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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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23 * 一応無事に終わったけども

 バミスから戻り翌日。

【大変革】による『合意職務者』についてグレイと侯爵様、そしてエイジェリン様と話し合ったんだけどこれはボチボチ進めて行くことになった。

 『合意職務者』はバミス法国が主体となって今後法整備を含めて形作るのがいいようで、私が先頭に立って勢いで進める必要はないってことなんだと思う。それを話せばグレイも侯爵様もその感覚を大事にするのがいいだろうと言ってくれたの。

「そもそもの話、ジュリのやることは守護神のセラスーン様が大なり小なり干渉している。その感覚はとても大事だし意味があると思う。バミス法国で【大変革】が起きたというのも納得だ、バミス法国から始めるのがいいのだろう? ジュリはもちろんその土台ではあるが、その土台の上でどう組み立て完成させるかはバミス法国次第ということだろう。それよりも……」

 侯爵様は『合意職務者』よりも【大変革】で強化された恩恵に興味があるらしい。

「恩恵が強化されるなんて、気になるではないか」

 素直に笑ってそう言った。

「しかし、【大変革】で授かったギフトというのがまた……」

 侯爵様が言いかけて言葉が詰まり、エイジェリン様がつられるように『んんっ』と奇妙な声を出す。

 分かってますって。変なのばっかりって言いたいんですよね!!

 そう、私達は直に与えられた恩恵 (強化)が気になるわけですよ。【大変革】? そんな大袈裟な響きのものが簡単に成せるわけないですよ、ゆっくりでいいんですよ、最悪丸投げしてもあのパンダ耳さんが勢いでなんとかしてくれそうなんですよ。なので専ら私達の関心は強まったらしい恩恵に向くのは当然です。

「やはり……キリア、フィン、ライアスがどう変化したのか楽しみだね」

 エイジェリン様はちょっと考えながらも顔は笑顔。私もあの三人には期待している。

「その一方で凶暴になったのもいるがな」

 侯爵様が実に面白そうに呟いたらグレイが何故か自慢げに頷いた。ローツさんとカイくんが凶暴になってうれしいの? その感覚がよくわからない。

 そしてグレイが最もおかしな強化をされたのにそのことには触れない父と兄、なぜだ。


「法国で大成功を収めたから、アストハルア公爵領とツィーダム侯爵領も恙無く進められるのではないかな」

「ええ、昨日帰り際にご挨拶した際にはお二方がバミスでの展示即売会の流れを確認できたのと来場者の反応の良さを見て自分たちもやりやすくなったとおっしゃってました。二領には私とグレイは行かない代わりに他に何人か補佐を出すので不安はなかったようですがやはり直接見ていただけたのはよかったです」

「そういえば、本当にいいんですか?」

 グレイが侯爵様に問いかける。父は息子の質問の意味が分からずキョトントした。

「クノーマス領で移動販売馬車を稼働させることですよ。ここなら転移で馬車を移動させず直接馬で引かせられる範囲です、従業員たちもクノーマス領内でやることを期待していますし、折角なら近日中に一日位やってもいいのではとジュリと話していたんです」

「ああ、そのことか……」

 何故か侯爵様とエイジェリン様がちょっと困った笑みを浮かべる。

「《タファン》と、子供と母の店(店名未定)の規模が想定以上に大きくなりそうでな」

「ルリアナがネイリスト育成専門学校の学長を休んでいるだろ? 『暇です』と何度も訴えて来て見かねた母が家で出来ることを任せるようになったら、楽しいらしく忙しい母上の代わりに事務的なことをするようになって、我が家の領地経営に携わる人員をそちらにかなり回す羽目になり、正直移動販売馬車どころではないんだよ」

 あー……。

 私とグレイはきっと同じ顔をしている。

 シルフィ様もルリアナ様もアグレッシブなんだよねぇ。しかも、【大変革】でルリアナ様も恩恵が強化されたと思うなぁ。暇を持て余し気味なところに恩恵……。結果がどうなるか開店したときのお楽しみにしておこうと、グレイと二人笑っておいた。

 とりあえず出産時の負担にだけはならないように祈る!













