2 * 異世界のガラス事情
本日二話更新しました。
ハーバリウム、二回ほどお試しセットで作った経験があり、面白いから材料揃えてみようかな? て、思ってたところでこの世界に召喚された私。
当然花以外の材料はない。ないんだなぁ。
ハーバリウムって本来植物の標本の集まりのことを言うとかなんとか。詳しいことはすでに調べる手段がないので諦めて、独自にやってみよう、そして素材も地道に探して増やそう。
ハーバリウムに使う専用のオイルや発色のいいプリザーブドフラワーはない。
でも、疑似レジン、異世界ならではの発色のいい押し花、そしてドライフラワーやドライフルーツは作れるし手元にある。色付きスライム様のお陰で鮮やかな赤とアメジスト色の硬化した細かい疑似レジンもある。さざれ石ではなく、沈めるだけならただ砕いたものでも大丈夫そう。
……。
『っぽいの』は作れるよね。
見た目がそうなら許されるでしょ、だって『ハーバリウム』がこの世界にないから。
ただ、問題がひとつ。
瓶よ。
蓋はなくても可愛い飾りでそれらしく見せればいいし、疑似レジン使えば固まるので流れ出ることもない。むしろ固まった方が振ったり逆さにして大惨事になることもなくこっちの世界の人には都合がいいかもしれない。
しかし、瓶ですよ。
高価。
高価なのよ。
日本じゃ数百円から千円くらい出せばかなりの選択肢があってネットで楽しく選べるよ?!
こっちは違う!!
普通に売ってるよ、たしかに蓋付き瓶。だけど気泡が入ってて、ほとんどが色がついてて 厚みがあるのが当たり前。
私が欲する無色透明で薄い作りの、面にも歪みないハーバリウムに向いてるガラス瓶はなんと。
日本円に換算してみたら、手のひらに乗るサイズのもので九千円ほどかと。
……ありえない。
だからずっと試作もできなくて。
一応ね、格安の瓶で作ってみた。
「綺麗にできてるじゃない!」
って、フィンは言ってくれた。でもねぇ。
やっぱり、納得できなかった。
試作は作業部屋に飾ってあるから、見るたびにくやしい気持ちになるのよね。
何とかならないのかって。
「だっひゃーーーー!!」
奇声を発した私に動じないグレイセル様には私も最近は動じないし恥じらいもない。
もうこれでいいや、心の広いイケメンと奇声を発する女は知り合い。それでいい。
「どうしたんですか?! これ!」
「父と母が『ハーバリウム』を見たいと」
ん? ちょっと待って。
「……あれ、その話しないで下さいって言いませんでした? 作れる目処がたたないからって」
「私はしていないが……」
グレイセル様の話を聞いて、おばちゃん最強説が再び頭をよぎった。
たしかに私は、フィンと私の所へマクラメ編みを習いに来たり、でき上がったレースのチェックをしてもらうのに来たりするおばちゃんたちと作業部屋で私が何かを作りながら、おばちゃんたちと色々話すことが多い。
そこで『高価な瓶』についてもたしかに話した記憶が。
その瓶じゃないとイメージしたものが作れないし、良さが伝わらないと。もはや愚痴に近いレベルの話をしている。
なんかね、それを聞いておばちゃんたちがどうやら、たまにグレイセル様とは別に侯爵様の命令で私の様子を伺うのに訪れる侯爵家の使いの方に吹き込んだらしい。
私が困っていると。
新しいものを作るのに躊躇っていると。
今までなかった美しいものが出来上がるかもしれないのに作れなくて苦悩していると。
それには高価な瓶が必要らしい、と。
……。
そして、わたしの目の前に並べられた瓶三本というわけです。
……おばちゃんたちの魂胆はわかっている。
最近はドライフラワーとドライフルーツもお願いしてる。押し花は以前試しに『代理』でお願いして凄く丁寧な仕事をする人二人にすでに任せてるから、こちらは問題ない。
それで元々ポーションに使う薬草を乾燥させてそれらを買い取りする民事ギルドに卸したりする実績がある近所の人たちについでにやってみてとお願いしてるわけ。
品質のいいものは買うからと。
ハーバリウムが作れるようになれば当然、ドライフラワーやフルーツの需要が増えるもんね。
収入が増える見込みがあると思えば、おばちゃんたちも黙っちゃいない。
つまり、侯爵家の財布を使って作れと。
もはや感心の域を達して感動する行動力。
私を利用して侯爵家の財布を開かせて金を出させるとは……。
うん、いいことにしておこう。
瓶が届いたということは喜んで財布を開けてくれたということ。
お言葉に甘えます。
……いいんだよね?
