◇ 夏休みスペシャル◇ 夏の夜のくだらぬ話 第一夜
予告致しました夏休みスペシャル一日目です。
本編には影響を与えません。気が向いたらお読みください。
※題名にもありますがくだらない緩いお話です。
今年もやって参りました海水浴!
いやぁ、いいねぇプライベートビーチ。美しい砂浜にすぐ近くにはクノーマス侯爵家の別荘。侍女さんに料理人もいるので何もしなくても良い。
ビーチパラソルをいくつも並べてその下でお喋り。冷たいお酒とおつまみもあり、ここは天国かと思う。
ドシャァァァ!
ズシャァッ!
……。
砂が降ってきた。
止めてほしい。
日焼け対策バッチリなリンファがスッと立ち上がる。
あ、怒ってる。
賑やかな男たちの所に優雅な足取りで向かった彼女だけど。
バッサー!!
あ、思いっきり砂、被った。
「ねえ」
美少女系美女が、それはそれは美しい笑顔を浮かべて声を掛けた途端。
男たちが固まった。
ボールがポスン、と砂に落ちた。
「この私に、喧嘩売ってるの? 今売ったわよね? そんなに買ってほしいの? 買うわよ、ええ、買ってあげる」
わぁぁ……。
「暫くそうしてなさい」
グレイ、ハルト、マイケル、冒険者のエンザさんとその仲間であるジークスさん、ギルさんが首から下を砂に埋められた。それを見て平然としているのはセイレックさん。
「砂から顔だけ出てるの面白いですね」
すっごい楽しそうに笑ったわ。
一方、キリアの旦那ロビンは引きつり笑顔。
「……面白いですか? 怖いですよ」
埋められて真顔の男六人を見比べてドン引きしている。
グレイたち六人がしていたのはビーチバレー。夏の恒例になりつつあるお泊り海水浴にわざわざネットとビーチバレーに使えるボールを開発して持ち込んだのは私じゃないからね。
これを持ち込んだのはマイケル。
「とことん海を堪能したい」
という理由で。私のものつくりへの執着や根性とあまり変わらない彼の拘りによって開発されたビーチバレーセット。
女たちはお喋りのほうがいいとなり、ロビンは『あの人たちに混じってやったら死にます』という理由で参加拒否、セイレックさんは『日焼けすると火傷みたいになってしまうんですよ』と言う理由で参加拒否。
そんな私達には初めから予測出来ていたことがある。それは、彼らがこういうことをするとロクなことにならない、ということ。
実際にロクなことにはなってない。
楽しそうにボール追いかけてたけどね。あのね、砂が凄いのよ、砂を蹴るたび、スコップで掘って撒き散らしてる? ってくらい砂が飛び散る。冒険者たちもまもなく上級に昇格するって話のある人たちだから何気に能力高めでグレイ、マイケルそしてハルト同様砂が……。
ボールは至って柔かな物。彼らが力を入れちゃうと破裂しちゃうような物。破裂しないようにボールに気を遣うという不思議なビーチバレーなんだけど、能力高い奴らなので足元が普通じゃない。魔力や【スキル】使用禁止にしてるのに、驚異的な身体能力でボールを追いかけ回すから全然落ちないんだよね。お陰で驚く程ラリーが続いてなかなか点が入らないという状況だった。それがまた彼らの闘志に火を付けて、一点取るたび盛り上がる。
盛り上がるのと比例して砂が飛んで。私達の所まで届くようになって、それにキレたリンファが文句を言いに言ったら、砂を被ったという……。
「勝手に抜け出そうとしたらこれで頬を打つわよ」
リンファがサクッと砂に刺したのは、ネット用の支柱を立てるために使ったスコップ。え、それで頬を?
