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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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17 * ハルト、神界に行く

今回はハルトに語っていただきます。


神界、いけちゃうんだ。どうやって……? という疑問は捨ててお読み下さい(笑)。


………… ―――神界:悠久の大地にて―――


「ジュリの作った……」

 セラスーンはうっとりとした目付きでそれを見つめる。

「ああ、本当に、【神具】になるのね」

 俺の存在を忘れたように、ただそれを見つめて、そう呟いた。


 先日、ジュリから相談された。

「ねえ、聞きたいことがあるんだけど」

「おう、なんだよ?」

「素材って手で触って変質……不和反応を起こすことってあるの?」

「……聞いたことねぇな、それは。なんでだよ?」

「これ、作ってる時に急に変化しちゃって」

「は? ……これ、スライムだろ?」

「そう。青様と紫様のグラデーションパーツなんだけど」

「色はそうだな、このキラキラは螺鈿擬きか?」

「それがね、入れてない」

「……じゃあ、なんだよこれ」

「だから、作ってる時にこうなったのよ」

「は?」

「は? だよね」

 ジュリいわく。

 二種類の色付きスライムだけだと言う。けれど。

 明らかにキラキラしたものが混じっている。よく見れば確かに、螺鈿もどきではない銀色のキラキラした、地球ならシルバーラメのようなものに近いものだ。……てゆーか、僅かに発光してる?

「解析してみてもいいか?」


 そしてそれを俺は今回預かった。預かって神界を訪れた。

 今ライブライトはまた度が過ぎるイタズラをして牢獄に入れられてるから本来俺はここに来れないんだけど、セラスーンがオレの問いかけにも反応してくれて、事情を説明したらこうして招かれることになり訪れることが叶った。

「やっぱり、【神具】になるよな」

 俺の問いかけにふと視線を上げたセラスーン。その顔には満足げな笑みが浮かべられている。

「ええ、間違いないわ、これは【神具】」


 あの時鑑定して、俺は『マジで……』と、唸ったんだ。


【神具:●●の雫】

 空の状態。


 鑑定結果。それだけしかわからなかった。

 俺が地上で鑑定出来ないもの。それが一つだけ存在する。

 それは『空の神具』だ。

 神界で時折作られる、神の気まぐれによる産物が地上でごく稀に見つかる。それが『空の神具』だ。

 それは魔石であったり、魔物素材であったり、鉱物であったりと様々な形で世界に紛れ込んでいる。それを人間が得て、そしてそれらを奇跡的に神の気まぐれに見あった加工をした時。

『空の神具』になる。

 さらにそこへ、神の気まぐれに見合った魔法付与がなされて【神具】へ。

 限りなくゼロに近い、天文学的な桁でしか表せない確率で生まれる物。俺に次ぐ鑑定能力を持つ【彼方からの使い】仲間のヤナですら、この『空の神具』は鑑定不可能だ。鑑定しても表面上の性質しか読み取れない。だから本来『空の神具』っていうのはただのガラクタ程度のものなんだ。【神具】に至るまでが奇跡だから。


