夏休みスペシャル ◇ 夏の夜のくだらない話、その弐◇
夏休みスペシャル、二夜目。
※昨日に引き続き、短く、そしてくだらないお話です。
今夜はマイケルの語り。
夜の海もなかなかに趣がある。
去年同様クノーマス領の、クノーマス家のプライベートビーチにやって来た僕たち。昼間散々遊び倒したけれどその余韻を引きずっていたから男たちは夜の海に行こうとなってこうしてやってきていた。波の穏やかな入江は天然のプールのようで最高だ。
ケイティたち女性陣はクノーマス家の別荘で女の語らい中。息子のジェイルとキリアの息子イルバは昼間全力で遊び尽くしたので疲れたのか既に就寝。
「しかし、これは執念だな」
ハルトがしみじみ言ったのは、自分の顔に装着しているゴーグル。
これは去年海に来たときジュリが今年の夏までには作りたいと言っていたものだ。スライムをレンズに近い形に硬めたもので簡単なレンズを作り、他はゴムや革、そして留め具を活用して作ってくれていたんだ。
「一度作ると言い出すと余程失敗を繰り返さない限りは完成させるからな」
グレイセルもゴーグルを装着し、自分の事のように自慢げに嬉しそうに語る。
「これがあれば水魔法に長けた人じゃなくても海の中で目を開けていられますよね? ……画期的な発明ですよ、これ」
キリアの夫、ロビンは昼間も同じ事を言っていたなぁ。それだけこれは衝撃的だったらしい。
「生産体制を整えて来年大々的に売り出すつもりだ。勿論、特別販売占有権に登録してな」
「相当な利益をもたらしますね、素潜り漁をする人たちなら皆買うんじゃないですか? 海じゃなくても川や湖でも使えますし」
「冒険者も欲しがるぞ? 水生魔物の討伐にこれあれば大分楽だろ。ロビエラムでも占有権登録したらすぐ版権買って作らせるのもアリだな」
グレイセルとロビンとハルトはゴーグルの話しで盛り上がる。ちなみにジュリは来年迄に今度は可愛い浮き輪を作りたいと言っていたよ、それはそれで楽しみだよね。
男四人、ゴーグルの他に夜の海に行く意味があったのか分からない話で盛り上がって別荘に戻ったのは日付が変わる前。ケイティとキリアはソファーで肩を並べて寝てしまっていた。ジュリはルフィナと仕事の話で盛り上がっていたようで、テーブルにはお酒と共に何かが描かれた紙が数枚広げられている。そんな二人に寝ているケイティたちを起こさないように小声でただいまと伝え、僕らは風呂へ。
そして起こった。
「は? ちょっと、おい」
「ん?」
「お、おい! それ!!」
「ん?」
グレイセルが何の事だ? と首を傾げ、ハルトはそんなグレイセルを指差して震えだした。
海水でベタついた体を洗い、湯船で体を温めた僕たちがそれぞれ着替えをしたり歯磨きしたりしていたんだけど。
「ボクサーパンツ!!」
ハルトが叫んだ。
そう。
グレイセルが履いたパンツ。
この世界にはなかったものだ。
「なんでお前が履いてるんだよ?!」
「なんでと言われてもな?」
「つーかさぁ?! ベイフェルアってボクサーパンツあったのかよ?!」
「いや、ないな」
「はぁ?!」
「今のところ私含むごく一部だけではないか?」
「……ジュリか」
「そうだな」
そして、ハルトの視線が僕にも。
「マイケル、お前もか」
その言い方。
「へぇぇぇ、異世界のパンツって面白いですね!」
ハルトがグレイセルに理不尽な不満をぶつけるのを無視して、ロビンが興味津々な顔をしたので僕の新品を一枚プレゼント。早速履いた彼はぴったりとフィットするボクサーパンツに慣れないせいかちょっとだけ面白可笑しく笑っている。
「……なんというか、これ」
「うん?」
「納まりますね」
「そう。プラプラしない」
こちらの世界の男性用パンツはもちろんあるにはある……。
履ければいいや、という作りでね。
女性用も然り、ケイティが常々文句を言っていたよ。
そして勿論、ジュリも。
「よし、作るか」
の一言は正に天啓だった (笑)。
伸縮性のある素材探しからデザインまで拘り、完成品を貰ったケイティが喜んだのは最近。そしてジュリがクノーマス家のお針子たちを巻き込んで開発している過程で生まれたのが僕とグレイセルが今履いているボクサーパンツ。伸縮性のあるフィットするタイプだよ。
「やめろ!!」
僕とロビンがムスコの収まり具合で盛り上がっていたら。
「離せバカが!!」
「ズルいぞお前! なんで教えてくれねぇんだよ?!」
「ハルト! 離せ!!」
「俺だってプランプランしないパンツ履きてぇのに! 俺のムスコを労るパンツが欲しいのにさぁ!!」
何をやっているんだろう。
ハルトがグレイセルのパンツを脱がせようとしている……。
「脱げ! 俺がボクサーパンツを手にするまでお前は履くな!」
「なんだその理不尽な要求は! 断る! そして破れる! 離せバカ!!」
……。
「何をしてるんですかね?」
「さあ」
ロビンがドン引きしてるよ、お二人さん。
「なにやってんの?」
「「「「あ」」」」
ジュリだった。
パンツを奪おうとするハルトと、それを阻止しようとパンツを押さえるグレイセル。騒ぎを聞きつけてやって来た。
グレイセルとハルトを交互に見比べ思案したジュリ。
「……グレイのパンツ奪ってあんたは何をする気だったのよ?」
あ、なんだか誤解を。
「誰に売るつもり?」
「は?」
「そりゃグレイはモテるからね? パンツの一枚欲しいって人もいるだろうけど、だからってハルト、それはないわぁ」
「え、ちょい待ち」
「せめてこっそり持ち出すとかにしてよ、いや、それ犯罪? というかドン引き案件だわね。それより直接脱がせるとか、マジであり得ない。どんなマニアに売り付けるつもりよ」
「誤解だぁぁぁぁっ! なぁ、違うよな?! そういうんじゃないよな?!」
「「……」」
僕とロビンは知らんぷり。
「自警団に引き渡す」
「違うっつーの!! 俺は単にこのボクサーパンツが欲しいだけ!!」
「グレイが履いたパンツ欲しいのはハルトなの?!」
「そういう意味じゃねえぇぇぇ!!」
ジュリとハルトのこんなやり取りの中、グレイセルはハルトに引っ張られ伸びきってユルユルになったパンツを脱いで新品に履き替えていた。
「予備を持ってきておいてよかった」
良かったね、グレイセル。
以前、スライム様は『割れにくいプラスチックレンズ的なものも作れそう』と感想を頂いたことがありました。いつも感想下さる方です、ありがとうございます。
で、作者的にもそう頭を過ったことがあるので眼鏡は難しいけれどゴーグルならば、と考案していました。
しかしですね、そのゴーグルですが去年の夏の思い出スペシャルで入れようかどうしようかと悩み、次の夏の単話にでも使えばいいやと放置していたのです。
放置したまま梅雨の時期に入って単話を書いていないと気付きまして。
ならばとくだらぬ話の一つに仕上げたらちょっとお下品な話しの、ついでのネタになってしまいました。




