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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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3 * ハルト、今回の件について考える

主人公出てきません。あの後あの人どうなった? という裏話的なお話になります。



 あーあ。

 そう声を出しそうになって俺は咄嗟に息を飲み込んだ。本当に声が出そうで。

 何かしらやらかすだろうとは思ってたんだよ。

 だから王妃に言ったのに。王妃も返事一つで俺の助言には以前頷いてたから何となく分かってはいたんだな。


 ジュリに接触するならジュリ個人のみを見極めろ、侯爵家の人間まで一括りにして監視させるな。十分配慮しろ、クノーマス領の人間は今やどんな権力よりもジュリを優先する。それくらい影響力を既に見せている。そんな相手に私情を挟みかねない人間は絶対接触させるな。


 ってさ。

 言ったんだけどなぁ。一人、王妃の腹心でそれに該当する奴がいるから、そいつだけは出して欲しくなくて、本人がいる前で遠回しに『お前のことだぞ』って意味も含めて。


 ……伝わってナカッタデスヨー!!


 で。案の定やらかしてんだもんなぁ。王妃が怒って扇子投げつけるわけだよ。この頭のいい王妃怒らせる腹心なんていねぇと思ってたんだけどなぁ。やっぱこいつもまだまだだ。


「お前はっ、何をしているのです! 私は、いずれ会う機会があれば挨拶をかねて城に招きたい旨を伝えること、そして彼女の素質を知るためにも彼女のやり方に従いそれを報告せよと言ったはず、それをっ……!」

 この国の王妃、まだ三十二歳だけどえらく頭のキレる女だ。この王妃がバカ国王の後始末をやってることは城での暗黙の了解だ。母親の皇太后が功績を残して今でも国で絶大な人気を誇るのに焦りとか嫉妬とかあるんだろうな。国王は手当たり次第に国費を使ってワケわからんことやって功績を出そうと躍起になってんだわ。


 大変だよこの国も。


 で、今回のこと。

 王妃は内密にジュリに接触してなんとか関わりを持とうとしたわけだ。クノーマス領の劇的な変化をちゃんと察知していたからな。

 国王が放置していて無関心だから、多少なら王妃も人を動かせる環境だとわかって、ようやく動き出した。ジュリが長らく王家に放置され、公爵という権力の塊には厄介者扱いされて、間違いなくジュリから良く思われていないことも分かっていた。だから慎重に柔軟な対応を……ってなったはずなんだけど?


 王妃の身内への甘さが出た結果、だなぁ。


 レイビス。

 この世界の人間もたまに【称号】を与えられる。それがこのレイビスって女も幸運にも持って生まれたんだ。まだ二十歳だが結構期待されてるんだよ、身体能力も高くてまさに【隠密】向きだし、王家への忠誠心も高いから騎士団や魔導師団にも顔が利いて重鎮たちも可愛がってはいた。

 けどなぁ、うん、厄介なんだよ。


 グレイセル・クノーマスに惚れてるときたもんだ。


 好きすぎて崇拝してる感もある。

 グレイが王妃や国王の護衛をしてた期間はそう長くない。元々領地に帰る人間だったしな。それでも俺と喧嘩出来る才能を持ってるグレイだ。王妃も国王も実は手放すのを渋った。そのせいで三年の任期が五年になってようやく領地に戻って今に至る。


 任期を延ばすことになった原因、このレイビスが関わってたりする。

 こいつが泣きついたんだ。

「まだグレイセル様から教わりたいんです。あのように才能ある方をどうして慣例だからとたった三年で手離すんですか。お願いです、私たちに機会を与えてください、もっとあの方から教わりたいと思う騎士は多いのですから」

 てな。

 実際、騎士団もグレイを領地に帰してしまうのを惜しんでいたけどさぁ。

 レイビスはそいつらを利用した。

 王妃も自分の腹心の、しかも血縁者のレイビスには甘い。


 それが仇になった。


 グレイが城での地位を得ようと任期を延長したと重鎮や大臣に勘ぐられることになっちまった。

 それでクノーマス侯爵家は圧力をかけられた。公爵家二家からな。他所と小競り合いが続いてる伯爵領への支援金の増額と志願兵の増員をあの家だけ課せられた。あれでだいぶ侯爵家は荒れた時期があったんだよ、資産の切り崩しとか港の関税の見直しとか、金を作る必要があってな。


 あいつが騎士として騎士団団長として、王族の護衛の延長期間を二年のみって誓約書を用意して、それこそ不敬罪だと咎められるのを覚悟してまで王妃にサインを迫った時は、志願兵で出した領民に死者が増えた時だ。

 あの時の鬼気迫る顔は今でも忘れねぇよ。


 しかしさ、そういうのにこのレイビスは全然気づかなかったんだから【隠密】って称号も役に立たねぇなって思った。場の雰囲気とか自分の周りを過敏なくらい感じ取れねぇ奴が【隠密】なんて称号使いこなせるのか?

