◇年末年始:アケオメ!スペシャル◇ あれ、作った後どうなった? その弐
明けましておめでとうございます!!
本年もどうぞ『どうせなら〜』をよろしくお願いいたします!!
では、昨日に引き続きその後どうなったシリーズを。
キリアが新年早々私達の所を訪ねてきた。
「ん」
「ん?」
突き出されたのは大きめでずっしりと質量を感じる革の袋。
とりあえず受けとって革の袋に手を突っ込んで引っ張り出した。
出して、数秒眺めて私は再び袋に戻した。
私の隣でそれを見ていたグレイがスンとした顔でキュッと口を固く閉じる。
これを新年早々持ってくるのか、キリアさん。
「神様キーホルダーのデザイン画、昨日でようやく全部納得いくものに仕上がったのよ。いやぁ、暇な時間見つけて描いて手直しとかしてたら危うく年越しになってたわぁ」
この世界にいるおよそ五百の神様をイメージしたキーホルダー。
既に上位百柱は生産販売が数量を限定しつつも開始されて、以下の四百柱についてはいずれ時期を見て段階的に増やしていくという話でまとまったはずなんだけど……。キリアの清々しい達成感に満たされた目を見ると『覚えてないの?』とは問いかけられない。グレイも同じことを考えてるよね、その顔ね。
作らせろとあれだけ騒いで私やグレイと攻防戦を繰り広げたんだから覚えてないわけがない、うん。
そうですか。
追加、四百ですか。
いやもう、四百って追加じゃねぇわ、最初の百を大幅に上回ってるから追加って変だ。
「うち、キーホルダー屋さんじゃないから全部置けないよ?」
「そこはほら、フォンロンギルドを利用して」
「ものつくりになると見境なくなるの、私とそんなに変わらないからねキリア」
フォンロンギルドというか、レフォアさんたちを使う気満々だなぁ。
フォンロン国は確かに五十一位から百位までの神様キーホルダーの生産を受け持ってくれていて、白土を使った監修額縁と合わせて今生産に力を入れ始めてくれているからお願い出来ないことはないのよ。新しいものをどんどん取り入れたいと積極的だし。
でもねぇ。
限度というものがあるわけで。
「「「……無理です」」」
急遽呼んだレフォアさん、マノアさん、ティアズさんの声と言葉が綺麗にハモった。
「作る前から無理なんて言っちゃだめでしょ」
「いやいやキリアさん! 当分無理ですよ、額縁と既存のキーホルダーのデザイン分でもギリギリの生産なんですから!」
「そこを何とかするのが上層部」
「出来ることと出来ないことがありますよ!」
キリアVS三人の落とし所が全くない言い争いが始まり。
「……とりあえずお引取り願おうか」
やれやれ、と呆れた様子でグレイが呟き私の手から革の袋をヒョイッと奪うとその袋をレフォアさんの手に掴ませた。
「え?」
「お互い譲歩出来るところがあって話がまとまったらまた訪ねてきてくれ、休み明けでもいいが必要提出書類を揃えるには時間がかかるから休みの間に持ってきて貰えるとありがたい」
「えっ?!」
「ローツが今日から実家に帰っていて書類を準備出来るのは私とジュリだけだからな、来週フォンロンに帰省するんだろう? それまでには用意してやるから早めに頼む」
「作ること前提で話し進めないでください!!」
レフォアさんが焦って叫んだ瞬間。
「レフォアさーん」
「ひっ!!」
「グレイセル様がこう言ってくれてるから、ちょっと話し合おう?」
レフォアさんの肩を掴んでニヤリと笑みを浮かべたキリア。
「上手くかわしたね」
「かわすさ、当然。四百だぞ? 店で出来る訳ないだろう」
「まぁねぇ」
静かになった屋敷。
改めてお酒をグラスに注ぎ直してまったりと過ごす。
「キリア相手にあの三人、勝てるかなぁ」
「ジュリ」
「うん?」
「愚問だ、キリアが勝つ。しかも圧勝」
「……一応フォンロンギルドの幹部候補三人だけどね。それが負けるとか色々問題でしょ」
「そんなことは知らん。とにかく、あの三人は一生キリアに勝てる気がしない、私の本能がそう言ってる」
「グレイの本能がそう言うって、もはや決定事項なやつじゃないの。なんか哀れになってきたわ、あの三人が」
「新年早々こんなことがあったから、今年のあの三人はキリアに振り回される年、ということで決定だな」
「不憫すぎる」
後日談として。
キリアの情熱 (勢いと圧)に負けた三人は、『新規デザイン追加ニ百五十』という、それでどこがどう譲歩なの? と問いかけてしまう何とも言い難いことしか得られず他はほぼキリアの希望と欲望を押し付けられることになる。更にそこからフォンロン国の白土を扱う工房やギルドの制作部門がキリアの厳しい合格基準をクリアして販売に漕ぎ着けるまでおよそ半年の間に、彼女は出世街道まっしぐらのレフォアさんをいとも簡単にねじ伏せられるその様を直に見ていたティアズさんとマノアさんの話と自分たちが置かれているブラック気味な状況から『ゴリ押しのキリア』として、フォンロン国ギルドの一部で恐れられていくことになる。
実際、ものつくりへの情熱が半端ないうえにどうやら意味不明な私の恩恵が働いているらしく、彼女のゴリ押しに勝てる人は私とグレイだけ、という事がのちに判明するのだけど、それはまた別の話なので割愛。
「……『ゴリ押しのキリア』かぁ。まあ、仕方ない」
「普通なら拒否る二つ名だけど?」
「ゴリ押ししてる自覚はあるから否定のしようがない」
「あ、自覚あったんだ……」
そのうちまたその後どうなったシリーズ出すかもしれません。くだらないお話シリーズ同様もったいないなぁと思っているネタがありますので。
そして先日予告しました作者の冬休みは18章が終わるキリが良いところで頂く予定ですので、その時に日程お知らせ致します。
では改めて本年もよろしくお願いいたします!




