表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

348/638

25 * 土の次は砂

 白い人? は白土部門の従業員やそれに準ずる人たちに直ぐ様伝授され、気付けばあっという間に派生品が提案されてきた。

「へえ、これは面白いね」

 声が弾むくらいには面白いアイデアがあった。

 白い人? がブックスタンドを押すのをアレンジした、『棚を支える、ぶら下がる人』なるもの。

 壁に板を棚として設置する際にその強度と耐久性能を上げるため、壁の棚の裏にネジや釘で固定し支える金具がある。こちらの世界では金属よりも三角形の木片が金額的に安いこと、加工しやすいことから木製の物が多く出回っているんだけど、その三角の斜辺に白い人? が様々な姿でくっついているものが見た瞬間笑いを誘って来たので声を出して素直に反応したほど。

「うちの店で売る商品としては難しいから、これを金物屋とか、棚を設置してくれる何でも屋にオプションでこれに出来るよ、って置いてもらうのもアリかなって話になったのよ」

「え、それキリアが思いついたの? 流石だね」

「ううん、ロディム」

「え、マジで」

「マジで」

 今度は押し黙ってしまった。

 聞けば、この金具や三角の木製部品に白土の白い人? を付けるのはキリアの案だったらしい。けれどその製品の性質上うちの店では売れないかもしれない、とウェラと話していたら不意にロディムがこんなのはどうですか? と提案してきたと。


「例えばなんですが……ジュリさんが開発するものはククマット内の工房至るところで取り扱ってますよね? これも同じように、取り扱いしてもらうんですよ、ただ、普通の品としては売りにくいと思います、だから棚板を買いに来る人は必ずと言って良いほど留め具を一緒に買いますから、その時にこういうのもありますよ、って勧めて貰うんです。特に、メインの商品の付属品を一緒に買うと少しだけ安くなる、そんな特典のような売り方をしているところがありますよね? これもそれがいいと思うんです」

 短期間でロディムは私の販売方法を随分身につけていたことに驚いた。

 あるものを買うとその付属品が安く買えるという売り方は私がククマットで各工房に教えた方法だ。こうすることでいざ付属品が壊れてもその工房で全く同じ規格の物をそのお得な価格で買ったときのまま購入者は入手出来るようにして、工房はリピーターの確保に繋がる。安さばかりを追求してサイズの合わない物を買ったり、素人が見様見真似で作った安定性の無いものを使ってしまい直ぐにまた使えなくなり結局はそのぶん無駄になる、なんてことを減らす効果もある。

「棚の留め具に飾りを付けたい、て人は少ないから売上としては微々たるものだけど……面白さはあるね。ブックスタンドを気に入って、棚もこれにしたいって思う人もいるだろうし」

「うん、ロビンが昨夜この話をしたら早速欲しがってた」

「そうなんだ……うん、グレイとローツさんと商品化に向けて話し合ってみる。いくつかウェラに試作してもらえるようお願いしといて」

「オッケー!」

「あ、キリアはこっちの工房でノルマの特大ハーバリウムとランプシェードよろしくね。何回も言うけど白土からちょっと離れるように」

「……」

 ジト目されてもね。返事して下さい、キリアさん。












 会計士部門長のロビンにも預けてロディムをもっと経営に携わらせるのもアリだな、なんてことを考えながら、キリアは白い人? に未練タラタラな顔をしつつ本日のノルマの作成に取り掛かる。セティアさんと今年のクリスマスの視察へご招待する人たちへの出席最終確認の手紙の文書の確認やレターセットの選定をしつつ、私も今日の作品作りに取り掛かって間もなく。

「ジュリ、到着したから会ってくれるか」

「あー、はいはい」

 外出していたグレイが戻るなり私にそう声を掛けてきて流れるように返事を返すとキリアとセティアさんが首を傾げる。

「誰?」

「以前から探してた人。なかなか条件の合う人がいなくて半ば諦めていたんだけどね、最近ちょうど良さげな人の家族と本人から問い合わせをしてきてくれて」

 そんな説明でも二人は分からない、という顔をしている。


 領民講座では現在様々な習い事が出来るようになってきている。講座に使う部屋も二部屋増えて、朝から晩まで講座でフル稼働しているほど。

 そんな講座でずっと開きたくても開けずにいたのが、絵画教室。

 この世界の画家や音楽家といった人たちは現状貴族や商家、中には王家から支援を受け、後ろ盾を貰い活動する人達ばかり。つまり、パトロンありきの活動となる。派閥はもちろん、その家の威厳や箔付けにも直結するこのパトロン制度が根強いために、じゃあ私も出資しますなんて簡単には言えないという問題がある。勝手にそんなことをすれば先にパトロンとなっていた家とのトラブル必須、しかも画家や音楽家が裏切り行為をしたとして制裁を受ける可能性も出て来るという何とも厄介な関係。

