23 * 帰ってきたトリオ
久しぶりの登場です。
※念の為、こちらの注意書きをさせていただきます。
飲酒の場面、飲酒を促す場面があります。決して飲酒を勧める意図はありませんのでご理解いただきお読み下さると幸いです。
レフォアさんたちがククマットに戻ってきた。
「ジュリさんたちの結婚式に出られないとかホントにあり得ないって言ったんですよ! 俺!!」
と喚いたのはマノアさん。
「人手不足だ人手不足だとわざとらしく言うくせに昼寝してたよな?!あのジジイ!!」
私の全く知らない人の文句を人目も憚らず叫ぶのはティアズさん。
「全員、殴り飛ばしてから来れば良かった……」
目が据わってるのはレフォアさん。
現在酔っ払っております。グレイとローツさんが『おかえりなさい会』を開き、酒場を一箇所貸し切ったらタダ酒が飲めると聞きつけてうちの従業員たちだけでなく、主に職人たちが集まってきて酒場はぎゅうぎゅう詰めで、バンバンお酒が減っていくので酒屋を巻き込み酒を集め飲めや食えやの大騒ぎとなりその勢いに乗っかって飲んだのでペース配分に失敗した三人は覇王討伐以降のギルドの混乱を手当り次第に暴露しながら溜まりに溜まったストレスを発散中。
「大変だったな」
グレイもほっとけばいいのにわざとらしく同情する言葉を掛けたり相づち打ったりするからフォンロントリオの話す内容が段々悪口になってそして暴言のオンパレードとなり。
「そう言ってくれるのグレイセル様だけです!!」
あー、もー、めんどくせー。レフォアさん泣き出したー。マノアさんとティアズさんが肩を組んで大声で励ましだしたー。ウザい。
彼らが戻って来れたのは一気に秋が深まった朝晩の涼しさが寒いに変わり始めたこの季節。
マリ石鹸店に民事ギルドのククマット支部やアストハルア公爵家から研修生を受け入れることが決まったりルリアナ様の出産が間近に迫ってエイジェリン様が挙動不審で面倒くささMAXになり侯爵家内で邪魔者扱いされているという話が届いたり、グレイとローツさんが共同経営者になった宝飾品店が新しいアクセサリーの生産を開始したり、相変わらず騒がしくけれど順風満帆なククマットを見て……三人はやさぐれた。
大変だったらしいから、ほんとに。
どんな状況下でも居るところには居るサボり魔とか口だけの奴とか……。そういうのにレフォアさんたちは振り回されていたらしい。
「仕方ないだろうな、神様キーホルダーが馬鹿みたいに売れているんだ」
冷静に言ったはローツさん。手酌でウィスキーをマイペースに飲んでいる。
「そういえばローツ様の実家がそれで今嬉しい悲鳴を上げてるんですよね?」
勝手にレフォアさんたちのグラスにお酒を注ぎながら言ったのはフィン。
「フォンロン国内のゴーレム発生地帯がほぼ南部だったからなぁ、中央と南部の一部が立ち入りすらできなくなっただろ? 多少輸送費がかかってもベイフェルアから仕入れると安全だし、あの一帯を迂回して抜けてくれる運輸商や冒険者がいてもその依頼料が莫大だ。お陰でフォルテ子爵領含めて近隣のゴーレム発生地帯は今活気づいてるよ」
なんでそんなことになったのかというと。
『覇王』という単語が世に出回り始めた直後から、フォンロン国ギルドと 《ハンドメイド・ジュリ》に問い合わせがうなぎ登りで増えたものが神様キーホルダー。
先の見えない不安と恐怖を少しでも緩和するために心の拠り所として気軽に所持し持ち歩ける神様をイメージしたキーホルダーが欲しいと言う人が爆発的に増えたの。
元々ジワジワと人気が高まっていた。庶民は神様を模した物を持つ習慣がなかったから。像を作るにしても色々と習わしとか謎のルールみたいなものが存在して簡単に作れず。でもそれは人間が勝手に決めたことというのは私の守護神となってくれているセラスーン様から教えられた。なので堂々とキーホルダーを売り出したら、あの『覇王』騒ぎ。
そしてうちの店はあの期間は一部を除いて生産を制限していたので共同で生産を進めていたフォンロン国ギルドに問い合わせが流れ集中したのは当然とも言える。
資金は少しでも多いほうがいいとフォンロン国ギルドは神様キーホルダーを頑張って作り続けていたのよ、あの状況下でも何とか北部にある支部だけは混乱に飲み込まれそうになりながらも資金作りと体制の現状維持をするために。
ところが。
終息した途端。
出てきたわけだ、甘い蜜に群がる奴らが。
その蜜というのがレフォアさんたち。
「レフォアさんたちと同じ部署になりたいって人が殺到したんだっけ?」
