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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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22 * 緑と白のガーデン

 季節は初夏の手前、湿度の低い、梅雨の心配がないこの地域だからこそ踏み切れた披露宴。


 ククマットの土地開発が始まったころからすでに計画に組み込まれていたククマット地区の、クノーマス家の迎賓館の完成は『覇王』騒ぎの最中だった。私がちょうど『黄昏』相手に奮闘していた時で足を踏み入れたのはグレイが帰還して数日後のこと。

 芝と石畳広がる広い庭に意匠が凝らされたその白亜のククマット一大きな建物はグレイが伯爵となった時点でクノーマス伯爵迎賓館となった。

 グレイが元々住んでいる、私も今は一緒に住んでいる屋敷も相当大きいけれど、それでも貴族の屋敷としてはかなり小さいらしい。まあ、ね、クノーマス侯爵家とかと比べればそりゃ小さいですよ。

 なのでグレイや私が今後主催するかもしれない夜会や晩餐会が行える場所として活躍していくことになるであろうこの迎賓館の初めてのイベントが私達の結婚式となった。


「そうだ、『ガーデンパーティ』をしよう」

 どっかのCMで流れてそうな台詞じみた事を言ったのは私ではなくグレイ。

 以前リンファの結婚式をプロデュースしたときにいくつかプランを出していた中で彼がとても気になっていたのが緑と白をメインカラーにした結婚式。

 私としてもそれがいいなぁと思っていたので即決したんだけど、まさか本当に外でやること前提に計画するとは思ってなかったの。

 だってこっちの世界でガーデンパーティってお茶会だけだから。

 結婚式後は基本室内でお食事、つまり晩餐会につながるように予定を組む。

 太陽の光が降り注ぐ日中に外でパーティっていうのは形式としては所謂略式にあたるためまさかグレイが言い出すと思わず。

「ん? せっかくなら季節にあった雰囲気抜群の式にしたいじゃないか」

 あ、コーディネーターとしての血が騒いでるらしいこの人 (笑)!! 最近室内の内装とか積極的に勉強してまして。性に合ってるとでもいうのかな? 物作りは向いてないけど配置とか組み合わせとか、そういうことになると飽きずにやれるらしい。

 と判明したのでもう炎上覚悟で開き直ってやってしまおうとなったわけ。


 迎賓館の広いテラスから続く広間のガラス戸を、全て外して開放し、そこで休憩することもできるようにしてある。

 そして、庭。

 白い大きなパラソルの下に白いテーブル。各所に白いベンチ。それら全てに緑とユーチャリスを主とした白い花のブーケやリース、そしてガーラントで飾った。リボンも余計な細工はせず真っ白にこだわって、遊び心で所々に、花の刺繍がされている至ってシンプルなものになっている。

 用意された食器ももちろん白。雰囲気に合わせて緑の蔦や葉っぱの絵が描かれたものを特注したの。これは今後迎賓館でこの季節にお客様を迎えるときに使用することもできる。

 グラスとワインクーラーを中心にガラス製品はククマット周辺で飛躍的にその技術が向上したガラス工房各所にお願して作って貰った。透明度の高い無色のガラスが引き立つようにあえて余計な模様は入れていない。そこにインパクトを与えるトミレア地区で開発された鮮烈な青さの『トミレア・ブルー』と名付けられた青いガラスのグラスも一緒に並ぶ。徹底的に今の爽やかな季節に拘った白と緑に良いメリハリを添えてくれている。


「所々皆の主張を感じるな」

 前日、ここを見に来たライアスがそんなことを言った理由。

 私とグレイが座るベンチの両脇に、プロが数週間掛けて製作するシュガークラフトさながらのウエディングケーキがある。これ、白土。作ったのは勿論ローツさんとウェラ。繊細な、信じられないくらい繊細なデコレーションとお花の白い三段ケーキはパステルカラーの緑と青が差し色になってる。

 昼間だから使わないのにペリドットカラーのリザード様の鱗を使って作られたランタンがインテリア的な扱いでテーブルとか至るところに置いてある。これはキリア。入り口の門のランタンもいつの間にかこれに差し替えられてたからね。

 各テーブルにはユーチャリスやクレマチスをモチーフにしたレースのテーブルクロスが掛けられている。おばちゃんトリオが独占して編んだらしい。いつもの如く自分のが一番豪華だとか、最高の出来だとか、最も細かな編み方だとか言い争いながら編んでいたとフィンが教えてくれたわ。

 食器や小物の下に敷かれている様々な大きさのランチョンマットは最高齢かつ最恐と言われるメイナおばあとチェイルちゃんのパッチワーク。白と緑に差し色で水色や黄色、ピンクもさり気なく使っている所がすでに、プロだね。

