15 * 派生品
ブクマ&評価、感想と誤字報告ありがとうございます。
後書きに今後のスケジュール載せましたのでそちらもご確認ください。
ジュエリーケースのフルオーダー受けましたよシルフィ様とルリアナ様から。想定内 (笑)。
フルオーダー受けませんなんて言わない。いいの、この二人は。例外。依怙贔屓万歳。
社交シーズンに合わせてドレスを作ったりするけど、宝飾品は自慢の逸品を持っていくか事前にシーズンに合わせたものを作り持っていく。その持っていく時の専用のケースにしたいんだそう。
それはいいね、私もグレイと結婚したら王都で一回くらいは社交界に顔を出すことになるだろうから、その時に旅行用のジュエリーケースがあったら便利だわ。
となると、縦にしても中身がずれたりしない工夫をするか、前に見かけたことがあるけど、三段の箱がカバーを開けると左右に段違いで動いて開くから三段全部中身が見られるタイプにするとか。それだと革を使うのがいいよね、丈夫だし柔軟性があるし。縦にしても中身がずれないものなら極力薄くして綿を詰め込んだ素敵な布の緩衝材代わりのクッションをセットにしてもいいかも。
あ、なんか今作るべきものからかけ離れていっている。だめだ、これは後回し。
あとは、いつも私の為に影ながら支えてくれるフィンにも作ることにしたの。 《レースのフィン》の主催に相応しい素敵なのをね。
シルフィ様とルリアナ様のはちょっと時間を貰ってあとでゆっくり作ることにして、フィンのは試作の意味がある。
そして、今回はジュエリーケースに絞って生産体制を整えていくつもり。リングケースは必要な人と不要な人もいるからそのへんどうするかまだ決まってないので、混乱を防ぐために先送り。
ジュエリーケースは、初の試みという事で箱は二種、長方形と正方形に。大きさはそれぞれ一つに絞り込んだ。のぞき窓はそれぞれ長方形なら長方形、正方形なら正方形として。
のぞき窓は原則無色透明のスライム様。ガラスは割れてしまう可能性が高いのと、やっぱりね、まだ原価が高いので。スライム様万歳。
その代わりスライム様の特性を活かし、覗き窓に趣向を凝らすわけ。
ハーバリウムの売上で、赤紫、ピンク、そして白の花を組み合わせた色合いのものがダントツの売上を出しているのでその組み合わせの押し花と小花が縁に沿って散りばめられ、『ジュリ監修額縁』でも使われている螺鈿もどきのカットラメがポイント使いされる『花輪タイプ』がまず一つ。もう一つが螺鈿もどきのパウダーラメで縁にグラデーションをかけ、光や星をイメージした小さな金属パーツがポイントで使われた『星空タイプ』に。
そして本体は長方形、正方形どちらも真っ白か黒か選べる。箱の色が違うだけで大分違うよね。
箱の形、覗き窓の柄、箱の色。二種ずつしかなくても組み合わせてみると複数のデザインになる。いいんじゃない?
