22 * ビンゴ、イエーイ!!
大盤振る舞いすると宣言したし、事実として景品はこれはちょっとやりすぎたかもしれないとグレイと二日前に笑って誤魔化したくらいには良いものを用意している。
景品は全員に行き渡るように用意。司会者さんとお給仕してくれている人たちも、一人残らずこのときばかりは参加して必ず景品が貰えるようにしたんだけども。
数字が揃った順に抜けていくので、一抜けから順に大盤振る舞いの景品の抽選が出来るようにしてそれ以外の方には残念賞が平等に配られるようになっている。
残念賞は魔物素材にマイケルに魔法付与してもらったペンダントトップ。鎖は自分で用意してね。
この魔物素材だけど、加工をあまり必要としないロックコボルトという山岳地帯に発生する魔物の魔石を使ったもの。地球では知る人ぞ知る輝石として人気の高いパライバトルマリンというカラーとしては青や緑で独特の蛍光色をしたものに非常に似ている。綺麗なオーバル型をしていてこれを台座に嵌めるだけでも立派な宝飾品になるので、こちらの世界でもその特徴ある色味と艶が人気の魔石。この辺では手に入らない魔石なのでコツコツ集めてたの。そしてマイケルに『疲労回復:軽微』を付与してもらった。それを蔦模様が素敵な台座に嵌めてペンダントトップに。魔石代と魔法付与代だけで合計数万リクルすっ飛んだよ……。これが残念賞、大盤振る舞いが嘘ではないとご理解頂けたかと。
そしてですね、早いもの勝ち抽選の景品ですが。
・螺鈿もどき細工:バニティーケース、懐中時計ケース(特漆黒)セットとお好きな小物をプラス二十点フルオーダーで作れる権利
・ブルースライム様とアメジストスライム様のグラデーション螺鈿もどきラメ入りペンダント『危機回避:中』の付与あり(レア)マイケル付与
・透かし彫り家具七点フルオーダーメイドの権利
・メタルリザード様の鱗のランプシェード『快眠安眠:小』『遮音効果:小』の複合付与あり(レア)マイケル付与
・結婚式や晩餐会のプロデュース権:グレイセル・クノーマスと《ハンドメイド・ジュリ》のスタッフに全力でお手伝いしてもらえる権利
・輝石六種類プラス魔石を使ったエタニティブレスレット『体力回復:小』『魔力回復:軽微』の複合付与あり(レア)マイケル付与
・《レースのフィン》主催フィンのククマット編みレース5点のフルオーダーメイドできる権利
「ごめん、プロデュースの権利とかいらない」
とキリアたちに言われたよ。まあね、不要な人は不要だよね、これ(笑)。そこは後日何かと差し替えも可能ということにしてある。
「現金もありなの?」
「ありだよ、そっちがいい人もいるだろうし」
「……」
キリア他、うちの従業員たちがビンゴシートを両手で掴んで穴が空くほど見ている……。この人たちは現金だわ、間違いなく。
反対に富裕層の反応が非常に面白い。
まず、マイケル付与の魔法付与品って珍しい。しかも効果がレア。ついでに普通に日常で役に立つ。魔導具のコレクター垂涎の品と言っても大げさじゃないのよ。
そして各商品のフルオーダーの、権利。これ実は現在はフルオーダーを受けていないものばかりで、各方面から出来ないかと常々問い合わせが入っている物。
現状、受けてしまうとその後お断りするのが難しいからね。フルオーダーに対応出来る技術の作り手が限られているという問題は人材育成に頼らざるを得ないため、目処が立っていないククマット全体の問題でもあるわけ。《レースのフィン》だって、フィンを除いて対応できるのは恐らくおばちゃんトリオのみ。あれだけ人が育ってきている《レースのフィン》であってもフルオーダーを事業に組み込むのは厳しい。というか、そもそもフィンもおばちゃんトリオも自由にさせているからこそアイデアがどんどん生まれているようなので、制約をかけたとき恩恵がどの程度影響を受けるのかちょっとよくわかっていないという不安要素もある。
なので今回限りのこのフルオーダー。
お貴族さまにとっては、現状クノーマス侯爵家が独占していると言ってもいい私関連および派生品のフルオーダーが唯一手に入れられるチャンスなわけで。
「家具の大きさに制限は?」
「小物とあるが販売されているものでなくても作れるならいいということか?」
「レースの糸だけどこちらで用意したものでもしてくださるの?」
多い多い、質問多い。ちょっとまって、まだビンゴも始まってないから質問禁止!!