「へえ」
グレイセル様が感心した声を出す。私はクスリと笑い、手元を指差した。グレイセル様は興味深げに覗き込む。
底に砕いたアメジスト色の硬化した疑似レジンをいれ、まずは少しだけ透明の疑似レジンを流し込む。すると粉っぽかったアメジスト色がたちまち透明の薄紫に変化して、それでグレイセルさまが声を出したのだ。
「もう少しいれますね」
瓶半分ほどまで入れたら、決めていたドライフラワーと押し花をいれていく。硬化剤のルックの樹液を入れているので手早く。こちらの世界の植物は不思議とドライフラワーにしても発色がいいので作っていてもその色の良さから自然と私も嬉しくて作業が捗る。そしてバランスを考えながら、紫とピンク、差し色の白と黄色の花を入れそっと上まで疑似レジンを流し込む。
おお、なかなかきれい!!
蓋を被せたら、即席で花柄の薄紫の布をさらに被せて、麻の紐で縛って完成。
太陽の日差しが差し込む窓辺に置いてみせた。
グレイセル様の顔が綻ぶ。
うーんいい笑顔。ごちそうさまです。
「凄いな、水中花のようだ」
「きれいですよね、元いた世界だと当たり前のように流行って当たり前のようにお部屋に飾るものでしたけど、こちらの世界なら冬でも花が楽しめる置物代わりになるかと思いますよ」
「ああ、なるほど。それはたしかにいい案だな。我が家は温室があるから冬でも花は咲かせられるがそれでも限界はあるし、これなら場所は取らない、こうして窓辺に簡単に置ける。テーブルに置いても良さそうだ」
「大きい花は瓶をそれだけ大きくしないといけないのでものすごく高額になりますが、このサイズのものならお金にゆとりのある方は買えるだろうし、これより小さい瓶を用意できるならちょっと頑張ってお金をためれば買える人の範囲も広がりそうですね」
二人でそんな話で盛り上がり、ハーバリウムがこの世界でも受け入れられる予感を感じられてちょっとワクワクしてきたわ。
残りの瓶二本はお預かりして、硬化して中身が動かなくなったなんちゃってハーバリウムをグレイセル様にお渡ししたらホクホク顔で帰って行った。御両親に見せはするけど、これは私が貰うって言ってた。あれをグレイセル様が部屋に飾るのか、可愛い。いや、部屋の雰囲気に合うのか? まぁいいや。
後日お渡しする分の二本も思うままに作っていく。赤の硬化させた疑似レジンを入れたものには赤の発色のいい花と緑の葉を入れて遊び心で蝶のパーツを入れてみた。この蝶のパーツは侯爵夫人のお気に入りだからね。
もう一つは硬化させた疑似レジンは入れずに青に近い綺麗な押し花があるのでそれをふんだんに使って所々に黄色や白、ピンクに赤の小花をアクセントに入れる。
蓋にはそれぞれそれにあった布を被せて、麻紐で縛る。良い素材のものがあればリボンとか造花で飾りつけてもかわいいね、これ。
これにはフィンとライアスが感動してくれた。
たしかに瓶の質が非常に重要だと。
「どうしたの」
フィンがライアスが急に黙り込んだのが気になったらしい。
声をかけられたライアスが視線を送ったのは私だ。
「ジュリ、小さいものが蓋なしで手に入るとしたら買い取りするか?」
「えっ?! するする!! 買い取るよ!!小さければなお良しなんだよね、値段が下がるし、ちょっといいプレゼントとして売り出せると思う。そんなには売れないと思うけど、それでも定期的に手に入るなら使い道は凄くあるよ、扱えるんだったらめっちゃ嬉しい」
「アンデルに相談を受けてたんだ」
アンデルさんとは、硝子職人で私が色々とお世話になっているライアスの友達でもある人だ。
「え? アンデルさんどうしたの?」
「大きいのはまだ無理だが、小さめのこれの三分の一くらいだな、見せられてはいたんだ。使い道はないか模索していた」
「そうなの?!」
「ああ。結構いい線いってると思うぞ? 気泡もほとんど入ってなくて、厚みも今までに比べてもだいぶ薄くなっていた。お前から頼まれて疑似レジンで使う硝子の板や型枠を作るうちに試したくなったそうでな、試行錯誤するうちにアンデルはもちろん、小さいものなら弟子の一部でも形も質も合格点が出せる瓶を作る成功率が上がったそうだ。ただ、小さいものだからな、入れるものが限られるし庶民は日用品としては買わないだろう? せっかく質のいい瓶が造れるようになっても買い手がなきゃ意味はねぇし、技術も維持できなけりゃ結局廃れる。それで頃合いをみてジュリに使い道がないか聞いてくれと言われてたんだよ」
「使い道はある、山ほど。そして買う!!」
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