15 * 本物のチートに説明してもらう
まだものつくり始まりません(汗)、ご了承ください。
グレイが伏し目がちに顔をこわばらせて黙り込んだ。
矛盾してるよね。
私の為に得た守る為の強力な力が、何かを壊すためだけの、『兵器』となりうる危険な力でもあるんだから。
その矛盾に、グレイが戸惑うのは当然。そんなことのために得た【称号】じゃない。
彼は私と夫婦になる決意で、私を守ると誓って、純粋に『幸せ』や『未来』のために改神してまで受け入れた。何かを壊すためじゃない。グレイの得た力は守るために得たものだから。……いや、まあ、この人力業でねじ伏せることが得意なので、壊すことに抵抗はないんだけども。
自分が得た力のせいで、私が狙われる可能性があるとグレイなら思う。それこそ、私の【技術と知識】よりも注目され、重要視され、私がグレイのおまけと見られるかもしれない。私が軽視され、蔑ろにされるかもしれない。
この人なら、自分のことよりもそう私の心配をするだろう。
そういう人。どこまでも、私を守ろうとする人。
そんな心配をさせてしまう自分の無力さに、惨めさと悔しさがこみあげる。
すると。
「試してみるか? 俺の【スキル】」
……はい?
「こんなこと想定して作った訳じゃないんだけどなぁ」
ハルトははぁ、とため息。
何が?
「俺さ、【スキル】つくるの趣味なわけよ」
変な趣味だよね、そして凄いよねハルト。知ってたけどサラッと言われるとなんとも微妙な話よ、それ。
「ほぼ使わねぇよ? 世の中に知られるとヤバイの多いし」
「ヤバイのはもういらないわよ?!」
本当にやめてほしいわ。私のグレイに変なことしないでよ!?
「いや、グレイには都合がいいはずだぜ? 俺もそのお陰で助かってるしな」
ハルトが自力で、そして趣味で作り出した【スキル】。
それは。
【スキル:スキルの複製】
自身が持つ【スキル】及び他人の【スキル】も【全解析】に成功したものは複製・復元できます。オリジナルは一度書き換えしてしまうと修正出来ませんが複製したものであれば書き換えは何度でも可能です。
【スキル:全解析*ハルトのオリジナル】
対象の肉体に接触した状態で、相手の【称号】及び【スキル】、保有する補正や魔法などの解析が出来ます。なお【鑑定】など類似のものは全て下位に属するためこれを鑑定し理解することは出来ません。
【スキル:力の譲渡】
【スキル】や魔法、補正を任意で譲渡出来ます。ただし、譲渡先の人間の能力が低い場合高確率で失敗しますのでご了承ください。
【スキル:色々隠す】
【称号】と【スキル】など能力全般を任意で隠蔽します。
「てのがあるから、それで」
「なにが?!」
「説明してくれ」
私たちのツッコミ、間違ってないからね。【スキル】の説明ををツラツラと語られたけど!
で、ハルトが説明してくれた。
「まずはグレイの【スキル】を全部【全解析】で解析する。グレイが与えられた【スキル】はサフォーニからの直接の恩恵を受けてるから脆弱なものはないはずだ、それを保有するグレイの能力が低いと判断されることはまずあり得ないから【力の譲渡】が弾かれる原因にはならないと思う、ただ念のため解析する。で、問題なければ【色々隠す】を複製して、それをグレイに譲渡させる。それでグレイが隠したい【スキル】だけ隠せばいいわけだ。使い方は簡単だからすぐに隠せるはずだぞ? 【スキル】を後天的に得た場合は誰かが使い方を教えないと使えないからな、それは俺が教える。グレイの【スキル】は普通のヤツが教えて使いこなせるものじゃないし」
……私とグレイが互いに顔を見合わせた。
え? なにそれ、そんなこと出来るの? しかもあんたは他人の【スキル】指導が出来るの?
