17 * あの人への贈り物、三度目。
新章開始です。
こちらのお話はもう少し後の予定でしたが、年末に向けての調整兼ねて早めに掲載しました。
さて、今年もやってまいりましたよこの時が。
彼氏改め婚約者であるグレイの誕生日。
本日ソワソワしているグレイが可愛い。自分オリジナルの最新作を喜ぶので私も嬉しい、作りがいがある。
しかし今年はここに到達するまで紆余曲折。
大変だったよ……。
目新しい素材がグレイの身につけるものに使えそうなものがなくてどうしようかなぁと考えてた時ふと思い出したのが以前ネルビア国の大首長が献上品のお返しにとくれた魔石。
うちのお店で扱う魔石は原則超格安品だけ。大首長から貰ったものは、あとからしっかり確認したら安いものでも百リクル、一番高いものだと一万リクル超えるものが入ってて、要するに店の商品としては使い途のない、タンスの肥やしにしていたものばかり。
これ、使えるなぁと思い久しぶりに金庫から引っ張り出して並べて見てたらキリアが何してるのと声をかけてきて。
ことの発端はそこなのよね。
「何作るの?!」
って非常に圧を感じる質問責めに合い。グレイへのプレゼントを……って言っちゃった、ていうか言うよ、そりゃ。去年も懐中時計を共同制作したし、今年もそうなるだろうなって。
しかし、今年は魔石。食いついたのは 《ハンドメイド・ジュリ》のメンバーだけじゃなかった。
「それ、魔法付与してみたいな」
と笑顔でマイケルが。
「いや、グレイへのプレゼントだからそういうマイケルの趣味に使うの止めて」
「ジュリが加工するんだよね?」
「加工しないよ?! プロが近くにいるんだから任せるよ?!」
「加工するよね? しなよ、面白いのが出来るよ。ジュリが加工したものに呪詛って付与したことないから試したいんだよね」
「ひいぃぃっ! そんなこと言う奴に渡せるかぁ!! マイケル、当分 《ハンドメイド・ジュリ》出禁!!」
さらには。
「魔石用意したら、セイレックの分も作ってくれる?」
あざとく超可愛いおねだり顔したのはリンファ。
「……グレイと同じのは絶対ダメよ」
「グレイセルのために作るものって凄く、素敵よね?」
「婚約者のだからね! 当たり前だよね!」
「セイレックにも似合うわよ?」
「似合うかもね! でもダメだから!」
「国宝クラスの私オリジナルポーションと交換とかどう?」
「それを巡って国際問題起きそうだから断固お断り!! そして帰れ! リンファも当分出禁!!」
という押し問答で追い返すという面倒に遭遇し。
「早くデザイン見せてくれよ」
「まだちゃんと細部までは決めてない。そしてあんたは無関係」
「描いてみせてくれよー」
「黙れニートチート、あんたも当分出禁だ」
「出禁は嫌だ。けどデザイン見たい」
「やだよ、そしてうるさい」
「なんで! 欲しい欲しい俺も欲しい! ほしいぞぉぉぉっ!」
「本当に黙れ! そして出禁ついでにリンファに腕もがれてしまえ!!」
出禁を言い渡しても、何事もなかったように翌日には顔を出す三人。
もうこの人たちの相手するだけで体力の消耗激しいよ……。
マイケルの理由は置いといて、リンファとハルト、そしてキリアがデザインを見たがった理由は一つ。
金属製のブレスレットに仕上げようと思ってることを言ってしまったから。婚約者用なので気合入ってるの知ってるから。
イメージしたのはエタニティリング。
粒の揃った石が一列整然と並びリングを一周するタイプの指輪。あれをブレスレットでしようと思ったの。
そしたらね、こんなことに。
普段は扱わない本格的な金属製のアクセサリーということで、皆が注目するのは仕方ないんだけど、というか、私は作れないよ?
