22 * 老舗復活
あのあと、長方形を四枚重ねたストライプ模様も作られ、そのカラフルな見た目にトルマさんたちもテンション高めに面白い、可愛いと言ってたので非常に手ごたえのあった試作になった。
今回は作らなかったけどトルマさんには他にも提案しておいた。
「カットすると必ず切れ端が出るでしょ? それも細かくサイコロ状にカットして白に混ぜ込むとカラフルで可愛いと思うし無駄がでないよ」
「なるほど」
「それと、カットするんじゃなく、やっぱり型に流し込んで作る石鹸があってもいいよね。富裕層が好んで買うものって型に流して作られる細かい模様がはいったものだから。あと個人的にお祝いの品を意識して予約限定で六角形もお薦めかな。蜂の巣の形で子孫繁栄とか勤勉の意味がある縁起物だから、型取り石鹸と六角形は箱に拘って一緒にブラシや石鹸置きとセットにしてお祝い品やプレゼント売りもアリだよね」
「ほうほう、なるほど」
「ついでに店の改装しちゃおうね」
「ははぁ、なるほど……改装?!」
さすがにびっくりされた。でもなんの思惑もなく言ってる訳じゃないよ。
「経営者がカイくんになるなら、その告知を兼ねて今日試作したものを新商品として売り出してほしいのよ。そしてせっかく石鹸のほかにもセット売り出来る良いものも仕入れてるんだから、贈答品を扱う店だということも宣伝出来たらいいと思うんだよね。まだ花やケーキが贈り物として大半を占める世の中だけど、ククマットは最近変わって来たでしょ? だから、マリ石鹸店もその流れに乗ってみて欲しい。こういう専門店でも可能かどうか、その試金石になってもらいたいの。それでほかの店もプレゼントになるものがあるんじゃないか、出来るんじゃないかって考えるようになるかもしれなくて、そうなればきっともっと面白い環境になっていくと思うんだよね。だから、やってみない?」
石鹸の新しい模様を提案して実際に作って見せたのがプラスに大きく傾く力になると確信はあったけれど、片付けを手伝いながら談笑しているときに、トルマさんからその場で『よろしく頼む』ってカイくんに言っていたのには予想外の早さで驚かされた。
息子に継がせたかったから、薬草の取り扱いとその購入資格の取得をさせたんだろうなぁ、とは思う。代々守ってきた店だから、自分の息子にと、きっと。でも、ビルナが小声でトルマさんに『お兄のために、お父さんたちが我慢するのは間違ってるよ』とそれだけ言ったのを聞いた。その時、ただ一言、『そうだな』って噛み締めるよう答えていて、心のどこかで息子が帰ってくるかもと期待があったから考えさせて欲しいと言っていたんだと思うけど、この人もものつくりへのプライドがあって、こんなことで終わらせたくないと悶々としていたのかもしれない。
『そうだな』の一言は、決意の言葉だった。
「よし、皆でやるよ」
私の一言に皆が力強く頷いた。
「任せて! ガンガン作ってガンガン売るよ!」
「いや、まずビルナは無事出産してくれるかな」
妊婦が一番勢いがあるのでとりあえず全員で説得し、うちの託児所で預かれる月齢八ヶ月から本格的に復帰してもらい、それまではランドの家族の協力も得てできる範囲でやってくれということでなんとか納得してもらった。
カイくんが経営者になる手続きは速やかに進められた。理由は提案した新しい石鹸を直ぐにでも作りたいと言ってすでに作り始めたトルマさんとホリーさんの今のペースだとカパ草の在庫が一気に減ってしまうことが分かったから。手続きが済み、お店の買収金額を一括でカイくんが支払い、それと同時にお店の改装も着手し、無事カパ草をカイくんが購入して工房に届けられると、早速手早く分厚い袋に小分けにされて、大きな箱に収納したのを二人がホッとした顔で眺めていた。