間違いなく私とグレイの顔がお互いにそう言ってるわよ。そして同時にハルトに視線を向けると。
「とりあえずやってみるか、成功するはずだから気楽にやろーぜ」
と、なんともまぁ軽い口調でして。
頼もしいというより、そこまでなんでも出来ると怖いわ、とつい言ってしまったわ。さすがニートチート。
「だからニートじゃねぇの!!」
「うーん……複雑だな。さすがセラスーンとサフォーニ最上位神二柱が干渉しただけあるな、物凄い緻密だ」
「そうなのか?」
「ああ、しかも、元々がジュリの【技術と知識】を守る為に創られた【核】だからか? 素体が強固で複雑だ。ジュリのもそうだけど【技術と知識】はどうしても【称号】【スキル】より劣性なんだよ、それを保護するための【称号】【スキル】を植え付ける必要があるからな、【核】そのものが強くなきゃ意味がないわけだ。だから複雑で強固。……油断すると読み取り失敗する、これ」
言ってることが私にはよくわからないけど、でもここでふと疑問が。今までも何度か頭を過った素朴な疑問。
「……ねぇ、疑問なんだけど、そもそも【技術と知識】って【スキル】や【称号】と全く別の扱いだよね? どっちかに一緒にされててもおかしくないのに、そうじゃないでしょ。これって別の能力として扱われてるものなの?」
「確かにな、我々も【技術と知識】と習うだけではっきりとしたことは実は分かっていない」
グレイの肩に手を載せ、【スキル】の解析をしているハルトが私たちの質問に少しだけ困った顔をする。
「あー、そればっかりはちょっとこっちの世界じゃ教えるのも理解するのも難しいだろうな」
しかし、こいつ。しゃべりながら解析をするのかと私は驚きよ。でもハルトの話に興味がそそられる。
「なんで難しいの?」
「だってさ? この世界にないものだろ、それを持ち込んで広めるんだぜ? こっちじゃそれをどう説明しろって話だろ。【技術と知識】は【彼方からの使い】が後天的に得やすいオリジナルの【称号】【スキル】よりはるかに数が少ないし、召喚されてすぐ鑑定されても本人が自覚して使わないとわからない。【彼方からの使い】が先天的に持っている異世界のものを、この世界の能力で測ることは無理だろ。しかも形がはっきりとしてないものだから【技術と知識】っていう大きなくくり以外にするわけにいかなかったんじゃないのか? ジュリのやってることでよくわかるだろ、 ハンドメイドっていってもさぁ、その内容といい素材といい、どんどん増えるわけ、しかもそれから派生するものが多すぎる。 それを一言でこっちの世界の言葉に置き換えるのはちょっと難しいだろ。そもそも存在しなかったものだから、自動翻訳すら役に立たない」
確かに。
私もグレイも納得した。
ハンドメイドって、当たり前のように私は言葉にして使ってる。グレイや身近な人も最近は私がやってること、言ってることを直に確認してハンドメイドに分類されるものがどれなのか認識できてる。
でもね、実は外に目を向けるとほとんどの人が私のこのハンドメイドについてまだまだ誤認してる現状。
なぜなら特定の素材を使ったものだけがハンドメイドと思ってたり、細かい、小さいものだけをハンドメイドと認識してたり、中にはネイリストもハンドメイドだと思ってる人も。
元の世界だと習う必要もなく『そういうもの』って曖昧な言葉だけどちゃんと分類がされてたでしょ、そういうものなのって。それだけ物も情報も溢れていたから分類する必要があったし、分類することで理解しやすくなっていた。
でも違うんだよねぇこっちの場合。
基本的にこっちは手作り。なんでも。職人さんと自作の違いだけ。一部大量生産してるものや魔石と魔力、そして簡単な機械のようなものを使って安定性のある量産品も出回ってはいるけど、手作りが世界を動かしてるようなものだからこの世界の基準が本当はハンドメイドって言っていいような……。
だから自動翻訳バグったのよ。該当するものがないって。んなばかな!! ってこっちは呆れたけど。
「それと……【技術と知識】は言葉が悪いかもしれねぇけど、じわじわと広めて蔓延させて、気づいたら定着してしまってるもの。根付いちまって誰かが後から変えようとしても変えられなくなってしまうもの。そんなイメージもあるな。この世界に昔広まった『楽譜、音階、記号』で確立された【音楽】がいい例だ、完成された状態の物を持ち込んで定着させたから今更それをこっちの世界独自のものに変えられねぇの。技術が整然と構築されてて、下手なことするとおかしな事になっちまうものだろ、【技術と知識】って」
