表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

317/641

23 * 準備は大事です

 ローツさんとセティアさんの結婚式は私達と同じくククマットの神殿で、そして披露宴はククマット伯爵迎賓館で行う。

 今回は日差しの強い気温も高い時期なので室内。私達の時にガラス戸を全て外した、美しい庭を眺められる広間で披露宴を行う。

 セティアさんを連れて神殿と迎賓館を案内しながら一通りその日の流れについて説明したときは非常に驚いていたわ。


 私達のときは私とグレイ、そしてフィン達が拘りを持ってやったのでケイティとリンファが口出ししてくることはなかったんだけど、ローツさんとセティアさんの結婚式の話が本格化したころから凄かったのよ、ケイティとリンファが。

「セティアのドレスがメインになった式なら、これはどう?」

「あれに合わせるなら断然それでしょ。こっちはどう?」

「それもいいわね、素敵」

「私の時は規模が大きすぎて出来なかったもの」

「そうよね、リンファのときはね。だからこそセティア達ならって感じ」

「……あのさ、グレイが一応メインでコーディネートを」

 グレイと私の計画書を奪い話を進めだしたあの二人を止めるのが大変だったからね。

 たとえ自分の結婚じゃなくても、準備に関わってキャッキャしたかったらしい。楽しいよねぇ、他人事だから妄想膨らませてあれやりたいこれやりたいと好きなだけ言えるもん(笑)。


 花の盛りの夏の結婚式。

 参加者はローツさんのご両親、お兄さん夫婦、妹夫婦、友人三人、クノーマス侯爵ご夫妻とツィーダム侯爵ご夫妻、そしてセティアさんが修道院に入ってもお友達でいてくれた貴族のご夫人二人と、修道院の院長、そしてグレイと私の計十八名というのが最初の人数だった。そこに最近は当たり前のように何かあれば参加してくるアストハルア公爵様が。

「祝いを出そう」

 とさり気なく入り込み、バミス法国のアベルさんは私達の結婚式が見られなかったのが余程悔しかったらしく。

「法王がですね、祝いを出すので是非今後の参考の為に招待してもらえないか聞いてこいと! なので来てみました! だめですかね?」

 と強引な手を使って。

「そんなことをしなくてもちょっと参加させてーって言えばいいのになぁ」

 と言いながら招待客リストに勝手に自分とルフィナの名前を書き込むハルトと。

「そうだよねぇ、ローツなら許してくれるよ」

 マイケルは招待客リストに名前を書く欄が無くなったからと勝手に二枚目を追加した。

「はい!! 転移と走って来ますのでご迷惑かけません!!」

 と元気よく挙手して『なんでいるの! 学校どうした?!』と私に叫ばせたシイちゃんこと義理の妹シャーメイン侯爵令嬢。

「将来の参考までに。あ、父上からはちゃんと許可を頂きましたのでご心配なく。席は父の隣でも一番後ろでもどこでも構いません、文句なんて言いませんので」

 シイちゃんの隣でさも当然のようにいる婚約者に内定しているロディム・アストハルア。え、まさかあんたもシイちゃんと転移と走ってきたんじゃないよね?

「なあに」

 そして。

「もー、皆言うだけ言って終わりなんて失礼じゃない。こういうときはちゃんと賄賂を持ってこなきゃだめよ。ジュリを籠絡してなんぼなのよ」

 威風堂々、オリジナルの超希少なポーションを荷箱に詰め込んだものと更には極寒の地になるという非常に珍しい果物をどっさり転移で持ってきたリンファとセイレックさん。二人で当然のごとく勝手に二枚に増えた招待客リストに名前を嬉々として書いていた。

「皆、暇なのか?」

 グレイは目を細めて呟いてた。

 こうして気づいたら人数が増えていた。


 今回、エイジェリン様とルリアナ様は遠慮すると先に申し出てきたの。ルリアナ様の出産が近いからね、何かあってはお互いが困るからということで。

 そしてククマットの人たちといえば。

 皆が裏方に回ることで納得してしゃしゃり出る人、強引に参加させろという人が一人もおらず。

「グレイセル様がその日は二人のお祝いってことで酒場三箇所を飲み放題で開放するって言った。しかも限定販売されてる高いお酒の試飲つきだってさ。行かなきゃ損だよ」

 と、白土を捏ねながら上機嫌で教えてくれたのはウェラ。うちの旦那は出席者を調整するのが面倒になり飲み放題でククマットの人たちをうまく黙らせていた。












 セティアさんのドレスとローツさんのフロックコートはおばちゃんトリオが製作。

 ブーケはもちろん会場に使われるアレンジメント、リース、ガーランドなど花関係はフィンとキリア。

 メインで飾られる白土製のウェディングケーキはウェラ。

 などなど、うちの主力たちにやりたい放題させました。

 というか、勝手にしてたので放置した。


 自由な愉快な仲間たちにはテーマに沿ったものを作るように、それぞれが調和するように、と二つの条件を付けた。それは流石に守ってもらわないとね。


 今回二人の結婚式のテーマはボタニカル。


 皆さん、ボタニカルってご存知?