そして先日の試作は一割をトルマさんたちが、そしてほぼ九割をグレイが相談して決めた予定の定価でお買い上げ。いつも頑張っている従業員や内職さんなど関係者に試供品にと配ってくれて。うちの旦那、凄くないですか? 優秀! 素敵! そして残りをローツさんが講座と専門学校の先生や関係者たちに。ま、これには口コミの効果も期待してのことなのでその辺はグレイらしいなぁと思ったり。
ただ、これにはご機嫌斜めになった方が。
シルフィ様。
ルリアナ様には、渡したの。妊娠してからネイリスト育成専門学校の学長のお仕事を休んでいる最中だけど定期的に学校の様子を見るため行っていて、ちょうど学校に顔を出した時に試作で作った全種類をローツさんが渡してくれてね。そしてね、私たち互いに『誰かがあげるだろう』と確認無しで配っちゃって。気付けばシルフィ様に直接届かずルリアナ様が察して『私たちにだそうです』と言ってくれたんだけど、息子がね。
「あ、母上の分、忘れてました」
って言っちゃって。バカヤロー、なんでそういう時ルリアナ様が上手くやってくれたことに乗っからないの!! とお説教するはめになった。
で、トルマさんたちがそれを知って、それなら新装開店に向けていっぱい作るからそれを一番に献上しますよと言ってくれたのをありがたく受け入れ、ならばと後から思い出したものも提案、試作しておいた。
試作の翌日にはカパ草の在庫切れを覚悟でトルマさんとホリーさんが頑張ってくれたので新装開店には十分な在庫が揃っていた。中に白土のミニチュアを入れるのは白土部門が『ちょっと待って、どうせ作るなら可愛いの作る』と言い出してしまい、今回間に合ったのは約二百個分だけ。ほんとごめんなさいトルマさん、ホリーさん……。でも拘り抜いただけあって、かなり可愛いのが出来た。全て花で統一し、深紅とピンクのバラ、黄色とオレンジのガーベラ、白の百合、青紫のパンジーの六種類。何が入っているのかは使ってみてのお楽しみ。これは高級感を出すために、一個ずつラッピング袋のような薄い布袋にいれてリボンで結び販売。マリ石鹸店の定番の石鹸が一つ四リクルなのに対し、マリ石鹸店限定ミニチュア花と袋の値段が加算されるので一つ十七リクルとかなり石鹸としてはお高くなった。これは富裕層が使う香料や着色料を使い、1つ1つ型に流して作られるのとほぼ同じ値段。でもお土産として買える値段ではあるから売れると見込んでいる。
このお花のミニチュアは出来が良かったのでヘアピンなどにアレンジできるよねー、と軽々しく言ったら白土部門がやる気満々になったのは良いんだけど人手不足で思うように数が揃えられないことがウェラをイライラさせた。
「フォンロントリオ、いつになったら戻ってくるんだい。本当なら戻ってきてる予定じゃなかった?」
『覇王』騒ぎで未だ混迷するフォンロン国から戻れていないレフォアさんたちフォンロンギルドの三人をこき使ってやると宣言していた。……ガンバ! レフォアさんたち!!
そしてボックスクッキーのように複数の色を組み合わせて形成してから輪切りにする石鹸は渦巻き、市松模様、四本線ストライプの他に後から提案したマーブル模様も加わった。白を含む五色のカラーを組み合わせることで物凄い数になってた (笑)。でもこれが改装をしたお店に凄く合ってて!!
「壁を白にしてよかったね!」
トルマさんとホリーさんが笑顔でうなずく。
「こんなに印象変わるんですね! 夕べ主人と商品を並べ終わったのを見て、何回も『凄いねぇ』って言い合ってしまって」
「白は清潔感があるよね、そこに濃い茶色のかごを置いて、石鹸が並んで。メリハリのある店内が凄くいい」
「ええ、本当に。グレイセル様には感謝しかありません」
そう、ここ、グレイが手掛けたの。カイくんにさせようとしたらね、何というか……独創的?
