22 * エイジェリン、回想する
兄がちょっとだけ最近の変化を交えつつ語ります。
※ここからは2025/03/04時点のお知らせを掲載致します。
◇600万PVありがとうございます!!◇
ここまで読んで頂きましてありがとうございます。
興味のあるジャンルだな、好みだなと思って頂いてイイねや感想、評価がまだの方は是非お待ちしております。
そしていつものように誤字報告ありがとうございます、助かっております、作者性格的に雑な所があるので心から感謝ですw
先日の更新後、今までにない評価とブクマを頂きました。ありがとう御座います。
ただ、ただ!! 突然で作者ビビっております。
あらすじにも記載しておりますが、魔物はじめ廃棄素材も登場人物も世界情勢も行き当たりばったりで緩めで、ついでにご都合主義で設定し執筆しております。
これは無理な設定じゃないか、矛盾してる、同じ事前にも読んだ、と読者様がご指摘したい点は多々あると思いますがそこは本当に緩く暢気に構えて読んで頂くしかありませんので、これからも寛大な心でお付き合い下さい。
※この件につきましては活動報告に最新の詳細を載せましたので併せてお読みくださると幸いです。
※100話ごとにこちらのお知らせを前書きに記載しますので、重複読みにご注意ください。
日の出を迎えた空は雲ひとつない快晴で、今日の式に相応しい。
「お願いします!! どうか、どうか!!」
フィンがたった一人で我が家を訪れた事も驚きではあったが、そんな彼女がさらにお願いがあると言った事も驚かされた。
「ジュリの結婚式を、ククマットで、私たちで、取り仕切る事を、お許しください!!」
今でもあの時の事を鮮明に覚えている。
「今まで準備にかかった費用は必ずお返しします、あたしのフィン編みの特別販売占有権を譲渡してもかまいません、どんなお咎めでも受けますっ、だから、どうかっ、ジュリの結婚式は、ジュリの望むよう……」
ジュリが望む結婚式は侯爵家が今進めているようなものではないこと、ドレスも母やルリアナが今嬉々として作らせている物とは全く違うものを望んでいること、そして。
侯爵家に気を遣って、自分の気持ちに蓋をして、大切な儀式としてではなく、貴族の一員になる義務として割り切っていて一歩引いて流れに任せていること。
それを聞かされて、私は『ああ、侯爵家はまた失敗したのだ』と悟った。
「一人で乗り込むなんてジュリじゃないんだからやめてくれ!!」
グレイセルが慌てた様子で私達の目の前に現れ、フィンがポカンと間抜けな顔をしていた。
「変な所が最近似てきたな、ジュリとフィンは」
呆れた様子のグレイセルの言葉に我に返ったらしいフィンはバツの悪そうな表情になって。
「あたしが頭を下げるだけで何とかなるなら、それが一番ですよ。グレイセル様に、頭を下げさせたくなかったんですよ、あたしは」
「そんなことだろうと思ったよ、そういう気の遣い方もジュリと似ている」
「あははっ、そうかもしれませんねぇ」
嬉しそうに破顔したフィンは、自分の胸をポンッと叩いた。
「グレイセル様の顔を見たら、ちょっと落ち着きました。さっきのままじゃエイジェリン様に分かりやすく説明して説得なんて出来なかったですね」
「……だから、一人でやろうとするな」
労るような、優しい眼差しのグレイセル。
こんな顔をジュリ以外にするとは思っていなかったしいつのまにこんなにも二人の間が縮まっていたのだろうという不思議と驚きが私を襲った。
「兄上、私からもお願いします。今までの結婚式の準備に掛かった費用は全て私達が支払いますから」
私達、か。
お前にとって、もうそういう仲だと言う事だな。グレイセルにとって、フィンとライアスはたとえ血が繋がっていなくても、お前と結婚してしまえばジュリとは赤の他人の関係に戻ってしまうとしても、フィンとライアスはジュリの大切なかけがえのない人だとお前は、認めた。
そうか、よかった。
お前に、ジュリ以外にそんな思いやりが抱ける相手が出来たんだな。
「いいよ」
軽々しく笑って一言そう伝えた時のグレイセルとフィンの顔が面白かった。そんなに軽く言えるのかとあ然とした、そんな顔で。
「父上と母上のことは私に任せてくれ。というか………ジュリの望む結婚式をさせてやる、それが共存する侯爵家の義務だと私は思っている。彼女の幸せを私達は心から願っているよ、だから父上と母上が望むクノーマス家らしい結婚式が出来なくても構わない。それに今まで掛かった金なんて大したことはない。それこそジュリが納得するのはどういうものかと悩んでいてドレス以外は殆ど決まっていないんだから」
実際問題、フィンが乗り込んで来た時点で実は我々は困り果てていた。彼女の友人であるリンファとハルトの結婚式について詳細を知っていたからだ。
あの二人とは別の、ジュリのための結婚式? 知識がないのに出来るわけないじゃないかと戦々恐々とし始めていたのだ。