 領民講座でデッサンの基礎はもちろん画材の扱いから選び方、そして初級や上級などその人に合わせた講座を全て担える高度な技術を持っている人をずっと探していたけれど、そういうのに対応出来そうな技術の人は既にパトロンを得ている人達ばかり。引き抜くというのもなかなか難しくずっと開設できずにいたのが絵画教室。


「私も立ち会ってもいいですか?」

「いいよ、面接ってどういうものかロディムも見ておくといいね。うちは基本面接で人を雇うのよ、家の繋がりとか紹介っていうのは二の次、その人の今までの経歴をある程度考慮しつつ、何をやりたいのか、どういう条件で働けるのか、そういうのが最優先されるから」

 私やグレイが実際にどのように面接で人を雇うのかを見てみたい、というその視点もロディムならではなのかな、なんて感心しつつ私たちは()()()が待つ領民講座の入る建物に移動する。

「セティアさんも面接がどういうものか見ておいてね、今後私と一緒に女性を雇うときはセティアさん視点で質問して貰ったりするから」

「わかりました」

 ちなみに……ぜんっぜん、関係ないんだけど。セティアさんの『わかりました』って、なんかこう……従順な、凄く受け身な、純情そうなものを感じるのに、そう返されるとドキッとしちゃう色気も混じってて、謎の高揚感に襲われる (笑)!! 

 これ、男性の商長だったら秒で陥落すると思う。そしてローツさんに殺されると思う。


 そんな面接から激しく脱線したことを考えながら領民講座の建物に到着、グレイの後に付いて私達がとある教室に入るとローツさんと目的の人物がいた。

 いたけど。

「あ、は、はじめましっ!」

『て』を言う前に椅子から勢いよく立ち上がったその人は一体どれほど勢いを付けて立ったのか、椅子と共に後ろにひっくり返るように派手に倒れた。

「おい、大丈夫か?!」

「すみませっ、大丈夫、大丈夫ですっ、あっ!」

 ローツさんが手を差し出して立たせようとしたら、立ち上がろうとして手を倒れた椅子にかけたつもりだったらしいけれど、その手が空振り、ぐらりと体が傾いて、そしてローツさんの手すら空振って、またひっくり返った。

「どわっ!」

「……」

 ローツさんは差し出した手が無駄になったのと、目の前のその人があんまりでどうしていいのか分からないのかそのまま数秒固まった。というか私達も固まった。

「……あれ? ユージン・ガリトア?」

 その奇妙な無の数秒を破ったのが、ロディムだった。

「え? えっ!! アスト、アストハルア公爵令息?!」

「やっぱり、ユージン、君か」

「ああ、そうか」

 グレイは納得した様子で二人を見比べた。


 ユージン・ガリトア。ベイフェルア国中立派ガリトア伯爵家の長男で次期伯爵となるべく王都の学園で学んだ人()()()。過去形なのは、彼は領地経営などに向いておらず早々に弟に継承権を譲ったため。譲って以降、幼い頃からその才を現していた画家としての技術を磨くためにたった一年で学園を退学、テルムス公国の有名な画家に弟子入りしていた。

「伯爵の仰る通りです、ユージンとは一年間だけですが学園生活を共にしています」

 ロディムとは同級生でクラスは違えど互いに継承者として帝王学に通ずる教科を専攻していたので週に何度か同じ教室で学んでいたらしい。もっとも、ユージン・ガリトア曰くロディムは『雲の上の人』だったので挨拶程度しかしたことがなかったらしいけれど。

「ぼ、ぼ、僕のこと、覚えておられたんですか」

「貴族名鑑に記載のある家の子女は君だけではなく会ったことのある人は全て覚えているから特別な事ではないけれど」

 スゲーことサラッと言ったロディム。

「それでも印象的だったな、世界情勢を学ぶ授業で君が何も見ずに大陸の地図を黒板に迷いなくあっという間に描いたことは、今でも覚えている」

「こ、こっ、光栄です!」

 ユージン・ガリトアは緊張したままに、けれど褒められたことが嬉しかったのか強張った顔にうっすら笑顔を浮かべた。


 うん、ユージン・ガリトア。

 キャラが濃いかも(笑)。

 領民講座の雑用を請け負ってくれている女性が紅茶を運んで来てくれて皆の前に置いて、まずは一息つこうとカップを手にしたら彼は指を引っ掛けカップを倒し、その紅茶がセティアさんの方に流れたのを見て慌ててそれを止めようと手を出して『あちっ!!』と手を勢いよく振り上げたらその紅茶がロディムの顔に飛んで『すみません!』と謝ろうと勢いよく頭を下げて、ゴン! とテーブルに額をぶつけ、『いったぁ!』と叫んで。

