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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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20 * 【英雄剣士】と【調停者】

 



「うん、まぁ、いい案だと思うけどな」

 いつものように、フラりとやって来たハルトのタイミングの良さにレフォアさんたちは驚きつつ、会うなり早々にグレイから手紙を突きつけられて読んだハルトは通常運転だった。

 落ち着いていて、何てことない顔して。

「ああ、『覇王』ね」

 なんて呑気な口調で。


 ……気づいてたんだろうなぁ。

 この感じ。

 今更だけど、フォンロン国に何度も一人で行っていたのは今回のことを予見していた気がする。そして、何とかしようとしていたんだ。

 何とかしようとして動いていたけれど、どうにもならなかった、のかな……。ハルトの様子を見る限り落ち着きはらっているから、そうでもないのか、よくわからない。


 そしてそんなハルトの様子を見て、グレイが自分から申し出た。

 レフォアさんたちには口外しないことを条件に、自分のもつ隠蔽している【スキル】について話をしたうえで、ハルトと自分なら『覇王』の討伐が出来るかも、と。

 だから、やろう、と。


 でも。

 ハルトの反応は意外なものだった。


「お前はダメだぞ、グレイ」


 素っ気なく、けれどはっきりと言い切るのでグレイは当然レフォアさんたちも困惑した。

 天災、厄災の象徴とも言える『覇王』相手なら一人でも【スキル】【称号】持ちが多く集まればそれだけ倒せる確率は高まる。なのにそれを無視したようなハルトの発言にはさすがに私も首を傾げてしまった。

「なぜだ」

「俺が思うに……【一刀両断:グレイセルのオリジナル】は効果的だろうな、この世のものなら何でも切れるってアホみたいな【スキル】だ。俺が発生直後の『覇王』に【時間停止】のスキルを発動させてそれがちゃんと効くなら、確率もぐんと上がる」

「なら、何を理由に私がダメだと」

「まあ、色々理由はあるけど。……そんなのはどうでもいい。大事なことはな、お前がジュリと一緒にいられなくなるってことだ」


 ハルトの見解は、至極真っ当なものだった。

 この世のものなら何でも切断してしまえるグレイの【スキル】。グレイが【称号】【スキル】を与えられた時も懸念していた。

 グレイの与えられたものは、大陸情勢を簡単に覆すものになると。

 ハルトとの大きな違いは、グレイはこの世界のこの国の一国民。爵位のある家の子供としてこの国に忠誠を誓った立場でもある。まして騎士として王家に直接仕えたこともある。何より、今のグレイはクノーマス伯爵。完全なる貴族だ。

 対して【彼方からの使い】として大陸全土で自由を認められているハルトに拘束力はどの国も保有していない。

 グレイがもし、自分の与えられた【称号】と【スキル】を公表したら。

 間違いなく国のためにと王家から召集されてしまう。新興したばかりの家として現在あらゆることが免除されてはいるけれど、拒否すれば、侯爵家に多大な影響を与えることにもなってしまう。

 そうならないとしても、権力はグレイを取り込もうと周囲も掻き回す。そして強い繋がりのある私は、否応なしに巻き込まれ、きっと発動してしまう。【選択の自由】が。


 沢山の人が飲み込まれるように巻き込まれ、きっと全てがメチャクチャになる。


 それでも私達は抗う、きっと。その時その後、グレイと私は、どうなってしまうのか想像出来ないけれど。


「だから止めとけ。お前は出てくるな」

「しかし」

「お前がその【スキル】と【称号】を与えられた理由はジュリにある。権力ってものに執着するやつらは、お前の事を知ったら必ず、ジュリの影響だと知ることになる。ジュリを利用しようとするやつが爆発的に増えるんだ、そうなるとどうなる?【選択の自由】がバカみたいに発動するんだぞ、そんなことになってみろ、国どころか大陸がおかしなことになる」

「それは、そうかもしれないが……だからといって、黙って見てろと?」

「その正義感、ジュリのために使うものだろ? お前は絶対に後悔するぞ、ジュリが巻き込まれて苦しむことになるんだから」

「だからといって見てみぬフリをしろとは。お前一人でどうにかなるというのか?」

「それは、流石になんとも言えないな、何でか知らねぇけど現状思うようにいってねぇし」

「ならばなおのこと、私の力はジュリを守るためにある。フォンロンで『覇王』が暴れるならば、間違いなくこのクノーマス、ククマットにも被害は及ぶ」

「だからってお前は自分の今後がどうなるか後回しにしていいのか? 伯爵になった意味は? ジュリのために得た爵位ならそれに見合った使い方ってもんがあるだろ。なんのためにお前の力を隠蔽してると思ってる?」