 それをジュリが作ってしまった。


 作ったんだ。


 本来『空の神具』に()()()()()物から。


「これの存在を知っているのは?」

「俺だけだ。グレイにも話していない、気になる反応だったから俺に解析させてから話そうとしてたらしい」

「誰にも話さないよう口止めしてきた?」

「ああ」

「そう……ありがとう」

 セラスーンが微笑んだ。


「ジュリ」

「なに? やっぱり、マズイ感じ?」

「誰かに、これを見せたか?」

「まだ」

「グレイにもか?」

「うん、騒ぎになっても困ると思って誰にも話してないわよ?」

「そうか。なら」

「なによ?」

「墓場まで持っていけるか?」

「え?」

「だめだ。これは、絶対に誰にも見せるな、話すな」

「それって……」

「だめだ。せめて俺が確認してくるまでは、グレイにもダメだぞ」

「グレイにも……。それに、確認って、誰に」

「神だ」

「えっ」

「ライブライトか……セラスーンに確認してくる。いいな、絶対誰にも話すな」

「う、うん。分かった」

 ジュリはあの会話で自分がとんでもないものを『作ってしまった』事に気づいて、その場で預けてくれた。


「一応、あの時作っていた物全部解析はしてきたけど、『空の神具』になったのはそれだけだ。それだけっていっても他のもけっこうな代物になってたな」

「ブルースライムとアメジストスライムを混ぜたものかしら?」

「ああ。あれ全部、マイケルに付与させたら国宝レベルの物になる」

「魔法付与に長けた優秀な魔導師なら、高レベルといったところかしら。ジュリは本当にスライムと相性が良いわ、この世界で初めて自分が素材として見出した物だから縁が強いのね」

「まあな。……で、それはどうする?」

「神界で私が預かるわ」

「そっか。……助かる。それが世に出回って良いのはジュリが生を全うしてから数百年、【彼方からの使い】として伝説の一人になってからじゃないとだめだよな?」

「そうね、早くてもジュリが天寿を全うしてからでないと、これは世界を破滅に導くわ。これを巡って世界が争うことになりかねない。作った者が生きているというのなら尚更。人間の強欲は際限がない。否応なしにこれはその強欲を掻き立てることになるでしょうから」


 全く、【スキル】と【称号】なし、魔力すらなしでもこれじゃあ俺たちと変わらない。明らかに『異質』な力だ。

「試してみる?」

 俺が呆れてため息を吐き出した側で、セラスーンはそう問いかけてきた。

「地上に絶対落とさないならな」

 俺がそう答えれば満足げに頷いて、視線をその掌に乗るものへ移す。

「なあ、気になってたんだけどジュリが素材として見いだして、それから作るものは攻撃性のある魔法付与は一切出来ないだろ? あれってセラスーンの力でそうしてるのか?」

「ええ、その方がいいでしょう? 自分の作るものが直接人を殺める為に使えると知ってしまったら、責任感の強いジュリならば、物を作り出せなくなってしまうわ」

「……確かにな」

「私はね、彼女にほんの少し、あの世界を変えて欲しいだけ。これからゆっくりと、人が存在する世界として、正しい発展をする星として、変えて欲しいだけなのよ。全てを奪い、この世界に縛り付けた私が彼女のために出来ることはそれくらいしかないわ。……人が傷つき、苦しみ、死に絶える行いに元々私はジュリを関わらせる気はなかったの」

「え?」

「物を作り出す手を、殺生のために使うなんてさせたくなかったのよ。そんな私の願望がもしかすると……【スキル】【称号】、そして魔力すら与えられない体にしてしまったのではないかと思ってるわ」

「……そうか、そういうことか」


 この時ようやく答えが出た。


 セラスーンはおろか、ライブライトですらジュリに与えられなかった【スキル】と【称号】。そしてその理由も誰にも分からなかった。


 セラスーンが無意識にやっていたんだ。

 ジュリを守るために。


 それなら合点がいく。気まぐれとか興味本位とかじゃなく、『神の願い』だ。これ程強い力はないだろう、どんな神であっても最上位であるセラスーンの『願い』であれば干渉などできる筈がない。さらにその上に存在するライブライトですらジュリの体に干渉出来ないのは、神の祈りによる絶対に覆す事の出来ない力が働いているからだ。気まぐれな好奇心を押し退ける、強い意志や願いなら、ライブライトの干渉が困難なのも頷ける。

 本来神は何かに執着することはない。全ては気の向くまま、移ろいやすい心に任せて時を過ごす。長い年月存在しつづける神にとってその気まぐれは瞬きほどに短いだろう。けれどその一瞬は数十年、数百年という単位だ、人間にしたら一生を左右する年月。

 けれど、それがもし、執着するものが見つかったなら。


 最上位の神が執着したのは。

 ジュリ。


 きっとこのことは、未来に必ず影響を及ぼす。俺たちの寿命が尽き、人々の『記憶』から『歴史』に変化を遂げていつしか本の中だけの存在となったその時でも、何らかの作用を及ぼすだろう。

