18 * ジュリ、満足する。
クリスマススペシャル2話目、ジュリが語ります。
うーん、我ながらいい感じにプロデュースできたんじゃない?
この屋敷はかつてとある子爵の屋敷だったんだけど、その子爵一家が別の場所に新しく屋敷を建てたあと売り出され、ハルトのかつての冒険者パーティーの仲間の一人が購入。普段大陸を魔物討伐しながら転々としているその人は滅多に、というかほぼ帰ってくることのないこの屋敷を迎賓館として人に貸している。王家の迎賓館もあるけれどそこを借りるにはかなりの額が必要なだけでなく、身分や信用もそれなりに必要で爵位の低い人たちや商家の人たちはいくらお金が用意できても借りられないこともあるらしい。そんな人たちのために、そして副業としてハルトの友人が始めた迎賓館(屋敷)のレンタルはこの度のめでたい披露宴にはうってつけだった。
アンティークな家具は大事に丁寧に使い込まれたものばかりで、壁や床も落ち着いた色や柄。
アットホームさが感じられるクリスマス。
が、ハルトとルフィナの希望だったのでここを会場として使いたいと案内されたその場で私も即オッケーを出した。
「チェック柄が多めってもっとゴタゴタするかと思ったらそんなことないんだね」
披露宴の会場となる迎賓館内で一番広い室内の飾り付けを見て、キリアが感心しきりな様子で呟く。
「色合いに気を遣ったからね。これがオーナメントの赤や緑と同じ色に寄せてたらかなりクドくなってたと思うけど」
艷やかな赤と緑を沢山使ってほしいという希望に合わせて、この内装で思いついたのはリボンや布にチェック柄を多めに取り入れること。クリスマスらしい柊やベル、雪の結晶のデザインのリボンや布でも良かったんだけど、統一感とアットホームさを出すためにあえて柄をチェックに偏らせた。
チェックと一言で言っても種類は豊富で色の組み合わせ次第で印象はガラリと変わる。
今回、ツリーはもちろんリースも濃い緑で、オーナメントは赤多めに緑と白が入っている感じ。明るさや輝きには主に金色のベルやオーナメントに活躍してもらっている。そこに更に華やかさを演出するためにリボンを入れるんだけど、無地ではちょっと寂しいし、だからといって色んな柄を入れるとちょっとうるさくなるし。
だからあえて飾りに使うリボンや雰囲気を出すために至るところに置かれているクッションや人形の服、ぬいぐるみはチェックをかなり多めにしてしまったのよね。
「落ち着いた色味のチェック柄はこうしてみると悪くないかも」
ベージュに金、茶色に銀、紺に白、赤には同系の赤や黒など、チェックでもコントラストが穏やかな色使いに気をつければ子供っぽさもなくなる。
私が指示した通りに飾り付けを頑張ってくれたロビエラムの今回の裏方さんたち。ホントにがんばったね!!
すっごい素敵になりましたよ!!
今回、ハルトが希望した晩餐会はね、最早晩餐会ではなくて私の知る完全なる披露宴 (笑)!!