「では! いい案があるんです、グレイセル様とジュリの結婚式の日取りは初夏。その季節の草木をふんだんに取り入れて、緑豊かな農地として開発され発展してきたククマットらしい緑を活かした結婚式です!! ジュリもグレイセル様も緑豊かなこのククマットらしさを取り入れられたらと言っていたんです。もちろんジュリ主導で進めることにはなりますが私達だからこそ手伝える、補助を精一杯してあげるつもりです。職人や商店も何でも手伝うぞと言ってくれて―――……」
……グレイセルの言った通り、勢いで前のめりに長々と説明を始める姿がジュリに似ているフィンに若干引いたのは内緒だ。
そして今日を迎えた。
あの時王都にいた両親に手紙を送り確認したところ、直ぐに快諾したのはフィンの懇願が届いたばかりではなく、難しい案件になりかけていた結婚式をジュリとグレイセル、そしてフィンたちに戻せてホッとしたというのが大きい。
そして、両親の許可が降りた途端、フィンとグレイセルの二大巨頭による実に統制が取れたククマットの動きに。
「これはこれで私、若干置いてけぼりの気がしないわけでもないんですが、どう思いますか?」
「うーん? どうだろう。返答しかねるなあ」
「私が決めることが多いのは当たり前のことなんですが、頼んでもないものを作っていたり、計画書に追加と書かれたものが紛れてたり……会場が無限に広がると思ってるんですかね?」
「……『グレイセル様が何とかする』と思ってるんじゃないか?」
「全員が、ですか?」
「全員が」
という会話をジュリと笑いながら交わしたのも懐かしい思い出となりつつある。
進められる準備に次から次へと助っ人が増えていく中で『覇王』騒ぎの起こる前には。
「俺も何でもするぞ!!」
「いや、いい」
「なんで!!」
「お前の壊滅的な芸術センスで引っ掻き回されたら台無しになる」
「なんだとぉ! お前なんてジュリのもの作りの恩恵貰えなかったくせによくそんなことが俺に言えるな!」
「それは今関係ないがな! とにかくハルトは絶対に関わるな、迷惑だ!」
「何だよ迷惑って! ああ傷ついた、俺は傷ついたからな、グレイは友達の親切心を無下にする最低な男だってことだなぁ!」
「お前こそ平然とそんなことを大声で言えるなんて最低だな! 下品だぞ!」
「はぁ?! 面倒ごとが起きるたびすぐに『真っ二つにすれば』とか言う血も涙もない奴に言われたくねぇわ!」
「お互いさまだろうが?!」
グレイセルとハルトがそんな言い争いを始めてククマットのまだ更地の新しい開発区画で本気で喧嘩になり、そこら中に底が見えない亀裂やら焼けただれた地面を量産していた。
「開発のために汗水垂らして働いてる人たちに誠心誠意謝れ、そして直して来い。地位と力があれば何でも許されると思うな。そのあとここに戻って二時間正座追加」
二人を店の前に正座で並ばせ、青筋立ててそう言った時のジュリの姿は貫禄があったなぁ。
「くっ、ははは」
「エッジ様?」
最近よくお腹を蹴られるんですと笑いながらお腹を擦るようになったルリアナが思い出し笑いをした私を見て首を傾げる。
「今日を迎えるまで色々あったなぁ、と思って」
「……ふふ、そうですね」
何を思い出したのだろうか。ルリアナも無邪気な笑みを浮かべた。
「『覇王』のことがあったので延期せざるを得ないと思ったのですけど」
ああ、あのことか。
「延期しちゃったらその後に控えてるローツ様とセティアさんの結婚式に影響出るよね?!」
「無理だわマジで。それでなくても『覇王』のせいで予定が全部ずれ込んでる!! ローツ様たちの後には移動販売馬車の件も控えてるし!」
「ちょっと待ちな予定表確認しないとだよ!! 万が一に備えていつなら大丈夫か確認だけでも!」
「ひぃぃぃっ! 無理ィィ!!」
「何とか、何とかどこかにねじ込めないんですか?!」
「無理!! そしてここを逃すと秋のイベント目白押しの時期に突入になるからイベント潰すことに!」
「視察の受け入れもう始めてるからそれも無理だと思います!」
「じゃあ冬?! いや、それダメだ、去年ククマットのクリスマス視察かなり縮小したから今年は絶対に断れない!」
「じゃあ、その後って、結局、春になりそうだよ!!」
「「「「それはない!!」」」」
……うん、あの 《ハンドメイド・ジュリ》の女性陣の叫び、その日の夢に出てきた程印象的だった。
「『覇王』の時より、切羽詰まっていたんじゃないかしらと思ってしまうくらいには大騒ぎでしたね」
「それを勢いで何とかしてしまえるから凄い」
「本当に」
ルリアナが愉快そうに笑った。
当初の計画のままなら今頃ジュリとグレイセルはこの屋敷で身支度に追われていたはずだ。
しかしいつもと変わらぬ朝は、使用人含めて少しソワソワしている程度でなんら変わりない。
