◇三周年記念◇ ジュリとグレイセルの怖い関係
三周年記念2話目です。
サブタイトルから予測は出来ると思います。
―――ジュリの価値観―――
相変わらず私の周りでは軽微な恩恵を授かる人が時々いるし、【大変革】で恩恵が強化、もしくは特化された人たちは不思議とその自覚がなく、そうなんだよと私が言ってもピンと来ない顔をしていることが多い。
特にライアスは全くもって不可解な恩恵をフルに活用している。
「……おめぇはハサミだな」
「は?」
人の顔が工具や道具に見えるという謎すぎる恩恵。精密作業が特化されたはずなのに、それに引きずられて彼には私繋がりの恩恵持ちが全員漏れなく工具と道具に見えることがあるらしいのでそれを告げられる人たちは皆『は?』などという返事しか出来ない (笑)。ちなみにグレイは常に腰に携えているクノーマス家の宝剣に見えるらしい。それ、工具でも道具でもなく武器だよね? ライアスの思い込みじゃないの? という問いに。
「そんなこと言われてもな?」
と、本人も何故か分からないという。
「生きる凶器だもんな」
それを聞いて笑いながらそんなことを言い誂ったハルトは三日ほどグレイにその宝剣で真っ二つにされる恐怖に晒され最終的に土下座した。
そんな恩恵によって一番無駄じゃなかろうかという強化をされたのがグレイ。
【自由人の捕獲*改良版】。
私の身の安全の為の【スキル】、そもそも自由人という扱い、納得いかない私。
「そんなことないわよ、あなた相当な自由人よ?」
ケイティに言われさらに納得できません! 私の周りは皆自由人じゃん!
「スライム見つけると見境なく捕まえようとするでしょ。それがキケンな場所だろうとなんだろうと」
以前ケイティとマイケルに誘われ三人でイルマの森に行ったことを彼女は言っている。なんだろうね、私はスライム様を見つけると捕まえたくなる衝動に駆られる。そして、その時透明のスライム様だけど普段よく扱うのより数倍の大きさの特大サイズに遭遇、ポヨンポヨン跳ねていたのに釣られるように飛びついた。そしたら、ポヨンと跳ねて逃げられ、私はどうなったかと言うとその先にあった急斜面にそのままダイブして転げ落ちた。
「私とマイケルは殺されると本気で思ったわよ」
葉っぱまみれで泥だらけで戻った私を見て、グレイは私を説教したその裏で護衛を兼ねた二人はグレイに殺意を向けられたとかなんとか。
「しかもジュリって、ククマット内なら安心だと思って最近は女だけで酒場を転々とするでしょ。あれね、グレイセルは相当ハラハラさせられてるわよ」
「え、色んな所で飲みたい時あるじゃん、だめなの?」
「駄目じゃないけど……あなたのことになるとグレイセルはちよっと、ね」
「ストーカーだからね」
ケイティに微妙な顔をされてしまった。
「ついでに、喧嘩するとジュリはフラッとその場を離れるでしょ」
「喧嘩した時って顔見たくないし。頭冷やすのにちょうどいいし」
「グレイセルは喧嘩してジュリがどこか行っちゃうと情緒不安定で怖いわよ」
「あー、ローツさんにも言われた。機嫌悪いし、不安そうにするし、落ち着きなくなるし、情緒不安定で物凄く扱いに困るらしいよね。面白いよねその状況」
「……笑えるのあなただけだからね。あのグレイセルを知ってるがゆえに、私としては神があなたを自由人認定したのがわかるわ。グレイセルから見たらあなたは自由人なのよ、グレイセルに気を遣ってないもの、振り回してるも同然」
「……ディスられてるよね、私」
とまあ、そんな私なので、【自由人の捕獲】は然るべき処置ということで納得しているというのがケイティたち。処置ってなんだよ、失礼な。
で、それが更に改良版となり私はGPS搭載仕様。ウケる。
「笑えるの、そこ」
「え、笑えるよね?」
「あなた監視されてるも同然よ?」
「ん? それ悪いこと?」
「え?」
「え? 別に困らないけど」
「四六時中監視されてることになるのよ?!」
「うん、でも普段からグレイって私の近くにいるしね? 私の隣が定位置になっててそれって監視より上……上? って表現があってるかどうかはわからないけどとにかくね、そういう感じ」
「……そうね」
「元々あの男は私がどこにいてもふらりと現れてたからGPS搭載になったところで私的にはそれいるの? くらいにしか思えない」
「ジュリ」
「うん?」
「あなたは相当神経図太い」
「それよく言われるんだけどなんで?」
グレイは私のいるところに何故かいる、ほぼいる、というのがククマットの常識。
そう、これは私達が出会ってからククマットの人たちはそういうものだと思っていておかしいことではないという認識。
だっているんだもん、隣に。
いるものはしょうがないよね? 背が高くて筋肉質なので物理的に邪魔なときはあるけど、キリアにタンスとかテーブルと同じ扱いされるけど、基本私の為に何かをしてくれる、守ってくれるので不都合を感じたことはないし。
「それ本気で言ってる?」
ケイティがドン引きしてる。
「結婚して家でもいつも一緒にいて、仕事場だって一緒にいて、何をするにもいるのよ? 一人になれないじゃない」
「そんなことないわよ、一人の時間は確保できるし」
「どうやって」
「今から三十秒以内にこの部屋から出なきゃ離婚ってその旨を認めた紙を突きつけて叩き出せば二時間位帰ってこない」
「けっこう酷いことしてるわね、というかそうしないと一人になれないの?」
「だっていつもいるし、グレイはそういうものなのよ」
「……怖い」
なにが?