提供される料理はコース料理だし、全ての人の席が決まっているのは晩餐会の基本スタイルではあるのよ、でもね、そこにあいつは色々捩じ込んだ。だから会場の責任者さんとか、ハルトの結婚式のサポートにとロビエラム国王陛下が補佐として付けた数人がてんてこ舞いしたわけで。
……昨日、最終確認したその場でオッケー出したら全員が泣きそうな顔してたのが印象的だった。というか、何人かは『良かったぁ』と泣き崩れてたんだけど、あれは私のせいではなくハルトからのプレッシャーだと信じたい。
で、晩餐会って実は最初と最後の挨拶以外は特にすることはないのよ。
「飯食って談笑するだけだろ。それ、つまんなくね?」
ハルトのその一言にいったいどれだけの人たちが首を傾げたか。『晩餐会とはそういうものですが』と何人が言っていたか。
まず、新郎新婦の入場からやると言い出した。こっちの結婚式後の晩餐会は、拍手で迎えられ席に付くだけ。それでいいじゃん、新郎新婦の入場じゃん、と言った私にあいつときたら。
「司会」
「あ?」
「『新郎新婦のご入場です、盛大な拍手でお迎えください』って言ってほしい」
「ああ? 誰が司会するのよ」
「補佐役からくじ引きで決めるからさ。台本は俺とお前で考えようぜ!」
「あぁぁっ!?」
「なんでそんなにガラが悪いんだよ?」
「今言うことじゃねぇわ、式まで後何日だと思ってんの」
「十日」
「くたばれ!」
私の暴言を、ハルト以外は理解してくれたからね。
くじで見事司会役となった不運の補佐役さんは私とハルトで何とか二日で仕上げた台本を渡されて震えてたよ。
でもね。ハルトに何を言われ、そしてどう叩き込まれたのかわからないけど。
「完璧です、これで私は結婚式の『司会者』として食べていける自信が付きました、これからも数多の夫婦の門出の手助けをしていこうと思います」
と今朝物凄くいい笑顔で謎の宣言された。あなた、国王の側近の超エリートだよね? その自信いらないよね? どこに向かい出した……。
そして今に至る。
今回コーディネートを任されたこともあり私たち 《ハンドメイド・ジュリ》のメンバーは誰一人この披露宴に出席していない。万が一の不測の事態の対応は私達しか出来ないだろうとハルトと話し合って決めたこと。そのかわりコーディネート料はがっぽり貰いましたけども。
入場扉前で待機する二人の最終チェックに余念がないのがキリアとフィン。クリスマスカラーのブーケとハルトの胸のブートニアはフィンがアレンジメントをしたものだし、ルフィナが着けてるヘッドドレスと呼ばれる装飾品とイヤリング、そしてハルトのイヤーカフはキリアのデザイン。
……出来ちゃうんだよねぇ、フィンが。フラワーアレンジメント。ブーケの芯になるものをこの日のために何とか開発して、球型のこんもりしたラウンドブーケはこんな感じだよーって、私が適当に作ったのを見様見真似で作って私のより可愛く出来るという。キリアはキリアでルビーとエメラルドを使って、金属で柊をモチーフにしたヘッドドレスとイヤリングとイヤーカフのこんな感じのデザインしてみてーって簡単に描き殴った絵から金細工職人のヤゼルさんが何の疑問も持たずに作れる精巧なデザイン画を描いてしまうという。
「「あんたの知識がなきゃできないからね」」
とは言われたけど、なんだろう、この敗北感的な感情は……。
「ありがとな」
不意に聞こえた小さな声のハルトから感謝の言葉。
「なに、いきなり」
「ジュリがいなかったら、俺、結婚式してなかったと思う。ルフィナが楽しそうに嬉しそうに今日を心待ちにしてるところ、見れなかったと思う」
「……そっか。お役に立てて何より」
そのタイミングで、入場してくださいの合図が届いた。
「おめでとう」
ポン、と背中を軽く叩き、そう一言だけ声をかけた。
「おめでとう」
フィン、キリア、そして扉を開ける係の人や裏方の人たちがそれぞれ小さな声で二人を祝福。
「「ありがとう」」
重なった二人の感謝。いつになく照れくさそうな二人の幸せそうな顔が、私達のことも笑顔にしてくれる。
というのもつかの間。
さっきの感動返せ。
「ジュリの世界の『披露宴』っていうやつはおかしなことをするもんだね」
フィンは会場の衝立の後ろから笑い声を殺してそんなことを言う。
「違うから」
「これは確かに楽しい! ホント面白い!!」
キリアは声が上ずってそんなことを言う。
「いや、違うから」
「『余興』とはこういうものなんだな」
グレイが裏で進行状況の確認をして戻って開口一番そんなことを言う。
「ぜっっっったいに違う!!」
入場から、席に付き、司会者さんがハルトの希望通り二人を紹介、そして異世界の披露宴というものを説明、それを愉しんでくださいという所まで上品かつ和やかで祝福ムードたっぷりの非常に良い雰囲気だった。そして前菜が運ばれてきて料理を楽しみながらまずは余興をお楽しみ下さいからおかしなことになった。
何故、披露宴の余興で神がかったバランス感覚を求められる組体操? が行われるのか。
何故、披露宴の余興でその場で猛獣の火の輪くぐりが行われるのか。
何故、披露宴の余興で頭突きで石板をひたすら割るだけ、が行われるのか。
ねえ何で皆笑ってるのよ! これ披露宴で見せられて楽しいか?! あれ、笑ってないの私だけ? 私の感覚がおかしい?