「は?」
キリア、顔が怖い。
「なんでよ?!」
「キリアは、金属を型に流して台座作ってそれに宝石嵌めるの素人が出来ると?」
「……出来ない」
「はい、私たちは出番ナシ」
泣きそうな顔をしてうちひしがれなくてよろしい、当たり前のことでしょ。
グレイの、私が作る手作りのオリジナルが欲しい、というのからは去年同様ちょっとばかし外れてしまう。でも作りたいんだよね。いい石と魔石を見つけちゃったので。それを活かすならちゃんとした宝飾品にしたいな、と思って。
アレキサンドライトという地球に存在する輝石。この石は光の性質の違いで違った色に見える珍しい石で、さらにはその硬度、透明度、艶なども良いので非常に高価な宝石で、物によってはダイヤモンドよりも高値で取引されるものもあると聞いたことがある。
アレキサンドライトは濃い赤と緑の二色に見える輝石で、このファンタジーの塊のような世界にも当然あるんだけど変色する石は他にもあるし、もっと綺麗な色味のものも存在するので地球ほど珍重されていないという現実には驚いたわね。
私が今回採用したものは温度で見た目が変わる石。
子供の頃、体温で色が変化するオモチャの指輪をお祭りの屋台で祖父に買って貰ったのを思い出したよ。
それはアルマジュ石といって、ネイリスト専門学校の一期生の生徒さんだったカッセル国の人が教えてくれたもの。 大陸でも南方でしか採掘されない鉱石で、カッセル国の特産品でもあるアルマジュ石は温度による色の変化が非常に安定していて、温度計代わりになるため大陸中で重宝されている。ただ、これも安いものではないし、主な採掘国であるカッセル国とベイフェルアは国交はあれど微妙な関係なので、輸入量が限られている上に高値となって出回っているので正直今までは私に縁のないものだった。
でもグレイの誕生日プレゼントを考えているときにエタニティリングをモデルにブレスレットを作ろうかな、とそれに使えそうな石を探して図鑑を見ていて目に留まったのよ。
あれ、図鑑を見る限り上質なものは綺麗だな。
って。
図鑑に載っていたのは、不純物の少ない見本を元に描かれたもの、温度によってこんなに綺麗に変化するの? という色でね。
アルマジュ石の変化する範囲は温度計として使えるだけあって、ハルトの解析によると零度から五十度くらいらしい。
「え、こんなに綺麗だっけ? アルマジュって」
「綺麗だよね、透明度がないし常温だとこの色だから宝石扱いにならなかったんだろうけど」
キリアと私の目の前にある小粒の石。アルマジュ鉱石の中に二割程度含まれているという不純物が少ない状態で石化した状態のものは、今はただの砕けた石に見えるけどその色や艶はなかなかいい。
アルマジュ石は温度が高いと黒に、低いと水色に変色する。今目の前にある小粒の石は全て鮮やかな青い色をしている。不純物の少ないアルマジュ石は割った際の断面を見るとかなり光沢があって黒曜石を割ったみたいな艶と照りがある。キリアはそれを指で摘まんで光にかざして眺める。指の温度でアルマジュ石は直ぐ様変色して藍に近い色になった。
「温度計として使われてるだけでも十分価値はあるけど、アクセサリーにしても面白いよねと思ったら使いたくなっちゃって」
「分かる、その気持ち」
しみじみと賛同してくれたのでもちろん彼女には今年も手伝って貰うよ。
「ん? でも今回のってデザインだけでしょ?」
「そのデザインを一緒にしようってことよ」
「あんたすでにブレスレットのデザイン出来てるよね?」
「ブレスレットだけじゃなくもっとあってもいいよね?」
「あるといいね」
「……」
「……」
無言で紙と筆を渡した。無言で受け取ってくれた。
今回その石を使いつつ、さらにレッツィ大首長から頂いた魔石を使うブレスレットだけど、魔石の中にいい色の物があったのよ。
「ジュリくん、ホントに、これカットしちゃうのかい?」
「カットしないと使えないし」
「いや、でも、ジュリ君が持ってきた魔石って、カットして使うような代物じゃないよ?」
「でも私はカットしないと使えないし」
「これ全部、本当に、しちゃうのかい?」
「だから細かくカットして研磨してもらえないと使えないでしょ」
宝石類の研磨を本職としている職人のビットさん。冷や汗だらだらだけど、やってもらわないと困る。
「だってこれ、ジュリ君が持ってきたの……フォレストスコーピオンと、ジェネラルオークと、キングスノーウルフの魔石……この辺じゃ絶対発生しない魔物……」
「そうだけど?」
「このクラスの魔石、僕十年ぶりに触るんだけど」
「それは良かったね!」
「いや、ジュリ君? これをカットして使う人はいないけど」
「ここにいるでしょ」
だってね、フォレストスコーピオンはメタリックな濃紺で、ジェネラルオークは象牙色に極細の灰色の筋、スノーウルフはスモーキークリスタルのような灰透明。それぞれが独特の色で輝石や人気の魔石にはない落ち着いた色と艶が大変良い。
今までカットして使った人がいない? じゃあ記念すべき第一号だねビットさん!!