そもそも、グレイを『普通』に当てはめる事自体が間違ってると思う。
普通じゃないから。この男を普通と言ったら世の中既に破綻してるから。
「ディスられている」
「ディスってないわよ」
ムッとするグレイは相変わらず私の隣にいる。
「なんでそんな話になったんだ」
「【スキル】の話からかな? ほら、私が自由人っていうのが納得いかないって思ってる話をケイティにもしたわけ。そうしたらグレイから見たらあんたは自由人だって言われて、そんな話が何故かグレイは筋金入りのストーカーってことに」
「ディスっているよな?」
「だからディスってないってば。事実を言ってるだけよ」
「事実なのか」
「事実、それ以外にございません」
こっちはこっちで納得がいかないって顔をしながらお酒を飲んでいる。
「そういえば……GPS搭載仕様になって何がどう変わったの?」
「ん? そうだな……ジュリがいないと気づいたら、それまでは気配を探していたんだが、改訂版になってからはその探す手間が省かれた感じか」
「ほほう、それは便利」
「便利だな」
「頭の中に地図が浮かぶとか?」
「いや、そういう具体的なものではないんだ、ただ直感で方角と距離が分かる。知っている場所ならそこが脳裏に浮かぶようだな。先日ハルトとルフィナの所に行っただろう? 試しに意図的に私が移動してみたんだが、ジュリとの距離が変化したのを感覚的に体が理解できてハルトの屋敷が頭に浮かんだ。方角と距離が明確だから転移も誤差なくできるらしいな」
「高性能になったね」
そりゃすごい。と褒めたら旦那が嬉しそうに笑った。
翌日。
「という話をしたのよ」
「ジュリ」
「うん?」
「そこで褒められるあんたを尊敬する」
「そう? だってすごいよね?」
「凄いけどさぁ……グレイセル様の愛の重さが私は怖い、そしてそれを受け止められるあんたの懐の深さがとんでもなく怖い」
どこが怖いんだ。
キリアはスンとした顔をする。
「いつも言ってるけど、自主ブラックで倒れるのだけは勘弁してね? グレイセル様なら本気であんたを監禁するから」
「それは困る。私じっとしてるの苦手だし」
「そういう問題じゃないからね!!」
じゃあどういう問題なんだと問えば微妙な顔をされたわ。
―――グレイセルの価値観―――
とにかく、欲望に忠実だ。
ジュリは目の前に欲しい物、興味のあるものがあると見境なく飛びつく。
「旦那に酷いこと言われてる」
「真実だ」
何故魔力もなく戦う力も術もないのに魔物に自ら挑もうとするのか理解出来ない。
スライムならまだいい、プチっとすればいいのだ。だが、それ以上は頂けない。
「ぎゃぁぁ! 噛まれた! いや違う、これは挟まれたっていうの?! ちょ、開かないっヤバいヤバいっ一生このままはヤダ!! 痛い痛いめっちゃ歯で噛まれてる入れ歯みたいな歯で噛まれてる!!」
興味本位で、それはもういとも容易く手を出して先日は生きているかじり貝に手を挟まれた。何故手を出したのかというと。
「どれだけ閉じる力が強いか試してみたかった、今日は勝てると思ったのに」
……過去に一度全く敵わず諦めたというのに。
「んぎゃーーー!! 死ぬー!!」
好奇心で、後先考えず、『闇夜』の背に乗せて貰い全速力で牧草地を爆走させ、あまりの勢いに落ちかけて必死にしがみついていた。なぜそんなことをしたのかというと。
「ブラックワームって滑らかに移動するじゃない、音もなくスーーーッって。乗ったら快適そうじゃない? 死ぬかと思ったけど」
……そもそも乗るものではないのだが。
何をしでかすかわからないのだ。
自分でこの世界最弱と自負する割には無謀なことをしたがるのだ。
ククマットから殆ど出ないのは事実、それは大変ありがたい。守るためにも私の精神的な安定にも大変助かる。
しかし、狭い限られた中でも私の想像の斜め上を行くのがジュリである。
だから望んだ。
『とにかく安全に彼女を守り移動する手段があればいい』と。
そうして授かったのがあの【スキル】である。
『捕獲』というのは私が願ったことではないのだが、この【スキル】について知ったリンファに言われた事が衝撃的だった。
