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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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3 * ハルト、今回の件について考えるの続き

引き続きハルト回です。主人公出てきません。



 こいつ、出来ることなら侯爵家の領地に移り住んで、グレイに近づいて、部下として仕えるつもりだったからな。

 あわよくば、妻の座に……。

 って、絶対狙ってたと思う。

 はっきり言ってやらなきゃな。【隠密】でいることしか許されなくなったお前の居場所はここだって。

 グレイセルの隣じゃない。


 それにあいつ。


 ジュリのことが好きだ。


 見てればわかる。

 ジュリは製作に夢中だから気づいてねぇけど (笑)。いや? あれは気づいてるけど気づいてないフリしてる可能性もあるな。

 フィンやライアス、ジュリに関わる女どもは皆気づいてる。

 グレイの態度はジュリに好意を寄せていてそれを隠してもいないことがわかる。真っ直ぐジュリしか見ていない目をしている。


 俺の勝手な推測だけど。

 レイビスはジュリの周辺を探る上でグレイのそういう姿を見ているはずだ。

 だいたいさぁ、グレイ。ジュリの隣にばっかりいた。ジュリばっかり構ってた。

 知ってるか? あいつ自分の誕生日祝賀会で、自分を狙ってた未婚の女全員に

『私は働く女性、自立心のある女性と結婚すると決めている。老後の蓄えを自分で稼いで小金持ちになってやる、というしっかりした将来の目標を持っている女性にしか惹かれない』

 って言ったんだぞ。

 お前それ、貴族の令嬢絶対無理じゃんっ!! なんだよその異常に偏った妻の理想像は!! てかそんなのジュリだけだろ?!

 って、その場でツッコミ入れなかった俺は誉められていいと思う。

 しかもダンスをすることになった令嬢とは、信じられないくらい雑で振り回さんばかりの荒いリード。一曲踊り終わった令嬢は見るも無惨にぜぇぜぇ息切らして髪は乱れまくって即化粧室送り。そんなグレイに五人が挑んだ後は、誰一人としてグレイに近寄らなかった。


 ……最悪だろ、あいつ。手段選ばなくなってきたぞ、マジで怖いぞ。


 とにかく。

 グレイはそんな男だ。ジュリのせいで、おかしな価値観になって、それでいいって開き直ってるから始末に負えない。

 だからな。

 レイビス、お前に振り向くことはないんだ。

 グレイは侯爵家の人間としてあの土地を守ってそこで生きて死んでいく。

 そして、絶対にジュリを取っ捕まえる。あの手この手で捕まえて離さない。

 お前に構ってる暇がないどころか、お前のことなんてそう時間も掛けずにただ過去の人としてその記憶を薄れさせる。


「お前はさ?」

 俺の問いかけにレイビスが肩をびくりと跳ねさせて、王妃も視線は俺に向けたままだ。

「ジュリに【変革】の力があることを知って、ジュリがそれを周りに話してなかったことを恨んでるだろ、あいつが話してれば店に行く前にあいつのことを調べてもっと対応は違った、とかさ。……けど、俺が調べた限り、お前ちゃんとジュリについて調べてねえよな? お前がやってたのは、グレイの近くにいるジュリを調べてただけだ。【技術と知識】をもつジュリを、ちゃんと使命感を持って調べてたらあんなことにはなってねえよな?」


 すっかりレイビスが縮こまってしまった……。

 俺に諌められるってことよりも、自分の気持ちを知られている上に、それを王妃に知られたことが嫌なんだろう。

 グレイにそれなりの好意を寄せていることを王妃が気づいていることは自覚してただろうけど、内密にジュリを調査して接触するっていう命令からいつの間にか逸脱した原因にグレイへの思いが関係してるなら、その事について王妃が何らかの対策をとるのは明白だ。

 レイビスは王家に仕える【隠密】だからな。仕事に差し支える環境から『隔離』しないと後々面倒なことになるだろ。


「ジュリが、ただ楽しく面白く生きてるだけと思ったか? 異世界から飛ばされてきたんだぞ?明日死ぬから死なない代わりに異世界に来いって半ば強制で俺たちはこの世界に連れてこられた。そんなやつがただ暢気に男に守られて生きてると思ったか? ナメんなよ異世界からの人間を。そんな生き方してる奴なんて一握りだ。あとは皆、必死でこの世界で生きてくための、生き残るための方法を模索してる。ジュリが店を始めたのはこの世界で金を稼ぐためだ。生きるための金を得るためだ。それに、あいつは誰だって可愛いものや綺麗なものを買う権利がある、金持ちだけの特権じゃないって、それを変えたいって、信念がある」


 あ、レイビスが泣いた。ポロっと涙落ちた。

 こういうの見たい訳じゃねえんだけど、さ。

 やりたくてやってる訳じゃねえよ、俺も。

 けど、今言わなきゃこいつまたグレイに何とか近づこうとして、そんでジュリに嫉妬して、またなんかやらかして王妃の顔に泥を塗るだろ? この国に必要な王妃だ、それの足手まといになるだけだ。

 レイビスは王妃の遠縁で可愛がられてるけど、王妃が失態を庇ってやれるのも限界がある。次問題起こせばジュリやグレイと無関係のことでも他の腹心たちや城の重鎮が黙ってる訳ねえよ。


