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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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3 * 開店早々嫌な展開

本日二話更新しました。


そして三章に入りました。


日々少しずつブクマが増え、PVも増え、嬉しい限りです。読んで下さる方に感謝申し上げます。


緩く、浅く、ご都合主義な部分が多いお話ではありますが、引き続き読んで頂けますと幸いです。

 


 友達のスレインとシーラが入って来て間もなく中にいたお客さんが一人帰って、ついに()()()

 スレインとシーラがその視線を一瞬向けた。


 ……ん?

【隠密】、固まってるけど大丈夫?

 なんだろ? 店内に驚いてる? ああ、そっか、感情表現隠さなきゃならないのか。可愛そうに。それも仕事とはいえ、表情崩すのも良しとしないのは辛いね。

 チラッと外に視線を向けると口元をさりげなく隠して笑ってる貴族がいる。完全におもしろがってる。外では会話してないみたいけど、お互い知ってるみたいだからそんなものですかね。


「すみません、これは購入できますか?」

 おおっ【隠密】しゃべった (笑)。

 けっこう礼儀正しいね。良かった、頭ごなしに『寄越せ』とか言われたらどうしようかと思ってたし。目深に被ってたフードもはずしたし。そして女性だったのには私驚いたわ、結構可愛い人じゃない。

「買えますよ。八百リクルです」

【隠密】が店内をひとしきり見た後に一番に指し示したのは大物のフィンの一点物のレースだ。おばちゃん二人とお会計をしているお客さん二人がぎょっとしている。そりゃそうだ、売れると思ってなかったものだから。

 ただ、【隠密】が王室お抱えだと聞かされたときから私には予感があった。

 多分買う。

 そして下手すると店内にあるもの買い占めるとか言う。

 侯爵様が言ってたもの。

「気に入った物とか気になるものはとりあえず全部買うよ」

 って。

 侯爵家クラスだとそういうことしちゃうらしいのよね。公爵、そして王室ともなれば言わずと知れたこと。

「ところで……店内のもの、全て買い取りますが、その場合金額を出すのに時間はどれくらいかかりますか?」

 来たよ。

 でもね、ごめんよ。

「申し訳ありません、()()()()()()()()買い占め禁止です」









 取り敢えず私の発言で固まったこの【隠密】は放置。

「フィン、大物レース二階に二枚あるよね? あと他のレース、それからハーバリウムとコースター、それと、値段設定高くて出すの断念したアクセサリー類、価格高めのいくつか持ってきて? それと裏で手伝ってくれてる人に誰か会計お願いしてもらって」

「分かった」

 一連のやり取りでフィンと会計をしてくれてるおばちゃんトリオの一人、ナオさんが察したみたい。フィンはすぐに裏に行ったし、ナオさんは他のお客さんがびっくりしてるのを『らっぴんぐするかい?』とか気さくに声をかけて気を反らしてくれた。

 そして何かを感じ取ったグレイセル様が表情おさえぎみに店内に入ってくる。


「お、お金なら問題ありません。足りなくなるようなことは決してありませんし、値切ろうなんてこともしません」

 グレイセル様が入って来たときの扉の音でハッと我に返ったこの【隠密】は急に取り繕うような笑顔で言ってきた。それでも私は首を横に振る。

「お金の問題ではありません。買い占めは困るから禁止と言ったんです。納得出来なければお売りできません、お引き取り下さい。他にも買いに来てくださってる人が沢山います。あなた一人だけに買って貰うためのお店じゃないんです、その辺御理解いただけますか?」

 私の言葉にどうやらカチンと来た様子。みるみる表情が険しくなって。

「なっ、なんですかその態度!! 私はとある高貴なお方の使いです!! あなたがそのような態度をとるなら不敬罪として訴えます!! あなた一人どうとでもなります! 控えなさい!」

 なんだ、態度を変えてきたわ。残念。

「このような小さな店の店主に、とやかく言われるような方ではありません私の主は! 発言を撤回しなさい! このままではタダでは済みませんよ!? いいですか? 買うと言ってるんです、黙って用意すればいいんです、あなたは! 用意なさい!!」

「ふうん? ……だからなに?」


 さすがにグレイセル様も驚いた顔をしている。

 てゆーかね、言ってやりたいことがある。

 王家とやらに。

「高貴な身分なら庶民が買えるものを買い占めていいの? そういうもの? 高貴な人って。それってすごいがっかり。ここはね、私が誰でも綺麗なもの、可愛いものを買える店を目指して立ち上げた店なの。金があって買い占めて自慢したいなら他所の宝石店でやれ。高貴な身分なら庶民に何をしても許されると思うな、私のように不満を持つ人間もいることくらい知って覚えておけ」

「なんっ、なんてことを」

「その金、元は税金とかいわないよね? 王家が自分で稼いだ金なら文句言わない、いくつか売ってやってもいい。でも、その金が税金ならデカイ面するな、出直してこい」

【隠密】が口をパクパクさせてる。


 この際だから言ってやろう。前から思ってたこと。

「それと。あんたさ、私が【彼方からの使い】って聞いてるよね? そういう下調べなしに来たりしないよね? つまり王家は私が何者か知ってる。ここに来てずいぶんなるけど、いままで私のこと放置してたでしょ、【称号】なし【スキル】なしで、いまいちパッとしないこともあって害がないなら放置しておいて会うなりちょっと気に入らないこと言えば不敬罪で訴える? 害のない人間貶めるほどバカなことってないと思うけど」