 それ以外にもハーバリウムもあるし……。

「主張が過ぎるわ」

 スンとした顔で言っておいた。

 これはあれだ、展示即売会だ。

 現に。

「これはいくらなら売ってくれる?」

 と元執事で領民講座で講師を務めてくれている、今回の会場の取り仕切りを引き受けてくれたエリオンさんに見知った貴族が聞いている。エリオンさん、小脇に抱えている冊子を開いて何やら会話してるんだよ、あれは価格表だ、絶対に値段と販売出来る個数が一覧になったやつだ。

「あれ……? 即売会の、許可出したっけ?」

「出していない。まあ……うちの従業員だからな、しっかりダメと先に伝えておかないとこうなる」

「ああ……自由だね」

 私達の監督責任問題らしい。商長と副商長もまだまだですな、精進しましょう互いに。と、頷き合っておいた。


 控室で喉を潤しつつ束の間の休憩を過ごす私達は窓越しにそんな光景を眺めながら遠い目になっていた。


……パッと見披露宴、でも実情は展示即売会。こんなの私とグレイの結婚式だけだよ。













 全員が会場に到着、短い時間ながらも喉を潤したり歓談し一息ついたのを確認して。

 さあ、披露宴だ!

 ガーデンパーティ開幕!!


 性格のことで『ジュリは冷めてる』とよく言われるけれど、確かに興味の無いことにはそういう面が強く出るけど、それでも憧れというものはあった。

 かつて兄が結婚するとき、義理の姉に誘って貰えたウエディングドレスの試着見学。ウエディングドレスがずらりと並ぶサロンと呼ばれた真っ白な世界。浮かれていつになく陽気な義姉に呆れつつ一緒に楽しげに選んでいた兄のそば、義姉がいくつか選んだものには入っていなかった、サロンの中で見本として飾られていた数着のうちの一着。

 シンプルな、飾り気のない、素材重視のドレス。

 私はそれに心惹かれた。


「何度見ても綺麗ね」

 私の隣、グレイとは反対側になる椅子に座るルリアナ様が大きくなったお腹をゆったりとした手付きで撫でながら微笑んだ。

「白いドレスというのは王家主催の祭典などしか着ることがないものだったわ。どちらかというと汚れが目立つことを理由に敬遠されてもいるし。でもこうして見ると、なぜかしら、結婚式に相応しいと思えるの」

「ルリアナ様にそう言って貰えると嬉しいですね」

 デヘヘ、とだらしない笑い声を返すとルリアナ様はさらに笑った。

 だらしない笑い声にもなる。


 だって、このドレスは私の理想をフィンが叶えてくれたものだから。


 基本の形はAラインと呼ばれる裾に向かってスッキリとした線を描くように広がる形。プリンセスラインのふんわりと弧を描くようにボリュームを出して広がるのに比べると少しだけスマートさがある。

 上半身はそのスッと伸びるラインに合わせて無駄のないシンプルなものになっている。オフショルと呼ばれる肩を出すスタイルにしつつ肩が出すぎないようにしてある。鎖骨から胸の上部の幅でぐるりと覆うようにしてそこから覗く腕を覆うオフショル部分の布にはユーチャリスとクレマチスを刺繍してもらっている。その刺繍はドレスの裾にも施され、シンプルな形のドレスを華やかにしてくれている。腕の素肌を晒すのに抵抗があったので刺繍と同じユーチャリスとクレマチスのレースの長袖にし見た目が重くならないようにしてもらった。非常に手の込んだそのレースはドレスの内側にも縫い付けられていて、歩くたびに裾からチラチラとその細やかで華やかなデザインが見れるようになっている。

 長いトレーンもなく、リボンもない。

 実にシンプルなドレス。

 それでも、白いレースと白糸の刺繍が艷やかな生地をより一層輝かせてくれている。


 私らしいのかな、と思う。

 もっと派手に、豪華に。する気になれば出来たけど。

 着たいと思ったドレスはこれだった。

「フィン、ありがとう」

 後ろの席、静かに座っていたフィンにそう声をかけるとちょっとびっくりしたあと破顔して。

「どういたしまして」

 ひと針、ひと針、私の幸せを願って仕立ててくれた。

「あんまり難しいことはなかったからあたしも楽しみながら作らせてもらえて幸せだよ」

 ……しんみりした私の心を返して欲しい。

 そう、恩恵によって彼女は大した苦もなく初めて縫うウエディングドレスを仕上げた。レースに至っては私のデザインよりも更に細かく素敵に仕上げて『こんな感じどうだい?』とサラッと言ってきた。おばちゃんトリオといいフィンといい、編んだり縫ったりのその異常なスピードと正確さはもはや私の常識からかけ離れ別次元に向かっているから恐ろしい。

 付け加えると、グレイが着ている真っ白なフロックコートもフィンが手を加えている。これは元々正装と呼ばれる形式に沿ったタキシードと同じく公式の場でも着れるように袖や襟に趣向が凝らされた物があるんだけれど。

「ジュリと御揃いにしてほしい」

「はいはい」

 と、グレイとフィンのこのたった二言の会話で結婚式のため仕立てられていたフロックコートが改造された。

 襟は取り外され、全く同じ生地で再び縫い付けられたんたけど、そこには私のドレスと同じ刺繍が縁取りされた。金糸と銀糸だったのを白い糸に変えてしまったのよ。そして、コートの裾、正面の隅と後ろの切込みのところだけにワンポイントで刺繍が施されて、袖口を十センチほど同じレースで覆うという、『マジで御揃いだ』的な仕上がりに。そもそも男性物にレースを使う自体が異例なんたけど、頼んだ本人と改造した本人がめちゃくちゃ満足してたよ。

 ……かっこいい! 似合う!!

