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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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18 * 祝いのお品物

こちらのお話、もう少し先での登場を予定していたのですがちょうどジュリの友人二組が結婚しましたのでその流れに乗せられると思い早めの登場となりました。


 



 ハルトとリンファの結婚式が盛大に行われ、そしてすこぶる評判が良かったことで達成感に包まれ気分のいい日が続く中。

 珍しくちょっと緊張した顔のローツさんが相談があるとグレイとのんびりゆったりな休日を過ごしていた屋敷を訪ねてきた。


 相談内容を聞かされて、これは気合い入れちゃいますよ、と安請け合いした私の隣ではグレイが『簡単に受けるなぁ』と笑ってたわ。

「デザイン画だけなら、って特別に見せてくれたろ?あの時からいいなと思ってたんだよ。ただ、あれは王妃殿下からの依頼で作ったもので同じものは作らない契約をしていたから諦めていたんだが、カトラリー出そうかなって言っていたのを覚えていて、それでやっぱり欲しいな、と。もちろん依頼料含めて金は惜しまない、そのかわり、セティアが修道院を出て、ククマットに来るまでに……カトラリーを作って欲しいんだ」

 そう、ローツさんの元婚約者で現在修道院にいる元伯爵令嬢だったセティアさん。

 あと数ヶ月で院を出て、普通の生活が出来るようになるんだよね。伯爵家から絶縁されてもう身内に頼る事が出来ないセティアさんだけど、ローツさんが彼女のことをずっと待っていて、そしてセティアさんもずうっとローツさんの側にいたいと願っていて。


「ククマット来たら速攻結婚式だよね」

 以前セティアさんの話になって、ローツさんがあまりにも幸せそうな顔してたからそんな事を言ったらね。

「ば、ばか言うな、七年も顔を見てないし会話もないんだぞ。暫くは互いに本当にこのまま結婚の方向でいいのか探りながら過ごすだろ」

「ほら、既に結婚の方向でって二人で手紙でやり取りしてるんでしょ? 結婚式の準備しちゃって大丈夫よ、多分ローツさんが慎重になり過ぎたって後悔するパターンだからしときなって。グレイと二人で気合い入れてプロデュースしてやるから!」

「簡単にいうんじゃない!!」

「てゆーかさぁ、セティアさんが院を出たらローツさんの屋敷にそのまま呼んで一緒に住むんでしょ? ローツさんが手を出さないってのは想像出来ない」

「お前、俺を何だと思ってるんだ」

「結構性欲がありそうな健全なアラフォー」

「酷いな、その表現」

「え、じゃあ絶対に手を出さない自信あるの?」

「……」

「ほらみろ、速攻結婚式のパターン」

 という、会話をしている。


 それも関係してるかどうかは分からないけれど、セティアさんとこれから生活するためにローツさんは色々と新調したいようで、そのうちの一つがカトラリー。

 確かにカトラリーって揃っているといいよね、人を招いた時とかにも使えるし。

「依頼料とか材料費も何もいらないわよ」

「え?」

「私から二人へのお祝い。プレゼントさせて」

「ジュリ……」

「ローツさんにはいつもお世話になってるし、なくてはならない重役、商長として普段の感謝も込めて贈らせてよ」

「……ありがたく、頂く」

 ほっこり幸せな、そんなやり取り。

「ジュリが作るなら私も欲しいな」

 ちょっと黙ってようかグレイさんや。あんたは己の欲望に忠実過ぎるぞ (笑)。

 あ、そうだ。

「ローツさん、似たような物を別に作ったりしてもいい?」

「当たり前だろう、それは俺がどうこう言える訳がない。作るのはジュリだ、作ってくれるだけでも有り難いしカトラリーは元々出そうとしていただろ、むしろ似たようなものって言うのも気になって欲しくなるかもしれないしな」

「そっか、それなら遠慮なく作らせてもらうわ」

「その似たような物とは? 店で出すものとは違うのか?」

「リンファの結婚祝をね。何をあげようか迷っててそのままになっちゃってたから。リンファにはプロデュースしてもらっただけで十分って断られたんだけど、ハルトにはダンジョンドームあげてるのにリンファに無しっていうのが私の気持ち的にね」