「お前はな、ジュリに敵わないんだよ。不純な動機を織り混ぜたお前の使命なんて、異世界から飛ばされても逞しく生き抜くジュリの信念に潰される。神はジュリをこの世界に遣わした。それは必要だからで、人として褒められるべき行いを元の世界でしたからだ。あいつの『自分のために』っていう思いは『誰かのために』にと繋がってる 。独りよがりの感情じゃないんだよ。……なぁ、レイビス。頭冷やせ。お前はこの王家の【隠密】、そして神を怒らせ制裁を加えられた。俺もどうしてやることも出来ねえ。頭冷やして、自分がすべきことをよく考えろ。したいことじゃない。すべきことだ」


 すると王妃が腰を上げて、一段高いところから降りてきた。

「レイビス、お前には私からも罰を与えなければならないわ。今回の件、私に力を貸してくれる大臣のごく一部が知っています。事の顛末を話さない訳にはいかないし、罰しなければその信頼も揺るぎかねない。わかってるわね?」

「……はい」

 無造作に涙を拭いて、レイビスが頷いた。

「今後、ジュリに関する調査や交渉にお前が関わることを禁止する。ジュリは侯爵家との親交がある、ゆえに侯爵家とその親族、そして仕える者たち全てへの接触も禁止する。これが守れない時は、ここを出ていきなさい。そして好きにするといい。私に仕えられない人間はいらないし、どうなろうと知ったことではない。それが嫌なら、全身全霊で、私に仕えることよレイビス」

「はい、心して。私は……忠誠を誓います。これからも」

「その言葉、二度目よ。三度目はない、覚えておきなさい」










「わざわざ申し訳なかったわね。何か礼を用意させるわ」

「いいよ別に。そんなつもりでお節介した訳じゃねえし。俺はただ放置したらジュリもグレイもレイビスも余計な苦労を背負うだろうなって思ってさ」

 王妃が苦笑した。

 さすがの王妃もこんなことになるとは思ってなかっただろうな。

 レイビスは王妃の従姉の旦那の兄弟の娘? とか聞いてたけど、【称号】【スキル】持ちで身体能力の補正もある、学校でも成績が良かったらしい。それで異例の出世をしたと聞いてる。コネを利用しても問題ない資質だったし、人当たりは良かったから今まで誰も文句は言わなかったけど、これからはそうはいかないだろう。

 ジュリは【技術と知識】がある。次期侯爵夫人が社交シーズンで新しく持ち込んだ扇子に付いてた小さな飾り。ギラギラした宝石の新しい流行のデザインを競う貴族たちに与えた衝撃は大きかった。ジュリの存在を伏せていたので気づく奴は少なかったけど、目敏(めざと)い奴は侯爵家に守られているジュリに気づいた。

 店のオープンの時に何人か見知った家の執事や侍女が並んでいたってグレイも話してたからな。

 社交界に小さい飾りだけで衝撃を与えたジュリを王妃が無視するわけがない。

 慎重に慎重に接点を持ってジュリを探ろうとしていたのはジュリについて相談していた重鎮を見ればわかる。今、国を何とか支えている重要な奴等だ。

 それをレイビスも見てたんだけどな。考えれば分かることだよな、どれだけ王妃がジュリの動向を気にしているのか。

 ジュリとの交流どころか接触を図る計画からやり直しになった。ジュリの不興を買って、神を怒らせた。


 お咎めなしは、あり得ない。王妃の立場や重鎮達との強い繋がりの継続を考えるなら。


 ま、王妃の言ったことが妥協案というか落としどころか。

【称号】持ちで王妃に絶対服従を誓った人間が役に立たないわけがない。重鎮たちも貴重な人材を無駄にしないで済むなら王妃の判断に口出しはしないだろう。ま、されたとしてもそれはレイビス自身があとはなんとかしろってことだ。そこまで俺も関与はしない。


「それにしても、美しいわね」

 王妃が笑顔を溢した。こんな風に笑う顔はなかなか見せない人だから貴重だろう。

「すごいだろ? 俺もさすがにビビったよ。技術が限られてる世界でよくもここまでやったもんだって」

 王妃の目の前にはドレスを着た奴が二十人で食事出来るテーブルがある。そこに適度に間隔を空けてずらりと並んでいるのがジュリの店で買えるものだ。一応今回は侯爵家からの献上品ってなってるけど、ジュリがレイビスを追い返すように押し付けたものだから、箱に無造作に突っ込んであった。レースにシワが寄ってるのはそのせいだ。

 これを並べた侍女や執事、それからそれに立ち会った重鎮たちもかなり驚愕して、そして目をギラギラさせてたな。


 並んで買え。


「どれも使うのが楽しみだわ。この小さなガラスに花を閉じ込めたような飾りは、頑張ったご褒美に侍女にでもあげたら喜びそうね」

 擬似レジンで固めた押し花のパーツを手に取って、王妃が窓から差し込む光にかざしながらそう言って笑った。

「ま、欲しかったら使者に買いに行かせればいいさ、俺もたまに運んでやってもいいしな。勿論タダじゃないけど」

「それなら使者を出すわ、ハルトに任せたら手数料といってバカみたいな請求をされるでしょうから」

 王妃が面白おかしく笑い飛ばした。


 とりあえず、今回の件は沈静化したと判断しよう。この先どうなるかわからねぇけど。



グレイセルがジュリからプレゼントを貰って自分の誕生日祝賀会でやらかした事にハルトは触れてますが、ハルトの表現は優しいと思います。作者的にはグレイセルは一歩間違うとヤバい性格だと思ってるので、祝賀会はそれはもうひどい有り様だったのではないかと。

令嬢たちが可哀想なので詳細については書きません(笑)。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  化粧室送り(笑) この表現好きです!
[気になる点] そもそも、密偵なんて送らないでハルトを接点にコンタクトすればそれで済んだのに・・・
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