さらに言えば、中を選べる。
多目的な仕切りなしの平箱、指輪やイヤリングを個別に入れられる仕切り付き、ブレスレットはそのまま、ネックレスなら半分くらいに折って個別に並べられる縦長の仕切り付きの三パターンから二つ、正方形も長方形どちらの箱もぴったり合うものを選べるように。これは女性陣の意見を取り入れた感じ。人によって身につけるアクセサリーに偏りがあるって聞いたから。キリアはブレスレットが多くて、フィンはネックレス、とか。だから買うときそんなに悩まないで中は決められるだろうとなって思いきって選べるように。
あ、売るのいいけど陳列が。場所の確保がんばらねば。改装してよかった、うん。
そしてハルトの依頼品と平行してフィンへのプレゼントも作っている。
実際どれくらい時間がかかるかやってみる価値はあるからね。
フィンのものは今回は私からのプレゼントということで私が決めた。
フィンのはジュエリーケースじゃなく針とかハサミ入れになる、所謂裁縫箱、だね。中は至ってシンプルで仕切りを二つしか付けずに済んだわ。
覗き窓の作成はあえてキリアにしてもらう。彼女も必ずこれをつくることになるから感覚を掴むために必要がある。
そしてキリアだけど、最近までお店を任せきりだったし精神的にも負荷が掛かってただろうなと思って休暇 (十日)出したら……。
「今さら家で何していいのかわからない」
とか言いだした。あんた主婦でしょ、母親でしょと諭したら。
「いや、そういうことじゃなく、気づくと結局何か作っちゃうんだよ、全然ゆっくりしないんだよあたし。それ、休みって言わなくない? この三日で革ひものネックレスとか白土の置物とか無駄に増えたのよ、大量生産。旦那に『休んでないね』って言われるレベル。つまりジュリが前に言ってた職業病ってやつ」
自分で職業病言うんじゃない。……結局四日で休暇を自主返上してきたキリアなので、任せた。
「特別な作業はこれといってないわね。『花輪』は押し花を立体的にするために流し込みを数回に分ける必要はあるけど。でもそれもこの厚みだから多くても二回? 最後は必ず表面ならす必要あるし」
「うん二回が限度だね。この辺は都度改良なんだろうけど、あんまりやり過ぎると価格にも影響出てくるから気にしなくていいよ」
「そっか、なるほど。『星空』は楽だね、下地の上にラメ振ってパーツ乗せたらあとは上に流すだけだし」
なんて話になったり。
そうこうしているうちに、出来ました。
フィンには黒の長方形でジュエリーケースより一回り大きいサイズになった。覗き窓のパーツにはシンプルに金属パーツの花をちりばめた。他にはあえてしなかったのはフィンがシンプルなデザインを好むから。
「いいのかい? こんな素敵なもの」
フィンは凄く嬉しそうに、ちょっと目に涙を溜めてくれて。お裁縫箱にしては綺麗過ぎるって笑ってくれたのが凄く嬉しかったわ。
そうね、お針子さん相手に高級お裁縫箱っていう売り込みも出来そうよ (笑)。
こんな風にジュエリーケースからの派生版商品を思いつきのままにデザインを書き起こしていてふと頭を過ったもの。
バニティケース。
お化粧道具入れの大きな持ち歩き出来るボックス。
蓋側には鏡、そして本体には縦長の化粧水やブラシなどが立てた状態で入れられる。高価な物だと中に小物を収納出来るスペースもしっかりとした造りでそれもケースとして取り出せたり、見た目や高級感が重視されて本革や高価な素材の物があった。
そう言えばこの世界にバニティケースってないわ。
……あってもいいんじゃない?
シルフィ様とルリアナ様から依頼のジュエリーケース、あれに追加でバニティケースも用意してみよう。ジュエリーケースとバニティケースがお揃いって嬉しくない? 私は嬉しい派!!
「あぁぁぁ、ううっん」
シルフィ様が変な声だした。これ、侯爵様以外が聞いちゃダメなヤツに近い声じゃないの? こら息子、あからさまに嫌そうな顔しない!! そして何だか今日は侯爵家に来てこの人はさっきから急にピリッとした空気を醸し出してる、なんなのよ?
私が提案したのは、二種類。革張りと、特漆黒塗りの螺鈿もどき細工のジュエリーケースとバニティケース。螺鈿もどき細工はデザインを渡して職人さんたち任せになってしまうから出来上がるまでは時間がかかるけど、まずは革張りを完成させてそれを見本にしてもらえば職人さんたちも作りやすい。なので本日そのデザイン画等を確認してもらっている。
「素敵ね、侍女に持たせて歩かせたいわ」
ああ、そうよね、確かに。
こういうものって令嬢や夫人たちの『武器』だから。レターセットやメッセージカードだってお洒落であればあるほど、上品であればあるほど、その人や家の品格に繋がるとして地位を知らしめる立派な武器になる。
それがお出掛け先で自分の後ろを歩く侍女が目新しい物を持っていて、それがなんと化粧品やアクセサリーか入っているものだったら、見た目がお洒落、上品だったら。
立派な武器になりますね!!
