3 * チートではなかった
本日二話更新しました。
えーーー……。
なにそれ。
おもわず声が出た。
侯爵家の皆さんも絶句してる。てことは、【神の守護】について詳しく知ってる訳ではないってことね。
【選択の自由】を含む【神の守護】。
これは、ハルトに言わせると【称号】と【スキル】そしてそれと連動している補正とはまったく別の独立したもの。
「独立してるからさ、自分で発動してるかどうかわからない可能性がある。どのタイミングでその守護が発動してどれくらいの影響力かは実際に経験しないとわからないんだよ」
……そうですか。
とりあえず、次。
今の段階ではなにもコメントできない。
「それと【運命の干渉】は、【彼方からの使い】にとって不都合な周りからの干渉で発動する。例えば、【彼方からの使い】を囲い込むのに結婚を強要しようとすると発動して相手にそのまま同じことが返っちまう。気づくと望まない結婚をさせられて強制的に【彼方からの使い】から引き離される。まさに運命に干渉されて人生狂う」
うわぁ、やられたらやり返す的な。エグい。
「……で、ジュリだ」
はい。
なんでしょう。
「【選択の自由】ってな、お前がやろうとしてること、選ぼうとしてることを妨害したりする奴がいると発動する。お前の選択肢がせばまる可能性があると発動してそれが相手に跳ね返る」
「えっと? つまり?」
「【隠密】に言われたんだろ? 自分の意思を通そうとしたら。不敬罪になる、お前一人どうとでもなるって。それってつまり、お前に干渉する言葉だ、【技術と知識】を広めるべきジュリを制限しようとする言葉に該当する。今までは必要ない環境だったのかもな、神がこのタイミングで与えたってことは【隠密】が【選択の自由】の発動条件に抵触した、そう判断されたってことだ。しかもやっぱりお前はこの土地にいることに意味がある。この土地と相性がいいんだよ、お前自身もそうだし、お前の【技術と知識】そのものが。だから間接的で強制力の弱い【称号】持ちの発言にも発動しちまった。【スキル】【称号】なしだからな、身を守るために発動条件も俺なんかより軽いだろうし、強制力も相当強いはずだ」
「え、ちょっとまってね? ……じゃあ、あの彼女、【隠密】どうなるの?」
「どう……って。そりゃなにかしらの【選択の自由】の影響を受けただろ」
「それってどういうの?!」
「んー、恐らく、ジュリのやろうとしてることそのままに干渉する言葉と判断されただろうから……たぶん、だぞ? 【称号】に関係する何らかの制限がつけられた、とか。この世界は【称号】の存在意義が大きい。それをはるかに上回る【神の守護】なら、間違いなく【称号】が標的になってるはずだ」
私は青ざめた。
知らなかったとはいえ、不可抗力とはいえ。
わたしに関わって誰かの何かが狂う。
なんで?
そんなの、望んでない。
嫌な思いしたけど、それでも、私は私の意思とは関係のないそんな力に頼ったりしたくない。
「ジュリ」
グレイセル様だった。
私の顔が、酷かったのかもしれない。気遣うように、優しい目をしてくれて。
「あのときの私の言葉を覚えているか?」
「え?」
「王妃様は決してあのようなことを我々に強要するような方ではない。不敬罪という一言で人を裁くことを敬遠している方だ。王族といえど人間、過ちを犯すことがあるだろうと。なのに少し反抗的だったり思い通りに動かせないからと簡単に不敬罪という言葉で裁く権利がどうしてあるのか? と常に考えておられる。人の命や人権を軽んじる方ではない。……あの使者が言ったことは全て勝手な判断と自分が王家に仕えているという傲りが生んだ言葉だ。神どころか主を無視した発言をした者のために、ジュリが心を痛めたり悩ませたりする必要はない。全ては自己責任、その責を背負うのはあの【隠密】の立場なら当然のことだ」
そういわれても。
そう簡単には割りきれない。
チートになれなかったね。
一瞬期待したのに。
ハルト、危険物はないわ。私は人間だからね? 爆発物じゃないわよ。
それにしても、【選択の自由】は確かに私に付けられても仕方ないと納得したのも本心。だって、選択肢を奪われたら私は動けない。新しい素材をもっと見つけたい、新しいデザインをもっと考えたい、新しい技法を生み出したい。それが邪魔されたら私はなんのために、ここに呼ばれたのかわからなくなる。
ここにいる意味がなくなる。
そんなの嫌だ。
ああ、そうか。
ここでの生活楽しんでるだけじゃない。今はもう大切なものになってる。この世界で生きていくのに、ここがいいって、ここならずっといてもいいって。そう思ってる。
だから強制力がある。私自身がここにいたいって思ってるから。
「ハルトはさ? 嫌だなって思ったことないの?」
「なにが?」
「だって、二つ持ってるよね?【運命の干渉】と【意思の同調】……あれ自分のことだよね?」
「……ん、まぁ」
ハルトが笑う。二人きりにさせてもらったのは、ハルトにしか分かってもらえないことが多いからと気づいてるから。