 そう、全く関与されていない。

 公爵が会いに来たときは王家が関与していたかもしれない。

 でもそれからそれらしい気配はないし、決定打が二つある。

 一つは侯爵様の話。

 本来、いくら公爵が私を放置したといってもさすがに王家が【彼方からの使い】を無視することはないって。だからもしかすると内密に侯爵家を通さず接触があるかもしれないと。

 ないんだよね今まで一度も。さりげなくグレイセル様が探るような事を言ってきたからはっきり言ったのよ、全然ないって。

 びっくりしてた。そんなことあり得ないって顔してたから、そういうことなのかと。

 そしてもうひとつ、ハルトだ。

 ハルトは【彼方からの使い】についてすごく詳しい。彼は同じ異世界人のことを自分を召喚した神様から話を聞く機会が与えられている特異な存在でまさしく規格外。【勇者】がこの世界に必要ないのは奴がいるからと私は思っている。

 そんなハルトが言ったのよ。


「この国、ちょっと廃れてる気配あるんだ。大国として成り立ってるのは支える貴族にまともなのが多いからだと思うぜ。ジュリがこの国に召喚されたのも関係あるかもな。 今この国に他の国とまともに戦争する軍力はない。騎士団見ればわかる。飛び抜けてんのはグレイとか一部だけ。それ以外は駄目だ、軍としては脆弱すぎる。そんな国がすぐ建て直しなんて出来るわけねぇだろ? マイケルとも意見は一致したんだけどな、外交力とか外貨獲得がねえとこの国、数十年もたねぇ。ジュリが召喚された侯爵領は港もある……ジュリが外貨を稼ぐ起爆剤になると俺は思うぞ。それを国王が軽視してる時点で、俺はこの国ヤバイと思う。王位を譲位した女帝が治めてたときは良かったんだ。こんなことはなかったしな」


 って。

 ハルトは色々聞かされてるんだと思う。神様から。

 それで私を心配してるのかも。

 そう思えるくらいには私を訪ねてくる。


 国王が不安要素を抱えている。

 侯爵様は知ってる。だから私を丁重に保護した。私のわがままを聞いて、好きなことさせてくれて、親身になってくれる。私が【技術と知識】をもっていると知った時点で、覚悟を決めてくれたんだと思うのよ。

 侯爵家の誇りにかけて【スキル】なし【称号】なしの【技術と知識】だけの私を守ると。

 国のためになる、人のためになる何かを私がこのクノーマス領に広げるかもしれないから。


 それなのに。

 今さらじゃない? 物珍しい何かを作っている女が侯爵の領地で店を開いた、金はあるから全部売れ、従わないなら不敬罪で訴える?

 なんだそれ。

【スキル】も【称号】もないなら脅せばどうとでもなるって?

 そういえば言ってたわ

 あなた一人どうとでもなります! って、こいつ言ったよね。

 なら。








 やってみろ!!









「放置してた奴等にどうして私が従わなきゃならないわけ?」

「そ、それは王家だからですよ!」

「私、そもそもこの世界の人間じゃなかった。それなのに存在がまったく感じられないものを敬えって言われても納得出来ないわね。不敬罪で訴える? やれば? 死刑でもなんでもいいわよ。どうせ私はこの世界に来る前死ぬ運命だったらしいから。ここで楽しく過ごせたのはいい思いになるからここに呼ばれた後悔はないわよ。だから刑罰でも死罪でも科せばいいのよ。私は王家のために 《ハンドメイド》をするわけじゃない。私の作るものを欲しい、可愛い、綺麗と喜んでくれる人のために作るだけよ。そんなに私が従わないのが気に入らないなら好きにすればいいわ、私も好きにする」

「あ、あなたは何に向かってそんなことを言っているのか分かってますか?! 王家です、この国の権力です! 私は、その代理でここに」


 その瞬間だった。









『ジュリ、あなたに力を与えます』









 はい?


 頭のうえから声が聞こえた。


『【スキル】でも【称号】でもない、あなたの持つ【技術と知識】を守るための、【変革】をもたらすあなたを保護する極めて強制力のある力を与えます』


 グレイセル様が私を見て目を見開いた。

「……【変革】、だって?」

【隠密】が青ざめて。

「う、うそ、聞いてないわ。【変革】の力を持ってるなんて」


『ジュリ、あなたに【選択の自由】をあたえます。あなたをこの世界に呼んだ【私】はあなたの力を信じています。弱く穏やかなあなたの力ですがその力は広域に影響するものです。好きなようにやりなさい、好きなように生きなさい。それはあなたが力を発揮するための必要な生き方なのだから』


 え、なに?

 何が起きてるの。


『そして、【称号】を持つ者よ。ジュリに放った言葉はお前が使うことを許されている言葉ではない。お前が今ここにいる意味をよく考えよ、未熟者が』








 えっと?

 なんですか?


 すみません、誰でもいいので説明して?


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― 新着の感想 ―
[良い点]  女神様、地元住民がどういう反応するか様子見ててくれて優しいアフターケア。ボーダーラインを探られてもいいように、ここぞと言うときに発言するつもりだったのですね。
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