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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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15 * 報酬と詐欺?

 



 ルリアナ様の珍しい顔が見られた。

 少女のように目をキラキラさせて、嬉しさを隠せない顔をしていて、口許が綻んで。

 あぁぁぁっ! 美人の笑顔破壊力ありすぎ!!


 そして夫人はちょっと怖い。

 ふふふ、ふふふふふって笑ってる。こちらも美女だけど、その笑いが私に通ずるものを感じるのでちょっとヤバい。


 男性方はというと、わいのわいのとそれを見て楽しそうに賑やかだ。


 今回の額縁、宝石を全く使わなかった。侯爵家から預かった宝石は使うとしたら色の濃いものがいいかもしれないと事前に提示していたからそれにあわせてサファイア、ルビーを用意してもらっていたの。

 ダイヤモンドやエメラルドも見せられたけど、色合いがまず合わないかな? とその時点で預かるのも辞退していた。怖いしね、高額のものを長期間預かるのは。ローツさんと二人で保管場所に困ると意見も一致したし。

 それで二色に絞り預かっていたのを薔薇の花が出来上がった時点で必要なしと判断したわけだけど。


「職人さんたちから、予備として作った薔薇の花を活用出来ないかと相談されてつくっちゃいました!!」

 じゃじゃーん! とローツさんと二人でわざとらしい動きでそれを差し出した。

 そう。私ももったいないと思ってたの。

 今回のものは侯爵家のための一点もの。だから余ったものは売り出すことはできないし、壊すしかない。忍びない!! と思ってたらライアスが。

「予備のバラは幸い開いた大輪の花も開きかけもつぼみもいくつかある、これで置物つくって侯爵様に一緒に渡したらどうだ? 宝石もお前なら上手く活用しそうだしな」

 って。

 それで急遽作ることに。私とローツさんが最後の最後でバタバタしたのはそれもあったわね。

「なんで今さらこんなこと言うんだよ!!」

「今さらだからだよ!」

「ああそうかい! 勢いだな!」

「そうだよ! 勢いだよこういうの!」

「お前らしいな!」

「お褒めの言葉をありがとう!」

「褒めてはない!」

「素材を無駄にしないんだから褒めて! 褒められて然るべきことよ!」

「自分で言うな! そしてそこまで言うなら納期までには間に合うんだろうな?!」

「間に合うんじゃないよ、間に合わせる」

「そこだけ真顔で言うなよ、不安になるだろ」

 こんなやり取りをするくらいには、バタバタしたわ。


 そして同じく勢いが衰えなかった硝子職人のアンデルさんが『割るときはまた俺がやるぜ!』と私たちのバタバタとは無縁な感じで余裕で型を作ってくれたわよ。

 他の職人さんは自分の愛弟子にこれ幸いと螺鈿もどきの綺麗な張り方をライアスに預けて覚えさせてた。後で何か作らせて売るつもりなんだね、きっと。

 そうして出来た全面螺鈿もどきの薄い板はガラスの型と同じ数。


 私のバタバタをこれ以上悪化させてはならないとライアスが動いてくれて、疑似レジンの扱いになれているフィンと手先の器用さはお墨付きのアンデルさんたちに私の手伝いをお願いしてくれたんだよね。それで一気に作れたのよ。


 薔薇のミニオブジェ!


 ミニといっても、一辺が十五センチ、高さも十四センチあるからそこそこ大きい。

 この中で一つだけさらに大きいのがある。高さは同じだけど一辺が約三十センチだからミニとはいわないわね、でもいいの、額縁に比べたらミニだから。私の独断と偏見でミニオブジェ。


 小さいのには大輪の薔薇一つだけ。大きいのは大輪のバラ一つと咲きかけ二つにつぼみのままの4つ、あと葉もバランスよく何枚か追加で作って貰ったのを入れた。大きいのには宝石はなし。その代わりヤゼルさんに彫刻を側面に施してもらった。


 女性用にはルビー入り、男性用にはサファイア入りを。銅製のネームプレートを製作してもらい、そのネームプレートの名前の両端に宝石をあしらった。大きいオブジェは名字のクノーマスだけ、数が多かったルビーをあしらって。そのネームプレートが擬似レジンの中、正面となる底の方に沈めてある。

そして大きいのは侯爵様の御両親、前侯爵御夫妻にお渡しして頂ければと思ったのよ。

 侯爵様に爵位を譲ってからは余計なことはしたくないと隠居生活をする御夫妻で、今日の御披露目も我々の出る幕ではないし、行くことで余計な気を使わせてしまうと辞退したんだって。そんなこと気にする立場でもないのにねぇ。


 そしてこれ、出来上がったのを見てまさしく私が元いた世界で見たのにそっくりなアクリル樹脂の植物標本としても価値のあるオブジェ相当のものに仕上がったな、と。こっちのは中身が金属だけど。


 良い出来ですよ!!