「「「「知るか」」」」

 と、キレ気味に皆から返されたのはスルーして、それをニートチートに説明させた。

「『ボタニカル』ってのは『植物の』『植物性の』『植物由来の』っていう俺たちの住んでた世界の英語という言葉の形容詞だ。それがそのまま外来語として扱われるようにもなって、似たような言葉だと『オーガニック』っていのもあるけどそっちは『有機の』『有機栽培の』ってなるからそれ含めた大きな外枠の言葉かな」

「……外枠と言われてもな? そして『有機』とはなんだ」

 ハルトに説明させたらグレイの好奇心に火が着いて話が逸れたりもしたけれど、とにかくテーマはボタニカル。

 私達の白と緑をテーマにした結婚式の延長だね。

 もっと色を取り入れて夏っぽくを目指した。

 そもそも何でボタニカルなんてことになったかというと。

 セティアさんが修道院に居たときにドレスの採寸やデザインをつめていくという作業をおばちゃんトリオのデリアがリーダーになって足を運び進めた。その過程でセティアさんが純白のウェディングドレスに非常に困惑している、という情報を早い段階でデリアが持ち帰って来たから。

 結婚式で白、というのはこの世界では珍しい。本来流行りの色や貴族ならそれぞれの家のトレードカラーとかが結婚式のドレスの色として使われてきたからね。白は国の式典などで忠誠心や正義を示す色として使われる事が多いし、何より白は色として流行りになることがないんだよねこの世界。だから一世一代の晴れの日である結婚式で白は着ないという状況だったからセティアさんが狼狽えるのも当然。

 そこでデリアはルフィナからドレスを借りて見せに行ったのよ、こんな感じで白でも可愛くなるよ、素敵になるよと説得するために。

 それでも尻込み状態だったセティアさん。

「そこはあんたの腕の見せどころ」

 と発破をかけられたわけよ。


「……なら、ボタニカルかな」


 一晩考え、真っ白だったセティアさんのドレスのデザインに私は描き込んだ。


 そして二人の結婚式が決まった。


 ボタニカルウェディング、と。











 かつて『ボタニカルとは?』を私も調べたことがあるんだけど、その過程で知ったことがある。

『ボタニカルアート』とよく聞くけれど、このボタニカルアートにはちゃんとした定義があるということを。

 私ね、これ大きく勘違いをしていて知ったときは『へー!!』ってかなり驚いたのよ。

 何故なら世の中に氾濫していた『ボタニカルアート』の一部は『ボタニカル風アート』だったから。

 その決まりというのが四つ。


 一、実物大に描くこと

 二、背景を描いてはならない

 三、人工的な物を一緒に描いてはならない

 四、植物の持つ特性を変えず描くこと


 ボタニカルアートの起源は古くて、写真なんてない時代よりも更に前から植物を詳細に知る、教えるための『植物図鑑』のことを言ったらしいの。だからボタニカル柄として売られていた世の中の数多の商品たちを思い返すと、簡素化して可愛くなっていたものもあったし、背景に他のキラキラやハートとかが描かれていたものもあった。

 そう考えると、実は正真正銘ボタニカルアートとは呼べないものって結構あったんだとショックを受けたりもして。

 そのかなり厳密な決まりごとがあるボタニカルアートだけども。


 ……案外私達って追求出来ちゃうんじゃない? 多少変えても文句言う人いないんじゃない?


 と。


 恩恵持ちのおばちゃんトリオとフィンに刺繍させてごらん、すんごい精巧な花を刺繍しちゃうから。

 職人に絵を描かせてごらん、画家みたいにすんごい絵を描くから。

 そして夏の盛りで花に困らず、押し花も多種多様に用意し放題。あ、内職さん追加手当出すから頑張って!! って感じでいけるじゃんね?