 さて、リンファの結婚祝いとローツさんからの依頼を考える。

 いや、もう決まってるけども。

 カトラリーセットって。

 王妃からの依頼で作ったスプーンとフォークのセットのように疑似レジンで柄を作るタイプのね、あれの価格を抑えたものを作りたいなぁって何度か思ってたりしたんだよね。王妃の依頼品と同じものでなければ売り出せるし。


「で、中身はどうするの」

「そこよ、中身よ」

「決まらないの?」

「イエス」

「入れたい物で迷ってる感じ?」

 そう、迷ってる。

 ……入れたい物が多すぎる。

「とりあえず」

「うん?」

「作ろう、全部。じゃないとあんたは後でその鬱憤を晴らすように自主ブラックするから。何故かその連帯責任が私にくるから。グレイセル様にあんたと二人並んで正座で説教聞かされるのはもうやだ」

 ああ、そうだね、先日そんなことあったね。『正座で十分な罰じゃん!』と訴えたのスルーされたからね。痺れて大変なことになったから。


 ドライフラワー、スクエアカットにした色つき疑似レジン、螺鈿もどき、リザード様の細かく砕いた鱗、細かな天然石に真珠、金属パーツ。

「あー、うん、うん……」

 キリアが遠い目。素材の一覧のほかに簡単なデザインも書き込んである紙が凄い枚数になりまして。そもそもドライフラワーだけでも数種類、組み合わせていくととんでもない数になるわけで。それでも色や雰囲気で合わなそうな組み合わせは除外したんだよ?

「それで数十種類とかないわぁ」

「付き合ってくれるよね?」

「作るけどさぁ。自主ブラックは自粛」


 今回、カトラリーセットを作りたい。となると、前回の王妃からの依頼で作ったスプーンとフォークだけではない。そもそも前回のはティースプーンよりも一回り大きいわりと使い勝手がいい無難な大きさに仕上げたけれど、セットとなればサイズ違いはもちろん、ナイフなども含まれる。本格的なカトラリーのセットとなると果物ナイフとかトングといったものも含まれるし、一セットの総本数が最低本数でも六十を越え、簡単かつ少人数の御茶会を丸々コーディネート出来るようになってるわけ。それでも少ない方で、これが貴族の晩餐会用ともなれば小規模クラスでもとんでもない数になる。

「見本とか試作の域を越えるだろう」

 と、グレイも苦笑するくらいの本数よ。

 という訳で、私オリジナルセットを考えた。

 お茶会専用のセットね。

 最低限セットとして恥ずかしくないという内容の、ティースプーンとデザートスプーンとフォークを替え・予備含めてと他のナイフなど総本数が六十を超えるセットにすることにした。


 とりあえず見本は型が既に存在しているスプーンとフォークで二本ずつ作ってみることに。そうすれば見本として作ってもそれは誰かに譲渡しやすいよね。一本だけ貰ってもね。

 キリアと二人材料を一通り用意したあと、あとはいつものように作っていくだけ。

 そして、やはり試作というのは必要なことで、楽してすっ飛ばすものではないと実感。


 まず、ドライフラワーで作る場合相当規格が揃っていないと統一性を求めるのは困難だということが分かった。一本一本向きや歪みが全て違う上に、カトラリーの柄に入れるのでかなり小さい花だけに限られる。

「ちょっと厳しいね」

 キリアがううん、と唸りながらしかめっ面。

「ポイントで茎を切り落としたのを入れる程度かな」

 歯切れの悪い感じでそう問いかけられ頷いておく。

「ま、それが妥当かな。もしくは王妃依頼のスプーンとフォークみたいに二本セットでとか、バラ売りか」

「あ、なるほどね」

 自分で見て微妙な違いを比べて好きなのを選ぶなら今売っているアクセサリー類と同じだから買いやすい。でもこれでドライフラワーメインでのセットは難しいことがはっきりした。却下。