 まあ、俺たちにとって、それは関係のない事だ。

 ずっと、ずっと先の未来で、今の俺にはどうすることも出来ないことだしな。


「なあ」

「なあに?」

「ジュリと、グレイに子供が出来たら、もしかして『ジュリの質』が引き継がれるのか?」

「『血の継承』のことをあなたは言いたいのね?」

「ああ、ごく稀にいるだろ? 【スキル】や【称号】を代々受け継ぐ一族や、クノーマス家のように騎士や魔導師として飛び抜けた能力を受け継ぐ一族が。あれも神の興味本位では済まされない、特定の人間への執着から生まれたものだってライブライトから聞いたことがある」

「そうね」

「だとすると、やっぱり」

「ハルト、分からないわよ?」

「なにが」

「だって、グレイセルも『血の継承』をしているわ。彼だって、神の執着によって脈々と受け継がれた力を得ているの。どっちの『血の継承』が起こるかなんてジュリが妊娠しない限り分からないわ。それに、この世界の人間とあなたたち【彼方からの使い】の間には子供が出来にくい、それこそ今ここで語っても意味の無いことではなくて? 『子供は授かりもの』という言葉があなた達のいた世界にはあったのでしょう? その言葉、嫌いではないわ。だからね、ジュリに口出しするつもりはないし、神力で何とかしようとも思わない。人間らしく生きたいというジュリには、無意味な問であり不要な心配よ」

 ああ、そうだったな。

「……確かにな、俺も人のこと言えねえし」

 そうよ、とセラスーンは穏やかに微笑む。


「それよりも、良いことを教えてあげるわ。……あの血筋に執着した神は誰か知っている?」

「誰だよ」

「『格式』を持たない、ファタナルト」

「……知らない、神だな」

「ふふっ」

 不意にセラスーンが面白そうに笑い出す。

「全ての神を把握しているあなたも流石に今はいない神の名前までは知らないのね?」

「知るわけねえだろ!!」

 あ、神にツッコミをしてしまった。


「でもあなた、会ったことあるわよ?」

「は?」

「お茶もしたことあるわ」

「ん?!」

「ライブライトを私より凍える目で見てるのを何度も見かけたと思うけれど」

「……【サフォーニ】?!」


【滅の神:サフォーニ】

 唯一の至高神ライブライトに次ぐ、セラスーンと同格である最上位四大神の一柱。最近、グレイを守護するようになった神。


 え、ちょいまち。


「『格式』の『破』を得て、進化したのは……三千年くらい前だったかしら。当時の【滅の神】がライブライトよりも酷い怠惰でね、クノーマスの祖先に力を授けておきながら、たった五年で投げ出そうとしていたの。普段から怠け者でね、その側仕えだった当時のサフォーニ、つまりまだ『神の使い』だったファタナルトがプチっとキレてしまって」

 ヤバイ、聞きたくない話の気がする。


「たった五年で投げ出すくらいなら人間に手を出すな!!!」


「って、それはそれは酷い怒りようで。『格式』のない位の低いファタナルトが、そうねぇ、あなたの言葉を借りると、ボコボコにしてしまったの」

「待て待て待て、そんなの出来るわけねえだろ?! 位が違ったら力の差は全く次元が違うんだから!!」

「でも出来てしまったの。当時の滅の神は怠惰過ぎて、ファタナルトからの攻撃を避けられないほどだったから。今考えればあれはきっと退化していたのよ、神としての存在価値が下って神力はおろか存在自体が脆弱になっていたのねきっと」

「はあ?!」

「だって、ずうっと、横になってるだけだったもの。置物のように」

 あ、うん、聞きたくないパターン。

「凄かったわよ? メッタ刺しにされて、そこらじゅうに叩きつけられて、『真面目に働くから止めてくれー!』って叫ぶのを無視してファタナルトったら綺麗に消滅させちゃってね。流石にライブライトも失笑してたわ」


 ……うわぁ、怖いデスネ。


「怒りを露にした時点でファタナルトには進化の兆候が見られた。そして『格式』を望んだのよ。『務めを果たさないならば私が代わる』って。それこそ、執着した瞬間。進化したいという執着。そして、そのままファタナルトは【滅の神】の全てを得たの、名前ごとね。そしてその時もちろん、クノーマス家への興味も一緒に。あの家が私を信仰していたことを内心は寂しく思っていたの、だからジュリの【核】をグレイセルが引き継ぐと知って、他の神をなぎ倒して私の所にやってきた時は正直怖かったわ、他の神に任せるなんて言ってたら私もボコボコにされるんじゃないかと思ったもの」