「違う、センスが常識からかけ離れている」
と、グレイが断言し、本当に常人には理解できないことばかり言うので、『ちょっと黙ってようか?』と黙らせた。
シュンと落ち込んでたのは見なかったことにする。
既存の石鹸もちょっと工夫を凝らして「量り売り」も可能にした。目の前で店員さんがお客さんの言うサイズをカットしてくれる。定番の石鹸はもちろんいい商品だから、ただ並べるだけじゃなく、見て楽しんで買えるように。
石鹸の種類がどどーんと増えたけど、既存の仕入れていたアメニティ関連商品も並べ方を工夫したりして、今までと変わらず買えるように。
そして店頭に立つ店員さんにランドのお母さんの他にもビルナの友達が二人、トルマさんの妹さんも是非手伝わせてくれと名乗り出てくれたし、万が一の場合はすっかり店員として堂々たる対応が出来るようになったうちの従業員たちを臨時で貸し出す契約もして万全。
《ハンドメイド・ジュリ》としては、いささか干渉しすぎだと自覚はあるんだけど、干渉せずにはいられなかった。
だって日用品であり定番として皆に長く愛用されている商品が無くなるのは悲しすぎるし不便で仕方ない。それに一人の大人の身勝手で必要とされる店が無くなること自体あってはいけないと思う。こういうのって、ある意味権力で潰されるより質が悪いと思うのよ。表現は悪いけど権力相手なら『仕方ない』って諦めもつく。でもそれが身近な人間の後先考えない行動でとなると、やりきれない思いで本当に辛いし憤りが募りそれを解消する術もなくて、諦めなんて気持ちにたどり着けないはず。
カイくんの事があったし、石鹸には私も興味があったからすんなりここまで来たのかもしれないけれど。
これからもこうして手を差し伸べてみてもいいと思う。
老舗の良いものを後世にちゃんと残してあげたいから。
これもまた、【彼方からの使い】として私の【技術と知識】でなんとか出来ることならやっていく。
ククマットを 《職人の都》にするために。
大・盛・況!!
カイくんを経営者としてお店に立たせ、盛り上げ係りを兼ねたデリアとうちの従業員二人を投入して良かった!!
デジャブでした、開店前のあの行列は。『あ、これ完売するパターンだ』と察知して直ぐ様ライアスに来てもらい『一人三つまで! もっと欲しいなら並び直せ!!』という厳つい文字の看板作ってもらった。
そして自警団にも要請を出せばすぐさま若いのが二人走って来てくれて行列整理をチャッチャと始め、狭い店内に入るお客さんの数を四人までと決めて誘導する感じ、慣れてるなぁと今更ながら感心したわ。
しかしこの行列。私が店を開いた時とは比べものにならない。
「日々使うもので、ありきたりの物しかなかった石鹸に変化があったとなれば皆が気になるだろう。どうしても着色料が値の張るものだから同じ大きさでも価格は六リクルになってしまうが、それでも手が出せない訳ではない、いつものを買うついでに買ってみようとなりやすい価格だからな」
「消耗品だから買わないわけにはいかないし。ここのは品質もいいから長期間劣化しないことも皆が知ってるから『試しに』『ついでに』がしやすいってことね」
「たぶんな」
グレイと二人、離れたら所から行列を眺める。……ん?!
「……グレイ、あそこにいるのって」
「私は見えていない」
「あ、そういうこと言っちゃいますか。ていうかそれでいいんだ?」
「こっちに気づいていて何も反応を示さないってことは放っておいてくれということだ」
いる。貴族が。ご本人が。
アストハルア公爵様、侯爵様が庶民の服着て行列に並んでますけど? あとね、いつもリンファの側に控えている絶対只者ではない初老のダンディーなおじ様とか、御大層な肩書きですね? って人がチラホラと澄ました顔してならんでますね。
最近、『貴族とは?』とこの人たちの行動を見ていると思うのは私だけ?
貴族だからなの? 偉いからなの? 自由すぎませんかね?
「ジュリ、この情況で言いにくいんだが」
「聞きたくないわぁ」
「……『素敵な石鹸、ぼったくりされても良いのでいっぱい下さい』という手紙が侯爵家に届いたそうだ、数十通」
「いつもの人たちだね、スパイが優秀なとこのね。あと高貴な人がぼったくりって言わないように手紙添えて請求書と石鹸準備しないとね。何割割り増ししようかな!!」
結果、こうなる。
いつもお読み頂きありがとうございます。
このあと夏休みスペシャルと作者お休み頂きますので更新がいつもと違いますので、その予定となります。
8/13 通常通り本編更新
8/16〜8/18 夏休みスペシャル 夏の夜のくだらぬ話三夜連続更新※22時更新です、ご注意ください。
19〜29 作者お休み
8/30 通常通り本編更新再開
となります。かなり変則な更新になりますがご了承下さい。