 螺鈿もどきが施された全く同じサイズの専用のディスプレイ板に乗せれば額縁と同じ素材が全て使われてることになるからお揃い感がある。好みで下は好きな布を敷いてもらってもいいよね。


「屋敷のどこに飾ろうか?」

グレイがとても嬉しそうにそれを眺めながら私に問いかけてきた。

「好きなところに飾ってよ」

「悩むな、どうしようか?」

なんだか子供みたいにはしゃぐグレイが珍しくて、つい笑ってしまった。ルリアナ様とエイジェリン様も並べて飾ろうか、それともお互いの個室に飾ろうかと楽しそうにしていて、侯爵ご夫妻も。

「私の書斎だな」

「ダメです」

「じゃあどこに?」

「ジュリの作ったものを集めて保管している『収集部屋』です」

「いや、あそこは」

「収集部屋です」

「……あそこに、飾る意味はあるか?」

なんか、微妙な空気になったわね? 見なかったことにする。



……まあ、取り敢えず!

喜んで頂けてなによりです!!











 そして額縁に話は戻り。今回の最大の欠点は重さと厚み。壁はもちろん取り付けた金具にもかなりの負担がかかるため、この額縁のためだけに支柱が作られることになった。額縁のデザインに合わせるというより広間の雰囲気に合わせるほうが良い、シンプルな支柱がいいと意見が纏まって、後日その支柱に彫刻を依頼されたヤゼルさんだけど。

 頭からバラが離れなかったヤゼルさんは支柱にびっしり薔薇を彫っていて、それを見せられたときはあの話し合いは一体なんだったのかと乾いた笑いが職人たちから上がったのは言うまでもない。なので支柱が二種、気分で変えられるという妙なオプションが付いてしまったのはご愛嬌。


 なかなか侯爵家の人々が落ち着かずずっとざわざわしてて、収拾つかないと見切って私たちはミニオブジェを献上してから間もなく屋敷を出ることに。グレイに引き留められたのよ、おもてなしもせず帰すわけに行かないって。

 でも皆、職人。明日からも普通に仕事がある。それを言ったら苦笑されて。

「この日のために料理人たちが腕によりをかけて用意してくれた、もちろん酒も浴びるほど飲めるように」

 その一言に職人さんたちが足を止めた。見事に、綺麗にそろって止まったわ。

 ……あ、侯爵家のご馳走なんて食べれないしね。この家で出される酒が旨いと私がよく言ってるしね。

「侯爵家のお心遣いを無下にするわけにはいかねぇな!」

 ヤゼルさんのその魔法の言葉で、誰一人帰らなかった。

 あんたら明日の仕事に差し支えても私は責任とらないよ。


 そして夜。

 これ以上食べれない飲めないとなるまで満足した皆揃って侯爵家をあとにする。千鳥足が何人かいたけど大丈夫。乗り合い馬車を貸しきって押し込んで運んだから。

 市場で解散するとき、皆で予定を合わせて打ち上げやろうって決まったときもテンション高かったなぁ。


 てなわけで。


 これにて、額縁依頼完遂!!













「折り合いがつかなくてな。遅くなってすまない」

 ん? なにが?

 首を傾げた私をグレイが笑ったのはあれから一週間後。

「報酬のことだよ」


 ………確かにもらってないけど。遅れたって言っても二日だよね? べつに問題ないけど?

 しかし、折り合いがつかないって、なにが? って今さら思うのは私だけ?

 そもそも報酬については薔薇の花の作成が始まってすぐに、この数ヶ月の間に私とローツさんとでおおよその額を算出していた。

 材料費はローツさんが管理していたから簡単だけど、人件費は当然細かく計算する必要があった。人件費というより、製作に関わった比率だね。職人さんとその弟子さんの拘束時間や試作に充てられた時間も各工房にお願いしてちゃんと記録してもらって、他には打ち合わせに当てた時間に運搬費用、作成に必要だった材料以外の消耗品や備品関係も職人さんたちにお願いして細かく記録してもらって、それを私とローツさんが徹底管理した。

 そうすることで報酬を公平に分けることができるし、今後同じような大がかりな製作があれば他の職人さんでもおおよその報酬額の提示ができたり侯爵様も予算提示しやすくなると思ったの。

 その分配方法については職人さんたち全員から私に任せてもらえる許可をもらっていたし、その額についてもローツさんが額縁の作成で著名な王都の職人さんの報酬額を調べてくれたから、報酬はすでに決まってるようなものだった。後は出来映えによって()をつけるというやつね。競りだと初物が高くなったりするあれに近いもの。それも侯爵家の額縁で一点物、今まで無かった見映えと素材という二つに合致する、相応の上乗せ分をあらかじめ確認してもらっていた。なので今回はそれを参考にローツさんと決めてグレイに最終的に副商長として承諾してもらい、それをあとは侯爵家が代表である私に一括で支払うだけ。


 なのになんだろう? と。

 そして、妙な作り笑顔でグレイが指で一枚の紙をテーブルに擦りながら正面の私に向かって寄越した。

「父が……これで、と。私は絶対ジュリはこんな額いらないと喚くと止めたんだが」


 はい?


