ、そしてジェイルくん達もケイティ手製のパウンドケーキやプディングを持ってやってきた。
ローツさんとセティアさんはフォルテ子爵家から届いたという高級フルーツのお裾分けにとやってきた。
さすがにこの人数だと狭いフィンとライアスの家だけど。
「もう一回やりましょう」
「よし、次は僕が一抜けしてみせるよ」
「グレイセル様と何度もやってるのにな、ちょっと悔しいぞ」
「……あと、一回、な」
「……私は、止めていいか」
セイレックさんが初めてやるジェ○ガにドハマりして再勝負を要求、二番抜けになったことが納得いかないマイケルが乗った。ローツさんも負けず嫌いが表に出始めてヤル気に火が着いた模様。
ハルトは、目が据わって怖いことになっている。
グレイは、目が遠くを眺める黄昏れた状態。
三人と二人の温度差に、ジェイル君が首を傾げている。
「ジェイル、ああいう大人にはならないようにね」
「ああいう大人って?」
「遊びにハマって抜けられなくなって、廃人になることよ」
「ケイティ、言い方」
呆れた顔をするケイティはケーキを切り分け皿に乗せながらため息。
「あの、これはいつまで続くんでしょうか?」
セティアさんが男たちの異様な空気に首を傾げた。
「全員潰れるまでじゃない? 大丈夫よ、死ぬわけじゃないもの。ただ、明日人として使い物になるかどうかは分からないわね」
リンファは早速切り分けられたケーキを頬張り満足げ。言葉は不穏だけど。
フィンとライアスは毎年恒例、ご近所さんたちと集まってどんちゃん騒ぎをするからとメルサの家に行ってしまった。気を遣う相手がいなくなったこともセイレックさんたちの負けず嫌いを開放する要因となったことは否めない。
更に数時間。
ジェイルくんは日付が変わる前に睡魔に負けたのでケイティと共にこたつで温々睡眠中。
ルフィナもそれに便乗して爆睡中。
こたつ初体験のセティアさんは私とリンファと一緒に三人の睡眠を邪魔しないようにヌクヌクしながら小声でお喋りしてお酒を飲んだりとその心地よさを満喫。
「……まだやるのかしらね?」
リンファは扉の向こうから聞こえる男たちの声に失笑してからそんな疑問を口に出した。
「……やるのだと、思います」
セティアさんは苦笑。
「今のは審議じゃないかな?!」
「そんなことはない!」
「いや、審議ですね!!」
マイケル、ローツさん、セイレックさんのそんな声が聞こえる。
グレイとハルトの声が聞こえない。
……大丈夫かな?
新年早々、ゲームをして一日が終わり、日付が代わったことも気づかぬ男たち。
この様子だと三人は徹夜だ。
二人は、うん、突っ伏してるのと仰け反ってるのが目に浮かぶ。
新年だからいいのか、いいことにする。
というか、グレイとハルトはその場から逃げてくればいいのに何故未だに留まっているのか。
「マイケルに脅されたんじゃないかしら?」
「あー、手が腐る呪詛を掛ける、とか?」
「……聞いたことがあります。それ、本当なんですね」
「そうなのよ、マイケルならやるのよ」
「ということは、マイケルが潰れないと終わらないってことだ?」
「先が長そうねぇ」
「長そうですね」
小声で語る私達。
どこか面白おかしく話せるのは他人事だから?
いや、他人ではないんだけどね。
とりあえず、女同士の語り合い、つまり女子会はとても楽しいので良しとする。美味しいお菓子とお酒と料理を好きに食べて女同士だからこそ話せることを話すのってサイコー!!
うん、いい一年の始まり!!
…
翌日、五人がジェ○ガをしていた部屋の扉を開けた私達は、死体が転がってるようにしか見えないその光景を見なかったことにして扉を閉めた。
ライアスとフィンには目覚めるまでそっとしておいて欲しいとだけ言付けて、私達は温泉に行こうというケイティのお誘いに乗っかってその場を後にし、旦那のことは取り敢えず忘れて正月休暇を満喫した。
この駄目な大人たちが新年の定番になりそうです。
改めて本年も『どうせなら〜』を宜しくお願い致します。
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