いやいやいやいや、ハルト、チョイス、チョイスおかしいよ、なんでこうなった……。ダメだ、私の心が受け付けない。視界に入れないでおく。
そんな制限された視界で私が見るのはテーブル。今回の披露宴はテーブルが長ーく並べられた四列のスタイル。勿論コーディネートは私達で赤や緑のオーナメント中心でまとめている。
ただ、今回私からの結婚祝いを兼ねてハルトがやけにしつこく作ってくれと言っていた『ダンジョンドーム』がキャンドルや花の代わりに中心にあってその周りをオーナメントたちが彩ったテーブルの装飾にしてある。
ちなみにキャンドルはガラス製の小さなホルダーに入れてあるのを一人一人の前に置いてあって、ちゃんとテーブルに明るさと輝きを与えてくれている。このキャンドルホルダーは披露宴が終わったら出席者にプレゼントされるサプライズ付き。
スノードームの派生品であるダンジョンドームはハルトの結婚式を前に先週から売り出していてスノードームと共に大変好評、危うく今回のテーブルを飾る分の直径十八センチの大サイズ二十台までデリアたちが売りそうになっていた。なんとか彼女たちから死守したダンジョンドームは全てハルトにプレゼント。誰かにあげてもいいしハルトがコレクションとして所有してもいいし、そこはご自由に、だね。
コース料理のメインが出る頃になると、今度はハルトとルフィナが二人で出席者全員を順に周って感謝を込めてプチギフトを渡す。こういう習慣がないので出席者全員がびっくりしつつも二人から渡される小さな箱を笑顔で受け取る。中身はピンクと白の花の形をした小さな石鹸。紅白まんじゅうじゃないよ (笑)。
食事をしている場所では地球なら匂いがするものだからマナー違反だと批判されるだろうけど地球じゃないしそもそも香水皆結構つけてるしで文句の出ようがないので大丈夫。
そしてケーキ入刀ね。
これ、絶対にやりたかったんだって。『初めての共同作業です』って司会者さんが言ってるの聞いて笑いそうになった! まさかこの世界でこれが聞けるとは思わなかったから!!