「侯爵家の皆さん全員が参加って出来ますか? 挙式だけでかまいません、披露宴後はこのお屋敷でゲストの貴族の方々を招待してますから流石に無理ですもんね。でも、それでも、ククマット編みを始めて腕章作りの時から本当に沢山助けて頂いたので、是非とも皆さんに来ていただけないかと思いまして」
そう、ジュリが庭師も料理人も厩係も立場関係なく全員を招待したいと言ってくれたのだ。
だから今日は私達の支度が終われば全員が自分の身支度を整えることになり、そしてククマットの神殿へと移動するのだ。
「食事もサッと済ませましょうね、ルリアナは体調はどう?」
「問題ありません、私の抑えきれない興奮が伝わってしまったのか、さっきからずっとお腹を蹴るので少しだけ苦しいくらいです」
「あらあら、楽しみにしていたのかしら?」
母とそんな会話をするルリアナが笑顔でお腹をさする。
一方父はというと、真顔である。緊張しているのだ。
何故なら、ジュリが父に大役を任せたからだ。任せた、というより、押し付けたともいうのだが。
「侯爵様、新郎の父親としてご挨拶しません?」
「なんだ、それは」
「私のいた日本の結婚式の披露宴に、最後に新郎新婦の挨拶と、両家を代表して新郎の父親が出席して下さった方に向けて挨拶するケースが多いんですよ」
「……そのような習慣はこちらにないが」
「ええ、だからある程度こんな感じィー、な文章を私書きますのでそれを参考に侯爵様オリジナルで考えて頂けると」
「前例がないことを急に?」
「あ、披露宴はククマットの人たちも沢山呼んでるし披露宴というよりは開放的なパーティーになるので、挙式の後が良いですね、人数制限しているしククマットの神殿でやるので格式を重んじる挨拶になるならしっくりきますもんね」
「ジュリ、ちょっと待っ」
「父上、ジュリの望む結婚式に全面協力してくださるんですよね?」
「それはそうだが、おいっ?! バカ息子! 剣を抜こうとするな! 親を脅すんじゃない!!」
この世の物何でも真っ二つに出来るという物騒な【スキル】をチラつかせグレイセルが押し切った。そしてジュリと父は微妙に会話が噛み合わないままだったがジュリも笑顔で押し切った。
父は挙式に参列してくれる人々に『挨拶』というわりには結構長い文言を言わされるという、この世界初という名誉を授かった。ちなみに、父が断固拒否であったなら。
「その時はエイジェリン様」
「そうだな、兄上がいい」
……脅しに屈してくれてありがとう、父上。
私と父の間には溝があって、会話らしい会話がない日々が続いていた。
それでもルリアナの妊娠で親子らしい会話が日常に戻り始め、そしてグレイセルとジュリの結婚でさらに増え。幸せの滲む会話で空気が和らぐのを最近感じられる。
「結婚、か……」
あのグレイセルが結婚する。自ら望み。
「和解してくれませんか。ジュリが父上と兄上の事で悩む姿は見たくありません」
先日、一人屋敷を訪ねて来たグレイセルはそう言った。
「元々あった亀裂がジュリがこの地に召喚され、根付くにつれさらに深くなりました。この地の発展と同時にお二人の間にある考えの違いがはっきりして。互いに見ている先が違うことは十分理解しています。けれど、そうやって先を見られるようになったのはジュリのおかげだと言うことを、忘れて欲しくありません。彼女がいたからこそ、お二人は先を見れたし進めている。すべてを諦めろとはいいません、繁栄のためにはお二人の考えが必ず必要とされ役に立つのですから。切磋琢磨することと、いがみ合うことは違います。和解して、譲歩しあって、進むことはできませんか?……ジュリを、家族として迎えるために、どうか」
父上も私も、何も言い返せなかった。
深々と頭を下げるグレイセルを前に、何も。
あんな弟は、初めてだった。
誰かのために。
簡単に頭を下げる。
衝撃だった。
父上とは話し合った。
互いに進む道は、交わらない。
それがはっきりした。
それでも、時々話し合う。
互いの理想論に耳を傾ける。
ギスギスした関係のまま。
それでも変化はある。
否定ばかりしなくなった。
押し付けがましいことを言わなくなった。
互いに、話を最後まで聞くようになっていた。
純粋にジュリを愛する、ドロドロに甘やかして自分から逃げられないようにとことん尽くす弟のそんな歪な愛情から生まれている行動が、不思議と私達に変化をもたらしていた。
「すごいなぁ、ジュリは」
あの弟を容易く動かす。言葉どころか態度で、仕草一つで、簡単に。
他人に決して心を見せず、孤独を愛し、汚れた世の中をただ漠然と憂いていた弟が。
結婚する。
孤独を手放した。
愛する者を得て、強くなる。
恐ろしいまでに、強く。
これからも。
際限なく、強くなるだろう。
ジュリのために。
ジュリのおかげで。
「さあ、皆準備出来たか?」
父の言葉に全員が待ってましたと言わんばかりに目を輝かせた。
本当に素晴らしい晴天だ。
空を仰ぎ、今日の天気についてそんなことを心で呟けば自然と口角が上がった。
良き一日になる。
そんな気がした。