 そして、ついにアストハルア公爵領で移動販売馬車が公開された。

 公爵家の領主館がある地区最大の市場でまずはお披露目され、その場で露店式馬車では単品パーツや格安のアクセサリー類が一般販売された。そして店舗式馬車、つまり家みたいな大きいメインの馬車は、商品は限られたものだけになる代わりにその巨体でも実際にちゃんと馬によって引かれ、移動が可能なことを見せるため市場の決まったルートを周回する形がとられた。

「棚の下に商品を入れて移動出来ることや設営を見せないことには商人は移動販売馬車の有用性を理解出来ないかもしれないな」

 侯爵様に以前そんなことを言われたのをアストハルア公爵様に話したことがあって、その意見がすんなり受け入れられたときはちょっと驚いたんだけど、バミス法国でも馬車が動かせることを見せた時反応が良かったので公爵様は市場周辺を一周するだけでなく何回か周回させる計画に変更した。

 馬車そのものが建物に見えるその造りなので、ガタゴトと道を走ると何とも不思議な光景なのよ。でもその不思議さが、子供に大ウケ。馬車の後ろをずっと子どもたちが追いかけていたという報告には私もつい笑顔になった。


 ただ、実際に稼働して初めて気づく問題もある。

 馬車はその大きさと重さに耐えうる強度があるので市場を周回し続けることでその安全性が伝えられた反面、その重さと強度が別の面に問題を起こした。

 整備された硬い路面ならなんの問題もないけれど、そうではない砂利や土の道だと普通の馬車よりも路面を抉ってしまうことが判明。それを想定していたので車輪は太めに設計されたけれど、実は移動販売馬車はその大きさから一般的な馬車よりも車幅があるので外側に車輪が来る、舗装がされていない路肩に車輪が行きやすい。

「かなり抉ったところが複数あってな。馬車は問題なかったが、雨天のときなどはかなり注意が必要かもしれん。場合によっては道路の修復費用などの請求をされることも視野に入れておくべきだろう」

 という、走らせることで被害を与えてしまう可能性が出てきた。

「移動販売馬車の版権を買いたい、移動販売馬車を呼びたいという人には走らせる道路の強度、幅、それからリスクとか……確認と承諾も必要そうだね」

「そうだな、そのあたり直様修正しよう」

 ……特別販売占有権に登録してるからさぁ、変更手続きの申請から書類の修正と提出、承認されて再登録の内容に問題ないか確認して問題ない旨の書類送って。

「あー、面倒くさい、もー、面倒くさい」

 口癖になりそうだった。


 そして数日後、今度はツィーダム侯爵領にて稼働。

 こちらは車幅問題を聞いてからだったので侯爵様の判断で周回ルートを変更、道路抉っちゃったよなんて報告はなくホッとしたら。

「行列整理が上手く行かずちょっとした混乱があった」

 と初日終わりにお疲れ気味の中でわざわざ手紙をくれた。

「「あー」」

 グレイとその手紙を読んでハモった。

 行列整理。

 実はバミスのときは室内だったため時間差で入場制限などをしていたので行列が出来ても想定内で済んだし並ぶ時間も最長で二十分程度だった。

 そしてアストハルア公爵領での場合、こちらは半数以上が招待した商家や職人であったこと、そして周回させた馬車での販売は制限されていた。なので行列が出来たのは露店式のみ、販売も種類が少なく選択肢が限られたので一人当たりの滞在時間は短く済んで行列が長くても進む早さが待ちを感じさせず混乱らしい混乱はなかった。

 一方、ツィーダム侯爵領の場合。今後の稼働を見越して店舗式への入店は制限したものの、露店式については二台用意して別の場所で同時販売をしたの。品数も豊富ということが事前に告知されていたせいか商売人や招待を受けていない他所の貴族繋がりで馬車見たさも加わって人が殺到してしまった。その地区はもちろん近場の地区から一般客まで大勢来たことで開店前から混乱し、行列整理から始まったんだけど、ね。

「慣れないと整列させられないんだよね」

「そうだな、声がけの言葉一つで反応も変わるしな」

 ククマットはね、うちのせいで主に自警団の若者たちが行列整理のプロ (笑)になりつつある。ホント、慣れたものでねぇ。

「はいはーい! 二列でゆっくりと前進お願いしまーす! 押したりするのは禁止です、危険ですからね!!」

「割り込み禁止です! ルールは守って下さいね、お願いします!」

「体調不良を起こした方は遠慮なく声をかけてくださいね。すぐそこのお茶屋に席を借りれますよ、無理はしないでください、他の方に迷惑をかけることにもなりますので」

 ある程度マニュアル化していた行列整理、ククマットでは今や日々修正改善され、これも特別販売占有権に登録できんじゃね? というマニュアルになっている。そしてそれが新人自警団の業務として組み込まれているので行列整理のプロが日々増えてもいる。

 ツィーダム侯爵領からもそれを踏まえて講習として人を受け入れたりしていたんだけど、如何せん付け焼き刃というかなんというか。

 行列整理担当があまりの人の多さに混乱してしまって初動から遅れをとり、それを終日引きずり。『いつまで並べばいい』『どこに並べばいい』とのクレーム紛いのイライラした問い合わせ対応だけで数人が振り回されてしまったと。


「商品の安定供給も大事だけど、現場の統制っていう課題が浮き彫りになっちゃったね」

「こればかりは直ぐに対応できるものではない、どのような人材をそこに投入するのか、そこから考えなくてはならないからな。うちのように自警団の新人教育の一環としてやらせるというのも手だが……全ての土地でそれが適合するとも限らない、当面は手探りになる可能性も覚悟しなくてはならないだろう」

