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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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2 * ラッピングして贈りましょう

 


 そうそう、お店をやると言えば、お家の近くでやろうと思ってる期間限定のレース専門店のお話ものんびりゆっくり進めている。

 フィンの大物作品は高額になるのは間違いないため、今のところこの店で販売は難しいと思うし。

 それと、まずレースというものを広く知って貰わなければならない。そのために侯爵家の人々が一役買ってくれることになった。侯爵夫人シルフィ様と次期侯爵夫人となるルリアナ様に社交の場で身に着けて貰うことになったのよね。

 二人がノリノリだったのは嬉しい反面、期待されてるのでフィンがプレッシャーと戦っているのは申し訳ないと思いつつ、その辺の話もまとまってきているから、万全の体制で挑むためにも開店はこの冬は見送って来年の冬を予定してる。


 近所のおばちゃんたちの中にはフィンに続けとかぎ針を使いこなす技術がメキメキ上達してる人もいて、これは明らかに【彼方からの使い】の恩恵だね。店頭に並べても全く問題ないレースがすでに何枚も出来てる人がいる。あと一年の間にはお店の経営に欠かせない職人レベルの人やフィンの片腕になれるデザインでもセンスが光る人も出てくる気配。

 農村の、冬のひっそりとした景色の中にポツンとあるレースのお店を目指して客がやってくる光景、楽しみだね。

 きっとそうなる。間違いないわ、むふふ。

 もう冬がじっと耐える期間だなんて言わせないわよぉ。

 稼いで稼いで、豊かな地区にしてやるもんね。










「おー、なんか既視感あるなぁ」

 ハルトが店内を見てちょっと興奮気味に笑う。

「俺の姉貴が通ってたハンドメイドのパーツの店もこんな感じだったぜ?」

「日本だとレトロな店はこんな感じってのを目指したからね。この店は私が住んでたアパートの近くにあった海外の雑貨とかアンティークものを扱ってる店がそうだったわけ」

「わかるわかる」

 ハルトと二人で盛り上がってそんな話になった。この世界のこの国を含めた周辺国は煉瓦とか石垣作りの家が多いらしい。ヨーロッパとかの建物に通ずるものがほとんどで、この店も例外ではない。それをフルに活用するなら日本で言う西洋風やレトロ感という雰囲気が大事かと思って。

 店内の壁は白壁にして、棚やカウンターは据え付けだった木材の濃い茶色をそのまま生かしたの。この世界の光源はランプだけど明るさを調整できる魔石使用の魔導具のランプだから結構店内は好きに調整できる。全体的な明るさを抑えて、カウンターや部分部分で卓上ランプを置いて明るさを強めたものを置いたから、雰囲気は出てると思う。

 特にハルトが既視感があるといったのは、細かいものを入れるのに使ったガラス製の小瓶や皿だって。

 ガラス職人のアンデルさんという凄く融通を利かせてくれる人が、最近成功率が高まった上質な薄いガラス製品の宣伝になるからと、私の我が儘に付き合って瓶だけじゃなく皿も沢山作ってくれて。擬似レジン用のガラス製型だけでも結構な種類を作ってもらってるけど、他にも沢山試作をしているようで、期待しててくれと嬉しくそして心強い言葉を貰った。

 感謝。


 そのガラス瓶や皿に一個単位で買える押し花や極小のレースを入れた。

 そして疑似レジンはどうしても作ってると余りが出てしまうからそれを一気に型に流して、小花や金属パーツ、色付き擬似レジンを硬化させて砕いた後に出る微細な欠片を入れて固めた後に、小さくカット。それをカット面を疑似レジンを塗って表面を均して整え、ライアスに穴をあけてもらったら格安の疑似レジンパーツの出来上がり。

 それらを色や大きさ、形別に、花とレースと擬似レジンパーツだけで百種類越えてしまったのですよ……。

 それを瓶や皿に入れてずらりと棚や平台に並べたから、それだけで元いた世界にあった手芸店やビーズ専門店みたいになりまして。

 たしかに見たことある人は既視感あるかもしれない光景。


 こっちの世界は瓶じゃなく、ボタンとか髪を纏めるための紐とか細かいものを売ってるお店は引き出しにしきりを付けて売ってるんだよね。

 ガラスの瓶自体は存在してるし、既存のものは色付きで厚みがあったり気泡が入ってたりするけど、それって元いた世界だとインテリアとして使われている可愛いガラス製品がそうだったのに、こっちはそういう使い方しないんだよね。ハルトも今まで見たことないって。色んな所に行ってるハルトが言うってことはこの世界ではない見せ方なんだろうね。


「これは、何のために使うのか聞いても?」

 グレイセル様からの質問。あ、これね。

 その質問をしなかった人は【彼方からの使い】。

 これはね、私も想定外だったもの。

 グレイセル様は実物を見るのは初めてね。だから一見して分からないの。

「は? 何って『ラッピング』のためのものだよ」

「……『ラッピング』……とは?」

 あ!! 凄いグレイセル様!! 発音もイントネーションもばっちり!!

