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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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22 * ジュリの結婚

いよいよ本番。

 恥ずかしい。

「ああ、綺麗だ」

 ああ、恥ずかしい。

「ずっと見ていたい」

 支度が終わってフィンがそれを伝えにグレイを呼んできたまでは良かった。夜明けと共にバタバタ、ホントにバタバタと忙しなく準備に追われて最早私は『え、もう、疲れたんだけど……』とスンとなったりしたけど、入ってきたグレイのカッコ良さにテンション上がって『今日一日これ見て頑張れる!』と気持ちが復活したまでは、本当に良かった。

「うわぁ、グレイ、カッコ良! 最高!!」

 ウエディングドレス着てる女にはちょっと似合わない高揚した私がそんなことを言ったから、というわけではない。

 元々この男は私に対するフィルターが高性能過ぎる。一体この男には私がどう見えているのか度々疑問が起こるくらいには私は美化されている。

 それが今日ついに最高潮に達している。

 いやもう止めてグレイさんや。

 着付けやお化粧などなど私を仕上げてくれたフィンや侯爵家の化粧師さん、ネイリストのイサラ、付き添いのケイティがその暴走っぷりに最初は温かい視線を送るだけだったけど今はもう『まだ終わらないのか』って顔になってる!! 温かい視線はそんなに長続きしないってよ、グレイ!!


「こんなに綺麗な花嫁を迎えられる私は世界一幸せだ」


 ……誰か止めてくれ。


 ちなみにそのセリフ既に何回目かわからない。













 時間になった。

 ククマットの神殿はグレイが領主になると決定した時点で改築、増築の対象になっていた。古き良き木とレンガ造りを残しつつ、増築もされた神殿では既に数組の若いカップルが結婚式を挙げている。一番最初は私達にという声もあったけど、神殿はそもそも皆が神様に感謝し、懺悔し、そして心の拠り所とする場所。私達のために、という気持ちだけ有り難く貰って改築増築後はすぐに開放している。

 透明度の高いガラスに差し替えられ光が差し込みやすくなった神殿は全体的に明るくなった。ガラスが変わるだけでこんなにも印象が変わるのだと長年この神殿を管理している人たちが驚く程に。

 扉の前で控える私達にもその暖かく明るい光が届いている。


 扉を隔てた向こう、既に直前ということもあって会話は聞こえない。

 それでも人の気配がする。

 神殿に並ぶ長椅子に座れる最大人数。

 皆がその時を、待ってくれている。

「もう間もなくです」

 神官見習いの青年が私達よりも緊張しながら小声で告げてきた。領主の結婚式、出席者の多さ、何より私とグレイがやりたいことを詰め込んだ、尽くした式の始まりを任されたからそりゃ緊張するよね(笑)!


 時計を確認し、神官見習いは側にある小さなベルの紐を引く。カーン、カーン、と二度、心地よい控えめな音が響いた。

 直様神官見習いともう一人が扉に手を掛ける。

「「おめでとうございます」」

 私達にだけ聞こえる、ベルの音の後に起きた静寂を妨げないように落とされた二人の祝福に、私とグレイも答える。

「「ありがとう」」

 小さな、小さな声で。


 一歩前を歩くグレイの手に手を乗せ、導かれる。


 正面、祭壇には私達を守護するセラスーン様とサフォーニ様の像が並んでいる。

 その横に、神官が優しい微笑みをたたえて立って私達を待つ。


 私のドレスの衣擦れの音。


 それがとても響いている気がする。


 ゆっくりと、ゆっくりと、前へ。


 祭壇前に並んで立つと、すかさず侯爵家の侍女さん二人が側にやって来て私のドレスの裾を整えたり、グレイの襟元などを素早く確認しその場を離れた。

 すると今度は神官様が私達の前に立つ。

 それに合わせ、私とグレイはゆっくりと、目を閉じる。

 昨日から祭壇に捧げられ神官が祈りを込めた水、聖水と呼ばれるそれが入る盃を手にして、そっと指を浸した神官はまずグレイに、そして次は私に、その濡れた指で額に触れる。

 もう一度、指を濡らすと今度は繋がれたままの手、下になっているグレイの手の甲に、次に上になっている私の手の甲に触れた。

 盃を戻した神官は私達に背を向けると、二柱の像を前に胸に手を宛がう。

「二人に祝福を与え給え」

 私達は僅かにかがみ、そして頭を垂れる。

 出席者もその場で頭を垂れる。

 一拍置いて私達がもとに戻ればそれに続いて出席者も姿勢を戻した。


 この世界の結婚式は『誓いの言葉』や『指輪交換』などはない。登場の仕方からわかるように、父親とバージンロードをあるくということもない。

 この世界の結婚式は『神々への報告』。神様へ何かを祈るとき言葉を口にすることが少ない習慣が根強く残っているベイフェルア国と他一部の国は、それは心の祈りだけが神に届くとされているから。だからここでは花嫁も花婿も『誓います』などと声を出すことはない。さっきのように神官が神様に私達のために声を出し、今祈ります、言葉を届けますと出席者に分かりやすくしてくれているだけ。