「ああ、捕獲でいいんじゃない? 野生動物みたいなものだから」
妻は、野生動物扱いされていた。
「こうだと決めたことがあると人の言う事聞かないし、興味をそそるものがあるとそれにまっしぐら、その割には臆病で警戒心が強くてね。逃げたり隠れたり多分凄く得意よ。野性味があるじゃない」
……確かに野生動物。
「この私の友達よ? 大人しいはずがないわよ」
自慢げに言われても私は困るのだが。
「でも今の状態でグレイは困るの?」
「困らないな。精神的に非常に助かる」
「でしょ」
あまり私の【スキル】の中身に対して不満はないようだ。単に名称が気に入らない、というだけらしい。
「それ言われて本気で嬉しそうにする君は救いようのない……愛妻家だね」
マイケルにもの凄く、もの凄く、可哀想な目で見られたのは何故だろう。
「マイケルの言った愛妻家は愛妻家と書いてストーカーって読むパターンな」
ハルトが冷めた目でこちらを見る。
ダメなのか? 私のこの感覚はおかしいのか?
「まあ、グレイセルだからね。常識は通用しないよね」
呆れた声のマイケルに賛同するようにハルトが深く頷く。
そもそもの話、ジュリが苦にしないなら問題ないではないか。
これで私達は成り立っている。
そう、私とジュリは成る可くして成った夫婦なのだ。
ジュリの隣に私以外がいるなどあり得ない。
「お前じゃなかったらどうするんだよ」
「私になるようにあらゆる手を使う」
「そこにジュリの意志は関係ねえのかよ」
「ないな。私がそうしたいからそうするんだから」
「お前……それ愛されてなかったらマジのストーカーな?」
「??? 既にジュリからストーカー認定されているのだが、どう違うんだ?」
「嫁にストーカー認定されて平然としているお前が理解できない!」
ハルトに泣きそうな顔をされた。何故だ。
愛する妻がじっとしていないなら、そんな部分も含めて身の安全を守るのが私の義務である、夫としての務めとも言う。
そのために【スキル】が進化する、素晴らしいではないか。
そしてそれを妻が気にしていないし周りに迷惑をかけているわけでもないのだからいいことではないか。
「そんなお前のことだ、結婚記念パーティーとか盛大にやりそうだよな」
「やらないな」
「「は?」」
「ジュリが二人でひっそりこっそり祝いたいそうだ。盛大にやるわけないだろう」
「いや、お前は? お前はやりたいんじゃないの?」
「そこに私の意見はいらないだろう」
「え、何で? グレイセルなら『ジュリの為に』って凄く張り切ると思ってたよ」
「なぜジュリが夫婦のこと、私的なことでやりたくないと思うことを私がやらなくてはならないんだ。確かにジュリの為に盛大にやりたいとは思うが、それよりもジュリが喜ぶことをしたい。ジュリに嬉しいありがとうと言われたい。ついでに愛してるとか大好きと言われたい。そのためならば何でもする」
二人が押し黙った。
私は何か変なことを言っただろうか?
―――ハルトとマイケルのまとめ―――
「グレイセルは本当に常識が通用しない……」
「その、常識が通用しない男と結婚生活成り立ってるジュリも常識が通用しないと思うぞ」
「ほんと、あの二人似てるよね」
「あの二人を見てて砂吐くって思ったこと殆どねぇんだけど、それってさ」
「あの二人の恋愛や結婚の価値観が壊れてるんだよね、きっと」
「理解してやれないっ」
「してやれないね」
こちら、グレイセルに【自由人の捕獲】を与えた時点で大まかに執筆していたものです。そこに話が進んでいく中で修正して、せっかくなので三周年で出そうと決めて色々追加して出来ました。
グレイセルは最初からジュリが好きすぎるという設定上どうしてもストーカー寄りになってしまっているのですが、では、それをジュリはどう思っているのか? というのもこれで少しお分かり頂けたかと。
ぶっ飛んでますよね、二人共ぶっ飛んでるんですよ(笑)。いや、病んでる……かも。
とりあえず似た者同士、お似合いということになりますこの二人。
明日は3周年スペシャル三話目。
緩る緩るなお話です。