「安心してね、上級回復ポーションはたくさん用意出来るから」
抜け出そうとした六人、彼女なら本気で打って来ると思ったのかモゾモゾしていた砂が全く動かなくなったので抜け出すのは止めたらしい。
「綺麗な色ですよね」
砂に埋められ反省中の男たちは放置して、私達は優雅なひと時を。
ロビンが手に取り眺めているのはこのトミレア地区で盛んに開発されている『トミレア・ブルーガラス』。鮮やかな青一色もしくは透明と組み合わせたバイカラーのみの物をそう呼ぶように提案してから早数ヶ月、今日はその新作を持ち込んでいる。
「見ているだけで涼しげでいいですね」
セイレックさんはリンファの耳に揺れるイヤリングを見て笑顔。真珠の下に揺れる雫型のトミレア・ブルーガラスはシンプルなデザインだけど爽やかで上品に仕上がったので我ながら満足よ。
「キリアが付けているブレスレットも素敵」
「いいでしょー」
マクラメ編みことククマット編みと組み合わされた大きなトミレア・ブルーガラスのパーツがインパクトあるブレスレットはキリアの自信作。これはルフィナが気に入ったみたい。
この鮮やかな青い小さなガラスパーツが量産され始め、トミレア地区はガラスパーツのアクセサリーが爆売れ。海に面する地区のお土産として小さく持ち運びが楽なアクセサリーはヒットだったようで、小さなガラスパーツを専門とするガラス工房二箇所が嬉しい悲鳴をあげているそうな。
「これジェイルが喜ぶわぁ」
ケイティが満面の笑みで太陽にかざしたのはトミレア・ブルーの丸いガラスを挟むように一回り小さい白い丸い天然石がある、さらにその外側に銀色の小さな丸いパーツが連なった革のブレスレット。これはケイティとマイケルの息子ジェイル君とキリアとロビンの息子イルバ君へのプレゼントに用意していたもの。仲良しな二人はイルバ君が学校に通うようになってから更に仲良くなりまるで兄弟みたいな関係なのよ。そんな二人がお揃いの物を持っていたら喜ぶかなぁなんて思って作ってみた。キリアもこのサプライズに喜んでくれたので満足。
因みに今回ジェイル君とイルバ君は一緒に来ていない。彼らはククマット領自警団の夏合宿に参加したいと言い出して、大人たちを驚かせただけでなく実際昨日から幹部のルビンさんとレイドさんのお手伝いとして参加している。
一体あの二人は何を目指しているんだろう?
「グレイセル様に憧れてるらしいよ。いつかジュリの護衛をグレイセル様に直接任される幹部になるんだって最近木刀で素振り始めたよイルバは。そんで既に二ヶ月で木刀三本へし折ったわ」
「そのへんのゴロツキより強いから十年もすれば望み通りグレイセルの側近になるんじゃない? ジェイルもテルムス公国に戻る気全然なくて、自分はククマット自警団の幹部になるって信じて疑わないのよぉ」
……末恐ろしい少年二人の母たちがさらっと言うけどそれ、どうなんだろうね?
エンザさんの冒険者パーティーメンバーの女性陣二人、アリアさんとリリーさんも青いガラスのパーツが使われたアクセサリーを気に入ってくれて満足。こういう青いものでかわいいものは少なかったからトミレアのガラス工房にはこれからもっと頑張ってもらいたいわ。
「あのー」
その声にパラソルの下の私達はおもしろ可笑しく楽しいひと時を過ごしていて忘れていたことを思い出す。
「そろそろ、出してほしいなぁ、なんて思ってます。反省してますので……」
エンザさんが代表して言ったのは、多分グレイとハルトとマイケルだと余計な一言まで付け加えてリンファの機嫌を損ねるだろうという考えがあったに違いない。
しかしですね。
世の中……いや、リンファはそんなに甘くない。
「誰が話しかけていい許可を出したのよ」
笑顔が怖いリンファが、砂に突き刺していたスコップを手にゆったり優雅な足取りで近づいて行った。
「連帯責任って言葉、知ってる? 出すのかどうかは私が決めることよ、あなた達が決める事ではないでしょ。それなのに出してほしいですって? ふざけてるの? ああ、ふざけてるのね全員、そうよね。それなら連帯責任ではないわね、個の責任があるわね、全員に」
誰が言おうと、しようと、リンファ相手では変わらないということを六人は学ぶことになった。
マイケルがこの日のために作ったビーチバレーボール一式はリンファが没収した。ケイティはその光景を見て『私バレーに興味ないから、別に』と言い放ち、夫を撃沈させていた。
後に北の大国バールスレイド皇国では室内で出来る球技『三人制バレーボール』が大流行。リンファが広めているヨガや太極拳と共に一年の半分以上が冬のバールスレイド国民の娯楽と健康維持を兼ねたスポーツとして定着していく。
このときに没収したネットとか、柱とか、ボールとか、三対三でやったビーチバレーがモデルになったとかなってないとか……。
そしてあのあと男六人がどうなったのかは、ご想像にお任せします的な。
かつて感想で羽子板でハルト達に戦わせてみたら、的なご意見をいただきましてそれで思いついたネタなのである意味読者様とのコラボ話とも言えるお話でした。使わせて頂きました、ありがとうございます。
今回のお話に補足しますと『トミレア・ブルー』に関してはもちろん開発されるまでにジュリのテキトーな発言などがあったのですが、ククマットの外でのこと、ククマットにはガラス関連で既に二つも主要なものが存在することから本編で掘り下げることがないだろう、という理由でスペシャルネタに使った次第です。
そして明日も、22時に下らぬ話第二夜更新ですのでよろしければ引き続きお読みください。