「三人の所属はククマットに来てから北部支部になった。ベイフェルアとの国境近くで一番安全で被害も無かった場所だし直ぐ近くの港はジュリ監修の額縁も売り出していて覇王討伐後も物流と交易がすぐ回復した。白土もクノーマス領から海を南下してその港から上がるだろ? 侯爵様が期間限定で船の貸出や関税引き下げまでしてくれたおかげで支援物資や人が滞りなく届く場所にあるギルドともなれば嫌でも人は集まる。しかもレフォアたちはこのククマットに戻って来ることが決まっていただろ、あわよくばそれに一緒にくっついて行けるんじゃないかと思った奴もいるだろうな」
「その人たちが全員真面目に働くかって言ったら、そうではないでしょうしねぇ」
私とローツさんとフィンは届いた熱々のローストチキンを取り分けながらレフォアさんたちがやさぐれた原因を語る。
「楽をしたくて北部に移動願いを出した人たちってのが貴族の身内とか知り合いとかそんなんばかりってのもねぇ」
あ、フィンがまたトリオのグラスに酒を。しかも傾けたら溢れそうなくらい。
「レフォアたちでは手に余る奴らばかりだったらしいからそりゃあ鬱憤も溜まるだろう。 《ギルド・タワー》が動いてそのゴタゴタも収まったとは言うが粛清者の逃亡を許した挙げ句そいつらを見つけるのにヤナ様からの情報提供が無かったら今でも捕らえられていたかどうか怪しいくらいにはあそこも混乱が続いている、フォンロン国の全支部にしっかり目が届いているとは言い難い。縦と横の繋がりが強固というのがフォンロン国ギルドの強みだったが、今はそれも崩れかけている。そういう意味で粛清後大人しくなったこの国よりも、混乱に乗じて行動を起こす者が増えた今のフォンロン国ギルドは面倒な組織になったかもしれないな」
確かに、とローツさんの言葉にフィンが頷いた。
これには私もやさぐれそうになった。
何故なら。
「まさか神様キーホルダーの版権をフォンロンに『譲渡』してくれと言ってくるとは思わなかったわよ」
私の呟きにローツさんとフィンがうんうんと頷く。
御大層な格好をしたフォンロン国ギルドの上層部って名乗るおじさんがある日突然来てね。
『キーホルダーの版権を譲渡なさったと知れればあなたの名声は更に高まるだろう!』
と、俺いい事言ってると自信に満ちた顔で言われ。
「「は?」」
それを聞いていたグレイとローツさんのあの冷ややかな反応といったら。液体窒素並でしたよ、そこら中のものをカチコチに凍らせそうな冷たさだったよ。
アポイントもなく、突然それよ。フォンロン国にこんなことにしにくる暇人いたのかとドン引きしたからね。
それで即座にヤナ様に手紙を出した。ヤナ様の旦那様の紋章というのを貰っていたのでそれを見せたら逃げ帰った人がいますよー、その人版権寄越せと言ってきましたよー、と。
『迷惑かけました、主人が処分しておきますと言ってました』
と返信が早かったよ。処分、どういう処分かは気になったけど聞かず忘れることにした。
神様キーホルダーに関してはキリアが無理矢理デザインをレフォアさんたちに押し付けてから頑張って生産されている。この生産体制を整えただけでも称賛に値するんだけど、更にフォンロン国ギルド北部の一部支部は私監修の白土を使った額縁の生産と販売を軌道に乗せて順調に利益を出している。更には笑い飾りと呼ばれる赤ちゃんの寝ている上に吊るす玩具のデザインを生み出し、それが今ではフォンロン国の笑い飾りとして大々的に売り出される計画も進んでいる。
それが全て、レフォアさんたちが所属する北部のギルドの管轄にあるとなれば、そりゃあ異動願いを出す人も、媚びへつらう人も、どさくさ紛れでついて行こうとする人も出るよね。
微々たる影響かもしれないけど、ノルマとか節約とかに悩むことが少なくなるだろうし利益の出ているものに絡めば大きい顔出来ると思う人もいるだろうし。
「私はね、これでもね、努力してるんですよっ、ククマットで楽してる訳じゃないんですよっ、分かりますか? 確かに居心地いいですけどね、なんならこのままギルド辞めてここに居着いてやろうかなんてことも時々考えますけどね、これでも故郷のために頑張ってるんですよ、いつか帰るときに故郷のために出来ることを一つでも多く身に付けてここでの経験を活かして復興の一助になることをしたいと思ってるんですよ、なのに頭の悪い上司ってのは必ず一人はいるもので、私達が楽してると思って『今度は俺が行こう』とか言いやがったんですよ、あれには本当に腹が立ちましたよ。金勘定もろくに出来ない媚びを売ることで出世したような奴がククマットに来て何を作るんだって話ですよ、グレイセル様に殺されたいんですかね? それもアリですかね? 【一刀両断】でしたか、あれでスパッとやっちゃってもらえませんか」
うちの旦那に殺人をさせるつもりな発言まで飛び出すレフォアさん。
「それとねぇ!」
ドン! とテーブルを拳で叩いた。
「ローツ様の結婚式には間に合うはずだったんですよ、ジュリさんプロデュースの結婚式を間近で見るチャンスだったんですよ!! それなのに、それなのにいぃぃぃ。気づいたらこんなに戻るのがおそぉくなってぇぇぇ」