で、お互いに食べさせ合うのもやって、その意味を司会者さんがしっかり説明して、てか、司会者さん、プロだ……これは確かに『司会者』として自信があったのには頷ける。
そして、最後。
「この度私ハルトとルフィナの結婚式、披露宴にご出席頂いた皆様にまずは感謝申し上げます」
ハルトがルフィナと共に立って並んでの挨拶を。
「この世界に召喚されたあの日……」
その言葉に、会場は静まり返る。
最初の頃は身も心もついて行かず苦痛と苦悩の日々だったこと、それでも周りに支えられ【英雄剣士】として地位を確立し一人で生きていける力を付けられたこと、私含む【彼方からの使い】と出会い、孤独が和らいでいったこと、そんな事をハルトは淡々と語った。そして。
「そんな変化がある中で、いつも私が私らしくいられたのは、ルフィナのおかげでした。……いつもありがとな」
不意に自分に向けられた言葉に虚を突かれた顔をしてルフィナはハルトを見つめる。
「俺のワガママをいつも笑って受け止めてくれてありがとう。俺の自由な行動を静かに見守ってくれてありがとう。それと……どんな時も俺を待っていてくれてありがとう、優しく明るく迎えてくれてありがとう。側にいてくれて、ありがとう。ルフィナ、結婚してくれてありがとう」
優しい、穏やかなハルトからの感謝。
ルフィナは感極まって顔を歪め、俯いて、ブーケで顔を隠してしまった。
どこからともなく、拍手が起こった。
優しく二人を包むような祝福。
「良かったね?」
「え?」
「この二人の結婚式の手伝いが出来て、良かったねジュリ」
キリアがポンポン、と私の肩を叩いた。
「ハルトの幸せを誰よりも願ってたのは、あんたでしょ」
「……そうかな……うん、そうかも。二人の結婚式、手伝えて、良かった」
泣き止まないルフィナにちょっとオロオロするハルトの姿に今度は笑いが起こる。
幸せいっぱいの二人。
その姿を見るだけで、私も幸せだ。
「さあ、気持ちを切り替えないと。この後ちょっとだけミーティングするからね」
「もう少しお祝い気分に浸ってたら?」
「明日はリンファの結婚式だからね。この余韻に浸ってばかりはいられないでしょ」
「流石商長、尊敬するわ」
「あはは」
クリスマスイブ。
クリスマスウェディング。
大切な友の門出。
うん、幸せだ。
―――神界にて―――
「気の利いたことも言えるのね、ライブライトも」
「牢獄に閉じ込められているけどね」
「クリスマスイブに少しだけ雪を降らせてあげて欲しいなんて頼んでくるとは思わなかったわ。案外ロマンチストなのかしら」
「皆から当分出てくるなって言われているけどね」
「単にハルトがお気に入りで世話をやいてるつもりなのかしら」
「『ハルトォ、良かったなぁ』ってむせび泣いていたよ、世話をされるのはライブライトじゃないかな?」
「ソマ」
「なんだい?」
「いちいちライブライトの情報はいらないわ」
「気にかけているくせに」
「……ケンカなら買ってあげるわよ?」
「丁重にお断りする」
「なら黙ってて」
セラスーンとソマが妙なやり取りをする中で、穏やかに下界を見つめるのはサフォーニ。
「次はリンファね、ふふ、楽しみ。……【ハティアヌ】、リンファの門出をちゃんと見守るのよ」
後ろに佇む【運の神】は、寂しそうな、悲しそうな、それでいて柔らかな眼差しの複雑な顔をしている。
「……私に、その資格があるとは思えません」
「そうね、ないかもしれない。あなたはリンファに拒絕されたもの。でもね、それでも彼女を召喚したのはあなた。たとえ拒絕され干渉出来なくなったとしても、彼女が幸せになりますようにと祈ることは、してもいいの」
「……はい」
少し、辛そうにも見える表情を一瞬だけ見せたが、【ハティアヌ】はサフォーニの言葉に静かに頷いた。
「祈ってあげなさい、誰よりもあなたが。人の一生を簡単に捻じ曲げてしまえる私達に選ばれてしまった【彼方からの使い】や【称号】持ちの数奇な運命が、これ以上捻れませんように、と。これからの人生が、どうか幸多きものでありますようにと。あなたの祈りや声が届かないとしても、ね」
昨日後書きに気になるなら調べて見てね的なことを書きましたが。
これ、例えば男性が結婚の予定があって、彼女さんのためにちょっと調べてみようかなぁなんて知識つけたら喜ばれるのかな? と一瞬思って、でも我に返りました。
過去、知人が彼氏の優しさと気遣いゆえの知識を知り、試着に二日、それぞれ数時間付き合わせ『似合う?』『どっちがいい?』のマシンガン攻撃をして『もうどれでもいい!』と言わせることになり、喧嘩に発展した話を聞かされたことを思い出し。
知識があっても、その披露は程々が良いようです。勿論『どれでもいい』は禁句です。
明日はリンファの結婚式編です。