なるほど。
それはそうだわ。
私も一度気になって音楽について歴史を聞いたとき、楽譜を見せてもらったことがある。
子供の頃ピアノを習ってたから多少の知識をもってたからね。
まんま。
そのまんま。こっち独自のものなんて一切なかったのよ、記号とか。
だから簡単なものなら私も弾けちゃったわけ。侯爵家でピアノに似た楽器を所有してるから、それを弾いてびっくりされたわよ、楽器のほとんどは音楽家でもパトロンのいる人か、お金持ちしか持ってないものだから弾けると思わなかったって。
「ジュリの 《ハンドメイド》もそうだろ? そりゃやり方は無限大だから、音楽みたいに音符とか音階みたいに全く変えられないってことは限りなく少ないけどさ、根底にはジュリの考えがあって、『手作り、誰でも楽しめる、気軽に手に出来る、買える』がある。そして作るにしても必ず基本的な使い方、レシピに沿ってやらなきゃならない。独自の手法を入れるとおかしなことになる。それは職人が作るものとは別、ジュリの考えとその理想や理念に沿った価値観から生まれるものが【技術と知識】と切っても切れないハンドメイドになる。たぶん、ジュリが生きてる間にこの世界で作って広めたもので、ある一定の条件を満たしたものが《ハンドメイド》として今後残っていくんじゃないか? そう考えると、ジュリの【技術と知識】も曖昧なようで実は確立されてるものに思う」
ああ、そう言われるとなんか納得。
先天的に得ているもの。妙にしっくりくる。しかもそれを一度広めると完成されてるものだから変えようがない。それは確かに後天的に得てこの世界で使える【スキル】と【称号】とはまったく別の、使い途も違う能力。
私が《ハンドメイド》として売り出しているものたちも、よく考えればそうだ。
だって今まで廃棄されるだけだったものを、私が使い方を示した。示して、その使い途が確定した。変えようがない。というか、それ以外の使い途がない。『気軽に、可愛ものを、誰でも』に固定された。戦力を左右する武具にはならないし、日用品として毎日繰り返し使われて荒っぽく扱うものにもほとんどが向いてない。それはたしかに『ハンドメイド作品』に分類されて、それ以外になるのが少々難しい。
「つまり、ジュリやほかの者が持つ【技術と知識】は【称号】や【スキル】に当てはめることが出来ない、神々も手を出すことなく持ち込まれる異世界独自の能力のようなもの、か?」
「そうだな、あながちその認識で間違いはない。だいたい、【技術と知識】の解析が超困難な訳ってのが、文字や記号の羅列じゃねぇから。不確かな形で流動的で掴みようがない。だから俺の【スキル:全解析】で見ようとしても多分数日単位で解析が必要になるんじゃないか? それでも完全に解析出来るかもちょっと自信ねぇな。てか【スキル】で見るのが困難ってことはこの世界基準じゃねえってことだろ? だから【技術と知識】はもちろん、ジュリの 《ハンドメイド作品》も本人の『一部』って認識で俺はいる。リンファの【技術と知識】の大元になる《鍼灸・整体》もそうだぜ、俺が【スキル】で複製して得ることが出来ねえの。あれはリンファが得た知識をリンファがこの世界に適した形で根付かせるものだから、リンファがどうしていくかで決まる、俺が干渉するのはほぼ不可能ってこと」
「ジュリ、そのもの……か」
「ああ、手とか顔とか内臓とか、体の一部みたいなもんだな。後付けじゃない元々体にある、あって当たり前のもの。俺の中ではそういう認識」
へえー。
体の一部。
……これだけ好き勝手に物を作ってやってれば体の一部になってると言えなくもないわね。
なるほど、ハンドメイドは私の体の一部。
一生ものを作って笑ってるんだろうなぁ、私。
うん、それだけはやけに自信ある。
あれ、結局ハルトは何しに来たのか分からず持ち越してしまった‥‥。
そして、次回、次回こそ! ものつくり始まるはずです。
そして余談ですが前回後書きに載せたハルトの【スキル】をグレイセルはジュリに内緒で譲渡してもらってる気がします。
ハルトも
「ああ、そうだな! お前が持ってると俺が楽になる!!」
とか言って軽々しく譲渡してそうです。