 不思議とこの静寂が心地よい。


 人の気配、私達の動作だけが神殿の中の空気を僅かに揺らすだけ。


 神官様が二柱の像の前から横に逸れる。

 そして、私とグレイは祭壇前の僅か四段の階段をゆっくり登り。


 タイミングを合わせて。


 二人で頭を垂れる。


『幸せになります。どうか、見守ってください』

 と。


『二人で歩みます。どうか、見守ってください』

 と。


 言葉にせず、心のなかで、誓い祈る。


 難しい、長い言葉はいらない。


 率直に、今思うままに。


 これから未来、共に歩むことを誓う。


 姿勢を正し、セラスーン様の像をしばし眺めてからふと視線をグレイに向ければ彼も視線をこちらに向けてきた。

 二人で笑顔で頷く。

 グレイに促され祭壇から降り、改めて並んで出席者を前に姿勢を正す。

「二人に祝福を」

 神官様のその言葉で出席者が目を閉じ胸に手をあてがった。


 無言の祝福を前に自然とグレイに添えている手に力が入って、そんな手をグレイが優しく握ってくれる。


 こうして今、皆に認められ、神様に報告して私達は夫婦になった。














 一連の儀式が終わって空気が和む。私とグレイが神官に『ありがとうございます』と声をかけたのが合図になって、小さい声ながらも雑談が聞こえてくるようになった。

 その中にとんでもなく脱力する呼吸音が。神官だった。余程緊張していたらしい。目があったらかなり恥ずかしそうにして、グレイと二人でたまらず笑ってしまった。周りもそれを見ていて笑いを堪えていたらしく、特に最前列にいた侯爵家一家とフィンとライアスは私達につられてしまい、吹き出すように笑っていてそれに気づいて周囲が何だ何だ? と盛り上がる中、一人だけ真顔で微動だにしない人が。

 侯爵様。

 皆がじゃあ外に出ようかという空気になりかけたその時。

「ご出席の皆様に今しばらくお付き合い頂きたいと思います。我が父、レクシアント・クノーマスよりご挨拶させていただきます」

 グレイにそう言われ、皆がキョトンとする中で侯爵様だけはやっぱり真顔。

 親族代表のご挨拶です。

 やらせます。

 ええ、もちろんやらせます。


「……もう、二度としない」

 お疲れさまでした!!

 素晴らしいご挨拶でした!!

 長くもなく、かといって短くもなく、私とグレイの結婚式に出席してくれたことと『覇王』騒ぎでまだ落ち着かない最中時間を取って来てくれたことへの感謝やグレイが領主となり伯爵になったことの改めての報告、そしてこの後の披露宴の簡単な説明、最後にクノーマス領の領主として、グレイセル・クノーマスの父として、私の義父であり後見人としてお礼をもう一度。

 いやぁ、流石です、緊張を微塵も感じさせない堂々たるお姿ですよ。感動して私が一番拍手が大きくて多かったわ。

「シャーメインのときもなさったらどうです?」

 シルフィ様にちょっとひやかし混じりにそんなことを言われてぎょっとした侯爵様には笑わせて貰った。でもね。

「あ、シイちゃんとロディムの時ならアストハルア公爵様ですね、私の国では新郎の父親がやることが多かったです、健在ですし立場も上ですからなお良いんじゃないかと」

 今度は近くにいた公爵様がぎょっとした。そしてお隣にいらっしゃる初見の女性は夫人らしい。私の言葉と公爵様の反応を見てそりゃもう面白そうに声を殺して笑っていた。ちなみに侯爵様はニヤリとして妙な仲間意識が芽生えたようだった(笑)。


 実は今回初見の方がかなりいる。

『覇王』騒ぎの最中、ローツさんが私達の結婚式の準備も進めてくれていた (凄い有能過ぎて若干引いた)んだけど、その準備で大幅に変更すべきではないかと侯爵様、シルフィ様、そしてツィーダム侯爵様に時間を見つけて相談してくれていたのが出席者のことだった。

 実は穏健派からはアストハルア公爵様以外は呼ばない方向になっていた。全て中立派だけにし、アストハルア公爵様についてはシイちゃんとロディムの婚約を正式に中立派の主だった出席者の前で告げてもらうという目的があったのと、未だ派閥間には距離があること、なにより強権派を刺激しかねないという観点からそんな流れになっていたんだけど、『覇王』騒ぎで公爵家の傘下となる主だった家、侯爵家一家と伯爵家七家と懇意にしている商家の協力があったからこそ侯爵家はやるべきことに集中出来たし、私も全力で挑めたし、グレイも活躍できた。それを無視するわけにはいかないだろうというのが周りが見えなくなっていた私達の代わりにローツさんが気にかけてくれていて。