 という結論から余計なツッコミは止めました。


 そしてアクセサリーも一連の真珠のネックレスとピアスのみ。グレイのカフスやスカーフピンも真珠。余計な細工のないもので揃えてある。

 グレイの胸元にはユーチャリスのブートニア。互いに真っ白な装いが、色とりどりの招待客の装いで飾られる庭の中では一際映えるはず。

「ジュリ」

「うん?」

「とても綺麗だ、世界一だ」

 今日何度目か分からない賛辞。うん、慣れてきた。

「グレイのかっこよさも世界一よ。でもね、あんまり言われるとありがたみが薄れるからペース落として」

 私達のやり取りをフィンとルリアナ様が笑った。













「それでは、新郎新婦を皆様盛大な拍手でお迎え下さい」

 司会者の言葉で庭が拍手で包まれ、それに迎えられて私とグレイが定位置に向かう。

 ……司会者。この人、ハルトとルフィナの結婚式で司会した人。なんとあの後本当に司会業を始めたとかで、ロビエラム国王公認で副業をしている超エリートな側近というよくわからないお立場になっていた。夜会や晩餐会などの進行を潤滑にしてくれると大変好評でロビエラム国の主だったその手のイベントでひっぱりダコらしい。

「これがなかなか良い小遣い稼ぎでして」

 とホクホク顔してたよ。じゃあ忙しいなら私達のは頼めないかぁと呟いたら。

「私以外誰が?」

 真顔で、ちょっと圧を感じる顔で言われた。ハルト曰く、『お前らのは自分がやると信じて疑ってなかった』と。

 ということで今日はこの世界で最も司会進行が上手なロビエラム国王の側近さんが当然のように司会者やってます、はい。


 ガーデンパーティなので軽食やデザートなど好きなタイミングで楽しんで貰うのがいいだろうと、バールスレイド皇国で主流の立食形式。外で、しかも立食で、それが結婚式の披露宴というのは例がなく出席者全員が興味津々な様子。

 グラスを手にして乾杯をしたあとは爵位などを考慮して順番に挨拶まわり。これが大変な反面なかなかに面白い。旦那さまとは面識あるけど奥さんは初めてとか、またその逆とかもあるのでそれぞれから紹介されるんだけど、見てると夫婦仲がよく分かるというか……。

「夫が世話になっている、いつか挨拶せねばと思っていたので此度の招待、誠に感謝している」

 特にこの人。ツィーダム侯爵様の奥様、つまりツィーダム侯爵夫人なんだけども。

 貴族の女性には珍しくショートカットヘアでしかも後ろに流して整えていて、ドレスは上質な布地だけどかなりスッキリシンプルなもので。しかもその、喋り方がね。

「ああ、()()()とは幼なじみでね、お互い親の決めた家のための結婚だった。夫婦というより同志だな」

 夫の侯爵を『こいつ』。

「伯爵家の娘なのだが女騎士だったのでこの通りあまり女らしくない」

「そうだな、まあ、それでもお前の子供は二人も生んでやったし愛人とその家族も認知してやっている、そこは褒めて欲しいものだ」

「褒めているし感謝もしているが? それだとまるで蔑ろにしていると思われるではないか」

「何やらいつも楽しそうなことにこいつを巻き込んでくれているらしいから今度は私も混ぜてくれ」

「おい、私の話を聞いているのか」

 なんだろう、ツッコミ所が多いなこの夫婦。というのはこの夫婦だけだったけど。

 それでもなんとなく夫婦って面白いなと思わせられる出会いが多かったわ。


 さて、結構な時間を使ってのあいさつとグレイの叙爵の報告が終わり。


 ここからですよ。


 ふふふふふっ。


 ハルトの時のような私が笑えない余興は、しません。


 でもね、用意してみました。


 お楽しみ。



ジュリのドレスは案外すんなり決まったんです。彼女の好みに合わせてシンプルに。


そして少し前から出てきているクノーマス伯爵の紋章に使われるユーチャリスは個人的な作者の好みで選んだので花言葉とか無視してます(笑)。素敵なお花なので知らない方は検索してみてください。



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― 新着の感想 ―
 ツィーダム侯爵、仲良さそうなのに何故愛人を…?  でも庶子の青年を喪った時はそっと寄り添ってくれそう。
[一言] ツィーダム侯爵夫人面白そうな人だな
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