 どうやらこの紙に、報酬額が書かれているらしい。

 パッとみて、下に侯爵様のフルネームがあって、紋章の朱印も押されてる。つまり侯爵様が書いたということ。

 なんだけど。


 あ?


 ん? もう一回。


 ちょっと待って。


「なんでこうなる!!」

「そういうと思ったよ」


 翌日職人さん皆に伝えたら。

「なんだよ?! いらねえよ!! 怖ぇなその額! 泥棒に入られろっていうのかよ?!」

 と、同じ台詞を聞かされた。

 いやね、私もそう叫びそうになったのよ、彼氏の前で『いらねぇわ!』って。

 報酬額は事前に伝達済みで特に反対されなかったから納得してくれてたと思ってたのに。ローツさんと二人で頑張って計算したよね! 褒められていいよねこれ! と褒め称え合ったくらい頑張って出した金額だから自信あったの。

 で、こちらで私が出した金額は四十万リクル。材料、備品費だけは侯爵家が全額すでに各所に支払い済みなのでそれを抜いた額よ。試作含めた製作日数と、侯爵家の一点物だからこれくらいは当然とお墨付きをくれたのも侯爵家で財務管理をしている人たちの中で最も偉い管財人主任さん。

 ところが。

 左横に数字の一が書いてあった。

 四十万リクルの前に一がある。


 百四十万リクル?!

ヤバい、なにこの金額。


 侯爵様とグレイで数日間揉めて、押し切られたと……。

「いや、ホントに、いらない、怖い」

 再計算された分配額を見たアンデルさんなんてガクブルしてそうつぶやいた奥さんと抱き合ってた。

 儲けたいけど、あの額縁はそういうのとは一線を敷いてるものでしょ。

 その後再びグレイが侯爵様にこの件で話し合いに行ってくれたんだけど。

「父が、全く取り合ってくれない。当然母も兄もだ」

「ルリアナ様は?」

「今回ばかりは、味方にはなってくれないらしい。その手の話をするとすぐ逃げられる」

「えー……」

「悪いが、受け取ってくれ。『沽券にも関わることだから値下げなど絶対ありえない』とも言っていた」

「……拒否権、ないパターン?」

「ないな」

「……ローツさんと私の苦労は一体なんだったの、計算が地味に辛かったのに」

 うちひしがれた私の頭をグレイが撫でる。

「他の職人も配分額が大幅に増額になるのを嫌がったんだろう? 儲けたくてやったわけじゃない、と」

「うん、そうなんだけど……。ギルドで、個人名義の貯蓄枠、増枠ってすぐできるんだっけ?」

「ああ、出来るが?」

「侯爵家の権力で勝手に出来る?」

「……うん、まぁ、出来るな。減らすわけではないし、報酬の入金の為と言えば。今回のことをギルドも知っているから簡単だろうな」

「じゃあ、侯爵様に、再計算した表渡しますので貯蓄枠弄ったらそこにそれぞれ入れて下さい、と。私がやるとあの人たち乗り込んでくるから侯爵様の名前で……。皆には適当に言っておくから即ギルドにお願いしてやってもらって……」

 グレイが苦笑しつつも頷いてくれた。


 振り込め詐欺ならぬ振り込まれ詐欺。


 勝手に貯蓄枠が大きくされて、勝手に金が増やされる。

 いいのか悪いのかわからない。

 いや、いいことにしておこう。

 減る訳じゃないから。


「ジュリぃぃぃぃっ?!」

「なんじゃこの金額は!!」

「なんでこうなった!!」

「詐欺被害についてのご相談は侯爵家にお願いしまーす。相談室室長はルリアナ様でーす」

「相談に乗るわよ? どうしたの?」

 乗り込んで来た職人さんたちは、私の隣でニコニコしているルリアナ様を見て、黙って帰って行った。


ビバ、侯爵家の権力!!


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― 新着の感想 ―
[一言] 無理矢理みんなに押しつけた( ˘ω˘ )
[良い点]  昔の西洋貴族の描写で、来訪客をお庭に案内したり絵画が両壁に飾られている細長い部屋を通ったりするもてなしがありますが、侯爵家では収集部屋に案内されるようになるのが想像出来ます。全方向から鑑…
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