 それで『覇王』騒ぎの真っ最中にも関わらずローツさんが招待客の調整、招待状の送付、出席者の最終調整などを完璧にこなしてくれた。

そして、未だに後処理に追われている貴族は少なくなくて、それでも快く参加しますとこうして集まってくれたわけで。


 本当に、感謝しかない。


 ただ、貴族お得意の『お忍び』で見知った人もいるから目が合うとお互い微妙な表情になったりするわけよ。初見の体で後で挨拶交わすしねぇ……。それもまた貴族社会らしいことなのかと納得だけしておく。


「なんか、ソワソワしてるような?」

 私はふとその雰囲気に気づいた。なんだろう、この妙な高揚感。そしてそれとは正反対の冷めた顔をしている出席者がチラホラ。冷めた顔している代表のキリアがススス……と近寄ってきた。

「ブーケトス、なんか物凄い期待されてるからね」

「「は?」」

 夫婦になって初の共同作業がまさかの『は?』。

「ルフィナがしたとき、リンファがとったじゃん。リンファ次の日結婚式で、幸せ絶頂の状態でブーケをゲットしたわけよ、それが何だかねぇ……」

「嫌な予感しかしないんだけど」

「……ブーケトスで使われた花束が神様の祝福を受けてて必ず結婚に導く幸運アイテムって広まっちゃってるみたいだよ」

「……必ずのわけないじゃんね。てか、リンファは結婚確定してただけじゃんね。そしてルフィナが想定外に後ろに投げるの上手かっただけじゃんね」


 チラ、と周囲を見渡せば。

 何だろう、凄い気合入ってる人ばかり。え、なんで?既婚者まで?!

「ほら、今回主だった出席者って夫婦だけだからその人たちの息子娘のために気合入ってるみたいよ、『必ず手にして帰ろう』って式前に意気込んでた夫婦ばっかりだった」

「本人が取ってなんぼのもんだけどね?!」

 そして。

 その噂を作ったらしい張本人が。

「ジュリ、ごめん」

 ルフィナが非常に引きつった顔している、そして謝る。怖いぞ。

「その、私みたい……。『やっぱりこれから幸せになる人が受け取れたんだね』って、私達の結婚式のときに知人の貴族の人とそんな話をしちゃって。いつの間にかロビエラムでブーケトスが流行りだして、それで、ね。『きっと皆幸せになれるよ』って、私が言ったのを聞いてたのがまた貴族という……」

 ああ、ルフィナ、元気になったみたいで良かった。まだから元気かもしれないけど、外出出来るようになったなら、大丈夫だね……。じゃないわ!!

「言ったよね?! 私さ、ルフィナはハルトの奥さんってことで私よりずっと発言力あるから気を付けろよって言ったよね?!」

「い、言ってたー、だからごめんってばぁぁぁっ!」

「特に結婚式ネタは異世界の知識てんこ盛りで興味引きやすいからある程度落ち着くまで目に見えないようなことはすーぐ神様と繋げたがるから喋るなってケイティにも言われたでしょうが!! この世界は神様が物凄く当たり前の存在だからすぐ都合よく解釈しちゃうってあれだけ言ったのにいいぃぃぃっ」

「ホントに、ごめん……」

「ジュリ」

 グレイが私の肩を叩いた。

「任せろ、殺伐としてきたら全部真っ二つにすればいい」

 いつの間に、どこからもってきた、クノーマス家の宝剣。殺伐とした雰囲気を消すために真っ二つになった死体を量産する気か、この人。なんだその爽やかな笑顔は。マジじゃん。

「ローツさんに預けてこい」














 挙式が終わったばかり。

 これから外に向かう人たちの背を見送りながら思う。


 ねえみんな、一応言うけど。

 結婚式だよ。

 あれ、腕まくりしてる紳士がいる。

 あっちには連れてきた侍女さんに扇子を預けた夫人がいる。


 ……。

 ………。

 何しに来たんですかね?!

 グレイ!! 宝剣奪われたからって今度は指をポキポキならすな、殴る気か?!

 そしてマイケル、ハルト、誰がブーケをゲットするかで賭け事してんじゃない!!


 まだ、挙式終わったばかりたけど?


 うーん、まあ、いいか。


 いいのかな、ホントに。


ワチャワチャした感じで終わりましたが、この二人の結婚式なのでしばらくワチャワチャ続きます(笑)。

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― 新着の感想 ―
 らしくていいんじゃないかな(他人事感)
[一言] これが人生の墓場か( ˘ω˘ )
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