 次にキリアが『作ってる途中から気づいてたけどさぁ』とぼやいた素材が小粒の天然石。

 これ、想定外でね。小さなさざれ石をふんだんに使えばさぞ素敵なものに、と期待したのに気泡を取り除く手間が掛かりすぎる。一粒が小さいけれど表情の全て違うさざれ石は気泡の入り方も違い過ぎて好みのものを選んで買うなら良いけれどセットにするには少々自由過ぎる見た目が統一感から遠ざかる原因に。

「……自然素材は、向いてないっぽい」

 私の呟きにキリアが黙って頷いた。却下決定。


「あー」

「なによ」

 ふと思い付いた。

「いっそのこと何も入れないのもありかな」

「は?」

 そう。

 何も入れず透明な柄。実にシンプル。

「いくらなんでもそれは」

「彫刻……。柄と、つぼ(すくう部分)を繋ぐ金具を工夫するのは?」

「え?」

「たとえば……柄の全体に模様を彫ってもらう。統一したデザインが簡単に出来るよね。そして柄はシンプルだけどつぼと柄の繋ぎ目になる金具のデザインに拘って統一するのもいいんじゃないかな、と」

「……ジュリ」

 うん?

「それいい」


 私は型に流して固めただけの擬似レジンの柄を持って彫刻職人のヤゼルさんの工房と王妃の依頼のカトラリーのときもお世話になったライアスの弟子だった金物職人であるギニーさんの所へ。

 デザイン画をテーブルに広げて柄を見せながら説明すると、どちらも面白い! とその場で試作を快諾してくれた。ありがたい。

 今まで何かを組み合わせたり入れたりに拘っていたけれど、こういうのもアリだね。












 二人からの試作は翌日にはヤゼルさんから、さらに三日後にはギニーさんからも届けられてその仕事の速さに脱帽しつつ感謝しつつキリアとグレイの前に並べて見せた。

「これはいいな」

 目を細めてグレイは型に流しただけの柄とつぼを繋ぐ金具に目が行くスプーン二本を手に笑顔。

「可愛い、っていうか、可憐。いいねこれ」

 目を丸くして驚きつつも笑顔のキリアはつぼと繋ぎ目金具は至ってシンプルだけど柄に彫刻がほどこされたスプーンを握って気分が上がっている。


 グレイの持っているのは、柄を隠す繋ぎ目金具部分が三センチ以上あるデザインになっている。金具には以前懐中時計のデザインにも使った刺し子と呼ばれる刺繍の柄の『紗綾形 (さやがた)』『花刺し (はなざし)』という比較的刺し子でも細やかな柄の二種類を入れてもらった。使い心地のために繋ぎ目部分と柄が限りなくフラットになるよう調整されていたのには職人さんの細やかな気配りに感心させられた。

 グレイの反応からこれは男性受けがいいのかもしれない。

 一方キリアが手にしているのも二本。一本は表側に花を、裏面に蔦模様を入れてもらったもので、もう一本は裏表と側面の全てに花と蔦模様を彫ってもらったもの。

 彫刻は彫れば掘るほど価格に影響する。勿論その違いによる華やかさは一目瞭然だけど、それでも限りなくシンプルから豪華なものと見た目と価格帯のどちらも幅広く用意できる利点もある。

「二人の反応見ると……今回、ローツさんには擬似レジンは模様なしで金具に凝ったもの、リンファには柄の彫刻に凝ったものがいいと思ったけどどうかな?」

 もちろん二人からはそれでオッケーという回答いただきました。


 擬似レジンに何も入れないバージョンについては取り敢えずローツさんとリンファの分を用意することにして、デザインなどは今後も詰めていくことに。ま、どうせこの二種類は売るのが目的ではないしね。ゆっくりやるわ。

