表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

274/639

20 * 清濁併せ呑む

ジュリの語りに戻ります。

 



「シィ、止めておいた方がいいな」

「兄様、なぜですか? ジュリのあのペンダントが私とロディム様を繋いでくださったんです、今大変な時なのでしょ? せめて差し入れ位させてください」

「……見たら、衝撃を受ける」

「はい?」

「うん、たぶん、シィはあまりの衝撃に硬直して動けなくなる」

「えっと、兄様、それはどういう?」


 なんか、扉の向こうで声がする。

「ジュリ、何個つくれた?」

「わかんなーい、もう数えてなーい」

「あ、そう」

「キリアはぁ?」

「あはは、あたしもわかんなーい、とりあえず箱山盛りにはなったねぇ」

「だよねぇ」

 私とキリア、ここ数日工房に籠ってますよ。

 ヤバいヤバい、超ブラック!! いつもより早く工房に入って、ずっと作成。ひたすら作成。ただただ作成。

 ある程度の数が出来て、マイケル呼んで魔法付与させたらね。

「はい、終わったよ。あー疲れる、魔法付与しやすいからごっそり魔力持っていかれるよ」

 って。

 私たちの作ったものが山盛りの箱数箱前にして手をかざして一分。マイケルの仕事終わった。

 え、纏めて出来ちゃうんだ? 一分で終わるんだ? なにそれ、超ホワイト。そしてチート。

「じゃ、また呼んで」

 って笑顔で帰っていったんだよね。

 切ないわ、あれ。

 あの清々しい背中見て、切なくなった。


「あは」

「うん?」

「あはははは! 魔法付与して余ったやつ、店で売る!! ギルド無視!! たんまり利益出してやる!!それで皆で慰労会やろう!! 酒場貸しきってやろう!!」

「それ良い!! 乗った!! イルマの森のスライム全部擬似レジンにするつもりで作る!! そしていい店貸しきる!!」

「おー!! 作るぞー!!」

「おー!! しゃちょう、私たちならできる!!」

「おー! 私たちならできる!! 貸し切り飲み放題ー!!」

「やるぞー!!」

「無礼講万歳!」

「万歳!!」

「美味しい酒が飲みたいぞ!」

「飲みたいぞぉ! つまみも欲しいぞぉ!」

「私も欲しいぞー!! 社員旅行行くぞー!!」

「行くぞー! しゃちょう! しゃいんりょこうの中止だけは嫌だぞー!」


 なんてことをしてたら、扉オープン。

 グレイの隣にひさしぶりに会う人が。

 硬直してた。

 ……色々ごめん。そしてグレイ、せめてもう少し私達が落ち着いてから入って来てほしかった。












「こ、こんなに? いくつあるんですか?」

「全然わかんない」

「えっ?」

「六千個までは数えてたんだけどね」

「六千?!」

「多分そのくらい、それが三日前? だから今は既にわからない」

 美少女シャーメイン様改め、本人が『シィとよんでください』というのでシィちゃんと呼ぶことになったのと敬語も嫌だというのできっぱりやめた相手が信じられない物を見る目をしている。

 そんな視線はなんのその。今日の私とキリアは最初っから無礼講。何故なら人に気を遣う余裕がない。テンションがおかしくなってる。

「辛い瞬間超えると色々楽しくなることも判明したよね?」

「愚痴とか悪口ね。もはや暴言でしかないやつね。何見ても笑えるし」

「そうそう。ジュリが眠くてお茶ひっくり返したのにびっくりして二人で笑ったけど、あれで昨日四時間笑えたわ」

 私とキリアの惨状を知っているグレイはもはや何も言うまいって達観した顔で、シィちゃんは絶句。


 でも仕方ないのよ。だってもうすぐ超希少な素材が届く。届き次第私とキリアはそちらの加工に取りかかることになるから、いまは作れるだけ作るしかないんだよね。

 触るどころか見たことさえない、そもそも加工が上手くいくのかどうか、そんなものを扱うには一日でも早く取りかかる必要があるんだけど、それがどうやら魔導転送具では転送出来ない代物らしい。

 送ろうとすると魔導転送具の座標が狂ったり壊れたりするとか。転送具自体が魔法付与されたものと魔法陣を使った魔力の塊といってもいいもの。魔物素材に必ず含まれている魔素というものと人間が放つ魔力は反発しあうものらしい、というかまだそれらが解明されていないので『らしい』としか言えないけれどとにかく相性が悪いことだけは確かなことだそうで。壊れるならまだしも、転送具が狂うっていうのはマズイと。狂うと転送先では無いところに行ってしまったり、酷いと送る物の質が変わって有害物質を撒き散らしたりするんだって。