 その思いつきで方向性が決まったわけよ。


 そこからはうん、異常に速かった。何もかも。


 セティアさんとローツさんの好きな花や意向を取り入れて花を決めて、そこに合いそうな花も追加して、会場の大まかなイメージを決めて、そして使う小物や家具、食器を決めていって……。

 そこにケイティとリンファからも色々と助言を貰って組み込んで。その主張の強さにグレイが時々青筋立てながら一触即発の事態となって、実際にお外に出てもらい喧嘩をしていただいたりもしまして。

 ええ、ええ、主張の強いその三人にうちの従業員たちが恐れ知らずで参戦しましたよ、毎日凄まじかったですよ。

「俺の結婚式の話だよな……?」

 何回ローツさんが首を傾げたことか。

 私とグレイの時より主張が激しかったのは私達の時はグレイの叙爵も関係していたし、何より私の花への拘りがそれなりにあったので口出し出来なかったということもある。


 なので、ローツさんとセティアさんのボタニカルウェディングは二人のことを祝福する人たちが出席出来ない代わりにこれでもかとボタニカルを意識してその主張を押し込んできた物になった。














「何だか申し訳ないですねぇ」

 皆の暴走を他所に落ち着いた様子で申し訳無さそうに眉を下げてフィンが言うと、ローツさんは快活に楽しげに笑った。

「申し訳ないなんて思わないでくれ、俺もセティアも本当に感謝してるし楽しみにしてるんだから」

 その隣、セティアさんも幸せそうに微笑む。

 今日は二人をフィンとライアスの家に招待して、そこに私とグレイの他何故か当たり前にケイティとマイケルもやってきて賑やかに夕食を囲んでいる。

「私も今からもう楽しみでドキドキしています」

「そうですか? それならいいんですがね」

「はい、感謝こそすれ、迷惑な事なんて一つもありませんから」

 セティアさんの屈託ない優しげな笑顔にフィンがホッと安堵し笑顔を返す。

「にしても、まだキリアは作ってるのか」

 思い出したようにライアスがお酒を飲みながら呟いて、私とグレイとローツさんは遠い目をする。

「なに、キリアどうしたのよ?」

 フィンが今度は訝しげに目を凝らす。

「……ここ数日お店の商品、作ってくれないんだよねぇ」

「は?」

「ローツさんとセティアさんの結婚式に飾るハーバリウムとか、白土と押し花を使ったボタニカル風の小物を納得するまで作りたいって、まだ作ってて、ここ最近店で売る商品ほぼキリア直属の作り手たちに任せてる」

「……結婚式、明後日よね?」

「うん」

「まだ作ってるの」

「作ってるの」

「どれだけ作れば気が済むの、そして間に合うの?」

「知らない……」

 流石のケイティも失笑よ。

「私も今回かなりアイデア出させてもらったけど、そういえば熱心にデザイン画を見てたり、もっと面白いものはないかって何回も聞かれたわね」

「……そのやってみたいってことを描いたデザイン画、流石に全部は多すぎると思って一部選別して隠してたんだけど、見つかっちゃって」

「それを作ってるの?!」

「作っちゃってるのよ」

「バカなの?」

「バカではない、いや、あそこまで行くとものつくりバカとも言えるような……一つでいいものを三つも作ってたし、完成させて納得できないものは売ればいいじゃんとも言ってた」

 セティアさんは何だかよくわからないけれどキリアが暴走していることだけは理解して苦笑するだけだった。


「まあ、キリアだからね。それに結婚式の準備ってとても大事だからそれくらい気合が入ってる人がやってくれているならありがたいことだよ」

 のほほん、とマイケルは呟いた。


 そう、準備大事。


 でも暴走は、違う気がする……。






もしもボタニカルアートってなんぞや? とさらに気になりましたら最高峰『フローラダニカ』についてググって見てください。

有名ブランドのロイ○ルコペンハーゲンではこの名前を冠した食器もあり、コーヒーカップ&ソーサーで数十万という代物です。ちなみになぜそんなに高額かといいますと、色々な要因はありますが職人による下書きなしの絵付けという点が大きいでしょう。

このあたり書き出すと数話必要なので省きますが。

ジュリが勘違いしていたという部分、実はかつての作者の事です。精巧な植物の絵なら全部ボタニカルアートだと思ってました。こういった勘違い、実は気付かないだけで結構身近に潜んでいる気がします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点]  セティアとローツにジュリとグレイ、そこにマイケルとケイティが加わってフィンとライアスの家で夕食。かなり広い部屋で椅子も沢山なければ無理ですね。田舎の大家族にありがちな大きな一枚板の机が思…
[一言] 結婚式の難易度がだんだん上がっていく……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