「相談に乗って解決していくのも版権に入ってるからね、明日自警団幹部とローツさん交えて他所で移動販売馬車の実演販売する時人材派遣するかどうか含めて今後の対応を話し合わないと」

 はぁ、と溜め息をつけばグレイが笑った。














 移動販売馬車、バミス法国もアストハルア領もツィーダム領も反勢力や他派閥からの嫌がらせや妨害といったことはなく、問題点は色々と浮き彫りにはなったけれど軒並み成功した、といえるのかもしれない。

 ただ。

 私個人はちょっとしたシコリのようなものが残った。

 それは。


 バミス最終日、獣王様との謁見直後。

 人払いをされた状態ではあったけれど、獣王様から褒美を取らす、と言われたの。

 その場で断ることも出来ず、目録を受け取ったけれど、謁見の間を出た直後に確認して驚いてこれはマズイとアベルさんを通し失礼を承知で返している。


『バミス法国法王領の一部と、名誉爵位の準男爵の叙爵』


 バミス法国の珍品や希少な品と共にその二つも下賜品に並んで記載されていた。


 アベルさんは困ったような顔をしただけで、驚いてはいなかったしあっさりと『分かりました』と受け入れた。つまり内容を知っていたし返されると予想もしていたらしい。それよりも私が拒否出来無いならバミスとの付き合いを考え直さなきゃならない、と言ったことに動揺していた。


 あれを受け入れるということは、私はベイフェルア国に住みながらバミス法国に土地を有する貴族になっていた。


『いつでも歓迎する』


 ずっとバミス法国からアベルさんたち枢機卿を通して感じていた友好的な態度のその底にあるのは私の取り込みだ。

 ベイフェルア国王家は未だに正式に私を自国の【彼方からの使い】だと認めていない。

 だからこそ出来る勧誘とも言える。

 クノーマス侯爵家の後ろ盾があっても。

 グレイと結婚していても。


 一国の、大国の力の前には太刀打ちできない壁がある。


 グレイはこの件で【選択の自由】の発動兆候は捉えられなかったと険しい顔をして呟いた。

 あくまで私の意志を尊重して断ることも許されていたからか、それとも他の理由があったのか定かではない。

 それでも。

 バミス法国からの目録は、久しぶりに私に危機感を募らせた。

 私という存在は非常に曖昧で、不安定だということ。


 万が一、国内からの強い圧力があれば他国へ 《ハンドメイド・ジュリ》関連の事業を移す選択肢がある。そのために、私は伯爵夫人という立場とは別に商長として店を完全に独立させておく必要があって、今そのために少しずつ準備をしている。

 でも、そこに別の地位が引っ付いた場合。

 必ずそれに強く影響を受ける。


「……はぁ」

 殊の外、大きなため息が出た。

「距離感かぁ。難しいなぁ……適度に保つって」

 私がどこまで踏み込んで来るか確認する意味もあったと思われる目録。

 一人で抱えるのが不安で侯爵様に話した。


「ジュリの決める事だ、余計な口出しはしない。ただし、気をつけなさい。一度踏み込んだら抜け出せないということを。国とは、そういうものだ。私では救い出してやることが難しい所だから、どうか慎重に判断してほしい」

 と。


「うーん、まあ、今更悩んでも仕方ないんだけど、ね。……ここまで大事にしたのは、最後の決断は、私の意思だし」

 独り言。

「でも、ちょっと、甘かったかな……しばらくは、大人しくしてよ」

 駆け足で過ぎ去った夏と、あっという間に訪れた冬支度を急かすこの季節に、一人私は大成功の裏でバタバタしながら過ごす日々のとある昼下りにちょっぴりアンニュイになったりしていた。



移動販売馬車のためのバミス編、とでもいいましょうか。全てがなんのしこりもなく終わるわけではない、成功ばかりじゃない、というお話しにしたくてバミス編は最後にちょっとジュリには後味の悪さを感じてもらいました。


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― 新着の感想 ―
[一言] とりあえず一番最後尾の人に可愛いイラストの描かれた[最後尾]の看板を渡していく文化を作ろう( ˘ω˘ )
[良い点] ≫警団の若者たちが行列整理のプロ (笑) こっちの世界のコミケスタッフに勧誘しましょうw やっぱり最終的には「参加者の慣れ」が必要でしょうから、ツィーダム領の皆さんは次回に期待wと言う事…
[良い点]  「革命」という言葉を、その土地の歴史観でどう捉えているかが気になってきました。今回は「【大】革命」で、初めて聞いた人々衝撃的だったと思います。現地人としては声を耳に出来た事に大変な幸運を…
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