 だから今、それは馬車に乗せられ冒険者パーティーによる厳重な警護をされながら、出来る限りのスピードで向かってきている。


 それまであと数日。気持ちをリフレッシュするのと体を休めるために一日休みを取るまでは、最前線に立つ人たちのためにひたすら作り続けるのみ。


「シャーメイン様は学校大丈夫なんですか?」

 シイちゃんが来たのでついでとばかりに休憩を入れる私達。熱めのお茶を一口含んでホッと一息つくとキリアが気になっていたようでそんな質問を投げかけた。

「今回は、名だたる家の子女は殆ど領地に帰省すると思うわ。事が事だけに学園も授業どころではなくなってしまって、私が出てくるその日にも寮長に長期外泊許可の届け出をしている方が何人もいたもの。女学生でも少なくとも十数人は領地に戻るから男子学生ならその数倍は帰省のために準備をしていたと思うわ」

 そこでふと私は疑問が。

「……シイちゃんは魔法得意だよね?」

「ええ、威力は別として、操作性や命中率は兄様達に負けない自信があるわ」

「前に聞いたとき、回復系も使えるって言ってたよね? しかも転移、あれ、今はどうかわからないけど以前はグレイより長距離転移出来るって」

「今は、気合を入れて魔力を枯渇させる覚悟で挑めば学園からこのククマットを往復出来ると思うわ」

 キリアがお茶を吹き出した。汚いよ、拭いてね。

「ものすっごい、お役に立てる感じの魔導師?」

「魔導師の資格を取って登録していないから正確には魔導師ではないの」

「でも、それに並ぶ?」

 グレイに視線を向ければなんて事ない顔して。

「その辺のなりたて魔導師よりも役に立つ」

 と。

 だよね。

 ということはさ。

「……領地に帰る学生たちって皆そんな感じなの?」

「え?」

「だって、役に立つから帰るんだよね?」

 疑問をぶつけたら。

 あれ、兄と妹がスッと目をそらした。キリアはテーブルを拭き終わって二人の反応を見て目を細めた。

「ジュリの言いたい事がわかっちゃった。あのさ、ジュリ」

「うん?」

「それはあえて聞かないであげるのが、帰省した学生さんたちへの優しさじゃない?」

「……そういうもの?」

「たぶん」

 曖昧な私達の会話にグレイはため息。


 グレイが理由を語ってくれたけど。

「おそらく、シイのように戦時下や災害で本当に役に立つ、もしくは家の後継者やそれに準ずる者として親の補佐に付き社会勉強と経験を積むという学生は、半分もいないだろうな」

「え、じゃあなんで帰るの? 学園にいた方が安全だし邪魔にならないでしょ」

「治安が悪化するんだよ」

「は?」

「こういう時、王城のある王都でも中央地区と呼ばれる場所を徹底して守りに入るんだ。余程の理由がなければ遠征している騎士団さえ呼び戻して鉄壁の守りに入る」

「……今回のって、それ意味ないよね?」

「ないが、慣例のようなものでな。戦時下や災害時に王族の命を優先し守るという法がありそれを何かある度に適用してしまう。王城のある中央地区を強固な守りで固め周囲はがら空きになるのは当然、皆それを知っているから今回もそれを見越して金にゆとりのある家や跡継ぎの立場にいる子供たちは親に呼び戻されたんだろう。あの法が適用されるたび、王都は荒れる。私がマーベイン辺境伯領に領民と共に強制的に行く羽目になったあの時もネルビア首長国と外交省が揉めたことも重なり私の率いていた騎士団と先に入っていた騎士団以外は全て王都に呼び戻されたんだ。……中央区だけを徹底して守ることで、周辺はどうしても手薄になる、物取りは勿論人攫いまで出る、商売をしている家は品物と人を守るために営業を短くしそれ以外は扉を固く閉ざす。閑散とした王都など、間者や悪意のある者達にとって絶好の狩場だ、そのせいでさらに治安が悪化する。……学園など、人質にするには格好の富裕層の子供で溢れているわけだから、標的にされやすい」

「ま、守らないの? 学園と学生さんのこと、だって、王立の学園だよね?」

「それなりに、衛兵はいるから今まで学生がその度に被害にあったと言う話はないが……どうだろうな、正直、騎士団がそこに常駐するとか、巡回するとか、全く話に上がったことはない」


 ……。

 まじかぁ。

 という、率直な感想。

 一応、未来を担う子どもたちを集めた学園って聞いてる。つまり、このベイフェルア国王家を将来支える人材育成の場所のはずなんだけど。

 確かにさ、王族を守るのって大事だよね、第一優先事項だよね。

 いや、でも、王立って時点で、保証ってあるべきじゃないの? あれ、こういう感覚は日本生まれだから?