「俺は、対人の【スキル】とか、他にも色々と見定める能力あってさ、それで影響は常々見えてたからそんなにしんどいと思ったことことはねえな。けど、まぁ、気分の良いものじゃねえから、気づいたら俺から近づかねぇし、自然と疎遠になるようにしたりする。それで相手が守られるからな。オレには傷付けるつもりはねえんだし」
「……そっか」
「あんま気負うなよ? グレイも言ってたろ? 俺たちは不可抗力だし邪魔に思われたり嫌われたりするのは人間なら当たり前のことだ、それで何かしらの代償を背負ったって相手が勝手にしたことで、どうしようもない。俺たちに害をあたえる気がなくても、生きてればそういうのに遭遇するもんだろ」
「私は、少しあったよ」
「……なにが?」
「散々蔑ろにされて、今更上から目線で、気に入らなかった。この国の権力に何となく、わだかまりは抱えてた気がする。それが今回……自分でもびっくりしたわ、頭にきて、どうにでもなれって思ったのよ、少しは痛い目見ればいいのにって、思った」
「いんじゃねえの? わだかまりを持たせたあいつらが悪いしな」
「……ハルトは、わりと王家に対して辛口よね」
「国王がバカだからな」
二人きり、少し真面目な話をすることになった。
この国の国王はあまり誉められた人格ではないようで、城では日々その失態や問題事を解決するのに宰相や大臣といった人たちが翻弄されてるそう。
本当は侯爵家の人たちも能力を考えれば城で王家を支える役職に就けるらしいけど、侯爵領はこの国で主要の港町を抱えているし城のある王都もちょっと遠い。何より領地や領民、近隣の爵位のある方々と今は国の防衛になるよう良好な関係を維持したりするのに尽力して、侯爵家は領地の発展に重きを置いている。そうしないと、国のバランスが崩れるって。
トップが頼りなくて皆が影から支える、それってどうなんだろうね?
「母親、皇太后がすげえ人でな。隣の国との小競り合いを劇的に減らせたのも皇太后が女帝として外交を何度も重ねて、軍統制を整えつつ少しずつ環境を変えたから今の戦争が抑え込まれた時代になった。その重圧かもしれねぇけど、息子の国王はなんでも金任せ、権力を盾によくわからん政策とか事業に金つぎ込んで金を絶賛食い潰し中。見かねた王妃が影からその尻拭いしてるような国だ」
ひどい。
この国ヤバい。
「王妃は元々お前のこと監視させようとしてたのさ、それは俺も賛成してた。監視はお前の事を守る意味もあったし。けど、公爵が必要ないって国王を黙らせちまった。国王は俺の話を聞かねぇし過去の文献調べもしねぇで、公爵信じてさ。お前のことはなかったことにしやがった」
あの公爵も関わってたのね。
「王妃は大々的には王家の腹心や重鎮を使えない。国王が原則全ての頂点だ。蔑ろにはできないだろ? だから個人で抱える【隠密】を出してきた。ただ、それが失敗の原因だな」
「え、そうなの?」
「今回の件だと向いてない奴だった。けど奴が自分からやらせてくれって王妃を説得したはずだ。近々城に行って確認してくるけど多分そうだな。それで失敗してるんだ、自業自得だ、ジュリは本当に気にするなよ」
なんだ【隠密】、どうしても私を偵察したい理由があったってわけ?
それも聞いたけど、ハルトにはぐらかされて。仕方ない、城でのことだ、私は関わって来なかったしハルトしかわからない内情もあるんだろうし。
平和な国だと聞いていた。
でも。
それは私の感覚とは違う平和だ。
隣国との小競り合いをしている、つまり規模は小さくても戦争だ。長年土地を巡っての争いを続けていても、それによって国民の命が奪われ税金が投入され続けているのにそれでも平和だというのだから、やっぱり自分は『異世界から来た人間』なんだと思い知らされる。
ここに来て、住んで、そして働くようになって、その間ずっと目を背けて来た存在が見えた瞬間発動した【神の守護】。
この国とは、私は、もしかすると相性が良くないのかもしれない。
戦争をしていて平和だと言える感覚が理解出来ないし、たとえ勝手な判断だったとしても王家に関係のある人間に私は脅されて不愉快だった。
今後も間違いなくこの世界の常識やこの国のことで私は理不尽な思いをして、不愉快な出来事に遭遇するはず。
【選択の自由】ね。
私を守ってくれる神様からのギフト。とても幸運なこと。感謝すべきこと。
でも、理不尽と不愉快を常に抱え、そしてそれをいつでも爆発させてしまう可能性がある性格の私には、不釣り合いなのかもしれない。今後もて余すことになるかもしれない。
それが怖い。
願わくば、理不尽と不愉快を感じない穏やかな生活を送りたい。
この国の権力は嫌いだけど。
このクノーマス領は好きだから。愛着があるから。この地に住む人たちが好きだから。大切な人がたくさんいるから。
やっぱり力はいらない。私は、ただ物をつくりたいだけだ。
《ハンドメイド》で周囲を明るくして、楽しく生きたいだけ。
【神様】聞いてください。
私は、楽しく生きたいだけです。
力も名誉もいらないです。