そして今回、シルフィ様の他にお客様がいる。今現在はじっと黙ってシルフィ様が先に見た説明やデザイン画を受け取っては食い入るように見ている人。
名前はラステアさん。この人は 《ハンドメイド・ジュリ》開店当時からの上客で、時折男性を伴ってやって来ては買い物をして、そして侯爵家に顔を出してシルフィ様とお茶会をしているらしい。
最初、どこかのご夫人だと思ってたんだけど。
高級娼婦という方で。
いやね、物凄い美人で上品で優雅で、なのに色気垂れ流しというとんでもない魔性の女な雰囲気あるなと思ってたら、マジの魔性の女でした。
シルフィ様の交遊関係が謎過ぎる。
というか、このラステアさんのお買いもののお供の男性って私が把握してるのは三人いるんだけど、なんと全員が、大物。フォンロン国の公爵家のボンボンとこのベイフェルア国のとある大臣と北方小国群にある国の王子だとさっき教えられた。
あの人たちラステアさんのためにわざわざ 《ハンドメイド・ジュリ》に付き合って付いて来てたのかと。そんなことする立場じゃないだろ、と言いたいけど、いや、大物だからこそ高級娼婦に相手にされるともいうわけで。
「夜会やお茶会でよく顔を合わせることが多くて。ある時シルフィ様からお声を掛けてくださってお付き合いさせていだだくようになったんですよ」
と、上品な口調と仕草でにっこり微笑まれ、ドキドキしちゃったよ。色気が半端ない。
で、彼氏改め婚約者のグレイはというと、彼女を見た瞬間からピリッとした空気を維持。彼女としては魔性の女を前にしてこれなら安心だし嬉しい、なんだけど、何だろうねこの臨戦態勢的な雰囲気は。
「男に金を貢がせ散財させたあげく、何人が夜逃げしたと思ってる」
あ、そういう……。ある種男が最も警戒せねばならん! という。
「まあ、グレイセル様、それは私のせいではございません、私は貢いでとも散財してとも言いませんから。残念ながらその方たちは管財能力がなかった、ただそれだけのことですわ」
フフっと笑った。怖いわ。
グレイセルとラステアさんの間に火花が散った、何故。
「どうだかな、少なくとも私の知人は私の知る限りそういう男ではなかった」
「まあそうでしたの、存じませんでした。ある日突然お見かけしなくなりましたから心配しておりました、でも何か事情ができましたのね、残念です。良い方でしたよ? 聞き上手でつい話し込んでしまうこともしばしば。そうそう、特産のワインをよく頂きましたが大変良いものでした」
うわ、グレイのお友だちが毒牙にかかってたのか。そしてラステアさん、微妙に話ずらしてるよ、凄い。
……シルフィ様がニコニコ。これはこれでどう判断すべきか迷う。
うん、一旦この雰囲気はぶった切ろう!! 耐えられない!!
という時間が続き作り笑顔もひきつり始めて色々耐えかねた私は、ラステアさんがいる前で『お見せしたいものが』とシルフィ様に話題を振り。で、いいわよと言ってくれたので先ほど出したのがバニティケースのデザイン画。
「ラステアさんも感想や意見があれば参考になりますので聞かせて貰えると嬉しいです」
と一言かけてから、シルフィ様に説明やデザイン画を見せられて、そして無言になったのよね。
凄みを増した目が不意に紙から離れて私に向けられた。
「これを、これから売り出すんですか?」
「まずはジュエリーケースからですね。いくつか定番を売り出して状況をみてから順次裁縫箱、バニティケース、それからその派生品として形の違うものなど販売できれば、と。バニティケースについてはシルフィ様とルリアナ様のものが一式用意出来次第になるので数ヵ月先になるとは思います。そのぶんデザイン豊富に取り揃えられるし、それまでになんとか売り場の確保もしくは販売方法の検討ができればと思ってる所です」
そこまで聞いて、またラステアさんは無言。無言というより何か考えている様子。シルフィ様はそれを面白そうに眺めている。
「ジュリ『様』、これ、別のお店を立ち上げるべきですわ」
あれ、なんか『様』付けされた。しかもラステアさんの目が。
キラーンとしてる。魔性の女の目が光ってる。
……ちょっと、怖い。食われそう。うん、いざというときはグレイの後ろに隠れよう。
◆おしらせ。
この章、あと2話なのですが、そのあとに夏休みスペシャル3話、本編補足2話を間隔と時間帯共に変則更新し、さらに作者の夏休みいただきます。
詳細は活動報告と章の最後の後書きに書きますのでそちらでご確認ください。
本編再開は9月の第二週を予定しています。




