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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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23 * ローツの結婚。

文字多め、詰め込みました。

 本日は晴天なり。

 

 良い日になりそう。


 白土で作った文字パーツは押し花が貼り付けられ、それを使った立体的な『ローツとセティアの結婚式へようこそ』のウエルカムボードが神殿前に置かれた。

 ククマット領の花を使いたいと言ってくれたローツさんとセティアさん。クノーマス伯爵家の紋章に使われているユーチャリスの他、薄紫色のクレマチスやスイトピーにアルストロメリアなど色とりどりでありながらぶつかり合ってうるさくならないようにバランスを取った組み合わせになるようデザイン。その色合いを大事にキリアが暴走気味に作ってくれて、見るからに手の込んでいるそれは白に差し色で金糸が使われているリボンがあしらわれ、イーゼルに立てかけられている。

 ちなみに、この白土&押し花の文字を使い、擬似レジンに沈めた透明なウエルカムボードも存在し、既に迎賓館の門前に飾られている。

 そしてその逆、文字が擬似レジンで押し花やドライフラワーが沈められたものを白土に埋め込み、文字のところが絶妙に裏が透けて見えるパターンも作られ、それは会場入口に。

「ウエルカムボードを三つも置くなんて聞いたことないけどね」

 マイケル。それはキリアに言って。


 神殿の正面、ブーケトスをするところには、両脇にこんもりとしたフラワーアレンジメントがあるんだけれど、実はこれはミニブーケを寄せ集めてあるもので、一つ一つがちゃんとラッピングされていて配れるようになっている。

 迎賓館のゲストが座るテーブルにあるお花も実はブーケになっていて持ち帰れるよう工夫した。

 ……殺伐としたブーケトスをどうするかと悩んだ末の事です。ブーケトスはするのかと問い合わせが複数ありましたので。


 私達の時は白が全面に出るようなコーディネートにしたけれど、ボタニカルをテーマにし、カラフルな花々を如何に活かすべきかと考えて、やってみたかったことをローツさんに提案したら一発オーケーをもらったものがある。

 それは花瓶ではなくカゴやバスケットを使うこと。

 薄く細い木材や蔦を使い編まれた自然の入れ物。置く場所、掛ける場所に合わせて大小様々に作られたカゴとバスケットにもふんだんにリボンやレースを使うことでそれそのものがちゃんと花瓶の役目を果たしてくれている。華美、豪奢な花瓶どころか花瓶そのものが一つもない。これはなかなかのチャレンジになるかな? と思ったけれど、体調を考慮して参加を遠慮したルリアナ様にこんなフラワーアレンジメントしたいんですよね、と相談ついでに見せに行ったら。

「素敵ね! バスケットにお花を飾るとこんなに可愛いのね!!」

 どうやらお気に召したらしく、カゴやバスケットをいくつか届けさせると言えばすっごい喜んでたの。それもあり私とグレイは花瓶を使わない提案が出来たのは良かった。

「いいわぁ、これ。アリだわ、あたしセンスあるー」

 テンション高めにそんな独り言を発しながら昨日夕方までフィンと共に神殿と迎賓館の花を飾ったキリア。

「ちゃんと寝た?!」

「寝たわよ! 息子とロビンが面倒見てくれてるから寝る時間あるのよ、凄いでしょ」

「自慢すんな!!」

 母親と妻の役目は今日までお休みする許可を取ったとか何とか。そんな彼女のお陰で素晴らしいお花いっぱいの会場に仕上がった。

「こちらが使いたいと思えるものを作ってくれるからどうにも怒れない」

 グレイにこんなことを言わせるキリアは凄いと思う。そしてカゴやバスケットも彼女が主に作ったよ、これらも商品として売るのアリかなと思わせる出来栄えだよ、もちろん。













 神殿の中、厳かな雰囲気で挙式は滞りなく進み、二人が扉が開いて姿を見せると、外にはたくさんの人が集まっていて大歓声に包まれる。セティアさんはあまりの人の多さに凄く驚いていて、ローツさんはちょっと照れくさそうに笑って。

