◇年末年始:大晦日スペシャル◇ あれ、作った後どうなった? その壱
まずはごあいさつ。
今年一年当作品を読んで頂きました読者様に心から感謝申し上げます。
コロナへの不安が未だ続き、不便で窮屈な思いをされているかと思います。その時間を少しでも楽しく過ごせるのに一役買えたら、という気持ちで執筆しています。来年もがんばりますので是非読んで楽しんで頂ければと思います。
年末年始ネタが思いつかずどうしようかなぁと悩んだ末、こちらの投稿となりました。
まずは最近登場したものから。
キリアが硬直してしまった。
仕方ない。
だってね。
「あのう」
「なんだ」
「これ、総額いくらです?」
「四百万リクルまでは計算したのだが面倒になってな。おそらく六百万は超えている」
アストハルア公爵様が宝箱風物入れ『ダンジョンドリーム』を作って欲しいと言うので、年末の店のお休み期間に使えそうなものを持ってきてくれたら作りますよー、と言ったら本日新年まであと二日という日に美味しいお菓子と共に私とグレイの所に持ってきた。
公爵様が持ってくるものに興味があると言っていたので事前に来る日を知らせておいたらウキウキした様子でキリアとローツさんも来たし、定期的にフィンとライアスもこの屋敷に招いてご飯食べたりしてる日とちょうど重なったこともあって二人もかなり興味津々な顔をしていた。
最初は。
箱を開けて見せられるまでは。
いや、もう、これさ、普通に装飾品に仕上げろよ。という代物ばかりで。
「公爵様、これはさすがにやりすぎでは」
「これでもランクは低いものばかりだが?」
「……一個一個仕切りのついた箱に納められてるものが安物の訳ないでしょう」
「まあ確かにそれなりの物も含まれているがこれなどはこの大きさで一粒二千八百リクルだ、安いではないか」
「それを世間は安いとはいいません」
「これは三十粒で千五百リクルの真珠だぞ?」
「千五百リクル出してネックレスにすらならないじゃないですか」
「大金貨(一枚:千リクル)を用意しなかっただけでも褒めて欲しいところだ」
「本物の金貨二百枚使えって出された時点でひいてますからね、褒めようがないですからね」
日本円換算だと総額六億円を超えるらしい魔石や輝石、そして現金。
何が不満なんだ? って顔をしないで欲しいわ。
そして作ってくれるよな? という圧が凄い。私が扱いに気を使うなぁと考えて、うーんと唸ったら作るのを渋ったと勘違いしたのか無言でお付きの方に合図を出した公爵様が私の目の前に出したのはたくさんの高級フルーツ。お菓子とは別に荷箱二つをお付きの方二人に持たせて転移してきたその時から中身が気になっていたんだけど、私への賄賂だった。
……グレイが『この季節に手に入るとは思いませんでした』ってニコニコ笑顔で受け取った。こら副商長!!
「いらないのか? 作らないと貰えないが」
「……」
決して、決して、賄賂のためではない!!
「ぎゃぁぁぁぁっ!」
「キリア、うるさい」
「だっ、だってあんた! 素手で!」
作っている側でキリアがずっと叫んでいる。
「せめてピンセット!」
「ええ? 白土にぶっ刺すだけなんだからそんな細かいこと気にしてもしょうがないってば」
指でヒョイヒョイ摘んで躊躇いなく白土に金貨や高価な魔石、輝石をぶっ刺す私が理解出来ないらしい。
「年末の貴重な休みを使って作るんだからさっさと仕上げて渡しちゃいたい。総額がとんでもないこれを手元に長く置きたくないし」
「総額がとんでもないってわかっててどうしてあんたは素手で作業出来るのか分かんないんたけど!」
「面倒臭いことは早く終わらせるに限るじゃない。そうなると手袋とピンセットも邪魔」
なんて話ながら作ってたら指から真珠がポロリ。床にコロコロ転がって、見当たらない。
「あれ、どこいったかな? ま、いっか。後で探すわ」
「探して! 呑気なこと言わないで! グレイセル様動かないで、ローツ様も! 踏みつけたら許さないから!!」
白土が固まるまでおよそ一週間。
衝撃を与えなければ型崩れもしないので翌日にはアストハルア公爵様が受け取りに来て大事そうに抱えて帰っていった。
総額およそ六百万リクルの宝箱風物入れ、『ダンジョンドリーム』。
……風っていうか。
そのものが宝じゃんっていうツッコミしたいけど誰にそのツッコミをすればいいのか。
そしてフィンとライアス。
公爵様が持ち込んだ物を見せられた時点でガクブルして無言でいつの間にか居なくなってた。関わりたくないと逃げたんだな、あれは。
あとね、公爵様はあれを息子の誕生日プレゼントにするとか言ってたような気がする。
……息子に?
六百万リクルのプレゼント?
ちょっと金持ちの感覚が理解できない。
「あんたの感覚もちょっと分からないときあるからね」
うんキリア、それは褒め言葉として受け取っておく。
そして。
「ジュリ、六百万リクルがやりすぎだというので三百万リクル内で揃えてみた、これならどうだ」
侯爵様が、意気揚々と自信有りげな顔でやってきて、やっぱり一粒ずつ仕切りのある箱に丁寧に納められた魔石や輝石をテーブルに置いた。
「そもそも桁が非常識ですから半額になったところであまり変わらないです……作りますけども」
そうして再び私は『お、こんな色の魔石もあるんだ?』とか『この形綺麗だ』とか言いながら素手で掴んで白土にぶっ刺しながら、もはや宝箱風ではなくこれ自体がお宝じゃんという代物を、年末年始のためにとグレイが揃えておいたとっておきのお酒を片手に作ることになった。
「三百万リクルのものを酒を飲みながら扱えるあんたは本当に理解できない」
後日、キリアからそう言われた。ドン引きされた。
年末に仕事を持ち込む方が悪いのよ、それくらい許される、はず。うん、多分……。
どんなに原価が跳ね上がるとしても作る時の心情は平坦なままでいられるジュリのおおらかさというか据わり具合が伝わりましたでしょうか?
次話は明日、キリアさん肝入のアレが登場です。