 恋は盲目? その前にお前は王家の腹心だろ、余所見してんじゃねぇよって言ってやればよかったな。

 今さらか。


「申し訳、ありません……」

 レイビスがいまにも泣きそうだな。当たり前だ、こんなに怒りを露にして王妃に怒られるのは初めてだろうしな。

「お前は私の何を見ていたの。そして、グレイセルから何を学んだの。お前がやっていることは今……全力で私が、無くしていこうとしているものです。それを、それを……いつからお前はそんなに」

「まあまあ」

 つい口を出したくなった。俺も言いたいことがある。


「王妃、ジュリのことは侯爵家に任しておけって。あそこは家族でジュリと親しくしててさ、良い関係だ。【技術と知識】と相性が良い土地だし、【変革】も相乗効果でジュリにもあの土地にも侯爵家にも互いにいい影響を与える。下手に口出ししなければ国の要の外貨獲得の土地になる」

「しかしハルト。その【彼方からの使い】に王家が不適切な対応をしたあげく今回の件があるわ。出来れば正式な謝罪をしたい、それ位は許されないかしら。国王は私が説得するわ、だからこの王宮に招き私が直接謝罪を」

「ストップ、それは止めとけ。【選択の自由】の強制力が想像以上に強い。あの【神の守護】はやたらとジュリと相性がいい。本来はレイビスとのやり取り程度で発動しないようなものだ。なのに、その場で与えられて発動した。ジュリの感情に左右されている可能性がある。ジュリはこの王宮なんて来たがらないぞ? 呼んでみろ、ロクな事にならない気がする。それとな、レイビス見れば【選択の自由】が、この王宮に多い【称号】や【スキル】持ちにとっては厄介だぞ。下手に関わらせたらレイビスの二の舞だ」

「……え?」

 レイビスがうつむいていた顔を上げた。

「どういうこと、ハルト」

 そして王妃が訝しげな目を向けてきた。


「レイビス、お前の【隠密】に『裏条件』ついてる」


 こいつには驚いたわ。

 この『裏条件』、実は俺以外で鑑定出来るやつ見たことないんだよ。

 つまり、神の力で【スキル】【称号】にこっちの世界の鑑定士には見えない力が作用してるってことだ。

 こいつが結構エグい。

【勇者】が【スキル】の使用停止されたりしてる、あれは見えるんだよ。見えるってことは、本人の努力とか改心で何とかなるチャンスがあるってことだ。

 けど『裏条件』は俺にしか見えないし、本人も気づかない。鑑定士も見えない。つまり、神がこっちの世界の人間じゃ外せない一生逃れられない枷をはめたってことだ。俺もこれは見えてもどうしてやることも出来ない。

 俺が持ってる【スキル:切断】が跳ね返される。この『切断』って、なんでも切れんの。【スキル】も【称号】もだけど、魔力とか知能とか運とかなんでも。要するに特定の人間から俺たちのよく知るゲームの設定にあった『ステータス』と呼ばれるものから任意でそれを消す能力だ。

 あ、これもエグいよな (笑)。大丈夫、今まで悪人にしか使ってねぇから。


 この『切断』がレイビスに付けられた『裏条件』に歯がたたない。

 やるとさ。


『効果が無効化されます。有効にする場合は神の許可が必要です。その前に【神と対話】しますか?』

 ってなんの。

 え、外すの神の許可必要なのか?! だし、気になったから【神と対話】したら


『これを有効にした神は別だから俺には対応できないぞ? したいなら裏条件付けたその神紹介するけど?』


 って、俺の相棒とも言える神がサラッと言ってた。

 え、他の神なの? それってジュリの召喚決めた神でしょ、てことは絶対『切断』許可するわけないじゃん!! てか、話を絶対聞いてくれないと思うな!!

 という、なんともエグいものなんだな。


「裏条件、ですって? まさか、そんな、あれは真偽が定かではない話で……」

「王妃は聞いたことありそうだな? そう、こいつジュリの召喚に関わった神に【称号】に裏条件つけられてんの。レイビス、分かるか? 裏条件って」

 レイビスが首を横に振る。不安げに、俺を見上げる。

「俺の【スキル】でも切り離せない神が後付けする一生モノの拘束力がある」

「わ、私、何が付いたんですか」

「【称号】持ちの、王家の腹心には別に問題ないものだけどな。……けど、今でもグレイに執着してるお前にゃ、ただの枷だ」

「それは何、ハルト」

 王妃の目が、少しだけレイビスを見る視線に軽蔑を含ませた気がした。


【隠密】※裏条件が追加されました。

 保有する【称号】への制限の解除許可は特定の神のみとなります。


 称号にそぐわない不要な言動をした場合【称号】による恩恵である補正全てに制限がかかり、著しい能力低下を起こします。


 なお、【知の神】による裏条件付加になります。解除には【知の神】の赦しが必要です。


 レイビスが困惑した顔をした。

「要は、隠密としての行動をしていないときのお前は一般人と同じ。いつ何時でも隠密だと心構えしてねぇと、【スキル】全部と、それから派生してる補正の『回避率上昇』も『瞬発力上昇』も『攻撃予測』も何にも使えねぇの」

「……うそ」

レイビスが、口元をひきつらせた。

「うそじゃねえよ」


 王妃の、呆れたような悲しいような、複雑なため息が響いて、レイビスが体を強ばらせてうつむいて、重苦しい空気に包まれた。


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