「うーん、夏の結婚式、最高じゃない!」

 ケイティは二人を見つめて大歓声に負けない大きな声で話しかけてきた。

「ボタニカルドレス、大成功ね!」

 真っ白に困惑したセティアさんのためにデザインしたのは、真っ白なドレスに精巧な花柄の刺繍を施した『ボタニカルアートドレス』。

 原寸大の草花であるからこそのボタニカルアートだけど、ここ異世界 (笑)。私なりに考えて、精巧な図案であれば、大きさは多少違ってもいいだろうということで。

 セティアさんの着ているのはマーメイドラインと呼ばれる上半身からお尻までは体にフィットしそこから下が裾に向かって広がっているもの。ノースリーブのホルターネックで背中が大胆に開いていて背中を晒した分、腕はロングタイプの手袋にして素肌が出すぎないように配慮した。

「ローツの理性が試されるドレスだな」

 という、ドレスのデザイン候補をいくつか見たときのグレイの意見が採用された結果でもある。

 上半身はポイント程度で、裾に向かって花の刺繍が増えていく。薄紫や青、赤紫といった落ち着いた色味の花が真っ白なドレスの上に散りばめられた爽やかなドレスに合わせて、ローツさんはシルバーグレーのフロックコートにしてある。もちろんローツさんのもさり気なく凝っていて、スカーフはセティアさんのドレスの柄と同じにしてあるし、襟、裾、袖にも同じ刺繍が施されてるの。ただしその刺繍はシルバーグレーの糸でされていて、主張が激しくなりすぎないように配慮。


 皆に祝福されながら迎賓館に到着し、束の間の休憩をする二人よりも遅れて到着し中に入ってすぐ唸ったのはアベルさん。

「花瓶を使わないって、どうなんだろうと思いましたが……」

「お花が主役って感じいいでしょ」

「いいっ」

 あ、気に入ったらしい。

 皆が座る席のテーブルにあるフラワーアレンジメントがよほど気に入ったのか物凄い見てるのでそれ貰えるよと教えたらめっちゃ歓喜してた。奥さんに持って帰ってあげるんだって。

 そして、披露宴のこの会場。

 展示即売会再び。

 しかも今回は人数少ないので、選び放題な状態。

 アストハルア公爵夫妻、ツィーダム侯爵夫妻、アベルさんとそしてローツさんのご家族であるフォルテ家の人達が二人が登場するまでに出来るだけ物色しておこうと会場をせわしなく見て回っている。

「ジュリ、私このテーブルクロス欲しい」

「お前もか、リンファ」

「エリオンに話を通せばいいのね?」

「そういうの後にしてよ」

 あ、私を無視して行っちゃたよ。

「いいねぇ、次の結婚記念パーティーは時期をずらしてボタニカルパーティーもいいかもしれない」

 上機嫌で侯爵様がそう言えば隣ではシルフィ様が少女のように目をキラキラさせて首をコクコクと動かし賛同している。

「濃い茶のアンティーク家具と自然素材の籠やバスケットで全体的に落ち着いた色味の中で色とりどりの花がいいアクセントになってますよね。もっと花を飾り付けることも出来たんですけど、これ以上してしまうとごちゃごちゃしちゃうと思って抑えたんですよ。そのかわりキリアが暴走して色々と作ってくれたものが置かれてるので寂しくならなかったので良かったです」

 もうねぇ、ローツさんが個人的に謝礼をだしちゃうくらいにキリアが勝手に楽しく暴走した。

 擬似レジンに押し花が沈められたプレートに出席者の名前が一人ずつ刻まれたネームプレートが各席に置かれていて、これは引き出物の一つとしてお持ち帰り出来る。

 今回ブーケトスでミニブーケを沢山用意したのでその場で配るお品物はなかったんたけど、その分何か出来ないかというローツさんの一言にキリアが食いついて、食い付きすぎて、私のアイデアを手当り次第に組み込んできた。

 引き出物ももちろん彼女が噛んでいる。

 ローツさんの貴族としての武器として柄が擬似レジン製の透明なカトラリーが採用されたんだけど、今回招待客が少ないことが利点となってキリアはケーキ用フォークとスプーン各五本の十本セットを作っている。

「まあっ、素敵です!」

 セティアさんがついはしゃいでしまうほどの出来栄えとなったそれは、ローツさんのフォルテ男爵の家紋に取り入れた勿忘(わすれな)草が擬似レジンの柄に彫刻されただけでもかなり素敵なんだけど、キリアはその彫刻が施される前段階で擬似レジンの中にカットした螺鈿もどきと金粉を入れている。四角くカットした螺鈿もどきが数枚と金粉は手作業での封入なので必ず一本一本表情が違う。しかも光の加減で持って使うたび輝きや表情が変わるという、『シャレオツ!』とおばちゃんトリオたちが叫ぶ程の物を作った。