ウザさが増した。
「……間に合ったとしても招待してないけどな?」
ローツさん、余計なこと言わないで。
ただ、フォンロン国は悪いことばかり続いているわけではない。
『ジュリ監修』として世に送り出した白土の額縁が、活発な国内外の取引に繋がっているという報告が届いている。
「南方小国郡からの買付がぁ、とぉっても増えてるんですよおぉ、あれはキーホルダーと違いぃ絵の才能に左右されずに作れますしいぃ、型もぉ今は決まったものばかりなのでぇ梱包から出荷までぇ、非常に楽なんですよねぇぇぇ」
間延びする独特の喋りになってきたマノアさん。
「白土はクノーマス侯爵家の計らいで沢山入手出来るルートと伝を確保出来ましたから、とりあえずフォンロンギルドは資金不足で立ち行かないなんてことは避けられそうです」
割とマトモで饒舌だけど、殆ど目が閉じていて見えてる? と問いたくなるティアズさん。
……大丈夫かな、この三人。
飲まされてるのもあるけどやけに酔が早い気がする。
「ここに戻って来て気が緩んだんだろう」
と言いながら、空になりかけの三人のグラスにドバドバと酒を注いだグレイ。
強要はしてないよ。でも注いだ分だけ飲み干す三人。
「お、おはよう、ございます……」
案の定、二日酔いの三人。一緒に騒いだメンバーは誰も二日酔いになっておらず至って元気。
「ほらほら、キビキビ動きな!」
白土部門長のウェラにティアズさんとマノアさんはそんなに揺らさないでとか走らせないでとか訴えながらも引きずられて研修棟に向かった一方で。
「さて、早速だが」
ドン、とローツさんがレフォアさんの前に分厚い書類の束を置いた。
「レフォアたちが不在の間に企画したこと、変更になったことなどをまとめたものだ。フォンロン国はこれからが復興の本番と言ってもいい。全ての技術や知識は渡さないがそちらのギルドでも役に立ちそうな、我々に影響を与えない事を纏めておいてやったぞ。今日中に目を通してくれ」
「え」
「研修棟で素材の研究や物作りの補助をしたいんだろう? その前に面倒なことは終わらせないとな」
「あの?」
「バミス法国での移動販売馬車の展示即売会に向けて大詰めなんだ、レフォアにはぜひそちらを手伝って貰いたい」
「では、直ぐにそちらにっ」
「出張組のリーダーとして、報告書を素早く提出するのもお前の仕事だ」
「いや、今日は」
「良かったな、二日酔いで辛いだろ? 座ったまま読んでまとめるだけだ、負担は少ない」
にっこり笑顔のローツさんをそれでなくとも二日酔いで顔色が悪いレフォアさんが更に顔色悪く泣きそうな表情で見つめた。
「……文字ばっかりは、今日は辛いです……死にます」
「文字を見て人は死なない」
「……」
訴え虚しく、ローツさんが更に書類の束を重ねていた。
午後、気になってウェラに引きずられていった二人の様子を見に行ったら、作業台に突っ伏してピクリともしないティアズさんとマノアさんがいた。『作業が捗ったよありがとね!』と満足げなウェラに背中をバシバシ叩かれ感謝されても動かないのでちょっと心配になったけど。
「大丈夫だよ、途中からヘラヘラ笑いだして楽しそうに作ってたから」
いや、それ、最早限界を超えてたんじゃ……という私の言葉は。
「ほら、見な。笑顔だろ」
見せられた二人の笑顔が、若干不気味だったけれどウェラがなんてことない顔をするので、笑って誤魔化しなかったことにしておいた。
因みに、うちの従業員の大半が酒好きなので、この三人のように二日酔いで大変なことになっていることが度々あるしそれでも根性でなんとかするので、三人に対する皆の言動はイジメでもパワハラでもなくこれが普通であることだけは何回でも言わせてもらうわ。
とにかく、フォンロントリオが戻ってきました。
おかえり! で、いいのかな。
「飲まなきゃやってられない」
「あー、確かに」
「今日はどこ行きます?」
その状態で今晩も飲みに繰り出すのか。
まあ、明日普通に出勤出来るなら好きにしてください、自己責任ですから。
ギリギリセーフか、アウトか。グダグダな大人たちの『お帰りなさい会』でした。
因みにジュリはやさぐれた状態で飲まなければほぼ二日酔いになりません。グレイセルは当然、周囲の人たちもザルです。ククマットがその規模の割には酒場が多いのは酒に強い人たちが多い、という裏設定があるのですがあまりそれを全面に出す機会もなければ出しようがなかったりします。
フォンロントリオには申し訳ないと思いつつ、そんなグダグダな大人たちの裏設定を少しでも活用するために二日酔いになりながら戻って貰いました。
※もう一度。飲酒を勧める意図などは一切ございません。