前のめりな人々を爵位がなんだ! 主役の言うこと聞け! と追い払ってフウッと息を付けば只ならぬ視線がいくつか。
「結婚式のプロデュース……ぜひとも」
「あなた、うちの子の結婚式の準備はこれからですからちょうど良かったですね」
「うーむ、来年の結婚記念日パーティをプロデュースしてもらいたいっ」
あ、うん、この人たちにはお年頃の娘や息子がいらっしゃいますねという数組の夫婦とパーティ好きで有名な方が数名。これについては有効期限五年くらい付けますので見事ビンゴで先抜けして抽選で当たるといいですねの意味を込めた笑顔だけ返す。
このプロデュースは飾りにうちの商品を使ってもらい、宣伝する意味もあるのでいずれ本格的に事業展開もありだなぁ、とハルト、リンファの結婚式のプロデュースをして思ったの。それでものは試しということで景品にしてみたわけ。
とまあ、ブーケトスとは違う殺伐とした空気が流れ始めたのでこういうときこそマイケルですよ。
「あ、ちなみに不正すると丸一日全身麻痺になる呪詛が発動するようになってるから魔法とか【スキル】使わないようにね」
今度は空気が凍りました。結婚式の披露宴の雰囲気、どこに行った?
「みなさーん、真ん中の星印はサービスみたいなものですよー。そこは最初から立てておいてくださいね、なので最短4つの数字でビンゴになる人もいるかもしれません!!」
ノリノリでそんなことを私が言えば、おおっ! とどよめきが。
「縦、横、斜めどれでもいいです! 出た数字を立てて一列揃ったらビンゴー!! といいながら挙手お願いします! では最初の数字はなんでしょーか! 行きますよ、回しますよ、えいやーーー!!」
このあと、歓声やら絶叫やら大変な盛り上がりを見せました。
ビンゴ大会、大成功。
ちなみに今回【彼方からの使い】とその配偶者、クノーマス侯爵家一家の参加はなし。この人たちは例にもれずくじ運、ギャンブル運がすこぶる良いので独占してしまいそうな気がしたのよね。嫌じゃん、身内ばっかりずらりと並んだら。
結果、魔法付与品のエタニティブレスレットは穏健派ディステオ伯爵(アストハルア公爵家の縁戚でもある)夫人、ランプシェードはお給仕として今回お手伝いしてくれているツィーダム侯爵家のベテラン侍女さん、ペンダントはおばちゃんトリオのメルサの旦那さん。
「あんたのものはあたしのもの」
と宣言し、笑いを誘っていた。……あの夫婦は普段からそうですよ、笑いを狙った会話じゃないですよという顔をしていたのはわたしだけじゃない。
そして螺鈿もどき細工のフルオーダー権はなんと常日頃からお世話になっている爪染め(マニキュア)の原料となる木の栽培からお付き合いしているナグレイズ子爵家のご隠居。
「ふぉっほほほほ、家族にいい土産が出来たな」
と喜んでた。
フィンのレースのフルオーダー権は穏健派のメルセリオ伯爵というめちゃくちゃ大柄な熊みたいな人で、奥様が大喜びしながら物凄く『あなた! くじ運が強いなんて最高ですわ!! 流石私の旦那様!!』と褒めてて、めっちゃ嬉しそうにしてたよ(笑)。
……で。
透かし彫り家具のフルオーダー権と、プロデュース権ですが。
嵐を呼びまして。
「え、よりにもよってなんで俺!」
今回、常々お世話になっている職人さんも呼んでいる。そうしたら、透かし彫りの第一人者となってくれているヤゼルさんの息子がこれを引き当ててしまい。このフルオーダーの家具、ヤゼルさんと一緒にこの人も彫るんです。『いらねぇ』と、呟いた顔がマジだった。
そしてプロデュース権。、こちらもまた微妙な人が。
「私、パーティも開きませんし、身内に結婚の予定がありそうな年齢もいませんが……」
領民講座の講師、武器マニアとして最近周知されつつあるグレイやエイジェリン様の元家庭教師だったターニアさん。
「自分で作れる物を貰う意味がねぇ」
「権利より現金下さい、老後の資金に」
と言い出した。んじゃあ、二人とは後日話し合って現金を……とビンゴを片付けてもらう側で和気藹々と話しだしたら『待った』がかかり。
そっからよ、大変だったのは。
「その現金はこちらが支払うので透かし彫りの権利を譲ってくれまいか?」
と言い出したのがツィーダム侯爵夫人。旦那様の侯爵様は『いいやがった……』と吹き出しが付きそうな顔して。
「ならばおれもプロデュースの権利を買おう!!」
と侯爵様の弟の叔父様まで。そして芋蔓式に私も俺もと……。
「はい、ビンゴ二回戦目開始といこうか。希望者前に出てー。新しいカード配るよー」
マイケルが勝手に仕切ってくれた。
「これ回したかったんだよー」
数字の書かれた玉がカラカラと音を立てる。ビンゴやりたかっただけだった。
結局、侯爵夫人と叔父様は外れまして透かし彫り家具は取引先の商家の商長さん、プロデュース権は……。
「よろしく頼む」
アストハルア公爵様だった。
ああ、ロディムとシイちゃんの婚約式か結婚式?