 この一連の流れに、ロディムは知っていたらしく全く動揺せず落ち着いて『大丈夫か?』と声をかけていたけど、私達はねぇ。

「「「「……」」」」

 たぶん、考えたことは一緒。


(領民講座の講師、任せられるかなぁ)


 だと思う。


 彼の親であるガリトア伯爵が先日直接グレイに手紙で連絡をくれた。

『人伝いに、そちらで絵を教えられる人材を探しているという話を聞きました。相応しいかどうか分かりませんがまずは会ってもらえませんか?』

 と。

 それが息子である彼のことだった。

 きっかけはガリトア伯爵の奥様、ガリトア夫人がうちの店で一目惚れした物を息子のユージンに見せたこと。

 夫人が一目惚れして購入したものは、サンドアート。

 ガラスの器にサンドワームが死んだあとに取れる内臓が砂化したカラフルな砂、カラーサンドを重ねて入れて模様にしてその上に小さなオブジェ等を乗せたもの。

 夫人が折角息子のためにと買ったブックバンドには目もくれず、サンドアートに釘付けになったそう。

『これはなんですか?』と聞かれた夫人は店頭で店員に説明されたまま、サンドワームの内臓に限り砂化したものはカラフルになること、それを作り手の裁量で重ねることで色んな模様に出来ることなどを話したらしい。そこから彼はワームの内臓を手に入れようとしたけれど。

「現状、うちしかアレを仕入れてないからどのギルドも依頼受けてくれなかったでしょ」

「はい……そもそもワームが発生する地域も限られ、ガリトア領には発生しません。しかも、討伐後に砂化した内臓などわざわざ掘り起こそうとしてくれる冒険者パーティーが見つからなくて……」

 うちでもこの砂に関しては使い途が限られているうえに、サンドワームの発生地域が限られていることから現状その地域に実家が近いという冒険者エンザさんのお仲間が定期的に帰る時にお願いするか、強い魔物が発生するロビエラム国内で定期的にハルトが討伐に出るときにそこにも発生するのでついでに採取してきてもらう程度。実際それで十分に間に合うくらい一度に採取出来る砂が多いのでわざわざ他に依頼することがない。なのでワームの死骸が砂化した中からカラフルな部分だけを採取してくれ、という依頼自体が全く世の中に浸透せず、そういうよく分からない依頼を受けようとする冒険者パーティーが全くいない。しかも砂なので重い。運搬だけでも相当なお金が掛かるし重労働なのでの人気の依頼にならない気もしている。


「あの、僕はあの砂を重ねているのを見てどうしても自分でと、思って。でも、それには、砂をどうにかして、入手しなきゃならなくて、悩んでいたら、父が、知人からこちらで絵を教えてくれる人を探してる、そんな話を聞いてきた、と」

 少しだけオドオドした様子で話すのは彼の性質なのか、あまり人とは視線を合わせることなく俯き加減のまま。それでも感じるのは、熱意。

「絵には、自信が、あります、他のことはからっきしですが、本当に、基本を教えたり、そういうことは、師匠の所で学びました、画家として食べていけない時のために、人に絵の素晴らしさを、教えられるように、と。僕、教えることで、お給金が発生すると思うんですけど、そのお金は、いらないです、その代わり、砂を、あのサンドアートに使われている、ワームの内臓、あれを、貰えれば」

 テーブルの上、両手がぐっと、ずっと握りしめられている。

「ご迷惑、かけません、父からは、こちらで絵を教えられるだけでも、それでも十分人の役に立つ、なら、それで僕を支援する理由になるから、心配ないと、言われてきました。クノーマス伯爵と、夫人には決して無駄なお金は、出させたりしません、だから」

「とりあえず」

「……へ?」

「面接しようか」


 ロディムとセティアさんに面接を見せるといった手前、やらないわけにはいかないのでね。

 改めてこちらも名前を名乗ったり、師匠のところではどんなことをしてきたのか、今現在はどうしているのか、そんなことを雑談を交えつつ質問しながら数分。

「凡そ知りたいことは知れたから、面接はここまでかな」

「え、と」

「じゃあ次の段階にいこうか」

「へっ?」

 私はニヤッと、ちょっと悪い笑みを浮かべた。

「面接はここまでといいながら二次面接的な? 場所を移動するよー」

 グレイ以外、訳が分からない顔をした。




感想、評価、誤字報告にイイネありがとうございます。日々の執筆の糧となっております、感謝です!

もし続きが気になる、好みのジャンルと思っていただけたらイイネや☆をポチッとして下さると嬉しいです!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] また濃いキャラの子が来ましたね~ 下手に工房連れて行ったらあちこち壊したりしそうで怖いw
[一言] 二次面接会場って書いて居酒屋ってルビ振られない?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