 あ、ちなみに当然私も作らされてます (笑)。

 そしてこれは外せませんね、白土です。

 新郎自ら作りました。ええ、もちろん部門長のウェラの隣にちゃっかり陣取りキリアも手伝いましたけども。

 スイーツデコ、通称食べたくなるシリーズの小物入れが二点セットのもの。フルーツタルトとモンブランという、デコレーションが凝りすぎてて食べたくなるシリーズで一番値段が高いやつ。

「……今日帰り、ケーキ買って帰ろうかな」

 と、それを見た従業員たちが呟いてしまいそうなほどの美味しそうな見た目に仕上げてあるのは流石。

 そしてちゃんと食べれるクッキー詰め合わせも引き出物の一つ。偏食なローツさんへの当て付けなのか、野菜のクッキーという選択はセティアさんとローツさんたちの屋敷に送り込まれたフォルテ子爵家の元副料理長改めフォルテ男爵家専属料理人。

「めっちゃ美味しいじゃん!!」

「美味しいですよね」

「これも食べないの?!」

「食べないんですよ、びっくりしました」

 私とセティアさんが試食してそんなことを話していたらローツさんがいつの間にか消えていたというネタもありつつ、とにかく二人もものは試しと引き出物を採用したのよね。

 そして引き出物を入れる物はなんと蓋付きバスケット。リボンを結んで雰囲気出してるけど、これを腕に掛けて正装した出席者たちが持って帰る姿を想像したら、先日グレイと二人で二日程思い出し笑いに悩まされた(笑)。


 この引き出物、定着はしないと思うよ。手間が掛かりすぎるので。

 まあ、これは私の自己満足の範囲なのでね。やりたい人がいたら相談に乗りますよー、程度でいいかなぁ。













 限られた人達だけでの披露宴は、余興などはなくこちらの結婚式の後に行われる定番の晩餐会スタイル。あまり詰め込み過ぎてもセティアさんが困るだろうという配慮ね。

 それでも、主張激しい従業員や職人さんたちの二人への祝福はそこかしこに存在している。

 ハート型のランチョンマットはパッチワークだし、フラワーアレンジメントの下に敷かれているドイリーはもちろんフィン編みのレース。一定間隔で置かれているキャンドルホルダーはガラス職人さんたちが緑色のグラデーションが綺麗なものを沢山作ってくれた。コースターは勿忘草の透かし彫り、ナフキンリングも同じく手の込んだ木製の透かし彫りとなっている。


「うふ、うふふ」

 何度もそう声を出してルフィナとリンファが手にしているのは。

 ネームプレートに添えられていた『ネイリスト育成専門学校講師二人によるネイルアート無料券 (五回)』。これはルリアナ様のご厚意で用意されたもの。セティアさんがこの日のためにハンドマッサージとネイルアートを施され甚く感動したことを受けてお祝いとしてセティアさんには一年間のフリーパスを、そして幸せのお裾分けとして出席する人全員に。男性の分ももちろんあって、それは奥様に譲ってもいいしハンドマッサージだけでも受ける価値はあるので是非体験してもららいたい。

 ちなみにケイティは。

「ルリアナの出産祝、奮発しないとね!」

「そうだね。あ、僕のはもちろんケイティが使っていいからね」

「マイケルぅ! 愛してるぅぅ!!」

 専門学校の顧問なんだから必要ないだろうに……。


「どうか貰って頂けませんか?」

 そう言って無料券を私に差し出してきたのは、セティアさんがいた修道院の院長。

「貰えませんよぉ」

「しかし、私には使い途が」

「なら、それは売ったらどうですか?」

「えっ」

「私物を売ったお金は寄付金とは違って自由に使えますよね? そのお金で修道院でお留守番している皆へ、お土産でも買っていったらいいんですよ」

「え、ええっ?!」

 白髪の、優しい目をした院長は驚きの余り大きな声を出して、そのことに自分で驚いて慌てて口を手で塞ぐ。

「なら、それは私が買い取ろう。ケイティ殿の爪を見て興味が湧いた」

「へっ?」

 ちょっと男前なツィーダム侯爵夫人が笑顔で会話に入ってくると。

「あら、珍しいこともありますのね? 院長、言い値で買わせて頂きますわ」

 アストハルア公爵夫人が笑顔で割り込んで来た。

「いやいや、こういう機会に恵まれない私に是非」

 おおっと、大枢機卿まで出てきたぞ。

「あの!!」

 ん?