「おおおっ、いいねいいね!」
そしてこの人も私側の人間。キリアは一ヶ月後届いた魔石を見てご満悦。安かろうが高かろうが使えるものは遠慮なくカットして使う、それが私とキリア。
「渋い色合いだけど、それがいいね」
「でしょ? アルマジュ石と並べたらエタニティリングみたいに仕上げても男の人でもいい感じになるよね」
「ちなみにこのデザインって売り出したり宝飾店に委託したりするの?」
「当分はグレイのオリジナルかな。宝飾店にデザイン持っていった時にデザイン売ってくれってかなり言われたけど、いずれお願いするからしばらくは待って貰う事にしたのよ。その代わりネックレスや他のブレスレットのデザインはデザイン料くれれば直ぐ様出していいよって」
「なるほど、そういうやり方もありよね」
「ちなみにアクセサリーのデザイン、キリアが既に提供したものはキリアが直接貰えるようにしておいたからね」
「え、今まで通りこの店からデザイン手数料貰うだけでいいってば」
「さすがにそれは出来ないって。宝飾店の店主にも矜持があるんだから貰ってやって」
「えー? そういうもの? あたしは楽しくデザインしたり作ったりして十分いい稼ぎ出来てるからさぁ、ジュリがもらっておいてよ。他の店からなんて手続きとか面倒なだけでしょ?」
「それは仕方ないでしょ、給与明細に載せればオッケーってわけにもいかないことだから。あ、それなら完成したら現物貰えば?」
「なに?!」
「デザイン料と同額分、好きな石を嵌め込んだアクセサリー貰えるように言っておこうか」
「それ採用」
それから更に一ヶ月、グレイの誕生日に合わせてブレスレットがようやく完成。
石選びから始まってなんと数ヵ月。誰かの誕生日にここまで時間をかけて準備したのは初めてよ。
果たして普段使いにしていいのか分からない魔石。それがふんだんに使われたブレスレット。贅沢!
アルマジュ石を三粒ならべたら魔石三種を一粒ずつ並べるを繰り返して規則的な模様にしてみた。ランダムにするのもいいけど、あれだと女性が身につけるカラフルなエタニティリングを彷彿とさせるなぁと個人的に気になったのよ。この規則的な並びのおかげですっきりしていてなかなか良い。
本体は純銀製で使い込むほどいぶし銀のように変化していくのが石の雰囲気にも合うはず。
そして、毎年恒例になりつつあるこのやりとり。
「邪魔な人間がいたら言ってくれ、確実に抹殺する」
「しなくてよろしい」
シュンとした!! そこヘコむとこじゃないよ!! しかも今年は確実にとか言ってる。物騒極まりない。
「その代わりハルトをなんとかして。今回のブレスレットも狙ってるし」
「任せてくれ」
笑顔だ。めっちゃ笑顔。【スキル】【称号】得たこの人に本気で追いかけ回されたらハルトはどうなるんだろう。……ま、死ぬことはないね、うん、大丈夫。
そして今年のプレゼントは高価なものだったせいか、私の誕生日プレゼントも高価なものだった。
「これ貰っても……」
「私が管理するから気にするな」
不動産貰った。トミレア地区の新規開拓区画の一部と何故かククマットギルドの民事ギルド内の応接間の無期限使用権利。
「開発中の土地は投資と思ってくれ、ジュリの資産が増えることは悪いことではないだろ?」
「それはありがたく貰っておくわ。でもこっちがなんの意味があるのかわからないわね」
「ギルドに自由に使える部屋があればそこで打ち合わせに使えるだろう、特に外部からの交渉や取引相手を無闇に店や研修棟に入れる必要もなくなる」
「あっ、なるほど! しかもギルドなら誰も下手なこと出来ないしね? 便利!! あと、どうやって借りれたのか気になるところだわ」