「そんなことはわかっている。分かって言っているんだ。なんの為に得た力だ? 使わず隠すためではないだろう」


 二人の話し合いは平行線。

 グレイはバレたらその時に考えるとフォンロンへ行くことを譲らないし、ハルトはそう簡単な話じゃないことくらい分かってるはずだって自分に同行することを認めない。

 見ていてちょっとイライラするくらいに二人とも譲歩しないから、口出ししそうになったわ流石に。

 でも。

「あの」

 レフォアさんだった。

「グレイセル様の申し出、なんとか出来るかもしれません」

 すると、ハルトは珍しく鋭い目をして、レフォアさんを睨み付ける。

「俺達のことに口出しする権利なんてねぇだろ、引っ込んでろ」

「わかっています、私だってそれくらいわかります」

 レフォアさんの声から必死さが伝わる。

「でも、話だけ聞いてください、お願いします、私たちは今日明日中にククマットを出発しなければならないんです、この場で私の考えを聞いてもらわないとこの先話すこともままならなくなる」

「聞こう」

「グレイ! お前は!」

「いいから、聞こうハルト。それに、ククマット……いや、クノーマス領はフォンロンに近い、『覇王』相手なら被害が出ることは間違いない。少なくとも、私は、侯爵家の人間として、伯爵を名乗る者として出来ることがあるならば最大限の努力を持って対応しこのククマットを守りたい」


 そう。フォンロンはこのクノーマス領ととても近い。国境自体は他の貴族の領地を挟んでいるけど、その領地はさほど広くない。船での交易が盛んで国内を旅するよりも気軽に行ける位には近い。もし、『覇王』が暴れるなり討伐出来ず自ら崩壊するなりしても、被害は及ぶ可能性が極めて高い。

 たくさんの命が奪われるかもしれない。


 それは、嫌だ……。

 私は無力だけど、それでも嫌だ、なにか出来ないか、微力でもなんとか貸せる力はないか考えるくらいには、嫌だ。


「フォンロンの冒険者ギルドに偽名登録か」

 成る程、と言いたげな顔でさっきの険しい殺気の滲む顔が消えたハルトが頷いていた。

「ええ、もちろんそのためには我が国の偽の身分登録が必要になりますので、それをまともにしてしまうと身分偽称で法に触れてしまいます。ですが、もし、グレイセル様さえよければ、グレイセル様の【スキル】について国王に直接お話頂きたいのです。その上で、特別に許可を頂き、《ギルド・タワー》総帥からもお力添えをしていただき名前と身分を冒険者ギルドに登録、ハルトさんと共に行動していただくというのはどうでしょうか? ジュリさんの元でこうして活動させてもらっているのも国王からの許可があって叶っています、だからきっとギルドを介し私から内密にお話を通すことは無理なことではありません、ましてジュリさんと関わりがあり、その影響による【スキル】ならば、国王は必ずグレイセル様の意向に沿ってくださるはずです。そして宰相の奥方、ヤナ様に、私から口添えしていただけるように伝えます。ヤナ様の発言力は絶大です、フォンロン国内ならば議員の殆どがあのお方の意向に従う、決して、悪いようにはならないはずです。グレイセル様の身体的特徴も髪の毛の色を変えたり、仮面などで顔を隠してしまえばなんとかなるはずです。もちろんそのための時間や手間を考えて慎重に動かなくてはならないかもしれませんが、そのへんは私や私の信頼する者たちの協力で何とかします」


 確かに。

 フォンロンの国王なら対応してくれるかも。

 フォンロンといえばハルトが仲間だと明確に公言している【彼方からの使い】であるヤナ夫人もいる。聞くだけでもハルトと非常に親しい仲だと分かる。彼女からも一言添えてもらえるならば確かに話はしやすいはず。そしてなにより、【彼方からの使い】への理解が深い国王ならば、ベイフェルアと違って利権だなんだと現実そっちのけの争いを持ち込むことは少ないと思う。

「支援要請が来たらどうする?」

 ハルトが再び難しい顔をする。

「たぶん、この国の国王なら……騎士団を出し渋るぞ。自分の身の安全第一だと思うさ。そして免除されてる今の状況を無理矢理捻じ曲げてグレイに国を代表してフォンロンに行けって言う可能性だってある」