「あの、それ私が」

 え、ロディム?

「私に、買わせて下さい。その……シャーメイン嬢に一回でも多く楽しんで貰いたいので」

 シン……と、静まり返った。

 一拍置いて、あたたか~い空気に。

 ロディムのうしろ、シイちゃんが真っ赤になって俯いて。訳が分からず院長がオロオロしているのがちょっとおもしろい。

「院長、ここは一つカッコつけたい若者を立てて下さると有り難い」

 言うことも何となく男前 (笑)なツィーダム侯爵夫人がロディムに向き直る。

「我々を差し置いてなのだから、それなりの額を提示してくれるのだろう?」

「一万リクルでどうでしょうか?」

 わお、流石公爵令息。え、それお小遣いの範囲なの? 出せちゃうの? 凄いね。

「わあ!」

 素っ頓狂な声を出したのはアベルさん。あ、院長が腰抜かしたのを支えてくれてた。


 お祝いの席なので何でもありって事で、と適当なことを言ってその場をまとめたのがハルトっていうのが、まあハルトらしい。













「今まで、お世話になりました」

 お見送りのとき、修道院の院長にそう深々と頭を下げたのはローツさんだった。

「頭を上げて下さい。こちらこそ、あらゆる支援をしていただいています。日々の生活すらままならない事もあった当院で子どもたちを受け入れ、女性たちを守り、神に安らかなる心でお仕え出来たのも貴方様の支援あってこそですから」

「いいえ。セティアがこうして私の元へ戻って来れたのは貴方の支えがあったからです。貴方が十分にセティアを尊重し、そして大切にしてくださるお心をお持ちだからこそ。本当にありがとうございました」

 セティアさんはローツさんの隣で泣き笑い。言葉が見つからないのか、ただ何度も頷いているだけ。

「微力ながらこれからも変わらず支援させて頂きます。どうか、今後もセティアのように迷える人々を受け入れ、救って下さい」

「院長……ありがとう、ございます。……本当に、本当にっ、どれほど感謝を申し上げればっ」

 言葉にした途端、顔をクシャクシャにして泣き出したセティアさん。そんな彼女を院長がそっと抱きしめる。

「私は私の務めを果たしただけですよ。セティア、こちらこそありがとう。あなたはいつも誰かのためにと考えて動いてくれました。あなたの優しさに、本当に何度も助けられました。私はそんなあなたに心から幸せになってほしいと思っています。幸せになるのですよ、セティア」

「はいっ……」


 思い起こせば、ローツさんに訳あって会えない彼女がいると知ったところから始まった。

 お節介でセティアさんのいる修道院に寄付や支援をするようになって、セティアさんと親交を深めて。

 七年間、二人が出来たのは手紙のやりとりだけ。

 互いにすれ違う考えも生まれてしまったはずなのに、それでも結婚に踏み切ったほど二人はずっとこの日を待ち望んでいた。


 ここに、セティアさんの家族は一人もいない。

 でも。

 今日からは。

 ローツさんが彼女の家族だ。

 そして私達もいる。


「結婚、おめでとう!!」


 夏の熱を帯びた空気が開け放たれている窓から流れてくる。


 ちょっと動いてお酒を飲むと汗ばむけれど、湿度のないカラッとした気候は不快さから程遠い。


 ただ心地よい。


 泣いて泣いて、化粧が崩れたと慌てるセティアさんをローツさんが面白そうに笑って、でも気遣ってハンカチで涙を拭う。

「あ、ごめん、目の下黒くなった」

「ええっ?!」

 慌てるローツさん、狼狽えるセティアさん。

 笑いが起こって、少し熱気が増した気がするかも。


 こうして今日、ククマットに一組の夫婦が誕生した。


 めでたい、めでたい。








次話、この流れに乗って《ハンドメイド・ジュリ》の改良品とか出てきます。


そしてここまで読んでいただきたいありがとうございます。さらに感想、評価、イイネに誤字報告もありがとうございます。もし続きが気になる、好きなジャンルでしたら、イイネと☆をポチッとしてくださるとうれしいです。

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[一言] 殺伐としたブーケトスは回避された( ˘ω˘ )
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