「ああ、寄付をしただけだ。後で文句を言われるのも面倒だから冒険者ギルドにも少しばかり。自由に闊歩していいぞ、大喜びで使ってくれと言われたから」
……治外法権色の濃いギルドに部屋を提供させられる、自由に闊歩出来る権利をもぎ取るだけの寄付って。
金額は聞かないでおこう。そして来年の誕生日は安いものにしよう。初心に戻ってブックバンドをまたグレイオリジナルにしてもいいかもしれない。
「それと恒例の朝まで溺愛コースは次の休みに」
「いつから恒例になったのよ、そして自分で溺愛とか言わないように」
「他に表現がない」
「語彙力低すぎるわね」
「そうか? それなら―――」
人様には聞かせられない語彙力というか想像力というか、とにかく極めて卑猥な言葉を羅列するグレイ。なんなの、その生涯絶倫&エロ宣言的な内容は。
「その下半身はいつになったら落ち着くの」
「落ち着く必要はあるか?」
「あるから! 多少落ち着いてくれた方がありがたい!!」
「ぎゃあああああっ!!」
ハルトの悲鳴。
「お前とお揃いなど死んでもごめんだ、だから死ね」
「死なない! いいじゃんかぁ!! お前だけズルい!! うわぁ?! 【スキル】反則! 【一刀両断】はダメだろぉぉぉぉっ!!」
「どうあがいてもお前を殺せないなら使っても問題ない」
「問題大アリ!!」
なんだか楽しそうだね、男二人で。
「まーぜーてー」
リンファ、どした突然。
「今日こそその腕引きちぎってみせる!」
「ひぃぃぃ!!」
あ、二対一になった……。
「グレイセル、ハルトを捕まえるのはまかせて」
「ああ、頼んだ」
「【一刀両断*グレイセルのオリジナル】って気になるのよね、やって見せて?」
「いいぞ、私も本気でやったことがないんだ、この機会に本気を出してみよう。それと、ハルトの腕を引きちぎるとのことだが、出来るのか?」
「魔力全開ならできるかも。自分の実力がどれほどか知りたいのよね」
「なるほど、それを試すにはハルトが最適か」
「ええ、だって死なないし!」
「バカ野郎ども!! 俺だって死ぬ!! 寿命ある!!」
うん、ハルト生命の危機。
転移で逃げればいいのに。
テンパってるの? ふざけてるの?
……もし、ふざけてるとしたらバレたらそれはそれであの二人がキレて大変なことになるんだけど。
まあ、いっか。
私には関係のないこの騒ぎ。
楽しそうでなにより。
とにかく。
グレイ、誕生日おめでとう。
ブレスレット似合ってるわよ。
これ、ハンドメイドじゃないじゃん、ジュリ全然作ってないじゃん! というツッコミはご遠慮下さい。
このエタニティリングブレスレットには作者個人ちょっとした思い入れがございまして。
男性用のエタニティリングって見たことない。と若かりし頃、興味が出て探した事があるんです。で、あるにはあったのですが、これが太めでしかも石が黒だけのかなりゴツいもの。
『え、これしかないの?』
という、ちょっとしたショックを受け。今でこそネットで簡単に探せるし色々ありますが、いかんせん二十年以上前の話。当時の情報の少なさと探す手段の少なさの問題ではありましたが、欲しいと思う人いると思うんだけど、とかなり個人的に不満というか納得出来ない感情があったんです。
そしてこの話を書き始め、それを不意にある時思い出し。
うん、消化不良は良くない! そして近年種類も豊富!
と言うことでグレイセルを利用して登場させました。作者の自己満足回でした!
ちなみに、男性用のものってほぼエタニティ〇〇とは言わないんですよね、女性物はエタニティ〇〇なのに。『永遠』を意味するエタニティ、その意味の重さが負担に感じるのでしょうか(笑)?!