「ぶっちゃけ不安だわ」

 一時の休憩の後、グレイがシイちゃんを連れて他に顔を出すと言って店を出たのを見送った途端、キリアがちょっと大きな声でそう言って頭をガシガシとかく。

「あたし法律とか全くわかんないけど、グレイセル様の言ってた法ってそう簡単に適用になるものなの? なんか違う気がしたんだけど」

「違うと思うよ」

「だよね?!」

「グレイは戦時下や災害時って言ってたでしょ、まず、その問題が起こらない限り本来は使えないんじゃないかな。しかも慣例のようになってるって言ってたでしょ、あれはさ、法を都合よく解釈した結果そうなったんだと思う」

「都合よく?」

「そう。今回のことは確かに起きれば災害に当たるよね、だからその時は法は適用されるはず。でも、実際にはまだ起きてないのに、皆が曖昧なままなのに早い段階で動いてるってことは……法に、期間や条件がちゃんと決まりがないままになってるんだと思う」

「え」

「だと思うよ。それをちゃんと理解している親が、子供を呼び戻してるんじゃないかな。法が正しく機能していないうえに、曖昧だから危機管理能力が高い人は先読みして過剰なくらい安全策を講じるしかないんだと思う」

「そ、そんなんで、いいのかな」

「どうだろう。……世界が違うから比べる意味は全くないけど、それでも私のいた地球では緊急事態だったとしても、法をその時に限り解釈を変えたり、部分的に緩和したりして見動き取れない状況を打破するための特例措置って、簡単に認める国は少なかったし、その事例も少なかったけどね」


 そもそもの話。

 いくらこの世界が未発達だと言っても法律を無視、曲解して都合よく適用するってことは違法なわけで、本来なら国によってその程度は違えど罰則がある。そして統治者に都合のいい法律や抜け道だらけの法律があるのも事実。それで成り立っている世界なのでそれを全部『おかしい、間違ってる』と私が言ってもどうにもならない。


 それを踏まえて。

ベイフェルア国のこの法律、本当は使い方は違うはず。

 王城と王族を守るための法律であることは確かに間違いないんだろうけど、そこに国民を蔑ろにしていい、過剰に兵を集めたり騎士団を呼び戻していい、という項目はグレイの話から察するに入っていない。法律がとても大雑把に作られているか、長い間そうやって都合よく解釈して当たり前の状態に持ってきたのかどっちかなんだと思う。


 そんなことになってしまうこの国は、今回どれだけ真剣に国民を、国土を守れるんだろう。

 そして、フォンロンに対してどれだけ支援するつもりだろう。


 何もかもを無償で、善意でやれなんて私だって流石に言う気はない。後日ベイフェルアがフォンロンと何らかの交渉をする時にフォンロンが譲歩してくれる程度のことを期待していいと思う。

 だってそういう世界だから。災害や戦争が起こるたびに各国が支援に動くような地球とはまるで違う世界だから、それこそ『仕方ない』と割り切る必要がある。

 それでも私達は何とかこの問題を打開しようと、少しでも多くの人が災難から逃れられるようにと動く事にした。そこには自分、大切な人を危険な場所に行かせたくないという自己中心的な考えがあるけれど。


 邪魔、されたくないな。


 この話をしている時に漠然と思ったこと。


 私やククマット、クノーマス家がしようとしていることを面白く思わない可能性がある。余計なことはさせないぞど妨害してくる可能性がある。


 それこそ、法なんて無視して、協定を無視して。


「キリア」

「うん?」

「私、決めたわ」

「え、何が?」

「王家が法を守らない、曲解して都合よく捻じ曲げるなら、私はとことん抜け穴を利用しようと思う」

「ジュリ……」

「法を破らない代わりに、抜け穴を利用して徹底的に逃れてみせる。それで自分や大事なもの守るくらいしてもいいよね」

 私のこの考えは危険な事くらい分かっている。そんなの、十分理解してる。

 でも国が、法が国民を蔑ろにする環境で生き残る事自体が凄く難しいのにそれに従って苦しんだりするなんてまっぴらごめん。

 こういう考えは私個人のものなのか、それとも日本人がこの世界に来て同じ場面に直面したら大半の人が思うことなのか確認のしようがないけどそれでいいと思う、都合がいいと思う。

 ここには私のこの考えを否定するような人がいないから。


 生きるために。

 自分の卑怯な顔を、ずる賢い考えを受け入れる。


 清濁併せ呑む、そんな言葉が過ぎった。


「休憩終わり! さ、キリア再開するよ」

 私の雰囲気が変化しその場の空気が変わるとキリアも顔を一変させた。

「続きからでいいんだよね」

「もちろん。ただ今日は今ある材料で一旦終了ね、その後はグレイとハルトに持たせる装飾品のデザインと加工についてちょっと考えよう」

「分かった。道具とか研磨機も使うものが違うらしいからそのへんもどうするかだよね」

「それについては明日ライアスと職人さんたち何人かに来てもらって話し合うから」


 これでいい。

 私はこの世界で生きるって決めたんだから。




次回またジュリじゃない人の語り。

この章と次の章まではジュリと他の人たちの語りが混在する形で進みます。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 隙間は突くためにある( ˘ω˘ )
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