 いやぁ、これらの資材をかき集める時既に気づいてはいたの。ほぼ適したものが存在しなくて。

 で、そんなもの何に使うのかと布屋でリボンを探してた時に店主に聞かれたから言ったのよ。


 ラッピング。


 自動翻訳久々にバグった!!


 ああー、そうですかぁ。って独り言出たよ。


『梱包』『包装』はあるんだよね。荷物を麻袋の布で包んで紐でくくるし、肉や魚を買ったときに殺菌作用がある大きな葉っぱで軽く包むだけの包装もある。

 でもね。

 プレゼントを包装する文化がないの。

 そもそも宝飾品は金持ちが買うもので、そういったものはこれ見よがしな箱に入れて贈られるからね。

 辛うじてリボンをかけることはあるって知ったの。でもそれも金持ちが見映えのために結ぶものだから一般では知られていない。

 そして市販で売られているのは、女性が髪を飾るためのリボン。だから刺繍がされてたり厚目のものだったり。全くラッピングに向いてなかった。


 いやほんと、泣きそうになった。

 薄い生地で細く長いリボンにする技術はあったから、まずリボン作りの依頼から始まった。ラッピングの習慣がないとなると馴染むまで相当時間が掛かるから、リボンは赤一色だけにして。それから、包装紙とか箱もない。紙は確かに一枚単位で買う世界だからまだまだ高いので仕方ないと思って、考えて考えて、お店の近くの布店で薄手の無地で色のよかったクリーム色と薄紫色の布を買い占めて、シンプルな口が開いてるだけの袋にすることにしたのよ。

 その製作は近隣地区の女性たちに丸投げさせてもらった。簡単だしサイズもとりあえず大中小の三つに絞ったから大丈夫っ!! って。

 頼もしいわぁ。私が細かい所にうるさいことは近所のおばちゃんたちからの情報で知ってたらしく、試作で、と見せられたものは即オッケーの出来でした。

 なんか、うちの地区だけでなく、近隣女性陣がどんどん私が取り入れてる『内職』システムに馴染んでいってて、どんどん小金持ちが増える予感。

 いいことだ。


 飾り気のないシンプルなリボンと大量のシンプルな作りの袋。それがカウンターの後ろ結構重要な位置だろう作業のしやすいところを陣取っているから、グレイセル様には奇妙に見えるらしい。

 グレイセル様だけでなく皆だけど。

「『ラッピング』ってのはさ、『包装』のことなんだけど、物を人にあげるものを包む時に『ラッピング』って言うことが多いな。俺たちのいた世界じゃ常識だぜ? こっちは紙がまだまだ高いからな、だからジュリは布の袋にしたってわけ。中にいれて、リボンを結べば、俺たちのいた世界で見てたのと変わらねえな」

「物を贈るための『包装』、か。こちらでは花やケーキを贈るものなんだが、ジュリたちのいた世界では色んな物を贈る習慣があるんだな」


 ……そうなんだよね。

 そう、この世界。金持ち以外が贈るものといえばケーキと花。

 そもそも、庶民にとってアクセサリー類は気軽に買えるものというのが極端に少なくて、手作りが圧倒的。露店で売ってるものもあるけど、天然石を簡単に革ひもに通したものとかで、それがプレゼントになったりする。

 あとは編んだり、縫ったりした服とかを親しい人にあげたり、なんだよね。


 グレイセル様に言われて改めてラッピング、そして雑貨を贈る習慣がないことにがっかりしたのはハルトも一緒だったようで、

「やっぱ、異世界だよなぁ」

 と呟いていた。


 グレイセル様は私が贈ったブックバンドがきっかけで、私の世界の習慣で雑貨を贈ることが当たり前だと知ってくれたけど、改めて文化の違いを実感したみたい。

「本当に、驚くほどジュリやハルトのいた世界は多種多様な表現や習慣があったんだな」

 とても感慨深げに、呟くように言って。

「……このクノーマス領も、いつかはそうなるだろうか」

「なると、いいな」

 ハルトが陽気で軽やかな声で。

「ああ、そうだな」

 グレイセル様も、穏やかで優しい声で。


 そうなると、いいね。

 頑張ろう。

 少しは力になれるかな?

 なれたらいいな。

 私もこのクノーマス領が気に入ってるから。

【彼方からの使い】として、出来ることがきっとあるよね。


 うん、頑張ろう。

 いいもの作ろう。



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