「……セラスーン」

「なに?」

「訂正。俺、お前よりサフォーニが怖い」

「ふふふっ、大丈夫よ。あなたには手を出したりしないわ。たぶん」

 その、たぶんが一番怖い……。










 セラスーンは空の神具に神力を魔力に変質させた力を流し込む。その光景に呼吸を忘れそうになった。

 俺も魔法付与は出来るけど、その精度は間違いなくマイケルが上だ。人間では事実上マイケルが魔法付与の最高峰の技術を持っているが。

 流石は神だ。

 あらゆる干渉を受け付けないこの悠久の大地が地鳴りを起こすほどの魔力を、数秒で流し込んだ。

 俺たちならちょっとヤバイぞ? と思う魔力量でも、目の前の神セラスーンにとっては火魔法で灯りを灯すのと変わらないことなんだろう。


 そして。












【神具:輪廻の雫】

 命あるものならば全てにおいて一定期間老化を止める、もしくは成長を止めることが出来る。効果は個人差があり、効力を使い果たすと自然崩壊する。発動は身につけたその時から。

 老化もしくは成長の停止に使用しない場合、死者の復活を願いながら雫を破壊することでその死者を現世に呼び戻し生命の理に戻すことが出来る。

※発動条件◇肉体の腐敗が進んでいないこと

     ◇自ら命を断った者ではないこと

     





 




「セラスーンさんよ」

「なあに?」

「永遠に神界で保管か破壊すべきじゃね?」

「そうかも」

「軽いな、おい」

「ジュリの作ったものだから破壊なんてしたくないわ。だから私が貰っておくわね」

「是非ともそうしてくれ」












 せめてグレイには話しておきたい、とジュリから言われて、それを了承しておいた。

 まあ、グレイならこの事実を墓場まで持っていくだろう。


 けれど、これが俺たち以外の誰か一人にでも知られてしまったら。


 シュイジン・ガラスという『武器』を生み出したジュリ。


 そしてその後に作れると判明した、『空の神具』も間違いなくジュリの『武器』になる。


 厄介なのは、ジュリの意思では一切制御出来ないということ。いつ、どのタイミングでそれが出来てしまうのか分からないということ。


『武器』としては余りにも、危険すぎる。


 そして後日、ジュリからグレイには話したと聞かされたけど、その事について俺に触れてくることはなかった。文字通り、あいつはこの事実を墓場まで持っていってくれるってことだろう。

『空の神具』はそう簡単には出来ないとしても、今後国宝として定められるような魔法付与が出来るものなら簡単に作り出してしまう可能性はある。現に初期に作ったものでクノーマス家に渡したものは金持ちもコレクターも盗んででも手にしたいと願うようなものがある。おそらく、気づかずに極めて珍しいそんな作品がすでに出回っているはずだ。


「……既に気づいてるかな」


 参ったなぁ。最近、距離があるんだけどな。

 俺のことでコソコソと動いてる奴らもいるし。

 面倒なことにならなきゃいいけど。

 行ってみるかな。


 他にもちょっと探っておく必要がありそうだな。





ジュリの『3無し』の理由がようやく出せました。

もっと早く出したかったのですが、如何せんシュイジン・ガラスとの兼ね合いがありましたのでこのタイミングとなった次第です。


以前お知らせした今後の予定で一部変更あります。

クリスマススペシャルのネタですが、今年は本編に組み込むことに致しました。

ただ、前年同様クリスマス期間(23〜26日)は連日更新になりますのでスペシャル感はあるかと思います。


以降の年末年始の詳細の予定はその後にお知らせいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  『空の神具』からの【神具:輪廻の雫】の事、すっかり忘れていました。すっごいピンチの時に、誰かに使うかもという程度で良いとはいえ。
[一言] その神器が後々役に立って来そう……(゜ω゜)
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