「私と妻の結婚記念パーティだ」
そっち?! 大事な嫡男じゃねぇのかよ?! という顔を私がしていたのか、不敵に笑いまして。
「二人の時はあの二人が伯爵に直にお願いするだろう。きっと伯爵なら妹のためにと喜んで受けてくれるだろうしな」
隣を見れば新郎が目をそらした。そのつもりだったな、その反応。
とまあ、終わってみれば大成功過ぎてビンゴゲーム一式ほしいと言う人まで出てきて、商談始まりそうな勢いになって司会者さんやハルトたちにそれは今することじゃないと私とグレイが止められた。
いやぁ、披露宴っぽくない。
でもいい!
これくらいやらないと私とグレイらしくない!
満足!!
午後のティータイムの時間帯になれば披露宴も佳境に入った。
「本日はお越しいただき誠にありがとうございます」
グレイがその挨拶をする。
自分が伯爵になりクノーマス家の分家としてククマットの領主になった報告、私とグレイの出会いから今日に至るまでの簡単な話とそして。
「『覇王』の発生兆候の知らせを受けてから終息までの期間、皆様には多大なるご協力を頂きました。今回、お気づきの方も多いかと存じます。……本来であれば、慣例や交友関係、そして派閥という見えない壁によってご招待するのが難しい、躊躇われるという方々にご出席頂きました。このような場で言葉にすべき事でもないと承知しています。しかし、お伝えしなくてはなりません。私とジュリが望む結婚式とは、今目の前にあります。お世話になった方、親しい方、派閥や慣例に縛られず呼びたい人を呼ぼう、それが私達の結婚式のあり方でした」
悩んだんだよね。
やっぱり貴族になったからには慣例とか派閥を無視すべきじゃないよね、って。でもね、それでお世話になった方に結婚の報告をちゃんと顔を見て出来ないのが嫌だったの。『あのときはありがとうございました』『本当に助かりました』『これからもよろしくお願いします』って、一人でも多くの人に言葉で二人で伝えたくて。『覇王』騒ぎよりもずっと前から私とグレイは二人三脚でやってきた事が多い。その時から沢山の人に二人まとめて助けてもらってお世話になって、ここまで来たんだよね。
「これから周りがこうなって欲しいというわけではありません、それはとても難しいことできっと今後このような場面に立ち会う事は極めてすくないはずです。しかし、せめて私とジュリは、このククマットは、どんな立場であろうと手を差し伸べてくれる方を、見守ってくださる方を分け隔てなく歓迎していこうと思っています。アストハルア公爵様を始め穏健派の皆様、先のご協力に改めて心より感謝申し上げます。そして、無理を申したにも関わらずこうして本日出席頂きましたことも御礼申し上げます。それらを受け入れて下さった中立派の皆様、そして全ての方々にも、感謝と御礼を申し上げます」
変わればいいと思う。目に見えて変わる必要はなくて、個々の価値観の極一部で構わないから、言葉を声にして出さなくてもいいから、こういうのもいいよねって認めてくれる気持ちになってくれたら嬉しい。
グレイの挨拶が終わり、二人並んで頭を下げた。
割れんばかりの拍手に包まれる。
頭を上げて、グレイの顔を見上げる。
グレイも私を見ている。
二人で笑顔になれた。
「さあ! ビンゴ三回目!! 景品はなんとバールスレイド皇国礼皇であり新婦ジュリの親友リンファが作ったポーション!!」
あれ。
「飲めば瞬く間にツヤツヤお肌になれる美肌ポーションレモンティー味!!」
そろそろ披露宴終わりだけど?
「今日は特別五本セットだぁ! 回すのはマイケル! 不正一切なしの正真正銘運だめし!」
ハルトとマイケルが悪ノリし始めた。あ、シルフィ様が参加するらしい。あ、殆どの女性たちがあつまりはじめてる。
挙式で一時間遅れ、そしてこのビンゴでさらに一時間遅れ。
はははっ!
なんでもありってことで!!
祝い事なのでどうでもいい感じの話を入れて賑やかに騒がしくしたいと思い書いてみました。
主人公の結婚式なのでね、これくらい引っ張っても良いだろうと思った結果でもあります。