 その代わり、お店で売るスプーンとフォークは遊び心も許されるのでサクサク決めていく。

 当面サイズは一種類、食事で一番使われるディナースプーンとフォークのバラ売りに絞りこむ。売れ行き次第で柄の種類を増やすか、それともサイズを増やすのかデータを集めたいところ。何せスプーンだけでもサイズが数種類、作るの大変。半端なものは作りたくないという建前で売れやすいものから作る。


「これ可愛いくできたわぁ」

 私のイチオシは砕いたリザード様の鱗を入れたもの。これ、砕くので形も大きさもバラバラになるんだけど、あえてその砕いた欠片を柄尻側に一粒だけ沈めたものにした。一本一本鱗の色は一緒でも欠片の形の違いで表情が違う。スプーンとフォーク、その表情の違いを見比べながら好みの雰囲気のものを揃えて貰う遊び心優先にしてみた。バラ売りならそれくらいの緩さがあってもいいよね。

 あ、ちなみに色つきスライム様を使うのは断念しました。原価が高くなるし、そもそも入荷が不安定なので。色つきスライム様、いつでもお待ちしております。

 そしてキリアは金属パーツのものがお気に入り。小さいものになるので凝ったデザインのパーツは入ってないんだけど、その代わりハートや星のパーツをそれぞれ決まった数沈め金属特有の輝きが楽しめる上に、規格が決まったものを沈めているのでバラ売りでも揃え易さがある。パーツも他には花や動物もシルエットだけならいくらでもデザインが出来るので非常に優秀な素材。


 商品化して売れ行き次第では食器屋さんに委託販売してもらおう。さすがにカトラリーだけで棚一つ占拠するわけにはいかないし。


 という感じでカトラリーの販売に向けて職人さんやうちの従業員たちだけでなく食器屋さんなども巻き込んでの販売計画も進めていくことになった。

 そして思う。


 王女のデビュタント、いつになったらやるのよ?


「……最高のものを揃えるとかで、準備に余念がないらしい、会場もまだ改築中だ」

 グレイが非常に冷めた顔で呟いた。

 ローツさんも目を細めて微妙な顔をした。ああ、そうですか。とだけ言っておく。


 改築ねぇ。そんな余裕あった? と、地球ならネットで大炎上案件だ。王女のデビュタント、そりゃあ盛大に祝いたいだろうけど本当にお金に余裕があればとっくに今頃開催されてる気がする。

 せっかく丹精込めて作った真珠のカトラリー。未だ箱にしまい込まれただ保管されているだけなのだと思うと何となくモヤモヤした感情が込み上げる。


 ……いや、もう私の手を離れたものだからね。余計なことは考えないようにしよう。

 とにかく。

 《ハンドメイド・ジュリ》からカトラリーの販売始めるよーと宣伝するのはいつにしようかとワクワクしながら作ることにする。











 後にこの透明カトラリー、ローツさんの武器として活躍することになるんだけれど、セティアさんとの惚気話を最後まで聞いたら貰えるという真偽が定かではない噂が流れ、それを知ったローツさんがあまりの恥ずかしさに悶絶するという話は、割愛。

有名な老舗海外ブランドの総本数が物凄い貴重なカトラリーセットを過去に見る機会がありましたが、その美しさたるや。芸術品ですよ。

そしてそれを収めるための箱。あれすらもちょっとした芸術品です。

仰々しいように見えてちゃんとカトラリー保護とそのカトラリーに見合うだけの存在感。あの一体感がたまりません。


リサイクル、資源を大切に、と言われる昨今。それはとても大事なことで継続していくべきことです。

が。

中身の保護のため、見た目と雰囲気の調和のために必要不可欠な箱や袋まで今後その対象にならないで欲しいなと願う作者です。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  モテ男アラフォーの恥ずかしさに悶絶する姿、プライスレス
[一言] ジュリさんが作った魔物素材を使ったカトラリーセットだから、附与すればそのまま武器(物理)としても使えそう……
[良い点]  ジュリとローツさんの会話が愉快でした。特に >「簡単にいうんじゃない!!」「てゆーかさぁ、  の流れは同じ「いう」が形を変えて連続で出て来たので、ラップみたいな印象でした(笑)  カト…
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