「え、なにそれ? そんなことするの?!」

 思わず声を荒げてしまった。

「するな、あの国王なら。こういう時こそ王都を守らなきゃとか言って無駄に城の周り守らせるんじゃないか? だいたい、王都からフォンロンへの軍行する金だってねぇだろ。それならフォンロンに近くて資金にゆとりがある侯爵家と元騎士団団長の経験豊富なグレイに責任押し付けて出せば懐は傷まないし何より援助してやったと恩も着せられる。利用するにはうってつけだろ」

「さすがにそれは」

「わかんねぇぜ?」

 グレイの言葉をハルトが遮る。

「クノーマス全体の税収が上がってることにとっくに目をつけてるはずだし、レイビスの件があるからな、貸しがある状態だから強引には手を出して来ないだろうけど……回りくどいやり方をしてでも侯爵領からは何かしら奪い取るなり利用する機会は伺ってるはずだ。」


 それは、私も考えたことがある。

 ククマット編みが広まって、私の店が順調で、そしてそれに伴って作り手がどんどん増えて関わる他の職人さんも増えて仕入れる素材も増えて、クノーマス領は今、伯爵領として分離されたククマットだけでなく人もお金も活発に動き出している。

 その影響力たるや、私が呆気にとられるほど。

 なぜなら、ほかの領地からの視察だけでなく、他国からも視察が来るようになったから。その対応は私ではなく全てが侯爵様と次期侯爵となるエイジェリン様、そしてグレイ。今やこのクノーマス両家と何か一つでも素材を流通させられたらその恩恵は計り知れないと躍起になっているのは私の店に視察にくる人たちの会話から分かっている。

 最近の視察の人たちはどういうものが作られているか? を見るというより『どういうものが使われているか?』を見ているから。

 自分たちで作り出すより、私に素材を買ってもらい売り出すのが金儲けの近道と判断されてるらしいからね。

 だから今や本家であり私たちへの直接の干渉を遮る防波堤の役割をしてくれている侯爵家に接触したいという人たちはわんさかいて、国内外でその影響力が出始めている。王都でもクノーマス家の動向は今や注目の的、グレイの妹シャーメイン様へのお見合い申し込みも劇的に増えたとかで、クノーマス家は飛ぶ鳥を落とす勢い。

 そしてグレイが伯爵になったこと自体が起爆剤となった。

 大陸一狭い領地と少ない領民の領主が男爵でも子爵でもなく伯爵。これだけで話題性があり、ククマットという土地への興味を引くことになった。

 その興味が、クノーマス領への人の流れを生み出して、お金がそれに比例して動いている。

 そして侯爵家と伯爵家として納める税が増えたけど、それを苦にしないだけの資金源を既に確保していてその勢いに少しでも乗っかろうと商いをしている聡い人が集まり、さらにお金が動く。


 今、クノーマス領とククマット領は全てが潤っている。

 ベリアス公爵家が下手に手出し出来ない程に、ベイフェルア国内の貴族が派閥を超えてクノーマス侯爵家と取引をしている。


 それはつまり、財政厳しい王家からしたら面白くないわけで。


【隠密】レイビスに発動してしまった【選択の自由】が抑止力になっているのは幸か不幸か、王家から直接の侯爵家への圧力はいまは全くないらしい。でも、虎視眈々と狙っているはず、奪えるものを奪い弱体化させるための機会を。拡大強化され続けるこの土地を黙って見逃すはずはないだろうと、私も思ってはいたから、ハルトの言うことは至極真っ当な意見だろうと思う。

 見方によっては今回のことはクノーマス家を押さえつけるか弱体化させるために利用出来る可能性がある。


「もし本当に法を無視して支援要請が来た場合、お前が率いてフォンロンに入ることになるぞ? 騎士団長の経歴は伯爵になったと言っても軽視されることはまずありえない、間違いなくお前を名指ししてくる。そうすると偽装してフォンロンで登録するのは無理だ」

「……そうだな、確かに……」

 さすがのグレイも言い淀む。

 とにかく話が進まない。グレイとハルトの攻防戦。


 でも、なんだろうね?

 ハルトを見ると間違いなく『余裕』がある。危険だからグレイを出させたくないってわけじゃなくて、グレイと私の今後の立場に問題が出てくることをずっと言っている。

 たぶん、グレイと共闘したら解決出来る計画なり自信があるんだよね、あの顔は。

 ハルトが気にしてるのは私とグレイの今後のこと。この一点。


「いっそのこと、全部ばらす? グレイの【称号】と【スキル】」

 私の言葉に全員の視線が集まった。もちろんその視線は、全く希望に満ちたものは感じられないものだったけれど。


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